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(旧)もれなく天使がついてきます!  作者: 咲 潤
第二章 ~ 世界の謎 ~
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久しぶりの……☆

「―――もちろん!オレ、セイルさん達に付いていくっす!」


 敬語を止めろと言われて口調を崩したケインが、ナージャの予想に違わず俺達についてくる意向を告げた。


 全く躊躇う素振りもなく、満面の笑顔で返されては、流石の俺も頭を縦に振るしかなかった。


「わ、わかったよ。……てか、なんか体育会系の目上への言葉遣いみたいだな、それ」


「……へ?…たい…い…かい?」


 ケインに同行を了承する旨を伝えた後、ケインの言葉遣いに懐かしさを覚えた俺は、思わず頭の中の言葉を口にしていた。


 それに不思議そうな顔をするケイン。


「ああ、いや、こっちの話だから気にしないでくれ」


 実際、俺もこっちの世界に来てから何度か使っている言葉遣いだ。


 補欠とは言え、仮にもサッカー部だった俺は、「っす!」とか「っすか?」みたいな言葉が体に染み付いていた。


「了解っす!」


 まさにこんな感じだ。


 こっちの世界でも、こんな言葉遣いが一般的に使われてるのかな。


「あのう……」


 そんな時、ユリシアがおずおずと声をかける。


「……どうした?」


 俺は、ユリシアの遠慮がちな声に、キョトンとした顔を見せてしまう。


「いえ、一応、私達にも解る話をして頂きたくて……」


「……は?」


 ユリシアの言っている意味がわからない。


 今、まさにこの女子部屋に借りた部屋で、全員が集まって話をしていたのに、何を言っているのか。


 そんな俺の疑問は、ケインのおどけた話から解決する。


「ああ!すいません!オレ、思わず母国語でしゃべってました!ランベイジで話さないと皆さんには伝わらないっすよね!」


 ランベイジとは何ぞや?


「あ、こちらこそすいません!私、これとエルフ語と母国語しか解らないもので!」


 ユリシアがわたわたと慌ててケインに詫びた。


「いえいえ、こちらこそ……」「いえいえいえ、こちらこそ……」などと詫び合う二人を置いて、ガイが俺に改めて問い質した。


「……で、話は付いたのかよ?」


「ああ。ケインも連れていく」


 俺がそう返すと。


「なんだぁ?まさかコイツもルーシュを狙ってねぇべなぁ?」


「お前はルーの事しか頭にねーのかよ?」


「……たりめーだろがよ。俺様は、ルーシュを嫁にするライバルはオメェ以外に認めねぇ!」


「そうか。そりゃありがとな。まあ幸い、ケインのお目当てはルーじゃなさそうだ」


 ガイとのやり取りを聞いてか聞かずか、ルーは少し前に俺からカルを奪い、カルが寝そうな所へ鼻をくすぐったりして遊んでいる。


 それより、ランベイジの事がまだ解っていない。


 大方の予想は着くが、まさかな。


 俺の知る異世界ものでこの手の設定はあり得ない。


「とりあえず二人とも、詫び合いはもう良いから、ランベイジが何なのか教えてくれよ」


 俺は、未だ続いていたユリシアとケインの詫び合いを止めて、二人に問い質した。


 所が、それに答えたのはガイだった。


「……はあ?オメェ、ランベイジ知らねぇでランベイジしゃべってんのか?」


 やっぱりだ。


 今のでハッキリした。


 ランベイジとは、言語の事だ。


 それも、恐らくは広範囲の国々で共通語となっている言語。


 現代で言う英語の様なものか。


「いや、今のガイの言葉で解った。つまり言語の事だな?」


「はん!解ってんなら聞くなや」


 なんか、ガイさんイラついてますな。


 まだライバルが増えたと思って気が立ってるのか?


「いや、ガイの言葉で解ったんだ。ありがとうな」


「……お、お・おう」


 ガイは感謝されると照れるらしい。


 段々とガイの扱いが解ってきた気がする。


「それで、ランベイジってのは、どの辺りで共通の言語なんだ?」


 俺は、今後の旅でも知っておいた方が良いと思って、通用エリアを確認しておく。


「そうですね。東大陸の大半は通用すると思いますよ?」


 ユリシアがそう答える。


 すると、今度はケインが。


「後は三種族同盟国と、エルフの国には西大陸でも通用するっす。ちなみにオレの母国は西大陸との境にある国、ラマダ・バ・ラダっす。小さい国っすけど……あ。そう言えば、何でセイルさんはオレの母国のダラム語を喋れるんすか?」


 遅蒔きに気付いたらしく、小首を傾げて訪ねてくる。


「いや、俺は女神に転移してもらってこの世界に来た異世界人で、この世界の言葉が全く解らないのは不便だから、女神に相互翻訳能力って言う、全ての言語で会話ができる能力を付けられてるんだ」


「ああ、なるほど!それで!」


 ケインは開いた左手に右手をグーにして打ち付ける仕草で、大袈裟に納得した素振りを見せる。


「そうそう、だから、多分今の俺は、元の世界に戻っても全ての国の言葉が喋れる。……とすると、あれだな。地球でも翻訳家にでもなったら仕事は何とかなってそうだな……」


 俺もケインが普通に聞いているから、普通に話を返しながら、何気ない会話の流れで、後半は何となく呟いた。


 しかし、呟いてみて何か引っ掛かるものがあったが。


「……て、ええっ!?セイルさん、女神様にお会いした事があるっすか!?」


 という、遅蒔きに女神の件に食い付くケインに軽く驚かされて引っ掛かるものを飲み込んだ。


「オメェ、いくらなんでも反応が遅すぎんべよ!」


 確かに。


 ガイがツッコむが、ケインはかなりのマイペースなキャラな様だ。


「いえ!だって今、セイルさんが……!?」


「あー、はいはい!その辺は俺様が説明してやっから。……とりあえず、セイルはまだウェパスで用があんだろ?ケインを連れていく事になったのは解った。俺様はそれが解りゃ良いから、先に用件を済ませとけや」


 ガイが随分と気の利く事を言う。


 ケインの言葉は解らなくても、俺の言葉だけでエメリア達にウェパスする事を理解しているとは、ガイも頼りになるな。


 こりゃ明日は吹雪にでもなるんじゃなかろうか。


 そう思いながら。


「ああ、そうだった。ワリイ。……カル。もう一回ウェパス頼む」


 そう言って、ルーとじゃれ合うカルを再び俺の胡座の上へ招いた。


「もうボク眠いんだけど」


「そう言うなよ。このあと、ご飯の時にホットマーク飲み放題にしてやるから」


「ホント!?しょーがないなー、若様は!」


 ホットミルク飲み放題。


 人間の子供でもそんなに嬉しいものでもないのだろうが、カルは味覚がどうも動物の赤ちゃんか何かの様で、以前から「この世の中で一番美味しい飲み物はマーク以外にあり得ない!」等と、酒の味を覚えた俺に力説していた。


 そんなカルは、相変わらず表情の読めない顔だが、足取りは軽やかに俺の膝元へ跳び移った。


『……さあ、聞こえるかな?若様』


『ああ。聞こえた』


 俺の膝に飛び乗った瞬間に届いたカルのウェパス。


 俺の返事を聞くと、先程と同じ寝そべる姿勢で俺の胡座の上でくつろぎ始めた。


『……じゃあ、エメリア姫だね。……繋ぐよ』


『ああ。頼む』


 俺は、ガイがケインに色々と説明し、カルを俺に奪われたルーはユリシアと雑談を始めたのを見届けて、眼を瞑ってウェパスに集中した。


『……?』


 長いな。


『……カル?どうした?』


『……ああ、ごめん若様。エメリア姫が久しぶりだから、ちょっと近況を軽く話してたんだよ』


 カルがそう言った直後。


『……セイルか?』


 エメリアの声が、突然割って入ってきた。


『ああ。エメリア。久しぶり』


『久しぶりだな。カルから聞いたが、皆、元気だそうで何よりだ』


『ああ。お陰さまでな』


『なんだ?疲れてるのか?声にハリがないな』


 ウェパスの声で俺の事を気にかけてくれるとは、エメリア、マジで惚れそう。


『……そ、そうか?まあ、確かに疲れては居るかもな』


『そうか。何があった?』


『あ、まあ、何ってワケでもないんだが……』


 俺が言いかけたその時。


『新しくエルフの女の人が仲間になって、ドキドキしすぎて夜も眠れないんだよね、若様』


 突然カルがそんな事を言い出す。


『カル!?何言って……』


 俺がカルを嗜めようとすると。


『なに!?セイル!まさかとは思うが、その……なんだ、その女性とは何か……し、したのか!?』


 カルに向けた俺の声を遮って、エメリアが慌てて問い質した。


『エメリアも何を言ってんだ。そんなんじゃねぇよ』


『そ、そうか。そうだよな。すまん』


 何がそうなのか解らないが。


 それより……。


『カルもあんまり俺達で遊ぶなよ。眠いのを我慢してくれてるのはありがたいけど、頼むから普通にしてくれ』


 カルには悪いが、ナージャとの一件もあるからここはエメリアとの話をキチンとまとめたい。


『はーい。じゃあ、若様モショモショしてよ』


『ああ。わかったわかった』


 モショモショとは、言葉通りカルの顎や頭、首回り等を五本の指でモショモショするのだ。


 ますます動物の様なカルに、モショモショしながら黙らせる。


『……大丈夫か?』


『ああ。大丈夫だ。それより、そっちはどうなの?順調?』


 エメリアの、こちらの落ち着いた様子への確認に答えて、向こうの様子を伺う。


『こっちは順調だ。ミカ殿もラム殿もキシ殿も、皆体調も崩さずにエストールへ向かっている。キシ殿が、カ帝国西方統治軍のセツカ砦からドリュー車を手配してくれたお陰で、漸くクレスト・ロスに入国目前の所だ。エストールはクレスト・ロスを約三日で越えればたどり着く。ずっと街道を走り続けたドリューでも半月かかるのだから、この距離を我ながらよく歩いたものだ。思い起こせば、セイルと出会った時はもう半ば気力だけで歩いていたのだからな』


 エメリアと出会った時の思い出が脳裏に甦る。


『ハハハ、そうだったな。でも、その割には飯食った後も話をしたり、腹が減っていた以外は元気そうだったじゃないか』


 それが、このエメリアという女性の過酷な鍛練を乗り越えてきた強さであることは俺もよく知っている。


『なんだ?根性ありすぎて私が女らしくないとでも言いたいのか?』


『そ、そりゃあ勘繰り過ぎだよ。エメリアは芯の強い、聖騎士として立派で凛凛しい女性だって話だ』


『ふふ。口が上手くなったな、セイル』


『そうでもない、本心さ。……てか、まだエストールに着いてないって事は、国王への報告もこれからって事だよな?』


『ああ。そうだが、それがどうかしたか?』


『なら丁度良い。実は……』


 俺は、ナージャ率いる真紅の翼の事を説明し、黒の軍勢についての偵察部隊として雇ってもらえないか相談を持ちかけた。


『……ふむ。ヤツらがこちらに気付かれないように動いているつもりなのだから、こちらはそれに気付いてないフリをしながら、且つヤツらに気付かれないように秘密裏に動くのは定石だ。国王もそう判断するだろうな。そうなれば、そうして秘密裏に動ける人材が欲しいのは確かだろう。まあ、それも国王次第ではあるが、こうしてカ帝国のキシ殿もいらして、予言の天使ミカ殿もいらっしゃる状況なら、私の提言も効果は大きいかもしれない。……解った。私から国王へ進言しておこう』


 やはり、俺が思った通りだった。


 影で動ける人材は、こういう時には必要なのだ。


『ああ。頼む。ナージャも良いヤツだ。この世界で、まだ法の行き届かない闇の部分で、義理や人情で筋道を通す義賊だから、きっとそう言う仕事は上手くやってくれるはずだ』


『セイルがそこまで信頼するなら、確実に何とかしてやらねばな。キシ殿もいらっしゃる事だし、知恵をお借りして必ず何とかしてやる』


 エメリアの心強い返事を聞くと、俺はホッと一息つく。


『ところでセイル』


『ん?』


『ミカ殿もキシ殿も、お前と話したがっているが、どうする?』


 エメリアに聞かれ、俺はふと時計を見る。


 針は18時の少し手前で、夕飯に丁度良い時間ではあるが、飯はもう少し後でも良いだろうと判断した。


『ああ。解った。じゃあカル。悪いけどキシとミカにも順に繋いでくれ』


『……あいよ。ったく、若様は精霊使いが荒いなぁ、まったく……』


 ウェパスでぶつぶつ言いながら、キシに繋ぐ間に、ルーを見やる。


「ルー。ミカ達と話するか?」


 きっと、俺と同じ期間ミカ達の顔も見ていないルーは、もしかしたら俺よりも寂しい思いをしているかもしれない。


 そんな事を気にかけながら、ルーに聞いてみた。


 所が。


「ううん。ルーは大丈夫」


 そんな返事が返ってくる。


「……なんで?」


 何となく寂しい気がして、思わず聞き返した。


 すると。


「だって、ルーはいつでも話せるもん」


「……あ、そうだったな……って、何だよ、もしかしてこの十日間、ミカ達と話してないの俺だけだったのかよ」


 俺は、一人だけ蚊帳の外に出されていた様な気分になって、軽くいじける。


「いや、ボクも話してないよ?」


 そんな俺に、カルが情けをかける様に俺の足をポンポンした。


「あー、まあ、カルは人間にあまり興味がないからな」


 そう考えると俺には何の慰めにもならない。


「ボクだってミカ嬢の事は気になるさ」


「だから、ミカは天使だろ。……まあ良い。キシ達との話も済んだら飯食いに行こう」


 カルの返答に、改めてカルの気持ちが人に無関心な事を残念に思う。


 だが、自分でウェパスを使えない今はカルを頼るしか無い為に、マーク飲み放題を意識させる飯を引き合いに出した。


「おっ?じゃあマーク飲み放題の為に、もう少し付き合ってあげるかな」


「ああ。頼む」


 子供の様に単純なカルとそんな事を言い合いながら、またもウェパスに耽る。


 しかし、これからキシやミカとも久しぶりに会話ができる事に、俺は心を踊らせてもいたのだった。

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