Prologue -光射す場所-
かつて伝説的な一つのロックバンドがあった。
空前のバンドブームも過ぎ去り、後に『バンド低迷期』、『バンド暗黒時代』などと呼ばれた頃。
無骨なハードロックを土台としながらも、アコースティックギターヴォーカルにフォーコーラスという、当時としては異例の構成。
ジャズ、フォーク、クラシックなど、ジャンルに囚われない柔軟な曲作りと、常にファンと共に楽しむ事を意識したライヴパフォーマンスでファンを魅了し続けた。
後に日本におけるメロディアスハードロックのパイオニア的存在とも言われている。
そのバンドは『ファンの前で、ファンの顔を見て演奏する事』を何よりも大切にし、ファンの間では『国内で立たなかったステージはない』と言われた程で、地方のどんな小さな会場にも足を運び、人々を熱狂させた。
いつしかそのバンドは『ライヴバンド』と呼ばれるようになる。
そこには『ライヴは良いが、CDの売上はイマイチ』という、業界内の暗黙の揶揄も含まれていたが、当のメンバーがそれを気にした事は一度もなく、むしろその呼び名を誇りにさえ思っていた。
――そして今から約5年前。
様々な憶測や噂が飛び交う中、明確な理由を告げぬまま、多くのファンに惜しまれながらも、そのバンドは解散という道を選択する事になる。
――そのバンドの名は……。





