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天使が往く 前編

 これは女神の剣である天使、クレアシオンが堕天する前の話し、世界を救うために生まれた、あるいは喚ばれた存在が道を踏み外してしまった末路の話し。

 

 力に酔い、自分勝手に力を振るう者、おだてられ、深く考えずに力を振るう者、堕ちた理由は違えど、犯した罪はちがえど、最後に行き着く場所は一つ。


 クレアシオンの一番嫌いだった仕事。


◆◇◆◇◆


 辺りからは悲鳴と怒声、血しぶきや火の手があがる。この世の物とは思えない。


 思いたくない光景。


 泣き叫ぶものを、命乞いをするものを、大切なものを守ろうと立ち上がったものを踏みにじり、わらう。


 この世界【アリーヌ】最大の王国、人間至上主義の【ナール王国】の兵士たちが亜人の村を、国を襲っていた。


 最初は周辺の国々もナール王国の非道な行いを非難していたが、


「神に選ばれし勇者様の行いを責めるとは、これは神に仇なすこと、邪教徒が!!」


 と、見せしめに三カ国同時に攻め滅ぼされ、それからは、あまりの残虐さに口を閉ざしてしまった。


 なぜ、ナール王国がこのような暴挙を行えるか、行える力があるのか、それは三年前に遡る。


 サルス王国とは違う国、【セリーヌ法国】がお告げを受け、【勇者召喚の儀】を行おうとしていた。


 理由は、魔王が現れたのだ。魔族の動きが活発になり、不安を感じだ教皇が神に祈っていると、神から異世界より、勇者の素質を持つものたちを喚ぶ手伝いをする、と言われた。


 そのお告げに当然、教皇が喜んだ、これで世界は救われると。


 ここまでは、神界ではありふれたお話し、管理者が他の上位に位置する世界から、人手をその世界の管理者に譲ってもらう。


 これはよくあった。しかし、それを聞き付けた当時、力はあったが、まだ世界最大までは程遠かったナール王国は【勇者召喚の儀】を横からかっさらった。


 ナール王国は野望に燃えていた。世界を統治するのは優れた我々の義務だと。


 そして、召喚された【勇者】たちは人至上主義のナール王国の手に渡ってしまったのだ。


 召喚された勇者は平和ボケした若い男女たちだった。


◆◇◆◇◆


 王宮の地下、巨大な魔法陣を囲むローブに身を包んだ集団が呪文を唱えている。


 魔法陣の淡い輝きが術者達の顔を下から照らしていた。魔力が切れかけているのか、汗が滲み出ており、目の焦点が定まっていない。


『おお!!』


 術者の後ろにいた護衛の騎士達から歓声が上がった。魔法陣の輝きが増したからだ。


 魔法陣が回転しだし、目を開けられないほどの輝きを放った。


「皆大丈夫か!?」

「ああ、大丈夫だ!」

「……大丈夫みたい」


 魔法陣のあった場所から煙が上がり、煙の中から男女の声が聞こえてきた。動揺したような声が聞こえてきたが、リーダーらしい少年の声により、落ち着きを取り戻していた。


「勇者様!!どうか、私たちをお救いください!!」


 男女の集団に向かってこの世の者とは思えないほど綺麗な少女が涙ながらに駆け寄って嘆願する。その姿は同性である少女達も見惚れてしまうほどだ。丸で、物語のお姫様のようだ。


「はっ!ここはどこですか!?あなた達は?」


 リーダーらしき少年の横にいた少女が、この場所と目の前の少女達が何者か聞く。分からなくて当たり前だ。


 気がつくと知らない場所で知らない怪しい宗教団体のような集団に囲まれていたのだから。


「ここは、ナール王国地下の神殿で、私はナール王国第一王女、アマリーゼ=フォン=ナールです」

「光輝、……知ってる?」


 知らない国の名前に、少女は首をかしげ、隣にいたリーダーらしき少年、光輝に尋ねた。


「……知らないな。皆、知ってるかい?」


 回りに聞くが、その質問に答えられる者は居なかった。それは当たり前だと言える。


「それは仕方ありません。ここはあなたたちがいた世界ではないのですから……」

「そんな!?」

「返して下さい!!」


 自分達のいた世界ではない。この言葉を聞いたときの反応はそれぞれだった。家族に会えないことを嘆くもの。怒りを露にする者。なぜか、気味の悪い笑みを浮かべ、ニヤニヤと王女や自分を囲む女性の騎士やその後ろにいる侍女を見る者などだった。


「……召喚の儀は、神の助力をもって、辛うじて成すことができました。皆様を返すことは……我々には……」


 王女は申し訳なさそうに涙ながらに、勇者様がたに頼ることしか出来ないのだと語る。


 勇者達は涙ながらに謝る王女に強く言えなくなってしまった。何と話しかけようか悩んでいると、


「突然のご無礼をお許し下さい」

「貴方は?」


 左右に分かれた騎士の間から、王冠を被った四十代ほどの男がゆっくりと近づいてきた。


「私は、ナール王国国王、アルベート=フォン=ナールです」


 国王は、止める周囲を無視して勇者達に頭を下げた。そして、


「我々、人間は危機に瀕しておる。邪悪なる魔王が現れ、魔族が侵略してきた。我々が疲弊している所を亜人どもまで、襲撃してきており、我らは、我らはもう、勇者様方を頼るしかないのです」


 物語のような事を言われ、呆気に取られるが、ほとんどの勇者達の目は輝いていた。物語の主役になれると。英雄になれると。


「世界は違えど、おなじ人間が苦しんでいる。僕たちには力がある!!だから、たすけよう!!」


 その一言で全てがはじまった。


 勇者たちは、突然のことに驚いたが、特別な力があると言われ、あなたたちしか、人間を救えないとすがられ、甘言に惑わされた。


 国王は、嘘八百を並べ、金と美男美女を与え、勇者達を傀儡にした。


 もてはやし、都合の悪いことから目を背けさせるようにと。


 勇者達も、最初の内は、良心が残っていたが、努力せずに突然、不意に手に入れた強力なな【力】に酔っていた。


 望めば食べ物も物も女も地位も名誉も手にはいる。都合の悪い事は気にしないようにしようと。喜んでくれる人がこんなに居て、自分も愉しい。これは正しいことなんだ、と。


 国王の言う通りに亜人の村や国を襲い、男は殺し、女は慰み者にしていった。


 前の世界では封じられていた欲望の鎖が外れた。外されてしまった。


 結果、力に溺れ、好き放題していった。


 ナール王国は、勇者たちを利用し、土地を奪い、亜人や、他国の人間を奴隷にし、急速に大きくなっていった。


 だが、セリーヌ法国が黙っていた訳じゃなかった。神から受けた【勇者召喚の儀】を横から取られ、勇者たちを私利私欲に使う。他の国に協力を求め、講義したり、武力衝突したが、結果は、――――【聖女】は大衆の前に引き摺りだされ、勇者たちに犯され、教皇は泣き叫ぶ聖女を助けようと手を伸ばし、首を切り飛ばされてしまった。


 崩れ行く教皇の名前呼ぶ、聖女をくみしき、勇者たちは歪んだ笑みを溢す。


 ニタニタと気持ちの悪い顔で教皇の亡骸に蹴りや魔法を入れ、泣き叫ぶ、聖女を犯し続けた。


――俺たちは正義のために、戦っている。否、俺たちが正義だ。


◆◇◆◇◆


「魔王様、人間たちが勇者を複数召喚したようです」


 薄暗い邪気の漂う大地に建つ禍々しい黒い城の中で、黒い角を持つ男が魔王に報告する。


 その報告とは、最近召喚された勇者についてだ。魔王は、偵察用の魔物を各国にはなっており、重要な事は部下によって伝えられていた。


「ほう……、で、その者たちは強いのか?」


 強ければ、勇者に殺されないよう、城の周辺の警備を強化し、兵糧を用意し、武器やポーション、物資を確保しなくてはならない。魔王の頭の中でさまざまな事が計算されて行く。


「……それが」

「どうした?はよ言わぬか?」


 いいよどむ部下に魔王は怪訝に伺う。もしや、もうそこまできているのか?と。


 だが、次の言葉で深読みし過ぎたとさとる。


「亜人を攻撃し、周辺諸国からの反感を買い、人同士で争っています」


 魔王は耳を疑った。自分たちはゆっくりとだが、着実に、世界を滅亡に導く準備を整えているのに、同士討ちをするとは、随分余裕じゃないか?と。だが、


「はっははははは、これは最高ではないか!!」


 手を出さずにいるだけで、勝手に怒りが恐怖が絶望がーー負の感情が集まってくる。


「魔族たちに伝えろ!!派手に動くなと!!【勇者】様方が我らに力を下さると!!」


 魔族は負の感情から生まれ、負の感情によって力を得る。勇者たちが、勇者を召喚した国が他の国を襲い、殺し、襲い、犯すならこれ程いいことはない。


 勇者たちが、自分たちを殺しに来たら、感謝しながら、勇者によって育てられた魔族の軍団で相手をしてあげよう。


 長く拷問し、苦しめ、凌辱し、生まれたことを後悔し、そして、何も感じなくなるほど、負の感情を絞りとって上げよう。


 そして、魔王城からは魔族の笑い声が響いた。



ありがとうございました。


魔王様が逝く~勇者を率いて邪神狩り~の主人公が堕天する前の話です。ほんとは、閑話で投稿しようか悩んだのですが、閑話にしては長すぎて、どこで挟むか悩んだ結果。こうなりました。すみません。

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