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(旧)もれなく天使がついてきます!  作者: 咲 潤
第二章 ~ 世界の謎 ~
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ティーテの宿場♪

  「もうすっかり雪景色だね」


  ルーが、辺り一面の雪に覆われた景色を観て、そんな感想をこぼした。


  「ああ、そうだな」


  日も落ちた夕飯時に、皆でようやくティーテの宿場に辿り着き、俺がルーの感想に相槌を打つ。


  「こっちの方は朝から降っていたみたいですね。もうしっかり積もってるみたいですから」


 

  ユリシアはそう言いながら、十センチも満たない程度だが、しっかりと地面を白く覆って降り積もった雪を足で踏む。


  「湖の方が降り始めるのが遅かったんだな」


  足元を見ながら歩くユリシアに、再び俺が答えた。


  「……てか、結構人が多いね」


  宿場の門を潜って、建物を東西に分断する一本道を見渡したルーが、更なる感想を述べる。


  「ホントだ。しかも、エルフよりも人間達の方が多くない?」


  カルが俺の肩に乗ったまま、ルーに便乗して誰にともなく問いかけた。


  「ここは町や村よりも他種族に対しての警戒が弛いですから」


  「へー、そーなんだ」


  ユリシアの返答に、カルはあまり気に止める様子もなく応える。


  と、ユリシアが立ち止まって説明を始めた。


  「ええ。こんな人里から離れた所に建てた宿場ですから、お客を選んでいられないんですよ。ですから、町や村では他種族を警戒して滞在を拒む事もあるのですが、ここはそう言う所から追い出されて宿が無い人達を受け入れてきた宿場なんです」


  「なるほどな。それで、エルフの国へ来たは良いけど町や村で宿にありつけなかったエルフ以外の種族がここに必然的に集まるのか」


  「そう言うことですね」


  ユリシアの説明に俺が納得していると、語尾を確認と捉えたユリシアが一言にまとめた。


  「ねえ、それより早くご飯たべようよ」


  そう言うルーの腹時計は、先程から警鐘を鳴らしている。


  ぐーー……。


  皆が静まった瞬間に、絶妙なタイミングで鳴るルーのお腹の音で、カルが吹き出す。


  「……ププ!お嬢はそんな事よりご飯だってさ」


  「あっ、カル!恥ずかしいこと……!」


  笑い者にされたとばかりにルーが怒り始めた所で、俺は水に流す様にルーを押さえて口を挟む。


  「あはは!まぁ、俺もお腹空いたし、ルーの言うとおりご飯にしよう」


  「……やっぱり?やっぱお腹空いたよね?」


  俺の言葉に同意を得たルーが、俺に振り返って嬉しそうに笑顔になった。


  そんなルーを放って、カルは一本道の先を再び見やる。


  「……それにしても、こんな小さな集落なのに、やけに人が多くない?」


  カルの言葉につられて改めて目を向けると、確かに人の数が多い。


  「……確かに。ちょうど夕飯時だし、皆メシ食いに出歩いてるんだろ?」


  等と言いながらも、流石に俺も人の多さが妙にこの宿場の規模と不釣り合いな事に気付く。


  北側に面した宿場の門は俺達の後ろ二十メートル弱の距離にある。


  門を潜ってすぐ、左右には馬繋場(ばけいじょう)があり、今、まさに俺達が立っている真横から南へ向けて建物が並んでいた。


  そして、南側の宿場の外壁は家屋の明かりでうっすらと、三百メートルも無い距離に見えている。


  間に並ぶ家屋の数は、一本道を挟んで左右に向き合う形で二十数軒程度。


  「宿屋らしき建物は……あれと、あれと……それと……七軒くらいか?」


  「あ、七軒ありました?一年前に来たときには、五・六軒だったのですけど」


  俺が数えた数字にユリシアが弁解する。


  そう言えば湖の時にもユリシアは五・六軒と言っていた。


  「どうやら宿屋は三階建てみたいだから、間違いないと思う」


  看板を見ても分かるが、看板が小さくて見にくくても他の建屋は二階建ての為、看板と合わせて確認すれば一目瞭然だった。


  「……そうみたいですね。では、一店舗増えたのでしょう」


  そんな言い訳の様に締め括ったユリシアだったが、言った後、コホンと一つ咳払いをして、話を続けた。


  「……実は、ここの宿場にある宿屋は、地下に客室を作ってるんですよ」


  「え?地下?」


  ルーがユリシアの話に反応した。


  「ええ。概ねどの宿屋も建物の造りは似たようなもので、一階にはフロントと飲食店。二階三階は窓もあって外が眺められる良い客室。そして、大体の宿屋は地下一階にも安価で泊まれる客室を作り、地下二階に娯楽ルームや浴場などを備えていたりします」


  「はあー、なるほどね」


  ユリシアの説明に、俺はガモーネ邸の地下を思い出す。


  確か、ガモーネ邸の地下は街の外壁の外まで工場の空間を広げていた。


  大方、ここの宿屋も外壁の外にまで地下空間を広げ、地上三階建ての建物に収まらない客数を収容していると言う事だろう。


  「地下に客室って言っても、客室階が一フロア分増えただけでしょ?この宿場の規模じゃ、仮に地下階の無い同じ様な建物だった場合、あと三軒分位しか客室数は増えないんじゃない?」


  地上の客室階が一軒あたり二フロアだとすれば、地下一フロアの宿屋二軒分で、地上二フロアの宿屋一軒という事になる。


  カルが言ってることは普通に考えればその通りなのだが。


  カルがユリシアに問うが、答えを待たずに話を続けるカルに、ユリシアも言いかけてカルの続きを聞く。


「……でも、この人数は多いよ。全部の客室から人が一斉に外に出てるみたい。部屋に居る人も少しは居るはずだと思うんだけど……」


  「チッチッチッ、カルは頭が固いなあ」


  カルの疑問に、ユリシアの代わりに俺が得意気に応えた。


  カルはガモーネ邸の地下を見ていないから、知らないのも無理はない。


  「どーゆー事?」


  キョトンとするカルを見て、俺は説明を始めた。


  「地上に出てる部分は、色んなモンスターに荒らされない為に外壁に守られたこの塀の中にあるけど、地下は地中のモンスターさえ防げばいくらでも広げられるんだぜ?だから、地下は外壁の外まで広げられていて、地上の倍か、それ以上の客室数を外壁の外に伸ばしてるんじゃないかな?」


  「「……えっ?そうなの?」」


  カルとルーの声が重なる。


  「……たぶんな。地下のモンスターなんか、どうせ虫系か土竜みたいなヤツらばっかだろうから、壁をコンクリートか何かで厚目に囲ってやればぶち壊されたりもしないだろうしな」


  俺のどや顔をお見舞いしてやる。


  「ご名答です、セイル。中には地下の客室を二つの階に配置してる宿もありますから、地下ではこの地上に見える建物の二倍近い客室があると見て間違いありません。つまり、地上のも合わせて三階建ての宿屋二十軒分以上の客室があると思って良いと思います。部屋数で言うと、三百室位でしょうか」


  「「ええっ!?三百室!?」」


  ユリシアの説明に、再びカルとルーが驚いた。


  流石の俺も、ちょっと驚いたのだが、さっきは説明する側だっただけに、あまり表に出せなかった。


  どや顔で説明した手前、カッコ悪いだろ。


  しかし、三百室ともなると、俺が見てきた限り、栄えた街の宿屋でも一軒じゃあり得ない数だ。


  今のこの世界の文明では高層ビルなんか到底建てられないから、栄えた街でもやっぱり三階建て程度がやっとで、広い敷地に建てた六十から八十室位の宿屋が大規模な宿屋となっていた。


  つまり、客室数で言うと、栄えた街の大規模な宿屋が四・五軒分もこんな小さな宿場にある事になる。


  「まあ、それだけの客室数があるなら、今、この三百メタも満たない道を、百人を越える人が行き交う光景も納得がいくな」


  道幅は十数メートル。


  この道の端から端までを切り取ったら、この世界の栄えた街の道に勝るとも劣らない人混みだった。


  「さて、じゃあご飯を食べたい所だけど、これだけの人が居ると宿の部屋がとれるかどうかも心配だから、ユリシアは俺と一緒に宿を探すの手伝ってくれ」


  「え?……え、ええ、わかりました」


  「えー?ルー達も行く」


  ルーがちょっと駄々をこねる。


  女の子らしく可愛らしい仕草なのだが。


  「一軒目までな。そこでルー達は飯屋の席を取っておいてくれ。これだけの人が居るから、そっちも大事な任務だぞ?席が取れなかったら空くまで()()()()だからな」


  「それは大事だね!じゃあルー頑張って席取っとく!」


  ”ご飯おあずけ“が効いたのか、やる気を見せるルー。


  「よし、じゃあ行こうか」


  「「おーー!」」


  「ええ」


  ルーとカルが同時に、ユリシアは落ち着いて返事が返ってきた。


  そうして、俺達は宿探しを始める。


  一軒目でルー達と別れた後、俺とユリシアは四軒目でようやく宿を見つける事ができたのだった。


  そして。


  「―――ふう。これで一安心だな」


  ようやく取れた宿の部屋を訪れ、荷物を置いて部屋を出た。


  「ええ。でも、また皆一緒の部屋で間仕切り使って部屋を分ける方法ですね」


  俺の安堵の声に、ユリシアが一抹の不安を述べた。


  「ちょっと待て。この前も俺は大人しくちゃんと間仕切りして寝てただろ?なんでそんなに信用無いんだよ」


  俺は、信用されてない様でちょっと不服だった。


  「いえ、違うんです」


  ユリシアは顔を赤らめて手を振る。


  「何が?」


  俺はまた、出会った時の様に疑われているのかと思ったら、どうやら違ったらしいユリシアの反応に、キョトンとする。


  「いえ、……なにか、こう、……ちょっと恥ずかしい……と言いますか……その……」


  な、なに?この感じ。


  「……ちょっと、男の方と……その……一緒と言うのは……」


  あれ?これって……?


  「アゼルでも一緒だったじゃん?」


  「いえ、……その、……セイルと……同じ部屋だと……恥ずかしいと言いますか、その……」


  これは、もしかして……?


  「あの時は俺、ユリシアにスッゴい警戒されてたよな」


  「……えっ?いや、あれは……」


  冗談半分に言った言葉にもユリシアが緊張する様に返してきて。


  「ま、まあ、初対面だったし、しょうがないよな」


  俺まで緊張がうつって噛んだ。


  「……あの時はセイルの事をよく知らなかったから、人間だし……」


  アゼルの門兵を見ても解るように、そもそもエルフは他の種族を警戒している。


  「……それでも聖職者として、困ってる人を放っておけないから話しかけてくれたんだ」


  あの時のユリシアの対応が本当に有り難かった。


  「あまり困っている様にも見えませんでしたけどね」


  クスクスと微笑みながら、ユリシアが言う。


  「いや、あれでも結構困っていたんだ」


  「そうなんですか?」


  「ああ。話には聞いてたけど、門兵の態度を見て本当にエルフが他の種族を警戒しているのがわかったから、先の事を考えると思いやられる気がしてさ」


  微笑みと言うよりは、あの時の門兵を思い出して少し苦笑い気味になった。


  「そうだったんですね……」


  「ああ。だから、ユリシアには感謝だ。運命が引き寄せたと言うなら、こんな俺みたいなヤツが背負う運命もバカにはできないな」


  今度は素直に微笑む事ができただろうか。


  ユリシアも隣で笑みを浮かべて歩く。


  我ながら、ちょっと良い雰囲気なんじゃないの?


  そんな事を思っていると。


  「……さあ、着きましたよ。ルーさんがお腹をすかせて待ってるでしょうから、早く行きましょう?」


  一足先に入り口前の踏み石に飛び乗り、ユリシアが店の入り口を開け、俺をルー達の待つ店内へ誘う。


  こんな時、紳士なら先に扉を開けて、レディファーストとかいって先に女性を店の中に入れてあげるんだよな。


  俺って紳士失格か?


  「ホラ、早く入りましょ?」


  自分の至らない部分を反省して立ち止まっていると、ユリシアが明るく中へ促す。


  「……あ、ありがとう」


  今更、扉を押さえて”先にどうぞ“なんてやっても白々しい。


  ここは素直にユリシアの好意に甘えよう。


  そんな事を思いながら扉を潜る。


  すると。


  「お兄ちゃん!ここ!ここ!」


  酒の入った陽気な旅人達で賑わう店内で、周りの音声に負けじと声を張り上げるルーの声が届いた。


  「おお!待たせたな!」


  そう言って、今度は俺が店内から扉を押さえて、ユリシアを中へ促し、ルー達の座る席へ返した。


  「ルーさん、お待たせしました」


  ユリシアも少し声を張ってルーに返しながら歩み寄る。


  俺はその後ろをついていき、四人掛けのテーブルに辿り着く。


  ルーとカルは手あそびをしていたのか、隣り合って座っている。


  俺は必然的ににユリシアの隣に座る事になった。


  まさか、ルーが俺に気を回したのか?


  等と一瞬思いもしたが、当然そんなはずもない。


  ユリシアがテーブルの側に立って俺を先に奥へ勧める。


  俺は名誉挽回とばかりに奥へ先に入りながらユリシアの椅子を引いた。


  「ありがとう」


  「ああ」等と返しながら、ついでとばかりに自分の椅子もすぐに引いて、ユリシアが座るのと同時に座る。


  そして。


  ルー達を見て。


  「もう頼んだのか?」


  恥ずかしさを紛らす様に何事も無かったようにルー達に聞くのだった。


  わかるだろうか。


  この複雑な男心を。


  ”良いな“と思った女の子に、カッコいい所を見せたいのだが、いざやってしまうと恥ずかしくて何事も無かったように振る舞ってしまう。


  ヤバい。


  俺、ユリシアに惚れたか?


  いやいや。


  確かにユリシアは良い娘なのだが、俺は、自分で言うのもナンだが、ハッキリ言って女子免疫が無い。


  ちょっと良い雰囲気になったからって、惚れやすくなってるだけだ。


  そうに決まってる。


  決まってるだろ……。


  決まってるよな……?


  「まだ頼んでないよ。ちゃんとお兄ちゃん達を待ってたんだから」


  俺がバカな自問自答をしている間に、ルーの返事は返ってきていた。


  「そ、そうか。じゃあ、何にするかな……」


  ルーとカルが一緒にメニューを見ているので、必然的に俺はユリシアと一緒に残ったもう一つのメニューを見る事になった。


  ……ま、またか。


  なんか、変に意識しちゃうな。


  そんな事を思っていると。


  バンッ!と通路側のテーブルを何者かに叩かれ、俺達はその何者かの手に瞠目していた。

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