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(旧)もれなく天使がついてきます!  作者: 咲 潤
第一章 ~ 運命の輪 ~
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―第8話―お供の天使の見つけ方♪

 空は晴れ渡っていた。


 雲1つ無い快晴だ。


 小鳥のさえずりと、枝葉の梢が心地よく耳に届いた。


 何て言っても、見渡す限り木に埋め尽くされた森の真っ只中に居るのだから、当たり前の事なのだが。


 ………早くもギブアップしたい気分だ。


 雲1つ無い快晴の空も、実際には広い空を仰いでいる訳ではない。


 木々に囲まれて真上の1部しか見えないのだ。


 確かに見える範囲は気持ちいいくらいにスッキリとした快晴。


 しかし、この心細さは小鳥のさえずりや梢の音では満たされない。


 SF映画の様な未来の風景はどこだ!?


 高層ビル群に変な形の家、無数の宙に浮いた道路は!?


 しかも、道路が在るにも関わらず、空を飛びまくってる車は!?


 変なキラキラな服を着た人々の群れは!?


 未来の面影などどこにもない。


 見る限り大自然の、しかも蔦や苔が鬱蒼と蔓延る、茂った森の中だ。


 未来どころか、むしろ古代にでもタイムスリップしたんじゃないだろうか。


 あのダイヤルを回しすぎて、一周回って古代に設定されたか?


 現代日本でも保護された原生林は幾つかあり、テレビでも見ることが出来るが、ここはもう、そんなレベルではない。


 ちゃんと育っている木の太さ、ゴロゴロしている岩に蔓延る育ちきった苔、それらを繋ぐようにそこかしこに伸びる蔦や蔓。


 完全に人などまず踏み込まない、未開の森だろ、ここ。


 こんな事なら、あの店の老人の説明をちゃんと聞いておくべきだった。


 あの女神とのやり取りの後の事だ―――




 ―――あの後、俺が女神の言う条件を承諾すると、女神は大層喜んで俺の両肩をガッシリ掴んできた。


 そして、そのまま人知を越えた力で超高速で体を揺さぶられた。


 お陰で俺は、あの場が夢の中の世界だったと言うのに、実体がないはずの生身を無意識に意識していたせいで、現実に脳をシェイクされた錯覚に陥った。


 そうして、ボクシングのパンチドランカーのごとく意識が飛んだのだった。


 失神した俺に気付いた女神は、慌てて気を失った俺を蘇生し、事無きを得た。


 夢の中の世界で起きた事でも、俺の意識が死ねば実体も脳死する所だった、などと、ケタケタ笑ってとんでもねー事を言う女神が、その時ばかりは怖かった。


 その後、何やら長々と雑談混じりに説明を受け、転生先の言語が違うからという理由で言語の相互翻訳能力?とか言うものを俺の身体に植え付けられる事になった。


 俺も説明がイマイチよくわからんが、要約すると転生先で最低限必要な能力なのだそうだ。


 女神が、両手で水でもすくう様な格好をすると、胸の高さの両手の上に光の玉が現れ、それがゆっくり俺の胸に入っていき、何か温かいものが全身に行き渡る感覚を覚えた。


 それが基本的な能力の源だと説明を受け、満面の笑顔で簡単な別れの挨拶を終えると、タイムトラベルの続きを始める為に眼を閉じる様に言われる。


 笑顔で見送る女神に頷くと、女神は開いた右手をこちらへかざし、俺は再び光に包まれ始めたのを感じながら眼を閉じた。


 そのまま全身の感覚が無くなっていき、意識も遠退くと、麻酔にでも掛かったかのように眠りについたのだった―――





 ―――しばらくして意識を取り戻すと、体が地面に寝そべっている姿勢で目を覚ます。


 体を起こして辺りを見渡せば、眼に入るのは木、木、木木、木木木、………………木。


 下を見れば地面が余すところ無く草に覆われ、時折背の低い木が高い木に陽光を遮られて成長不良の細った姿を晒している。


 上を見れば木の縁取りに360度囲まれた狭い空が、快晴の青一色で被さっていた。


 俺の見た通りに絵の具でキャンバスに描くとすれば、俺の画力では青と緑、時々枝に使う茶色のたった三色で、緑に囲まれた謎の青い爆発物が描き出されるに違いない。


 そんな所に俺1人、ポツンと落とされて、これからどうすれば良いのかわからない。


 どっちに行けば良いのかわからない。


 俺が誰なのかもわからなくなりそうだった。


「……ここはどこ?私は誰?」


 冗談で言ってみたが、洒落では無くなりそうだから冗談を広げるのはやめた。


 もう一度、女神とのやり取りを思いだし、ここに来た目的などを頭の中で再確認する。


 俺は何をしにここに来たんだ?


 俺は何の為にここに来たんだ?


「そうだ!天使とお付き合いするためだ!」


 そんな事を口にして自分を鼓舞し、天使を探して1人歩き始めたのだが、もう感覚的には1時間くらい歩いたのではないかと思う。


 そんなこんなで今に至り、未だ愛しの天使には会えていなかった。


 女神はこう言った。


『最初に出会う少女を助けて』と。


 確かに、『転生して、すぐ目の前に居る少女』ではなかったから、転生してすぐに会えるとは決まっていない。


 つまり、俺の想像通りにこの森が滅多に人が入らない様な、富士の樹海みたいな場所なら、俺は延々と森の中をさ迷い続ける事になりかねないのだ。


 その上、仮にそんな所で貴重な人にやっと出会えたとしても、それが男なら意味がない。


 少女に出会わなければ『最初に出会う少女』にならないワケだ。


 ずっと男しか来なくて、何ヵ月、何年も経ったらどうしよう……。


 てか、それまで俺は、生きていられるのかな……。


「……俺、サバイバルなんてやった事ねーわ……」


 テレビとかでなら見たことがあるが、見るのと実際にやるのとは違う。


 しかも、熊とか出てこられたらそれこそ殺られる。


 そんな良からぬ事を考えながら歩いていると、すぐ近くの茂みでガサガサと音が鳴ったのに反応が遅れてしまった!


 ハッとなって音のした方向を向くと同時に、ガサッ!と一際大きい音がして、目の前に大きな影が迫る!


『やばっ』と思うも、一瞬にして飛び込んできた影は、あっという間に俺の頭を大きな口で噛みつこうとしていた!


 その瞬間、声も出せない刹那の間!


 過去の記憶が走馬灯の様に……思い浮かぶまもなく、頭と顎に尖った何かが軽く刺さる感触を覚える。


 そして俺は、あまりにも無力で成す統べなく崩れ落ち、視界に口腔の喉仏を捉えながら意識が遠退いていったのだった。

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