表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
(旧)もれなく天使がついてきます!  作者: 咲 潤
第二章 ~ 世界の謎 ~
83/83

久しぶりの……☆②

「……って、何だよ、もしかしてこの二週間、ミカ達と話してないの俺だけだったのかよ」


 俺は、一人だけ蚊帳の外に出されていた様な気分になって、軽くいじける。


 そこへ。


『だって、若様は自分でウェパス出来ないじゃん』


 カルが頭の中で俺にツッコんだ。


 ルーは俺が視線を外す事でウェパスに集中するのを察知して言い返さない。


 俺はそんなルーに片手を立てて詫びつつ。


『いや、エメリアやキシはまだしも、ミカはミカからウェパスもできただろ?』


『我がなんだと?』


『うおっ!?キシ!?……びっくりした!カル、繋いだなら繋いだって言ってくれよ』


 俺は膝の上で寝そべるカルの頭の皮を軽く摘まむ。


 小さいので、本気でつねると相当痛そうだから、軽く摘まむだけにしたのだが。


『うぉえ!』


 カルの嗚咽がウェパスで届く。


『お!?どうした!?』


 カルの嗚咽に驚いて、摘まんだ手を慌てて離した。


『なんだ、何があったのだ?』とキシが言っているのを放って。


 カルがケホッケホッと咳き込みながら、ウェパスで俺に訴えた。


『どうしたじゃないよ!ボクみたいにカワイイ小動物は、皮を頭とか首の後ろに引っ張られるだけで、喉が皮に締められて気道が苦しくなるんだから!』


 自分で自分の事をカワイイと言うあたり、カルらしくて微笑ましいのだが、本気で怒っている様なので笑えない。


『なんだ、その方らでじゃれあっているだけの事か』とキシが言っているのを更に放って。


 ルー達も咄嗟に驚いた様だが、カルの大事無い様子に何事も無く雑談に戻る。


『ああ、そうだったのか!ごめんカル!知らなくて、……悪気はなかったんだけど……』


『ふむ。二人とも仲良くせよ』とキシが言うが、それも放ってしまい。


『悪気があったら困るよ!ボク首締められて殺されかけてるんだからね!』


『それは問題だ。セイルが悪い。誠心誠意カル殿に謝罪すべきだろう』とキシも言ってはいるが、俺達には完全に認識されていない。


『だからごめんって!ホントにすまん!謝る!ごめん!』


 キシに言われたからではなく、素で俺は必死にカルに謝った。


『まあ、我なら気にせず気が済むまで話合うが良い』とキシが言っているが、そもそもキシの存在を気にしていない。


『……むぅ。じゃあ、明日も朝からマーク飲み放題で』


『ああ。わかった。ホントにごめんな、カル』


『うん。それなら許す』


『良かった……』


 俺はホッとした声をウェパスに漏らすが。


 ミルク飲み放題など、店がそんなプランを用意しているはずもないから、カップ単品で気の済むまで飲み続けて良いって事だ。


 だから、飲んだら飲んだ分だけ料金はかかるワケだが、ぶっちゃけ、体躯の小さいカルは、飲み放題と言っても精々多くてもカップで二杯程度しか飲みきれない。


 ()して大金を払うワケでもないから、財布が痛む事もないのだ。


 そう考えると、ミルク飲み放題は体の良い誤魔化しに過ぎなかった。


『……』


『……』


『……して、終わったのか?』


 沈黙が流れた事にキシが気付いて声をかける。


『……あ?ああ、キシか』


『うん。終わったよ。それじゃお二人でどーぞ』と言ってシレッとフェードアウトしていくカル。


『……あ?……セイル。まさか、我がウェパスしていたのを忘れてはおらんだろうな?』


 キシが何やら含む声をしている。


 もちろん、忘れてしまっていたのだが。


『……え?……ま、まさか!そんなワケ……』


 何となく、怒りが含まれている気がして、咄嗟に誤魔化した。


『……そう言えば、最初にも我やエメリア殿ならまだしも、などと申しておったな?あれはもしや、我やエメリア殿が自らウェパスが出来ないからと、バカにしておったワケではあるまいな?』


『……え?ええええ?そそ、そんなワケないだろ!お、俺はキシの事を信頼してるんだぜ?そ、そんな俺が、バカに、す、するなんて、ああり得ないだろ』


 やはりキシは怒ってる!?


 そう思った俺は、思わず思考の中まで呂律を噛む。


『狼狽えすぎだ。ウェパスにまで伝わる様では、セイルもまだまだよな』


 何やら勝ち誇った様な声に変わる。


 怒りは収まったのだろうか。


『ハ、ハハッ。ま、まあ、まだ慣れなくてね。それより、キシの方は元気なのか?』


『ああ。しかし、ドリュー車は揺れが少ないのは良いが、快適とは言い難い。セイル達も我が帝国に来た際、同じ様にして十日以上も乗っていたと聞いたが、よくもこの窮屈さに耐えられたものよ』


『まあ、俺達はガフスの交易車だったから、荷車が大きめだったっていうのもあったけどな』


 実際、俺としてはそれほど苦を感じた覚えはない。


『我も、一応十五人小隊が乗れる大きいのを用意したが、馭者も入れて皆が横になればそれだけで一杯だ』


『え?荷車で横になれんのかよ。ガフスのより広いじゃんか』


『一回り程な。しかし大して変わらん。我もガフスのドリュー車に乗ったが、あの時の感覚と比べても、荷物がない程度しか概ね違わん様だ』


『そ、そうか……。まあ、でも元気そうなら安心した』


『ふん。セイルが我を案ずるなど無用だ。余計な事は考えんで良い。それより、そちらの事を首尾よく()われよ』


『ああ。ありがとな。俺も、自分でウェパス出来るようになったらちょいちょい連絡するから、そんときは宜しく』


『いや、こうして息災であることもわかった。しばらくは連絡など寄越さんで良い。只でさえ、キビが毎日の様にウェパスしてくるのでな。相手するのも面倒でならん』


『まあそう言うなって。……あ、そうそう。こっちの新しい仲間からの情報だけど、エルフの国攻略に、教皇には気を付けてな。どうやらローゼの国王と二大船頭(せんどう)を張ってるらしい』


『よもやセイルから助言を貰えるとは。ありがたく念頭に入れておく。それでは、またな』


『ああ。また……あっ!そうだ!それより、キシに聞きたい事があったんだ!』


 俺は、話を切り上げようとするキシを慌てて呼び止めた。


『なんだ?まだ我に用か?』


『ああ!……てか、そんな素っ気ない態度するなよ、久しぶりなんだしさぁ』


『いや、セイルの事だ。今、ウェパスを繋げる事を知った以上、これから頻繁に我らを頼らんとも限らん。それが鬱陶しいから、カル殿には以前ウェパスを貰った際に、セイルから聞かれない限りカル殿からは教えないでほしいと頼んでおいたのだ。それを、此れ程早く気付くとはな。せめてエストールの件が落ち着いてからにして貰いたかった』


 鬱陶しいとか、もっとオブラートに包めよ。


 俺、泣いちゃうぞ?


『おいおい、なんか、人を鬱陶しいとか本人に直接言うなよ。悲しくなるだろ?』


『それは致仕方無い事だ。我とセイルでは、我の方が秀でておるからな。事実を申したまでよ』


 なんか、キシ相手だと俺が弄られキャラになってる!?


『ハ、ハハハ……。ま、まあ、その辺は何も言い返せないから、話を進めるけど、キシのカ帝国では、ハーピーや魚人への対策はどうしていたんだ?』


 俺は、口では負けると察知して、サッサと本題に話を移した。


『む?鳥人と魚人か?あやつらは思念攻撃が無ければ戦闘力自体は大したことの無い種族だ。我がカ帝国では特に注意など配ってはおらんが?』


『……いや、その思念攻撃への対策だよ。カ帝国ではどうしているのかな?って』


 キシののらりくらりとした返答に、若干の苛立ちを我慢しながら、重要な部分を追及する。


『なんだ?セイルは念導石を知らんのか?』


『念導石?』


 キシから新たな単語が出てきたので、ここは話の流れで聞いてしまおう。


『あの、金属を引き寄せる石だ。陽と陰の二極に分れ、同じ極同士では反発し合う』


 それって、磁石の事じゃねぇのか?


 キシは陽と陰とか言ってたが、地球でいえばN極とS極の事だよな。


『なんとなく解るかも』


『セイルは本当にこの世界の基本的な事がわからんのだな。念導石と言えば、学び舎でも年少期に実験などやるのだが、それを知らないとは、不憫な男よ』


 な、なんか哀れむ顔が想像できる……。


『ま、まあ、しょうがねぇだろ?そんで、それをどうするんだよ』


『念導石は、金属に混ぜると同じ極で金属全体にその引力、あるいは反発力を発生させられる。帝国の学者によると、ヤツらの思念攻撃は我々が普段用いるウェパスと原理が同じらしくてな。つまり、ウェパスを妨害する念導石によって、あヤツらの思念攻撃は防ぐ事ができるのだ』


 なるほど。つまり……


『念導石を兜の中に混ぜて作れば思念攻撃は機能しないって事か!?』


『そう言うことだ。ついでに申せば、我らカ帝国の軍の鎧が黒い理由は、その念導石を混ぜた金属が異様に太陽光を反射する漆黒色でな。反射を鈍らせる塗料を塗るだけでも費用が(かさ)む為、我が無駄な費用を懸けぬ様に、金属の色をそのままで、反射を鈍らせる塗料だけを塗って量産しておる為だ。反射が強いと戦争の時に敵に見つかりやすくなるからな。だが、塗料を省くだけでも大きな削減ができ、軍全体の標準装備として支給できたと言うわけよ』


 やはり、キシの話にはどこか”自分は優れているアピール“を忘れない。


『そ、そうか。そりゃ良い判断と貢献をしたな』


 一応、誉めておいてやるか。


『そうだろう。まあ、セイルも賢く生きよ。その方には素質はある』


 誉められると満更でもないんだよな、キシは。


『わかった。教えてくれてありがとうな』


『ああ。構わん。またいずれ、こちらからも連絡をするやもしれん』


 さっきとは真逆の事を言ってる。


 さっきは俺から連絡することも断ってたのに。


『ああ、待ってるよ』


 しかし、そんな無粋な事は言わない。


『ふむ。息災でな』


『キシもな』


『……』


『……』


 そうして、キシとのウェパスは終えた。


 最後まで俺を甘く見てた口調だったが、俺の助言を素直に受け入れるあたり、柔軟で信頼できる仲間だ。


 何だかんだ言っても、俺の事は一目置いてくれている。


 流石、軍を束ねる大軍師様だ。


 ……さて、次ぎはミカかな?


『セイルさん?』


『あ、その声は、ラムさんかな?』


 カルは先にラムさんに繋いだらしい。


 カルもイチイチ説明するのがめんどくさくなったか?


『そうです。お久しぶりですね』


『お久しぶりです。その節は、色々とお世話になりました』


『いいえ。そんな事はありませんよ。だって、世界の危機ですから。私も、私の住んでいた村が大好きですし、その村の人達を守る為なら惜しみません』


『そうですか。それなら良いんですけど、無理はしないでくださいね?』


『ええ、もちろんです。そう言えば、エメリアさんから聞いたのですけど、セイルさんはセグさんの義理のお孫さんになられたとか』


『……は?なんでそこでセグ爺の話が?』


『あ、言ってませんでしたか?以前、私が堕天した理由……』


 ふとそんな事を言われ、あの時の記憶を呼び覚ます。


『いや、聞きました……けど……。まさか……?』


 まさかとは思うが、確かに接点は掠めていた。


『そうなんですよ。偶然と言うのも面白いものですね。私があのとき助けたドワーフの青年と言うのが、セグさんの親友だそうで、グルゴさんと仰る方だったんです。あの時、一度しかお会いしてませんでしたけど、私にとっては思い出深い出来事でしたから、お二人の名前と、セグさんのお付き合いしていた方のお名前も、ハッキリと覚えていました』


 まさか、こんな所でもセグ爺にまつわる話を耳にするとは。


『そ、そうだったんですか。』


『そうだったんです。世界は狭いものですね。人一人の大きさと比べれば、それは計り知れない大きさですけど、人の運命は、その人に必要な人との出会いをさせてくれます。それが例え自分にとって嫌な人だったとしても、もしかしたら反面教師として、あるいはその方との繋がりによって、何らかの得るものがあったり、失うことで学ぶ事があったり……一つ一つの出会いは小さなものかも知れませんが、その一つ一つを大事にすると、何か実になる気がしませんか?』


 所謂、一期一会って話かな?


 それなら地球でもよく耳にする言葉だ。


『そうですね』


 しかし、なんて穏やかな空気をウェパスにまで乗せてくる人なんだ。


 凄く優しい笑顔を浮かべて話してくれているのがありありと目に浮かぶ。


『これからも、セイルさんの元には色んな人が来るでしょうから、そう言う人達を、大事にしてあげてくださいね』


『ええ。わかりました。……なんか、ラムさんが村で慕われるのが解る気がする』


 俺は、思わず頭に考えていた事をウェパスに乗せてしまった。


『そうですか?私など、天使の世界を追放された堕天使ですから、本当は細々と生きていくべきなんだと思いますけど』


『いいえ。そんな事はありませんよ。ラムさんの様な天使が、もっと人に色々な事を教えてあげてほしい。俺は女神アイシスとルーも身近に居るけど、天使の声を聞けない人は世の中に沢山居るんだ。そう言う人達に、一人でも多くその慈愛に満ちた言葉を聞かせられたら、世の中平和になる気がするんだよな』


『……そうですね。でもそれは、人類の自立を妨げる原因になります。私達に教わるのではなく、これは人類が自分達で気付かなくてはなりません。そうでなければ、反発する人にはいくら私達が話をしても心に届いてくれないのですから。だから、私達は私達の存在を信じ、私達の言葉を聞こうと願った者にのみ、言葉を授ける様にしてきたのです。それは、悲しい事です。ですが、いつかきっと、人類も気付いてくれる事を祈っています』


『……そうか。解りました。良いお話、ありがとうございました。また、何かあったらお互い連絡とりましょうね』


『ええ。もちろん』


『じゃあ、また』


『ええ。また。元気で』


『ラムさんも』


『……』


『……』


 ラムとの会話を終えて、どこか優しい気持ちになった俺は、ガイが変なものを見るような目で見ている事に気付いて表情を引き締める。


 そして、最後にミカとのウェパスに意識を向けるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ