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(旧)もれなく天使がついてきます!  作者: 咲 潤
第二章 ~ 世界の謎 ~
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湖の祠☆

  「じゃあ、カルは飛んで島の方を探してきてくれないか?俺達は湖畔をグルッと回ってみるから、見つけたら報せてくれ」


  「おっけー!んじゃ、早速行ってくるよ」


  できるだけ早く見つけたいのだが、俺達は湖を移動する手段が無い為、島を探すのをカルに任せる。


  「カル、ちょっと待って。お兄ちゃん、島に祠があったらルー達はどうやって渡るの?」


  ルーの、当然の疑問である。


  「その時は、(いかだ)でも作って渡るしかないかな」


  「一人ずつで良ければボクが連れていくよ」


  俺の提案の後、カルがすぐに提案する。


  「……良いのか?カルも疲れるだろ?」


  カルの申し出に、俺はちょっと心配した。


  「まあ、その後はちょっと休みたいけどね。でも、ダイジョブでしょ」


  そんな軽い調子でカルが言う。


  「じゃあ、カルお願いね?」


  ルーが頼むと、カルは「任せて!」と言って、毛がワサッと靡く。


  毛で見えないが、ガッツポーズをしているのだろう。


  「……あ、そう言えば、祠ってボク見たこと無いから、どんなのか解らないんだった」


  カルがそんな事を言うと。


  「さっき探しに行こうとしてたよね?」


  カルにルーが返した。


  「フフフ。カルちゃんはそそっかしいのね」


  ユリシアも笑っていた。


  「祠って言うくらいだから、石か木で、小さい家みたいに建てられた物だと思う。もしかしたら、穴が開いただけかもしれないけど、要は神様とかを奉る為に用意した神様の仮のお家を意味した物だよ」


  「ふ~ん。じゃあ穴とか家っぽいのを見つければ良いんだね!よし、じゃあ行ってくるよ!」


  「ああ、頼むぞ」


  「了解!」


  俺とカルのやり取りを、ユリシアは微笑ましそうに見ていた。


  やり取りを終えたカルはすぐに飛び立ち、湖の上を縦断して飛んで行った。


  「行ったな……っ!?」


  俺は、カルを見送った直後に後ろに気配を感じた!


  「ルー!ユリシア!後だ!」


  俺の後ろにいた二人に声をかける!


  「えっ!?」「はっ!?」


  二人が声で反応した後、後ろを振り向いた直後だった!


  ガサッ!と草を掻き分けた音と共に、黒い影がユリシア目掛けて飛び出す!


  「くっ!!間に合わな……!?」


  俺が瞬時に駆け出すが、念力を使わない修行をしていた為に、僅かに緊急に対応するのが遅れた!


  ザシュッ!


  俺の目には、飛び出したスノーウルフの爪が、ユリシアを横に刻んだ様に見えた!


  「くそっ!!」


  コンマ一秒遅れで念力を込めた俺は、そのすぐ後に俺の剣の射程距離まで近付き、腕を振り切ったスノーウルフを袈裟に切りつけた!


  敵からしたら、攻撃直後のカウンターを受けるような状況で、かわすことはできなかった様だ!


  ドドサッ!と地に落ちたスノーウルフは、喉元から上の頭と、振り抜いていた右腕、三本の足が付いた胴体の、三つに別れて転がる!


  相変わらず首だけになっても歯を食い縛って威嚇するが、胴体と分断した以上、もう襲っては来ない。


  「ユリシア!大丈夫か!?」


  焦って振り向くと、後ろに倒れて尻餅を着いたユリシアが、そこに転がっていた。


  「……だ、大丈夫……です」


  驚いた様で、ワナワナと身体を起こす。


  「……はっ!?」


  上体をようやく起こした所で、ユリシアが声を上げた。


  ルーも駆け寄ってユリシアを起こそうとしていたが、ユリシアが動きを止めてルーも止まる。


  「なんだ!?どうした!?」


  俺がユリシアに問い質した。


  「ダイヤが!?」


  「えっ!?」


  「ダイヤが取れてしまって無いんです!」


  ユリシアはそう言うと、胸元でダイヤが無くなったネックレスを俺に見せる。


  「今ので、ヤツの爪がダイヤだけ引き千切ったのか!」


  「……多分……」


  俺の受け答えの間に、みるみる悲しみに落ちるユリシアが、力なく答えた。


  見れば、確かにユリシアには外傷は無さそうだ。


  それなら。


  「……ルー!探そう!あのダイヤは、ユリシアのお祖母さんの形見で、ユリシアにとって大事な物なんだ!」


  「うん!」


  俺とルーが、先程の状況を踏まえてダイヤが飛んでいきそうな所を探した。


  短い下草がビッシリ敷き詰められた湖畔は、一生懸命に探す俺達を、あざけ笑う様にダイヤを隠す。


  「あの向きだと、森に向かって左には飛ばないはずだから……」


  等と呟きながら、俺とルーは下草を掻き分けて目を凝らした。


  しばらくして。


  「……あ、ありました」


  それは、ユリシアが告げた。


  「あった!?」


  「良かった~!!」


  最初のユリシアの位置から十数メートル程離れた位置から、俺とルーが返した。


  「……は、はい、ここに……」


  そう言って、ユリシアが地面を指差す。


  「じゃあ拾って……え?」


  俺達はユリシアの元に戻りながら返そうとすると、ユリシアの指す指の先を見て止まる。


  「……ハ、ハハハ!そんな所にあったのか!」


  「アハハ!ルー達、早とちりしちゃったね!」


  俺とルーの笑い声があがる。


  しかし、ユリシアは表情が冴えない。


  「……と、取ってもらっても……い、良いですか?」


  ユリシアが俺にそんな事を頼む。


  「……あ、ああ、そうか。わかった……」


  ユリシアに応え。


  「しかし、『灯台もと暗し』とはこう言うことだな。」


  と、誰にともなく言いながら、ダイヤを拾う。


  拾う……と言うより、外すと言うのが正しいだろう。


  先程倒したスノーウルフの俺が切り離した右腕の爪に、ネックレスに通していたダイヤに着いた輪が引っ掛かっていたのだ。


  ユリシアはモンスターを倒す旅は慣れておらず、死骸に触れる事に慣れていない為、怖くて触れなかったらしい。


  「はい、これ」


  俺がスノーウルフの爪から外して渡すと、ユリシアは恐る恐る手を差し伸べた。


  「あ、ちょっと待って」


  俺は渡す前に、手の上に水を作り出し、ダイヤを洗ってやる。


  そして。


  「ホラ、これで綺麗になっただろ?」


  元々汚れてた訳ではないのだが、死骸が持っていた事に不快感があったなら、洗ってやるだけでも少しは気が休まる。


  「あ、ありがとう……ございます」


  ユリシアは今度はスッと手を出し、俺がその掌へダイヤを落とした。


  「でも、もうそのネックレスには付けられそうにないな。町で直さないと」


  ユリシアの首に残るネックレスには、ダイヤに着いた輪を繋ぐ金具が無くなっている様だった。


  記憶が確かなら、ネックレスとダイヤの間に玉鎖の様な三連の金具が付いていたのだ。


  「そうですね。次の町に行ったら、その時に直させてください」


  「ああ。じゃあそれまで、大事に持っててな」


  「はい。ありがとうございました」


  ユリシアは感謝して頭を下げる。


  しかし、こちらとしては感謝など見に余るものだ。


  「こっちこそ、危ない目に合わせてごめん」


  俺の不注意で危険な目に会わせてしまったのだ。


  感謝されるどころか、こちらが謝って然りだと思う。


  しかし。


  「いえ。戦いになった時に、私が何もしないで無傷で守ってもらえる程、戦いの場は甘くはない事くらい、覚悟してました。私は、守ってもらう為にも自分の身くらいは自分で守らないと」


  「そうか。そう思ってくれるならありがたい。でも、俺は護ると言った以上、例えユリシアが何もしないでも守れる様に頑張るよ」


  「……ありがとうございます……」


  俺達がそんな会話をしていると。


  「ぶー。お兄ちゃんルーを放って良い感じになってるし」


  ルーが話を折る。


  「い、いや、ルー、違うんだ!勘違いするな!」


  「……何が!?」


  「いや、だから……」


  「フフフ。ルーちゃんはお兄ちゃんが好きなのね」


  俺がルーに言い繕っていると、今度はユリシアがそんな事を言う。


  それは、ユリシアは俺達を本当の兄妹だと思ってるから、悪気は無いのだろうけど、本当は義理である俺達にとっては煽る言葉になる。


  「えっ!?いや!やだなぁユリシアさん!ルーはそんな……!?」


  「いや!そ、そーだよユリシア!俺達は兄妹なんだぜ!?」


  俺とルーは慌てて否定した。


  「えっ?なぜそんなに否定するのですか?兄妹ならお互いがお互いを好きなのも当たり前でしょう?」


  はっ!?


  ……確かにそうだ!


  どうやら固まってる様子から、ルーも同じ結論に至ったらしい。


  「「そ、そーですよねぇ!!あ、アハハ!アハハハハ!!」」


  ……見事に俺とルーの声が重なった。


  「ハ、ハハハ、ハ……」「ハハ、ハ…」


  から笑いも長くは続かず、訝しい顔をするユリシアから目をそらした。


  そんなやり取りをしていた所へ。


  「お~い!……てか、みんな全然探してないじゃんかぁ」


  遠くからカルの声が聞こえたと思ったら。


  「……ふう。ボク見つけたよ?たぶん、あれがそうだと思う」


  すぐに目の前まで来て、そう付け足した。


  「おお、カル!早かったな!?」


  俺が誤魔化すように話を逸らし、カルの受け答えに切り替えた。


  「……」


  ユリシアは何か呟いた様だが、俺の耳には届かない。


  「うん!それより何かあったの?」


  カルがそう聞いてきたので、今の一連の話をざっくりと説明した。


  「……ま、そんな事で、俺達は探せなかった。ゴメンな、一人で探させて」


  「そーゆー事なら仕方ないっしょ。それより、怪我が無くて良かったね!」


  「ああ、まあ、何とかね」


  「じゃ、早速、誰から行く?」


  「そうだな。ちなみに島にはモンスターとか居ないか?」


  俺は、一応さっきの事もあるから、より安全な方へユリシアとルーを居させた方が良いと思い、カルに確認する。


  「一応、島は小さくてモンスターとかが居られる程じゃないよ。でも、水の中は水生系は居るかもね」


  「じゃあ、水に近寄らない様にして、ルー、ユリシア、俺の順で頼むよ」


  カルの答えに俺が順番を示す。


  「わかった!じゃあお嬢、行くよ?」


  「うん、わかった」


  カルの呼び掛けにルーが応えて、右手を上へ挙げると、カルがその手をとり、フワッとルーごと浮き上がる。


  「おお~」


  本当に浮いたルーを見て、思わず感嘆の声が漏れた。


  「……じゃあ、俺達は少しでも近い所から運んでもらう為にも、東の方へ歩いてるよ」


  俺は気を取り直してカルに伝える。


  先程カルが東方から飛んできた事から、祠は湖の東側にあったと踏んだからだ。


  「うん、じゃあまたね!」


  「おう、頼むな」


  どうやら東側にあるのは当たったらしく、カルが元気に一時的な別れを告げ、俺が応える。


  そうして俺とユリシアは東に歩を進め、ユリシアが「それにしても本当に綺麗な湖……」などと他愛もない会話をしながら、カルが運んでくれるのを待った。


  そして。


  「……ふう~、疲れたぁ~」


  カルが俺を下ろすなり地面にへたり込む。


  「……ここが、ユリア湖の祠か……」


  最後に俺が島に到着すると、目の前には石造りの小さな祠が建っていた。


  と言っても、ちゃんとした家とは呼べない様な簡素な造りで、ただ平たい石を左右と奥に立て掛け、屋根も平たい石を乗せただけといった様相だった。


  その中には台座の様な石が敷かれている。


  空間の幅は約一メートル、奥行きも同じくらいの四角柱の様な形だった。


  台座の大きさは、厚さ約三十センチ、縦横約九十センチと言った所か。


  しかし。


  「……特に何か発見する様な物は無いな……」


  俺が呟く。


  「……そうみたいだね」


  ルーが続き。


  「本当にこれが目的の祠なのかな?」


  「もしかしたら、他にちゃんとした祠があるのでしょうか」


  カルとユリシアがそんな事を言った。


  「……うーん、もう少し調べてみよう」


  俺はそう言って祠の前へ膝をつき、まず台座らしき石を触る。


  ……特に変わった所は無さそうだ。


  次に、一礼してから台座へ足を乗せ、祠の中へ身体を入れて奥の壁にあたる石に触れてみる。


  ……上から下まで撫でてみるが、やはり特に変わった所は無さそうだった。


  とりあえず祠から出るべく、台座に乗せた足を蹴る様にして身体を後ろへ戻そうとした時。


  ガタッと台座がグラついた。


  「「「!?」」」


  「……今、ガタッてなった?」


  皆が息を詰める中、カルが確かめるような口調で聞く。


  「……ああ」


  俺はそう応えて、もう一度右足に体重を乗せた。


  ガタッ。


  再び身体を後ろへ戻す。


  ガタッ。


  「間違いないな。この石を持ち上げよう」


  「うん」「わかりました」


  俺の言葉にルーとユリシアが応えて、台座の手前側に三人で手を添えて持ち上げる。


  カルは羽を広げられるスペースが無いと持ち上げられないから、俺達の後で見守っていた。


  「……いくぞ?……せーの!」


  俺の掛け声に、三人が同時に念力を込めて石を持ち上げた。


  ガガガゴン!


  石が擦れる音が盛大に湖に響き渡る。


  ある程度持ち上げた所で、そのまま持ち手を返して押し上げた。


  そしてその勢いで突き出す様に祠の奥の方へ台座を起こして立て掛ける。


  軽く両手の砂を祓いながら、一歩後ろへ下がって台座のあった場所を見やった。


  ……すると、そこには。


  周りを石に縁取られた、凡そ六十センチ角程度の縦穴が、その口を黒々とさせながら、闇に引き込まんとするかのように開いていた!


  俺達は、縦穴の出現に固唾を飲んで沈黙するのだった。

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