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(旧)もれなく天使がついてきます!  作者: 咲 潤
第二章 ~ 世界の謎 ~
68/83

獣人ガイ!

  「そ、そうか。じゃあ、何にするかな……」


  俺がユリシアの横で緊張して答えに困っていた時だった。


  バンッ!と通路側のテーブルを叩くゴツい手が視界に入る。


  「おいおい。お前にゃそんなカワイコちゃんは勿体ねぇだろ!」


  図太い声が俺に向けて発せられた!


  皆、俺も含めてそのゴツい手に驚く。


  「……何ですか、あなた……!」


  咄嗟にユリシアが男の声に対抗する!


  しまった!


  ユリシアに先を越された!


  これこそ、正しく男の見せ所だろ!?


  そんな事を瞬時に考えながら、立ち上がろうとするユリシアの肩を押さえて俺が立ち上がる!


  それと同時にテーブルから離れる声の主の手を追って、男の顔を見た。


  いや、見上げた。


  ……デカイ!


  身の丈二メートル近いんじゃないか!?


  鼻先が少し前に出た獣人特有の顔。


  金髪に……ネコ耳!?


  「……ね、ネコ!?」


  俺はイカツい顔に不釣り合いなネコ耳を見て、思わず呟いた。


  カーキのマントに黒の胸あて。


  銀の肩当ての向こうには背中に斜めに刺した持ち手の太い剣の柄が。


  どうやら大剣使いの様だ。


  「……てめぇ!ナメてんのか!?」


  巨漢から怒りを帯びた怒号が返る。


  「……え?いや……」


  思わず口にしていた言葉を遅蒔きに振り返り、咄嗟に口元を塞ぐが、発した後ではもう遅い。


  やべぇ!


  見るからにヤクザだ!


  左目の端から顎にかけて、生々しい傷痕が!


  おっかない顔は、それだけでお漏らししてしまいそうだ!


  「表出ろや、コラ!」


  男はいきなり俺に向かって手を伸ばす!


  ヤバッ!と思うのも束の間!


  ちょっとビビって避けられなかった!


  男は俺の胸ぐらを掴み、引き寄せる!


  「うわっ!?」


  思わず声に出てしまったが、男は意に介さず俺を引きずる様に店の入り口に向かって歩き始めた!


  「ちょっと!何するんですか!?」


  「お兄ちゃん!?」


  ユリシアとルーが声を挙げる!


  ところが。


  「うお!?」


  「なんだなんだ!?」


  「ケンカか!?」


  荒くれ者の集りの様な店内は、俺達の状況をむしろ楽しんでいる様にさえ見えた。


  「おおーっ!」


  「ケンカだケンカ!!」


  「カワイコちゃんを賭けてケンカだってよ!」


  店内が色めき立ち、次第にお祭り騒ぎになっていく。


  「オラ!チャッチャと歩けや!」


  いやだ~っ!


  だって、このオジサン怖い!


  そんな内心を余所に、俺はネコ耳男に引きずられながら、心配そうな顔のユリシアやルーの顔を見る。


  カルの表情は解らないが、本気で心配する女子二人を見て、恥ずかしい姿を見せられない。


  俺は何とか自分の足で立ち、引っ張られて覚束無い足取りで男についていく。


  「だ、大丈夫だ。皆は待ってな。カル、二人を頼む!」


  そう言って、精一杯の虚勢を張りながらサムズアップして見せた。


  「こっちは任せて!」


  カルが自らの毛を掻き分けて前足を見せる。


  「ほう!良い度胸じゃねぇか!?」


  「……は?」


  男が俺を引っ張りながら振り返るが、当然ながら誉めている訳ではない。


  眼が煌めき、殺気を放つ顔に、思わず言葉もしどろもどろになる。


  「……あ、ああ~、いや、でも、変な言いがかり……つ、つけてきたのは、そそ、そちらですし……」


  「あ゛あ゛!?」


  ドスの効いた声に再び縮み上がりそうになった。


  動物的本能で、自分より体格の良い怖い見た目の相手が威嚇してくると、どうしても反射的に縮んでしまう。


  しかし、戦いともなれば話は別で、俺はコイツに負ける気はしない。


  そんな複雑な心境のまま男に引っ張られて店の外へ向かう。


  そうこうしている間に店から外に出て、馬繋場近くのスペースまで連れてこられた。


  野次馬達も群がり、辺りはガヤガヤと騒ぎ始める。


  何だかんだでルーやユリシア、カルも心配して店を出てきていた。


  「……さあて。さっきはよくも俺様の耳をバカにしてくれたな!?」


  男は俺を3メートル程離れた距離に放り投げて言う。


  「……っと!」と何とか倒れずに堪えながら、恐る恐る答えた。


  「いや、だって、その耳……」


  「ネコじゃねぇよ!俺様はライオンの獣人だ!」


  俺の話を遮って、男が怒鳴る。


  その時。


  「……ふ~ん。ライオンだったか……」


  突然、野次馬の人垣の中から、今まで聞いた事の無い男の声が聞こえた。


  騒いでいたギャラリーも急に静まり返る。


  「……あ゛!?」


  ライオンの獣人も、その声の主を探して人垣に振り向く。


  俺もつられて人垣を見ると、俺達から距離を取って壁のように並ぶ人垣の、向かって右の方から新たな男が現れた。


  その男は白黒の上下の、鎧下の様な服を少し着崩した格好をしている。


  「人間の兄ちゃん、何なら俺様がソイツをやっても良いぜ?」


  赤髪に、これまたネコ耳の様な耳を出した獣人で、背中に独特な斧を背負っていた。


  まるで刃が広いサーベルを二枚、背中合わせで鉄棒にくっ付けた様な、刃が長い特注品の様だ。


  当然ながら普通の斧よりも大振りで、ライオン男の大剣と同等かそれ以上の重量級武器である。


  「……」


  「……ぶっ!っは、ははは!!」


  俺が絶句している所へ、ライオン男は豪快に笑い出した。


  その理由は俺にも解る。


  なぜなら……。


  「……なっ!?て、てめぇ!ライオンのクセに俺様を笑いやがったな!?」


  「ぎゃははっ!!そりゃ笑うだろ!何の冗談だよ……!」


  ネコ科の獣人は口が悪い。


  ライオンは、腹を抱えたまま続けた。


  「……お子ちゃまは帰ってママのオッパイでも吸ってな!!」


  言った!


  ライオン男は赤髪の男に言った!


  「……てめぇ……」


  赤髪の男は顔を俯かせて怒りを沸き立たせながら続ける。


  「……言っちゃならねぇコト言いやがったな……」


  言いながら、ゆっくりとライオン男の方へ赤髪が歩み寄った。


  ライオン男の言う通り、赤髪の男は体躯が小さいのだ。


  ライオン男の近くまで来ると、ネコ耳という共通点も相まって親子の様にさえ見える。


  年も見た目には若そうだ。


  しかし、それにしてもライオン男を見て物怖じしない姿は、幼い子供とは思えない。


  「……あ?何だ?おチビちゃんは早く家に帰れよ。ションベン臭ぇからよぉ」


  「……てめぇ。もう泣く事もできねぇぞ?」


  「何を……っ!?」


  ライオン男が言い返そうとした時だった。


  「……ぐっ!?」


  声にならない声を漏らし、ライオン男の動きが止まる!


  「……なっ!?」


  俺は思わず声を漏らした!


  カシャッ!と背中に斧を背負う赤髪!


  暫くすると、ライオン男の首がずれ始め、無言のまま地面に転がる!


  首から下は遅蒔きに血飛沫をあげて、繋がれた馬達の方へ倒れ込み、馬達がブルルと唸りながら、降りかかる飛沫を避けていた。


  「……き、きゃーーっ!!」


  「ぎゃーーっ!く、首がぁーっ!!」


  「うわぁーっ!やべぇ!一撃だ!」


  馬の唸りがスイッチにでもなったように、集まっていたギャラリー達が騒ぎ始める。


  「……ふん!」


  赤髪は鼻で息を吐き捨て、俺の方へ振り返った。


  「あ……」


  声をかけようにも、驚きで咄嗟に声が出ない。


  「……俺様をバカにするからだ!」


  そう言って、赤髪は俺の横を通り過ぎる。


  「……お兄ちゃん!?大丈夫!?」


  その赤髪の横を走り抜け、抱きついてきたのはルーだった。


  「大丈夫ですか?セイル」


  ユリシアやカルも駆け寄る。


  「……あ、ああ。見ての通り、俺は何ともない。アイツに助けてもらったからな」


  言いながら赤髪の方を見ると。


  なぜか立ち止まっていた。


  「……あ、そうだ。お礼を言わないと……」


  俺がそう言って、赤髪に呼び掛けようとした時。


  「お兄ちゃんを助けてくれて、ありがとうございました!」


  ルーが先に背を向ける赤髪にお礼を言う。


  「……あ、……ああ、ああ。べべべ、別に、こ、これくらい……」


  赤髪は、背中を向けたまま答えるが、何故か歯切れが悪い。


  「いや、助かりましたよ。本当にありがとうございます」


  俺も、改めて赤髪に言った。


  すると。


  「い、いやあそんな、おお、俺様は当然の事をしたたまでですよ!」


  不自然に語気を明るく俺へ振り返る。


  てか、言葉遣いが変わったな。


  「ま、まあ、でも、何かお礼を……」


  俺が言いかけたその時。


  「じゃあ!お兄さんと呼んで良いっすか!?」


  俺の言葉を遮ってそんな事を……っ!?


  ……は!?


  いやなに!?


  なにコイツ!?


  コイツいきなりナニ言ってんの!?


  てか、いや、は!?


  なにワケわからん事を言ってくれちゃってんの!!?


  いやいやいや!


  ワケわかんない!!


  「なにワケわかんない事言ってんの!?」


  俺は、心の声が口から漏れていた。


  「え?い、いや、だから、その……」


  赤髪は言葉に詰まりながら、何とか続けた。


  「……だから、その、礼なら、その妹さんを俺様にくれ!!」


  まだ混乱騒ぎが収まらないギャラリー達の前で、意を決した様に高々と言い放った!


  「……は?」


  俺は思わず聞き返す。


  「……え?」


  ルーもサッパリ解らない様子だ。


  「「ええ~~っ!!?」」


  カルとユリシアが声高々に驚くのだった。



  ―――――――



  「……で、何でお前がここに居るんだよ?」


  再び食事を再開しようとした俺達のテーブルに、椅子が一つ多くついている。


  これだけの混雑時に、四人用のテーブルがここしかないからと、全て形や大きさが不揃いのテーブルの中で、四人で座るには少し大きめのテーブルを店員が案内してくれたのだが。


  「いやあ、まさか俺様と同じ店でメシ食ってたなんて、偶然だなぁ!」


  何故か赤髪のネコ耳も同じテーブルに座っていた。


  四人で広く使えるからとちょっとラッキーだと思っていたのに、邪魔なヤツが一人増えてしまった。


  「てか、お前その席に来てから店員にメシ頼んでただろ!?」


  「だから、前に座ってた席でまだ頼んでなかっただけだって!んで、あの騒動でバカを相手してる間に俺様が座ってた席が取られちまったんだよ」


  俺が邪魔者扱いしているのを、知ってか知らずか、そう言ってかわす。


  「じゃあその席を取り返すか、大人しく他に席が空くまで待てよ!それが嫌なら他の店行け!」


  「あ゛!?命の恩人にそんな口の聞き方すんのか、てめぇ!?」


  血の気が多い獣人らしい物言いである。


  「まあまあ、お兄ちゃんも良いじゃん?多い方がご飯も美味しいよ」


  ルーが気を回して赤髪をなだめて俺を押さえる。


  「やっぱ、俺様が選んだ嫁だ!懐が広い!」


  「はあ!?誰が誰の嫁だ!?」


  「お兄ちゃん、いちいち怒らないで!」


  俺が椅子から立ち上りかけた所をルーに制され、「やっぱ女は男を包み込む母性が無いとなぁ!?」等と吹かしてる赤髪を睨んでいた。


  赤髪はそんな俺を意に介さず、ユリシアやカルに笑いかけていた。


  「それにしても、聖霊を見んのは俺様も初めてだぜ」


  カルの表情は読めないが、苦笑いのユリシアを見て話を変えたのか、赤髪がそう言って話を逸らす。


  「そうか。そりゃ良かったな。じゃあ、思い出もできた所でどっか行けよ」等と言う俺を無視して、赤髪は続けた。


  「そう言やぁ、自己紹介がまだだったな。俺様はトラの獣人。名はガイ・ブレイノフ。ガイって呼んでくれ!」


  赤髪のネコ耳は、そう言って親指を自分に向け、あからさまにルーだけに名乗った。


  「ぷぷ……!そのなりでガイかよ!名前だけ聞くとゴツい男前な感じだけどな!」


  女性陣がにこやかに聞いている中、俺は当て付ける様にバカにした。


  「……てめぇ。俺様の気にしてる事を……」


  ガイが怒りを沸き立たせる。


  「お兄ちゃん、そう言うのはダメだよ!ホラ!ガイさんも気を鎮めて!一回落ち着こう!?」


  ルーがガイの怒りに反応して場を押さえようとした。


  が。


  「……あのバカライオンと言い、てめぇ、いくら嫁の兄貴だからって許さねぇぞ!表出ろや!」


  ガイが俺に向かっていきり立った!


  「お前、ふざけんなよ!?お前が勝手にこのテーブルに来たのがそもそもの原因だろ!嫌なら他行けって言ったよなぁ!?」


  俺も負けじと応戦するが。


  「てめぇ!助けてやった恩人に……!!」


  「ああ、アイツなら本当は別に助けなんか要らなかったんだ!俺でも余裕で倒せたからな!しかも、わざわざ殺さなくてもな!お前は自分が気にくわなきゃ人を殺すクソ野郎だ!」


  「そうまで言うなら表出ろ!アイツ相手にビビってたクセに!事が終われば強がってカッコつけてる、てめぇみてえなのが俺様ぁ一番気に食わねぇんだよ!」


  「ああ!行ってやるよ!その代わり、お前が負けたらもうルーに近寄るな!」


  俺とガイの気迫にルーやユリシアも言葉を挟めない。


  「てめぇなんか瞬殺してやんよ!」


  「はっ!やられるのはお前の方だ!」


  俺達は互いに武器を持ち、席を立って店の外へ出ていく。


  ルーやユリシアは、そんな俺達を悲しそうに見つめていた。


  そうして、先程の死骸は片付けられたが、まだ血痕が残る馬繋場へと再び移動する。


  掃除をしていた宿場の住人も、俺達の物々しい気迫に圧されて場所を譲った。


  再び野次馬も集まり始める。


  「また乱闘か!?」


  「また喧嘩だってよ!」


  「さっきはあっけなかったから、次は楽しませてくれよ!?」


  無責任なヤジにさえ、俺は苛立ちを覚えて睨み付ける。


  この世界の人類は人の命を何だと思ってるんだ。


  都合が良いことは解っている。


  俺だって、何千ものゴブリン達をこの手で殺め、カルの力を利用して何万もの命をカ帝国で死なせてきたのだから。


  それでも、俺は敵の命にも惜しみはした。


  ルーの親を探すために、帝国側に付いた事も後悔など無く、身内を第一に考えた結果の、惜しみながらの決断だった。


  今のヤジの様に、命を失う事を娯楽の様には思えなかった。


  それが……


  「余所見してんじゃねえよ!」


  ガイが身の丈に不釣り合いな大きさの斧を背中から取り外し、肩へ担いで構える。


  俺はガイの声に顔を向け、まだ剣を抜かずに、ガイの眼を睨み返していた。

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