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(旧)もれなく天使がついてきます!  作者: 咲 潤
第一章 ~ 運命の輪 ~
52/83

サイカ皇帝☆

  あれから、なぜかキシとキビがガフスのドリュー車に同乗し続け、二日をかけて帝国首都カンテイに着いた。


  キシ達は、本来自分達の馬車があったはずだが、移動中は俺達と互いに本音を明し合い、過去の話等に盛り上がっていた。


  ただ、俺だけはあの夢の事もあり、あれから妙にエメリアやキビを意識してしまう所があった。


  キビとエメリアは、そんな俺の様子を見て具合が悪いのかと勘違いしたらしい。


  特にエメリアは俺を気を使ってくれるのだが、夢で見た事など話せるはずもなく、あたふたと誤魔化すしかなかった。


  俺は何とか誤魔化し切り、夢の事など頭から振り払って、平常心で話ができるまでには半日近くかかった。


  再び舌戦の時の打ち明け話が始まったおかげで、いつも通りに話が出来るようになったのだった。


  エメリアとの出会いの話で真実を語ってエメリアをからかい、エメリアが盛りに盛ったガモーネ邸での話も、今となっては過去の事として笑い話に変わり、俺が横でヒヤヒヤしていた事なども合わせてキシとキビにはウケていた。


  そんなやりとりから、カンテイに着いた頃には互いに慣れて、エメリアとキシの間の敬称等も取れ、キビも何だかんだで普通に馴染んでいた。


  キビは思った以上に普通で、まだ十九歳と言う若さに驚かされる。


  いや、フケているとかではなくて、その歳での大将職という立場に驚かされた。


  カンテイに着くと、街の南門から中央通りを真っ直ぐに北へ向かう。


  「さあ、着いたぞ。ここが、(われ)らカ帝国首都、カンテイだ」


  キシが皆に振り返ってそう言うが、こちらを向いたキシは笑み一つ見せない。


  その理由が、間もなく街の人たちを見て知ることになる。


  キシやキビが乗っている事もあって、ガフスのドリュー車が先頭を進み、軍の凱旋行進が物々しい雰囲気を町中に振り撒いていた。


  通りに居た町人達は、道の真ん中を空けて左右に並び、左手を胸にあてる仕草で敬礼の様に迎える。


  この国では、平民の敬礼はこれが正しい様で、俺が子供の頃に祖父母の家で見た、時代劇の様な『頭が高い!控え寄ろ~!』みたいな平伏は必要無いらしい。


  しかし、凱旋と言ってもパレードの様には行かず、街の人たちの表情は、皆一様に浮かばれない顔をしていた。


  それもそのはずだった。


  内戦で国にすら何の利益もなく散っていった兵達の事を思えば、遺族が混じっているであろう街の人たちの表情が暗いのは、言わずとも知れていた。


  街の人たちが日頃、亜人達による賊行為に悩まされている事も事実であり、その芽を少しでも多く軍が潰した事は街の人たちも認めざるを得ない。


  そんな、勝利の歓喜と家族を無益に亡くした悲しみの狭間で、街の人たちは軍を毛嫌いするでもなく、歓迎もしない姿勢をとっていた。


  そんなしんみりした空気の中、俺達はそのままの足でキシ達に招かれ、ティン城に赴く。


  「良いな、セイル。()が皇帝は歳は若いが礼を欠くなよ?」


  何やら心配そうなキシが、城の廊下を歩きながら俺を掴まえて念を押した。


  「何言ってんですか。俺がそんな礼儀知らずな事するわけないでしょ?」


  俺が心外だとばかりに言い返す。


  「セイルのそう言うところが心配なのだ。(われ)はもう構わんが、皇帝に非礼があると、セイルの望みは一切叶わんからな」


  「え?そんなに……」


  「いや、本気だ。だから念を押しているのだ」


  何やら、子供の気分を損ねるなと言う事らしい。


  昨日もそんな事を言われ、宴に出席しない事が難しいのではないかと思われたので、キシに予め神託についての事情を話して見たのだが。


  「只でさえ(われ)らは宴に出席しないのだからな。皇帝は宴などの催しに水を注す輩をあまり好まんのだ。我らが出席しない事を知るとそれだけで不快感を与え、賊の事や仲間の入国が困難になるかも知れぬのだぞ?」


  キシも、道中では何とかなりそうな事を言っていたものの、結局は決定権を持つのは皇帝だから、皇帝の機嫌を損ねるのはマズイという事だった。


  「わかった。気を付けるよ」


  俺が短く答えると。


  「そこでだ。皇帝との謁見では(われ)が話を進めるから、セイル達は()が合図で簡単な自己紹介だけするのだ」


  キシはそう言って、謁見の間に着くまでに、歩きながら簡単な打ち合わせを済ませる。


  そうこうしながら、俺達は謁見の間にやって来た。


  大きな扉を潜るとお決まりの赤い絨毯がまっすぐ延びていて、その上を歩いて玉座に近付く。


  左右には槍兵が等間隔に並び、さらに壁際には数人の侍女が。


  物々しく荘厳な雰囲気は、正しく謁見の間という印象を受ける。


  その奥には、一段上がった台の上の、大きな玉座にちょこんと座る皇帝らしき子供の姿。


  その左、俺達から見て右側に参謀と見られる家臣が立って俺達を見ていた。


  玉座の後ろには二人の傍付きが。


  玉座台の脇には文官が五人ずつ並ぶ。


  「戦に出ていなければ、(われ)が皇帝の右側に立っておった所よ」


  等と小声でキシが言う。


  そんな、正面を向いたままなるべく口を動かさずに話す会話も、玉座の手前十メートル程の位置に着くまでだった。


  「南方亜人連合討伐軍第二陣大将、軍師キシ。只今戻りました」


  「同じく、第一陣第三部隊大将、四天大将キビ。只今戻りました」


  キシとキビは、片ひざを突く姿勢で玉座に向かって最敬礼をする。


  俺達も、それに習って最敬礼の姿勢をとった。


  キシとキビの後で、俺、エメリア、ガフス、ルー、ミカ、カルの六人は、俺とエメリアを中心に横一列に並んでいた。


  「軍師キシ、並びに大将キビ。此度の反乱鎮圧、ご苦労であった」


  十歳……いや、九歳くらいの、まだまだ子供と言うに相応しい姿で、しかも少年とも少女ともとれる、中性的な幼い声音で、キシ達を労う皇帝。


  黒の地に金をあしらった服で上下を包み、頭にはベールを開けた独特な形の帽子を被っている。


  横から見たら、リーゼントの様に前に折れた烏帽子の様な形だが、正面は厚さ一センチくらいに潰されてスッパリと先を切り落とされた様な形だ。


  俺からすると、カッコいいかと言えばそうではない。


  あの帽子はいただけない。


  本来なら、その先の切口からカーテンの様なベールが眼前に垂れる様だが、今はベールは上へ払って顔が露にされていた。


  見るからに幼い顔立ち。


  俺が言うのもなんだが、美形と言うには少し何かが足りない平凡な顔だった。


  そして、玉座が余計に大きく見える体躯。


  しかし、そんな姿にも目線だけは鋭いものを感じる。


  「此度の反乱、()が軍の情報の不一致により、兵に大きな損害をもたらした事、深くお詫び申し上げます」


  キシは最敬礼の姿勢から更に頭を下げ、謝罪を述べた。


  「……ふむ。報告は受けておる。それは我が帝国の情報網の不備である。国として、遺族達にも相応の対応を指示した所ゆえ、十上位事務官達の対応案の確認は頼むぞ」


  まだガキだと思っていたが、采配は信に足る……か。


  十上位と言うのは、物語としては今後関与しないので聞き流して頂いて構わないが、一応説明すると、玉座台の両脇に控えている文官達の事だ。


  何気にすごい地位の者達で、この国における行政機関の各部署に配属された、色々な事案を取り決める重要な管理職である。


  「はっ!(かしこ)まりました」


  キシもそう答えて、ゆっくりと頭だけあげて、最敬礼のまま皇帝を見上げた。


  「……して、後ろの者達が?」


  皇帝が俺達を端から順に見て、キシに聞いた。


  「はっ!この者達が、我が鎮圧に加勢した旅人の一行であります」


  キシがそこまで答えると、俺達の方へ向いて小さく頷く。


  俺達の自己紹介の合図だ。


  キシとの打ち合わせでは、名前と現在の職業くらいで良いと言うことだった。


  それ以上に余計な事は話さない様に口止めされ、エメリアについては聖騎士である旨まで話す様に言われている。


  「あ、お、わた…し…は、ナナミ・セイルと申します。旅人をしております」


  緊張と馴れない第一人称に、若干かみながら答えた。


  「私は、エストール法国聖騎士団の近衛をしております、エメリア・メル・ラースファルトと申します。サイカ皇帝におかれましては、お目通り頂き、ありがたく存じます」


  「ほう。エストールの近衛か。何用でこんな大陸の端まで来られたのだ?」


  やはり、エストールの近衛を出すと、そこに引っ掛かるのだろう。


  出会ったばかりのキシも驚いていたもんなぁ。


  「それは……」


  エメリアが言いかけた所で、キシが割ってはいる。


  「皇帝陛下。それについては、別件も絡み色々と申し上げたい事がございますゆえ、後程。どうか、まずは皆の挨拶と(われ)からの状況報告を」


  「ふむ。わかった。では次の者……」


  キシの言葉に、皇帝はすぐに理解を示す。


  「はっ!私はガフスと申します。シンの貿易商をしております」


  「……ふっ。今度はシンの貿易商か。キシよ。これについても説明はあるのだな?」


  今度は皇帝も鼻で笑い、キシに問い質す。


  「はっ!」


  「……わかった。続けよ」


  キシの短い返答に、皇帝は落ち着いた態度で次を促す。


  ルーとミカは俺の妹である事と、一緒に旅をしている事として納め、天使であることはこの時は明かさなかった。


  カルは俺達の家族と称し、共に旅をしていることを伝える。


  ところが、皇帝が食いついたのは。


  「ほう。精霊が流暢(りゅうちょう)に言葉を話しておる。我が帝国の火の精霊はかなりの歳だと聞くが、未だに単語を並べただけの片言しか喋れんのに」


  という自己紹介等に関係の無い所だった。


  「その通りです。しかし、その説明の前に戦場でのこの者達の働きを報告させていただきます」


  またも皇帝の興味をお預けにするキシだが、皇帝も「よい。申せ」と言って大人しく聞く辺りは、皇帝とキシとの信頼関係が深いことを明らかにしていた。


  「()が軍は、敵亜人軍が二手に別れる事を事前に察知し、当初予定していた交戦地と、もう一方は、それより南の小高い山を一つ越えた平原に敵軍の(から)め手が現れるとの情報を得て、第二陣兵五千を(われ)が率いてこれに当たりました。しかし、情報の不一致により、一万と見ていた敵亜人軍の搦め手が五万にも上り、尚且つ増え続けるという状況に、()が軍は苦戦を強いられ、劣勢に陥っていた折りにセイル達の加勢がありました」


  キシの説明に、皇帝も「……ふむ。難儀な……」等と相槌を打ちながら聞いている。


  「セイルとエメリアにおいてはそれぞれが一騎当千の働きを見せ、カルと申す風の精霊に至っては、敵亜人軍の涌いて出る洞穴を塞ぎ、五万もの敵兵を術にて封じました。我が軍が覚束(おぼつか)ぬ成果の中、恥ずかしながらセイル達の功績は大きく……」


  「……よい。我が軍が頼り無い訳ではあるまい」


  キシの説明に、ここまで聞いていた皇帝は途中で割って入り、キシの言葉を封じて続けた。


  「朕は兵達の鍛練を時おり”渡り“から眺めておるゆえ、その努力を知っておる。ただ、キビの様に若くして闘いの実力を開花させ、戦いの神に見いられた者がこの世にはおるのだ。セイルとやらも、その様な恵まれた者達であろう。朕はセイル達の功績を称え、これを歓迎する。また、二陣に配属された兵達には特に、惜しみ無き努力に勲功を与えん」


  聞いていたよりも、皇帝はよっぽど人間が出来ている様な気がするが。


  むしろ、年齢には不釣り合いすぎるだろ、あれじゃあ。


  兵達への配慮も忘れずに、俺達を受け入れ、評価をするのには恐れ入る。


  「ありがたきお言葉。兵達もこれまでの努力が報われましょう」


  キシも、皇帝の言葉に平伏した。


  「しかし、此度のセイル達の功績に対し、何か報償を与えねばな。望みはあるか?」


  皇帝がそう言った時、キシが割って話を始める。


  「それについてですが、皇帝陛下。実は(われ)の方で帰還する道中にこの者達と話をしておりました」


  「ほう。そうだったか。キシが判断したのならば話が早い。報償はその方に任せよう」


  皇帝もお墨付きでキシに話をしてきた報償が叶う様で、俺達も(わず)かに肩の荷が降りた。


  ガフス等は、これからとてつもなく忙しい事になるのだろうけど、人間味のあるガフスの事だ、うまくやり遂げられると思う。


  ……できるだろ。


  ……できるよな。


  ……。


  ……。


  ……祈っておこう。


  しかし、これからが本番だ。


  「では、皇帝陛下。先程のエメリアの件、ガフスの件など、諸々についてですが、このカ帝国へ来た目的について、これからお話することは耳にする者を限らせていただきたく」


  キシが人払いを申し出る。


  「それほどの事なのか?」


  「はい……」


  短い確認と答えに、皇帝は頷くと謁見の間に並ぶ兵達を払う。


  だだっ広い謁見の間に、やがて皇帝の横にいた参謀を含めた十人を残して、文官、槍兵、侍女、傍付きの全ての人が出ていった。


  それを見計らって、口火を切ったのはキシだった。


  「実は、この者達の目的は、あの黒の軍勢らしいのです……」


  のっけから結論的な話の持っていき方だが、インパクトはあるだろう。


  「なにっ!?黒の軍勢だと!?」


  皇帝の左に居た参謀が、これまで見せなかった明らかな動揺を見せ、驚きを口にした。


  「シシンよ。狼狽(うろた)えるな」


  皇帝がそれを言葉で押さえる。


  「し、しかし……!」


  シシンと呼ばれた参謀が尚も驚いた顔を皇帝に向けると。


  「………」


  皇帝の黙す姿勢に、シシンも少しずつ冷静を取り戻していった。


  「それでは、先ほどからの説明と、並びにセイル達の目的を申し上げる……」


  一度荒れた空気を整える様に、キシはこれまでの経緯(いきさつ)と、俺が受けた神託について、皇帝とシシンに話し始めたのだった。

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