運命の繋ぐ先☆
この第40話で、第一章~運命の輪~が終わります!
最後まで、楽しんでいただけたら幸いです!
「……なんでそーなるんだよ!俺にもなんか、大変な役割は!?」
俺は、俺だけただ”自分探しの旅“に出ろと言われたのが、少し腑に落ちない。
それと共に、言い知れぬ不安もあって、少し語気を荒げていた。
『いいえ、貴方にはこの中で一番重要な役割を与えました』
「……は?なんでそんなのが……」
口を挟む俺の言葉を遮り、ミカは話を続ける。
『貴方には、あなた自身の自分探し、つまり、この世界における貴方自身の存在意義を知って貰いたいのです。その途中で、まだ他にも運命に導かれて仲間になってくれる人達とも出会うでしょう。そして、来るときに備えて、自分の戦闘能力にも磨きをかけてほしい』
「……はあ……」
イマイチよくわからない話に、一気に気が抜けた様な返事になる。
『まずは、ここから北東のエルフの国、フォース・フォレリーを目指してください。そして、ユリア湖の祠にある洞窟に入るのです。そこで、ある発見が貴方の道標となるでしょう。私の兄なのですから、今よりもっと強く、逞しく生きてください。そして、この世界における本当の貴方を知ってください』
「でも、ルーのお母さんが……」
俺は、それが一番心配だった。
本当は、一刻も早く助け出さなければならないのだ。
つい二日前、夜の月明かりの下で、ルーに改めて心の中で誓った大事なことだった。
しかし、ミカは心配する俺の顔に、落ち着くように優しい表情で語る。
『ルーちゃんのお母さんは、兵器が完成していない今、特に酷いこともされず、ただあらゆる力を無効化させる外壁に囲まれた街で、術の類いが使えない以外は、なに不自由なく暮らしています。ですから心配は無用です』
「そうなのか……」
俺は、ミカの言葉を聞いて少し安心した。
ふと見ればルーも、少しホッとした表情を浮かべていた。
『……では、そろそろ時間となりました』
「いや、ちょっと待っ……!」
俺は、まだまだ聞きたいことがあると、話を終わらせようとするミカに食らいつく。
しかし、ミカはそんな俺の言葉を遮って。
『この、神の眷属の力は、自らの生命を燃やして発揮するので、一度にあまり長時間行使することはできないのです。もう既に時間が残されておりません。……数年後。……ここに居る皆さんが、生きて聖皇国に集う事を、心から祈っております……』
そこまで話をすると、ミカの体から放たれる光が徐々に失われていった。
どうやら”天使の預言“と言うものが終わったらしい。
以前、アイシスから受けた神託の様に、ある意味曖昧で、それでいてこちらの行動を示唆する辺りは、運命というものがそれだけ正確に定められている事の証明でもあった。
そして、宙に浮いていたミカの体も、ゆっくりと床へ降りていき、やがて大きな魔方陣の上でそのまま倒れ込む。
「……お、おい、ミカ!」
俺は『生命を燃やして』と言ったミカの言葉が気になり、焦ってミカの元に駆け寄る。
すると、皆もハッとなって我に反った。
天使は、その眷属として仕える神の教えに添う話をすると、何故だか話にのめり込み、聞き入らせる。
一種の催眠状態に陥るかのように。
何か、外的な刺激によって我に返るのだが、この時は、俺のミカを呼ぶ声だったのだろう。
何故か、俺はその催眠状態には陥らない。
単純に話の内容に興味を持って聞き入る事はあるが。
俺の声に、ルーやラムに続いて皆も駆け寄った。
「……大丈夫。眠っているだけみたい」
ルーがミカの様子を見てそう言った。
俺は、ルーに頷いてからゆっくりとミカの体を抱き起こす。
そして、そのままミカを背負い、皆も無言のまま、不思議な体験をした地下の部屋を出たのだった。
―――――数分後。
ミカはラムに借りた寝室のベットで寝させている。
俺達はミカの目覚めを待って、リビングで紅茶を頂いていた。
「先程の……あれは、あのミカ殿から発せられた言葉なんだな……」
何となく沈黙を余儀なくされていた俺達だったが、最初にその沈黙を破ったのはエメリアだった。
「ああ、間違いない。俺達はディロイと言う街でミカに出会ったんだが、喜んだ時に、たまに聞かせる声があんな声だった」
「ルーはよく聞いてた声だよ?」
俺がエメリアに答えると、ルーが補足する。
「よく、ボクとお嬢とミカ嬢で話してる事が多かったからね。ボクもよく聞いた声だったよ」
ルーの補足にカルが信憑性を足した。
「そうか。では、天使の預言である事には間違いないのだな」
今度はキシが念を押すように言った。
「ああ。……みたいだ」
それにも俺が答えた。
「……そう言えば、皆さんはもうお昼は済ませたんですか?」
深刻な顔をしていた俺達に、場違いな程にあっけらかんとしたラムの声。
何となくだが、出会った当初から、俺にはアイシスに似た匂いを感じざるを得なかった。
つまり、マイペースなのだ。
「……え?……いや、まだっすけど……」
エメリアやキシが言葉に詰まっている所、こう言ったマイペースな会話に免疫のあった俺が何とか答える。
「でしたら、ポトフでも如何かしら?今朝、私、作りすぎちゃって、お隣さん達にお配りしようか悩んでいた所だったんです。ちょうど良かった!」
ニコニコと笑顔で返され、何となく断れない気がした。
皆も、戸惑いながらも揃って小さく頭を縦に振る。
「決定ね!じゃあ、暖めてくるわね!」
パタパタとキッチンへ消えていくラム。
とはいえ、オープンキッチンなのでカウンターの向こうにはラムの姿は見えていた。
すごく家庭的で、人間らしさを感じさせる天使は、その愛嬌も含め、確かに村人達に好かれるのも納得できる。
若くて美しく、家庭的で穏和な女性。
村の人達からすれば、もうアイドル並みの人気だろう。
そんな人を、いや天使を俺達が連れていくのも、何だか悪い気がする。
「しかし、天使の預言だから、従うべきなんだろうな……」
「しかも、希望の天使の預言だからな。守らないと言うことは、裏を返せば希望の反対の絶望を招きかねないだろう」
俺の呟きを聞き逃さなかったエメリアがそんな事を言った。
「そうなのか?」
俺が問い質すと、エメリアの代わりにキッチンから話を聞いていたらしいラムが答える。
「……それは、天使である私から話すのが良さそうですね」
そう前置きして話を続けた。
「そうです。基本的には、神は神託と言うもので幾つかある運命の中から最善な運命を選択し、人類を導くものなのですが、天使は眷属として自ら崇め奉る神の力を借りて、神の力に似た力を行使し、神託の代わりに預言や助言を行います」
軽く何か手作業をしながら、ラムは説明を続ける。
「それが希望や可能性の天使なら、主に未来を預言するのですが、それらの天使の未来を予見する力は、未来の運命を全て見れている訳ではなく、一部の重要な分岐のみを見て預言を人類にもたらします。その分岐が重要であるがゆえに、預言に従わないとしたら、結果は反対の現象が待っているでしょう……」
ラムは丁寧に説明してくれた。
エメリアも、まさか自分が想像して言った事がラムによって事実として語られると、少し恐ろしくもなる。
少しだけ目を見開いたままラムを見つめたエメリアは、そのまま口を閉ざした。
「……最初に、運命に導かれた者達と言っていた。……つまりは、ここに居る皆が、一同に会し、互いにこの時、この場で交差する運命があったのだな」
それを聞いたキシが口を開き、尚も続ける。
「そして、我らは互いの絆を元にこれから別れ、各々で成すべきを成し、再び会う時が決戦の時……という事だ。我らの肩に世界の命運は預けられた。これは、北の東西大陸と南大陸の世界大戦の背景に、世界統一和平の第一歩ともなる戦いである。皆、自分の力になる者は全て動員し、全ての物、力を駆使するくらいのつもりでこれに当たられよ。それが、我らの生きる道である」
キシが、国で語る高説の如く言い纏める。
さすが、一国の軍師だ。
そのリーダーシップの様な、人をまとめあげる話術もさることながら、舌戦では手玉にとられるくらい頭が働く。
その言葉に、俺もエメリアも、キッチンの向こうのラムも、ルーやカルまでもが決意を固めた表情で皆と視線を交わした。
昼食を頂きながら、俺はつくづくキシと言う男を凄いと思った。
そして、頼もしくも思えるのだ。
この中ではラムの次に付き合いが短く関係も浅いキシだが、彼にできない事は俺にもできないと心底思える、大きな信頼に足る賭けがえの無い仲間であると思えたのだった。
エメリアにはもう充分過ぎるほどの信頼がある。
なんと言っても、互いに背中を預けて、共に一騎当千を果たしあった仲だ。
俺は、エメリアに続いてキシという絶大なる仲間を手に入れ、国家単位の問題を預けて自分探しの旅に出る。
それが、俺に課せられたこれからの運命だった。
そうして間もなく、鍋を暖め終えたラムが皆の分を皿に盛り付けて持ってきた。
「さあ、できましたよ!朝のうちに買い貯めておいたパンもありますから、そちらも召し上がって下さいね!」
それから、皆で楽しく他愛もない話に盛り上がりながら、ラムの作ったポトフとパン、漬け込んであったピクルスや野菜スティックなどをご馳走になり、このメンバーでのしばらくの別れを前に食事と食後のティータイムまでを堪能した。
出発まで、あまり時間がないかもしれないが、このメンツには隠し事はやめよう。
そして、俺が異世界人であることを打ち明けた今、さっきは詳しく話す間もなかったが、聞かれた事には全て答える。
そんな事を思いながら、意を決して口を開いた。
「そういえば……さぁ……」
「……何だ?」
エメリアが一番に反応してくれる。
「俺、異世界から来たってさっき言ったんだけど、皆に隠しててごめん」
俺は、隠してきた事への罪悪感から、皆に詫びる。
「……あ?何を言うかと思えば……」
「……は?」
打ち明け話に、キシの「やれやれ……」といった反応が意外過ぎて、思わず目を丸くする。
「……本当に覚えていないのだな」
「……えっ!?な、何を……!?」
今度はエメリアだ。
「セイルは、我の戦に加勢した後の追悼と勝利の宴の時、酔っ払って自分のことを全て話していたぞ」
「……え?」
キシの答えを聞いて、思わず皆を見渡す。
ラム以外、他の皆は苦笑混じりに頷いていた。
「……うそだろ!?」
「……本当だ」
「……えっ?だって……」
「いや、我らもよもやあの時の話が本当だとは思っていなかったがな」
キシがそう言って、何でもない様にカップを口に運ぶ。
「ひどく酔っ払って、『俺、元の世界で死ぬところだったんだ……』とか言って大泣きしだしたのには、さすがの私もビックリした」
と、エメリア。
「そーそー、若様、自分で『この事は誰にも言うなよ』とか言ってたくせに、あの時自分でみんなの前で言いふらしてたからなぁ」
「……マジで?」
「マジで」
「………」
「「「「「…………」」」」」
んなアホなあああぁぁぁぁーーーーッッ!!!?
……なんか、明かす時の決意とか、隠してた事への罪悪感とか、いろいろ返してほしい!
皆にとっくにバレてんのに、一生懸命隠そうとしてきた俺が、滑稽過ぎて涙が出てくる!
「なんだ?」「何か怒ってる」「いや、泣いてないか?」「……放っておけ」
皆の気遣いが痛い。
俺はそのまま、話を流すきっかけが掴めず、ただ無作為な時間が過ぎていった。
―――――数時間後。
あの後、エメリア曰く俺がこの世の終わりの様な顔をしていたそうだが、しばらくの間、俺の記憶が定かではない。
とりあえずエメリアが場を取り次ぎ、俺を放って皆で楽しく昼食をとり、何事も無かったような時間を過ごしたらしい。
「……じゃあ、俺達は先に出るよ」
俺は、未だに気恥ずかしい気持ちを抱えたまま、皆に出発を告げる。
ミカが起きたタイミングで、義妹であるミカに長い別れを告げ、俺とルーとカルは、ラムの家の玄関前に居た。
ミカは、自分で告げた預言の事はうっすらと覚えていたらしく、寝ている間に俺との別れの夢を見たと言う。
そんな、別れを惜しんでくれる可愛い義妹に、俺とルーとカルはしっかりとハグして互いの絆を確かめ合った。
そして、皆に心からの感謝と、旅の安全を互いに祈り合い、出発を告げたのだった。
「ああ!セイルも、ルーやカル達も、無事で」
別れる前、ルーやミカのたっての願いで、天使だからと特別扱いせずに、今まで通りに接してくれとの申し出があり、エメリアもそれを受け入れた形で別れの言葉を返す。
「皆さんも、体には気を付けて、また、元気に顔を会わせましょう」
ルーが少し大人びたような言葉をかける。
「セイル、聖皇国で待っておるぞ。ルーシュ殿、カル殿、セイルを頼む」
キシは俺の保護者のように律儀に言った。
「おいおいキシさん、俺がルーの兄で、カルも家族だから、俺がルー達を守るの!そこんとこ、勘違いしないでくれる?」
俺がキシの言葉に突っ掛かると、皆から笑いがあがった。
「……フフフ。でも、本当に気を付けて下さいね。そして、またお会いしましょう」
ラムも送り出してくれる。
俺もそれに答え、ルーやカルも思い思いに「またね。今度はゆっくり話しましょ」や「ラム姫も元気で」等と返す。
各々に別れを惜しみ、声を掛け合って、笑いあって、俺達は一歩を踏み出した。
この世界にまつわる情報と自分探しの答えを求め。
まだ見ぬ新たな仲間を求めて。
そして、この世界の未来を切り開くために。
――――― 第一章 ~運命の輪~ 完 ―――――
次話から新章がスタート!
セイルたちの新たな旅立ちを、今後も見守って頂けますよう、よろしくお願いします!




