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List.07 -深窓のロックガール- 部活

「う~~~~~~~~~~ん……」


 『ジャズギター同好会』が正式に活動を始めてから、ひと月程経った7月の半ば。

 夏休みも間近に迫り、生徒達もどことなく浮き足立ち始めた、ある真夏日の放課後。

 

 ――チエちゃん先生は唸っていた……。

 

 僕ら3人もいい加減先生の奇行には慣れ始めていたので、触らぬ神に祟りなし、とばかりにスルーを決め込み、自分達の練習に集中する。


「う~~~~~~~~~~~~~~~ん……」


 ヒロとアキが僕に目配せで(お前が何とかしろ)と、無言のプレッシャーをかけてくる。


(なんでいつの間にか、僕がチエちゃん先生係みたいになってるんだ……)


 いつまでもそうしてても埒が明かないので


「先生、どうかしましたか?」


 諦めて声を掛ける。


「やっぱりベースが欲しい」

「……はい?」


 予想通り意味不明だった。


「いずれはピアノも欲しいなとは思ってるんだけど……、ピアノは経験が無いとさすがにちょっとハードルが高いと思うの。でもせっかくギターが2人にドラムも加わったから、やっぱりせめてベースはいた方がいいと思うのよねぇ……」


 先生は僕の質問に答えたと言うよりは、半分独り言の様にそう呟いてから


「そうすればバンドが組めるじゃない?」


 と、今度は僕ら一人一人の顔を見てからそう言った。


「え? バンドやるんですか?」

「やるのは私じゃなくて皆だから、それは皆次第だけど。ただせっかくこうして集まってるんだから、音楽をやる以上バンドっていうのは、やっぱり一つの醍醐味だと思うの」

「その為にはベースが必要、と?」

「うーん、必要って事もないんだけど……。あるのとないのじゃ、やっぱり音の幅が違ってくるって言うか、ドラムとベースっていうのはリズム隊って言ってね。バンドだと凄く重要な屋台骨みたいなものなの」

「お、じゃあ俺重要な屋台骨じゃん」


 調子に乗ったアキが食いついてくる。

 けれど、チエちゃん先生は割と真面目な表情で


「そうよ。だから仁科君との相性とか、どれだけ息が合ってるかって部分がしっかりしてないと、バンド全体の音がバラバラになっちゃうの」


 と諭すように返す。

 恐らくそれが重要な事だというのは、アキにも伝わったのだろう。


 暫くの間ちょっと真剣な顔で考え込むと


「俺……、もしかしたら心当たりあるかもしれない」


 そう答えたのだった。


『え、誰?』


 予想外のアキの返事に対して、僕とヒロが若干驚いて口を挟む。


「いや、イッチーもヒロも多分知らないよ。今俺と同じクラスで、中学入ってから知り合った奴だから。小池俊っていうデカイ奴」

「知らないなぁ。イッチーは?」

「いや、僕も知らない」


 そんなに知り合いが多い方でもなかったけど、聞いた事の無い名前だった。


「最近仲良くなったんだけどさ。これが面白い奴で、こないだまでバスケ部だったらしいんだけどさ。辞めた理由ってのが『もう飽きたから』だってさ。ハハッ」

「いやいやいや、そいつ大丈夫かよ」


 ヒロが心配そうに突っ込むけど、それも無理はなかった。


「あ~、そこだけ聞くと確かに変な奴だけど。なんつーか、別に嫌な奴とかってわけじゃなくて、やたら器用らしくてさ。昔から何やっても、すぐそこそこ出来るようになるから、あんま長続きした試しがない、みたいな事言ってた」

「それって、ただ飽きっぽいだけじゃねーの?」


 そんなヒロの感想もまた、もっともな意見だと思う。

 僕の気持ちも似たような物だったけど、一つ付け加えるなら、所謂(いわゆる)器用貧乏ってやつなのかもしれない。


「そうなのかなぁ……? そういう感じじゃねーんだけどな。うまく言えねーけど、多分会ってみたら分かると思うぞ」

「……うん、いいと思う」


 それまで黙って成り行きを見守っていたチエちゃん先生だったが、何か思い当たる事でもあるのか、突然OKを出した。


「えぇ……いいの……?」

「さっきも言ったと思うけど、そのポジションって、何よりも仁科君とのコンビネーションが大切なの。仁科君が何か感じる物があったんなら、多分それが正解って気がするの。それに……、昔からベースは変態が多いってよく言うし」

「ブッ! マジかよ……」

「そんな判断基準でいいのか……」



 ――そして次の日の放課後、アキはさっそくその件の心当たりを連れて、今や僕らの部室となった旧音楽室へと現れたのだった。

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