表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
(旧)もれなく天使がついてきます!  作者: 咲 潤
第二章 ~ 世界の謎 ~
71/83

相棒はモンスター!?

  「……ああくそッ!!俺様が話してんだろッ!?」


  ブシャッ!!


  ドドサッ!!


  ティーテの宿場を出てから、例のガイの告白が続いていた。


  しかし、ルーはひたすら断り続け、しつこいガイがかれこれ一時間近くも食らいついている。


  「もう、いい加減に諦めて下さい!」


  「嫌だ!俺様が本気でホレたのはルーシュ!お前だけなんだ!この俺様が、女一人ものにできなくてオメオメ引き下がれるか!」


  「むー……」


  ルーが返答に困りながら、無言の時間が過ぎる。


  こうして時間が流れては、ガイから話を切り出して、ルーに断られて、説得して、黙って時間が過ぎる。


  俺達は草原を歩きながら、そんな事を延々と繰り返していた。


  因みに、冒頭のガイの怒りはルーに向けられたものではない。


  歩きながら告白を続けている為、時おりモンスターが襲ってきては、ガイの斧に返り討ちにされているのだ。


  森から外れた為、この辺りでは群れで襲うスノーウルフが居らず、草原の枯れた草に身を隠してこっそり近付き、距離を詰めて襲いかかる、チーター系のホワイトサーベルが主な出現モンスターだった。


  ウルフよりも”しなやか“で”すばしっこい“ヤツらだが、細い木の棒でも振り回す様に変幻自在なガイの太刀筋は、一振りも空振る事もなく、確実に一刀のもとに切り伏せられていた。


  「……だいたい、今、ルーシュに相手は居ねぇんだろ?だったら、とりあえず俺様と結婚してからお互いの事を理解していきゃいーじゃねーか」


  ガイが立ち止まって、そんな事を言う。


  「いやいや、結婚したらそう簡単に別れる事もできないだろ。結婚を軽く見るなよ」


  皆も立ち止まり、さすがの俺も、突っ込まずにはいられなかった。


  「そうですよ。お付き合いならまだしも、結婚と言うのはそこからの人生を共に歩んでいくことを誓い、誓ったからには簡単に破る事は許されません。それだけの覚悟が必要で、一生寄り添えると認めた相手とでなければ結婚はしてはいけないものなのです」


  聖職者が言うとすごく深く大事なもののように聞こえる。


  本来、そういうものなのだが、一般的にはやはりそこまで重く捉えられないのは否めない。


  日本でも離婚する夫婦は多いと、見るものがなくてたまたまつけていたテレビのニュースでも言っていた。


  「じゃあ、お付き合い?とか言うヤツから始めるぞ。それなら良いだろ?」


  「やだ。もう本当にしつこい。いい加減、ルーも怒るよ?」


  ガイがユリシアの話を聞いて、ガイなりに改めた様だが、ルーに即断された。


  まあ、ユリシアの話を素直に聞いた所は悪くないのだが。


  「あ~あ。嫌われたなこりゃ。男はしつこいと嫌われるんだ。よく覚えとけよ」


  俺はガイの肩をポンと叩いた。


  「くそうっ!何でだ!相手が居ねぇなら、断る理由も無ぇだろ!?」


  ガイが、今日何度目かの感情を露にする。


  まあ、二人の問題だから、俺は口を挟む権利無いからなぁ……


  もっとも、ガイが勝手に強引な手段に出たりなどがあれば、兄として放っては置けないが、今のところはしつこい事を除けばまだ話し合いの範疇に収まっている。


  その点はガイにも良識があるのかもしれない。


  だが、これまでのガイの印象は、”感情的になると人を殺しかねないヤツ“だ。


  油断禁物。


  そう思ってガイの同行に警戒を怠らない様にしていたが、ここに来て問い詰められ、返答に詰まるルーを見る。


  ルーは涙目になって俺を見返していた。


  そして。


  「ルーにはちゃんと相手が居るんだから!」


  ……えっ!?


  い、いつの間に!?


  「「ええっ!?」」


  「そーなの!?」「そうだったんですか!?」


  カルとユリシアの驚きが重なり、各々でルーへの確認が続いた。


  俺は、驚きとショックで言葉がでない!


  ルーが!?


  俺の可愛い妹が!?


  相手はドコのドイツなんだ!?


  くそっ!!


  この俺が気付かないなんて!!


  「居るよ!ホラ!ここに!」


  そう言ってルーが手に掴んだものは。


  「……えっ?」


  俺の服の袖だった!?


  「「「ええ~~ッッ!!!??」」」


  ユリシア、カル、ガイが一斉に驚いた!


  ついでに言うと、俺も内心驚いている!


  「だって、ルーとお兄ちゃんは本当の兄妹じゃないんだから!ルーはお兄ちゃんと初めて出会った時から、ずっと一緒に居るんだから!」


  いやいや、ここまで兄妹で引っ張っておいて、今更そんな事を言ってもさすがにムリがあるだろ!


  ……しかし、何だろう。


  嫌な気はしない。


  むしろ、嬉しい。


  だが、これだけはハッキリしておこう。


  俺はロリコンじゃないから、幼さだけはノーセンキューだ。


  ………ハッ!?


  皆の注目が俺に集まっている!?


  「……あ、アハハハ!そ、そうなんだよ!俺達、見た目が歳が離れてるから、兄妹ってことにしてるけど、本当はもう結婚を前提に付き合ってるんだ!」


  言ったーッ!


  俺、言っちまったーーッッ!!


  こうなりゃもう、俺がルーの彼氏として、ガイを追い払うか!


  それしかねぇ!


  俺はガイに見られない様に、ユリシアやカルに向けて片目を瞑る。


  『話を合わせろ』の合図だ。


  カルもユリシアも、俺の目を見て表情を変えずに小さく頷く。


  「な、なんだー!そーだったのかーっ!ボクはてっきり兄妹になったんだとばかり思ってたよー!」


  早速、カルが話を合わせてくる。


  良いぞ!そこから、ユリシアがもう一押し……!


  「へ、へー。そうだったんですかあ。私、気付きませんでしたあ」


  ……棒読み!!?


  ユリシアさん、棒読みだよ!


  うちのパーティの、エルフの聖職者は演技が苦手な様だった。


  「なにぃ!?嘘だ!そんなの……!」


  ガイは未だ疑いの目で俺達を見渡す。


  こうなりゃ俺が!


  「信じられなくてもしょうがない。だが、俺達は確かに生まれは別の親だ。肌の色も違うし顔も似てない。それで、いつも一緒に居るんだから、そうなるのもわかるだろ?」


  ルーは綺麗な白い肌をしているが、俺は東洋人らしい黄色で、むしろ地が少し黒い方だった。


  顔も、正直言って俺はモテる様な整った顔じゃない。


  ルーは言うまでもなく可愛い顔立ちをしている。


  全てのパーツが違いすぎて、同じ親を思わせる様な共通点などは無い。


  悲しいかな、血が繋がってないのは外見からも判断できるのが実状だった。


  「くっ、……くそう、よりによって何でこんなヤツを……」


  ガイがそう言って俺を睨む。


  月とスッポンくらいの見た目は自分でも理解しているが、そうもすんなり受け入れられるとは。


  「わかったか?わかったなら、ルーは諦めるんだな」


  そう言って、俺は歩き始めた。


  あまりカッコいいとは言えない自分をルーと比べさせて、自ら墓穴を掘った悲しみを胸に仕舞って。


  「さあ、昼までにはムラン川まで行く……ぞ?」


  言いながら、俺以外の足音が聞こえない事に気付く。


  皆がついてくる気配が無い。


  ふと振り返ると。


  ガイがフラれた悲しみで地べたに座り込み、イジイジと地面に何かを書いている!?


  「セイルさん、ガイさんが……」


  俺にそう伝えたユリシアは、ガイの肩に手をあてて困った顔をこちらに向けていた。


  只でさえまた雪が降りそうな曇り空の下で、一際どんよりと暗い空気を身に纏うガイ。


  落ち込み加減がハンパねぇな……。


  皆もさすがに気にしてしまって、放っておけない様だ。


  俺は仕方なく皆の元へ戻り、ガイを勇気づけてやる事にする。


  「おい、ガイ。男が女にフラれたくらいで人前でメソメソするな。俺だって昔、好きだった子にフラれて悲しい思いもしたけど、今のお前みたいにウジウジはしなかった。俺は俺なりにカッコ悪いと思ったからな―――」


  言いながら、これまでルーの前で泣いた事を思い出すが、あれは別にフラれて泣いた訳じゃないと、思い出を振り払って続けた。


「――お前はどうなんだ?今の自分が女に好かれるような、カッコいい自分で居られてるか?カッコいいと思うならそうしてろ。そうじゃないなら、せめて他人が見てない所で落ち込めよ」


  久しぶりに長く語った。


  いや、なんか俺、やっぱりコイツ、憎めないな。


  多分、自分の感情に正直なだけなのだ。


  「うっせぇ!言われなくても解ってらぁ!」


  「おっ!?」


  思いのほか俺の激励も効くもんだなぁ。


  「決めた!俺様もお前達についていく!」


  ナニィ~~ッ!?


  それは行き過ぎだ!!


  「そんで、いつかはルーシュを俺様に振り向かせてやるぜ!待ってろや!ルーシュ!」


  「はぁ!?」


  まてまてまてまて!!


  連れて行くなんて言ってないぞ!?


  「だってそうだろ!?お前達はまだ結婚しちゃいねぇんだ!それまでに、お前より俺の方がルーシュに好かれれば良いってことじゃねぇか!?」


  「は、……はあ、まあ……」


  確かにそうだが。


  「……だろ!?だったら決まりだ!改めて宜しくな!!」


  何が「だろ!?」だ!


  お前が勝手に決めんな!


  ってか、さっきまでの落ち込みはどこに消えたんだよ!?


  サムズアップもウインクも、歯の輝きもいらねぇから!


  ってか、マジで何なんだ、コイツは!?


  「ああ、でも確かに、ガイさんが居たら心強いですねえ」


  「お兄ちゃんに余裕ができるなら、ルーは良いよ?」


  まてまてまて~ィッ!!


  意外にも皆、受け入れ体制整っちゃってんじゃん!


  さっきの落ち込み具合を目の当たりにして、同情とか放っておけない優しさとか刺激されて、許しちゃってるだけじゃないのか!?


  ルーなんて、さっきまでの怒りはどこに行ったんだよ!?


  「いや、ちょっと……」


  待て、皆、冷静に……とか言おうと思ったが。


  「……どうしました?」


  ユリシアの不思議そうな顔に、言葉を飲み込む。


  俺達もユリシアの放っておけない優しさに助けられている。


  ルーも天使の慈悲として、ガイの乱暴さ等も寛容に許してしまう。


  迷惑を一番に受けるであろうルーが許しているのに、俺が否定するのも、なんだかおかしな話だ。


  ここはガイを受け入れるしか無いのか……。


  「……いや、なんでも……」


  また厄介なのが来ちまったなぁ。


  「……皆が、……良いなら……」


  そう言うしか無いよなぁ。


  あ~あ。


  前途多難だな。


  「やったー!良かったね、ガイさん!」


  俺は全然良くない。


  しかし、ルーもルーですっかり笑顔で喜んでんじゃねーか。


  「うおっ!?ルーシュも俺様がついていく事を喜んでくれるのか!?」


  ガイが期待に満ちた声をあげる。


  「ちげーよ!ルーはお前が俺を楽にしてくれるから喜んでるんだ!お前にはその分働いてもらうからな!?」


  やっぱりなんか面白くない。


  「うげぇ!ホンキかよ!?」


  「でも、ガイさんはどのみち、今のままではルーさんに好きになってはもらえないでしょうから、ご自身の人間性を磨いて、より良いガイさんになっていただくのが、私達と旅をする目標ですよ?」


  そうそう!ナイスだ、ユリシア!


  これでヤツが反抗するなら……!


  「わかったぜ!俺様の根性見せてやる!」


  ナニィ~~ッ!


  なんでコイツ、ここに来て素直なんだ!?


  そんなにルーの事が……!?


  いや、俺達の仲間になるなら、ルーの事だけじゃなく皆に対して協力的じゃないとダメだ!


  ここは釘を打っておくか。


  「いやいや、根性よりは素直さが大事だろ、この場合」


  ガイの脳筋発言に突っ込んでおく。


  「何言ってやがる。俺様は最初から素直さは飛び抜けてるだろ?」


  「……そう思ってるのはお前だけだ」


  俺は苦笑を返す。


  「ああ?てめぇ、俺様の純粋さに負け惜しみか?」


  「……言ってろ。それよりほら、もうホントにそろそろ行くぞ?早く行かないと、日が暮れるまでに草原を抜けられないかもしれないからな」


  俺はガイの言葉をスルーして、皆に声をかけた。


  「そだね」「行きましょう」


  ルーとユリシアが各々の反応を見せると、いつの間にか俺の荷物に乗っていたカルが、満を持して飛ぶ。


  「やっと話がついたのかい?ボクはもう待ちくたびれたよ」


  「ああ。待たせたな」


  カルにとっては下等生物の一喜一憂にいちいち相手して居られないと言ったところだろうか。


  ガイの落ち込みから、カルはつまらなそうに口を閉ざしていた。


  「お前ら、ちょっと待て」


  「……ん?」「どうした?」


  ガイの制止にルーと俺が問う。


  「俺様もついていく事になった以上、俺様の相棒も連れていってくれ」


  ガイは親指を後ろへ向けて俺達に訴えた。


  ガイの後ろと言えば、今朝まで居たティーテの宿場だ。


  「……相棒?」


  俺は訝しい顔をして、ガイに聞く。


  ガイの仲間については完全にノーマークだった。


  宿場でもガイの周りに仲間らしいヤツが居た所を見ていなかったからだ。


  「ああ。もう一度、宿場に戻ってくれねぇか?」


  やはり宿場に居るらしい。


  ずっとガイが泊まっていた宿の部屋にでも居たのだろうか。


  「……皆、どうする?」


  戻るとなると、ここに戻る頃にはもう昼になってしまう。


  昼に川まで行っておかないと、日が落ちるまでに比較的安全な岩場まで辿り着けない。


  今晩はその岩場で野宿する予定だったのだが。


  「お連れの方がいらっしゃったのですね」


  「……どんな人?」


  ユリシアとルーの興味がガイの相棒に向けられる。


  「俺様の相棒は人じゃねぇ。ディアスホーンだ」


  「……な、何それ?」


  思わず俺が問い質す。


  「モンスターなんだが、俺様の無二の相棒だ」


  「「「モンスター!?」」」


  俺、ルー、ユリシアの声が重なる。


  「ああ。俺様が旅人を始めた時、アイツを助けてやったのが切っ掛けで俺様になつきやがって、それ以来一緒に旅をしてんだ」


  初めて見ると言っても過言ではない程、穏やかなガイの表情に、コイツにもこう言う所があるのかと思わされる。


  「じゃあ、一人にするのは可哀相だね。お兄ちゃん、その子も一緒に連れていってあげようよ?」


  ルーが僅かに切なさを滲ませた顔で訴えてきた。


  「……そうだな。そう言う事情なら、その子もガイだけが頼りなのかもしれないしな」


  「では、もう一度宿場に戻りましょうか」


  ユリシアが微笑みながら提案した。


  「そうだな。じゃあ、夕暮れまでに岩場まで行くのも難しいだろうから、リオル行きも見合わせて、もう一泊宿場に世話になろう」


  「それなら、今夜は宿場でガイさんとディアスホーンさんの歓迎会しよ!?」


  「それは良いですね。ガイさんはお酒、イケる口ですか?」


  ルーの提案にユリシアまで乗ってきた。


  「当たり前だ。俺様はこれまで酔った事がねぇ」


  そんな楽しい会話をしながら、皆がはしゃぐ。


  そして、皆の足が宿場への戻りルートを歩き始めると、最後にガイが締め括った。


  「相棒の名前はディーだ。良い名前が思い付かなくて相棒にはワリイがな。俺様の事も呼び捨てで呼んでくれ。”さん“とか付けられると煩わしいからな。ディー共々、これから宜しく頼むわ」


  改めて、言葉遣いは決して良いとは言えないが、礼節はふまえて居るらしい、乱暴で、何処と無く憎めない獣人が仲間になった。


  空からは、話が終わるのを待ちわびていた様に、フワフワと白い雪が降り始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ