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(旧)もれなく天使がついてきます!  作者: 咲 潤
第一章 ~ 運命の輪 ~
38/83

金髪女子とお付き合い!?☆

  昼食を終え、名残惜しいセグとの別れに、俺達はハグをしてドリュー車に乗り込む。


  セグの方も寂しさが顔に出ていて、別れ際に思わず旅に誘い出したくなるが、何とか堪えながら遠ざかる姿を見守っていた。


  セグには何かやらなければならない事があると、以前セグ自身が言っていた。


  たぶん、それが無ければセグ自身が、俺達を心配してついて行くと申し出てくれるに違いない。


  ルーは、俺やカルと同じくセグとの付き合いが長い分、涙も溢れてしまう。


  だがそれは、別れ際では流すまいと堪え、ドリュー車が走り出して、セグの姿が遠のき、小さい体がより小さくなってから流れたのだった。


  「ルーちゃん。……はい」


  「……グスッ……ありがと……」


  ミカがルーにハンカチを渡し、その後無言で頭を抱き抱えていた。


  俺も、ミカの肩の前辺りに抱えられたルーの頭を撫でてやる。


  そんなしんみりとした雰囲気を少し和らげたのは、雰囲気をぶち壊すでもなく、当たり障りの無い所から話始めたエメリアだった。


  「まさか、これほど離れた国の未開の地近くで、かの高名なセグ殿にお会いできるとはな。セグ殿との出会いは、私にとっては良い刺激となった。貴重なものとして記憶に残るだろう。これも、セイル達のお陰だ。礼を言う」


  そこから、俺も少し吹っ切れて、冗談混じりに軽く悪態をつく。


  「俺も、エメリアとの手合わせは嫌な意味で貴重な思い出に残りそうだ。俺がもっと強くなったら、絶対にまた勝負させてもらうからな!礼よりも、次、俺が挑んだ時には必ず受けると約束してくれ!」


  俺は未だに引きずる悔しさを、悪態ついでにエメリアにぶつけていた。


  「しかし、あのセイルさんに勝つなんて、よっぽど強いんですねえ、エメリアさんは!」


  御者席から、ガフスが口を挟む。


  「ホント。セイル、強かったのに」


  ミカがガモーネ邸の時の無双状態を思い出し、少し驚いていた。


  「いや、セイルは確かに強い。私も危機感が無ければ初太刀でやられていただろう。私は危機感により、初太刀にあらゆる警戒心を持って挑んだから、セイルの速さにも対応できただけだ」


  目の前の聖騎士様は、謙虚にもそんな事を言ってくれる。


  しかし、あれは間違いなく俺の大敗だった。


  セグによると、エメリアはまだ本気を見せていないと言っていた。


  それが本当なら、今すぐに再戦しても勝ち目など無い。


  しかし、何度再戦するように説得しても、前に断られた様に、何らかの理由があってエメリアは拒むのだ。


  それがわかるからこそ、あえて今の言葉に乗っかる。


  「じゃあ次こそは俺の勝ちで決まりだ。早く再戦と行こうぜ?」


  俺がわざと、相手が首肯しない勝負を持ちかけた。


  「勝手な事を言うな。私にも受けるか受けないか、判断する権利はある」


  予想通り、エメリアは俺の申し出を受けなかった。


  「そりゃそーだよねー」


  わかった様な口ぶりで、カルがエメリアに同意した。


  「カルはどっちの味方だ。……まあ良いさ。俺はエメリアの気が乗るまで待ってるからな!」


  エメリアの方を持つカルにツッコみつつ、後半はエメリアに向き直って宣言した。


  「……私自身いつになるかわからん。約束は出来ないな」


  エメリアはそう言ってかわそうとする。


  それなら。


  「良いぜ?俺はいつまでだって待つから!」


  俺は、一敗のままなのが悔しいだけだ。


  せめて引き分けにでもしたい。


  そのためには、最低でもあと一回は闘わなきゃいけないんだ!


  そう思って言ったのだが。


  「お兄ちゃん、……まるで結婚を申し込んでるみたい」


  ハンカチで目尻を押さえるルーが、笑いを含んでそんな事を言い出した。


  「あはは!確かに!」


  カルが、今気付いた様に笑う。


  「……は???」


  俺には何が何だかわからない。


  「なに!?そうなのか!?セイル!」


  真面目に驚くエメリア。


  「勝負に託つけたプロポーズだったんですね?」


  ガフスが悪戯な笑みをこちらに向けてきた。


  「そ、そういう事だったのか!?私はてっきり……」


  女聖騎士は目を見開いて、自分の肩を抱きながら俺との距離を取ろうとする。


  な、なんだ!?


  皆、なに言ってんだ!?


  大体、エメリアも何が”てっきり“なんだ?


  「ふふふ……」


  ミカまで含み笑いを漏らす。


  それを見て、何か違和感を覚えた俺は皆の顔を一通り見渡した。


  何やら企んだ様な、悪戯な笑みが、エメリアを除く皆の顔に浮かんでいる。


  ああ、なるほど。


  これは皆の冗談だ。


  こんな冗談、笑って流れるに決まってる。


  「おいおいエメリア、真に受けすぎだって……」


  俺は皆が冗談で焚き付けている事に気付き、エメリアに声をかける。


  しかし、それを無かった事の様に、ルーが根拠を話し、たたみかけた。


  「だって……まずお兄ちゃんの『必ず受けると約束してくれ!』の後、『勝手な事を言うな』って言われて『待ってるからな!』って返したでしょ?」


  そこまで言うと、今度はカルが話を受け継ぐ。


  「それから、『約束は出来ないな』で最後に『俺はいつまでだって待つから!』みたいな!?」


  さらに。


  「その話の流れだと、主語が『プロボーズ』でもおかしくないよね!?」


  ルーがそんな話でまとめた。


  ルー達なりの俺とエメリアの物真似をしながら、主語を替えて話の流れを追うと、まあ聞きようによっては頷けなくもない。


  「なぁんだ!セイルさん本当はそのつもりだったんですね!?」


  ガフスが悪戯な笑みをさらに増して、わざとらしく被せてくる。


  「そ、そうだったのか!すまない、私はそう言う事には鈍くて……」


  いやいや、”そうだったのか“じゃないだろ!


  何を納得して、何を謝ってるんだ!?


  「いやいや、確かにそう聞こえるかもしれないけど、俺はただ……」


  「ただ好きになっちゃっただけ!?」


  『“ただ”勝負の話をしてただけで、プロポーズとかじゃないから!』と続けたかったのだが、カルが俺の言葉に被せる。


  「い!?いや、ちが……!!」


  「し、しかしだな、セイル!私達はまだ知り合って間もない間柄だ!だ、だから、……その、そう言う事はもっと、お互いを良く知ってから……」


  カルに反論する所を、さらにエメリアの勘違いが遮る。


  な、なんかエメリア本気にしてる!?


  ヤバイ!


  これで冗談だとかウソだったとか言ったら、それこそ俺達、辱しめを受けたエメリアに殺されるんじゃ……!?


  「い、いや、だから、エメリア、……あ、あのな、ちょっとマジ落ち着こう!……な!?」


  「お、おち、おお落ち着いてるぞ、私は!おお、落ち着いてなないのは、せ、セイルのほほ方だろう!?」


  ……ダメだ。


  遅かった。


  こりゃ完全にツボに入ってる。


  エメリアはどう見ても、俺とは違う感情で緊張してるだろ。


  「二人とも緊張しちゃって!もしかして、両想いだった!?」


  カルーーッ!それ以上はやめろーッ!


  「私が!?……セイルを!?」


  これはまずい!


  さすがに自分の感情は自分しか知らない!


  俺に気が無い事はエメリア自身がわかってる事だ!


  エメリアが俺に気が無い事が自分でわかれば、芋づる式に今の嘘がバレる!


  そしたら俺達は、殺……。


  「私は、……セイルの事が……?」


  そんな事を呟くエメリアを放って、俺は頭をフル回転させる!

  何か、何かごまかす方法は無いか!?


  スピードチートで自分の動きに頭がついていく時くらいにフル回転させている!


  回転させているのだが。


  「あれ?エメリア姫は気付いてなかったの?ボクはピンときてたけどなー」


  カルーーッ!いい加減にしろーーッ!!


  心の叫びも虚しく、カルのトドメは放たれた。


  こんな時、俺はどうすれば………。


  俺が頭をフル回転させている間にも刻一刻と時は刻まれる。


  「そうだったのか?……私は自分では強い男が……いや、セイルは確かに強い……では、私の理想に……いや!それだけでは……やはり男は優しくもあり……いやいや、セイルは優しさも……だが、私達はまだ知り合って間もない……いや、時間は関係無いか?一目惚れというものも……では、やはり私はセイルの事が!?……いや、そんなハズは……しかし、感情は理屈じゃないとも……いや、……だが………」


  俺が思考を巡らせてる間、ひたすら自問自答を繰り返すエメリア。


  流石のカルも、俺達の空気を察したのか、今更になって口を結び、他の者達も各々無言で見守っていた。


  エメリアは、自らの気持ちも整理が付かなくなっている。


  このまま俺が口説いて押しきるか?


  俺からしたら、エメリアはそりゃあ美人だし、”今は“俺より強いのがどうかと思うが、そんなのはいつか追い越せば良い話だ。


  純粋だから今みたいに人の言うことを信じやすく、真面目で良い人そうだし、スタイルも良いし、男としては申し分ない。


  料理とかファッションはどうかわからんが、料理に関しては俺ができなくもないから、エメリアは聖騎士だし、俺を養ってくれるなら俺が主夫になっても良い。


  そして二人が一緒に住んで、そのうち子供でも出来たら俺がイクメンになって、洗濯、掃除もしっかりやって、ご近所付き合いが大変とか聞くけど、ソコは俺のトークでうまくやって、たまに家族で旅行とかにも行って……。


  ………いやいや、ちょっと待て!!


  なに俺まで流されそうになってんだ!?


  なんか、スゲー先の事まで想像しちまった!


  今はそんな場合じゃねーだろ!


  そう自分を律した時だった。


  「せ、セイル……」


  「……なな、なんだ!?」


  突然エメリアに名前を呼ばれてドキッとする。


  「セイルは、………そ、その、……ほ、本気……なのか?」


  なな、なにをーーッ!?


  ああっ!あのエメリアが頬を染めている!?


  ……しかし、こう見ると恥じらう顔も可愛い!


  いや!違うだろ!


  あの聖騎士で高潔な美人のエメリアだぞ!?


  こんな女性、そうは居ない!


  「ほ、本気も何も……」


  ダメだ、落ち着け!


  まだ結論を急ぐな!


  冷静になってしっかり考えるんだ!


  だが、いつまで待ってくれるかわからないぞ!?


  今なら、もしかしたらあのエメリアと付き合えるかも知れないんだ!!


  今を逃したら、もう付き合えなくて、後悔するかもしれない!


  「『本気も何も……』なんだ?」


  やばい!


  エメリアが俺の答えを待っている!?


  しかも、待たせ過ぎて疑問を持ち始めた顔だ!


  ヤバイヤバイ!


  早く答えなきゃ!


  「そ、そんなの、当たり前だろ?」


  まだ決断できていない!


  これで、ほんの数秒でも時間を稼げるハズだ!


  「はぐらかすな!」


  そう甘くは無かったーーッ!


  なんか怒ってる!?


  「セイルは男だろう!?」


  ああ!男だよ!


  男だからこんなに悩んでんだろ!!


  「男ならハッキリしろ!」


  そんなムチャ言うなよ~っ!


  俺だって真剣に悩んでんだ!


  ……そうだ!


  もうこれしかない!!


  「だから、決まってんだろって言ってんだよ!俺は、エメリアの事は好きだ!」


  言ったああァァーッ!


  俺、言っちまったああァーッ!


  「「「おおーーッ!?」」」


  他の皆が声を揃えて驚いていた!


  「…なっ!?」


  エメリアの顔が一気に耳まで赤くなる!


  「だが、やっぱりまだ出会って間もないのも事実だ!」


  俺が続ける言葉にエメリアも、皆も固唾を飲んで見守る。


  「だから、これからしばらくは一緒に行動するワケだし、お互いに相手を見て、それでもお互いの気持ちに変わりが無いなら、その時は改めて俺と付き合ってくれ!!」


  これでどうだ!?


  いわゆる交際“候補”宣言だ!


  皆の前で宣言するのも恥ずかしいが、今はこれで乗り切るしかない!


  「……そ、そうか!そうだな!それが良い!私も時期尚早だとは思っていたのだ!」


  ……よ、良かったぁ~~っ!


  殺されずに済んだぁ~~っ!


  「……そ、そうだよな!?やっぱまだ早いよな!?」


  「そう、そうだ!やはり早すぎるのだ!……そもそもまだ出会って2日足らずだ。まだまだこれからお互いを良く知ってからでも遅くはない。……遅くはないはずだ」


  何やら意味深に納得されてしまった。


  だが、実はエメリアも、周りに焚き付けられただけなんだ。


  本当は心の隅に引っ掛かるモノがあったのだろう。


  しばらく冷静に見れば、自ずと今の焚き付けられただけの感情は無くなって、自分の意思で判断する時が来る。


  もし、それでももし、俺の事を思ってくれていたなら、その時は俺も真剣に向き合わなきゃならない。


  でも、今はまだその時じゃない。


  男のゲスな本心を言えば、俺だってこんな美人と付き合えるなら、今すぐにでもオッケーしたい!


  でも、俺はそんなに器用じゃないって事は、俺自身がよく知っている。


  少し、いや結構……すごく、いや、超惜しいけど、これも仕方がない事だ。


  「じゃあ、そういう事で、これからしばらくよろしくな!エメリア!」


  「……あ、ああ!」


  俺の言葉に一瞬戸惑いながらも、笑顔を見せて答えてくれる。


  今はそれで良い。


  そして、これからの時間が二人を近づけるのか、離していくのかは、それこそアイシスの言う運命に任せよう。


  「……では、セイル……」


  話が終わったと思った時、エメリアが話始めた。


  「いつ切り出そうかと思いあぐねていたのだが、よろしくついでに言っておきたい事がある」


  「……何だよ、急に」


  急に話を変えられ、皆も落ち着いた所に再び息を飲む。


  「セグ殿から、旅立つ直前に頼まれた事があったのだ」


  ……なんだ?


  なにを頼んだんだ、あのジイサンは。


  「……何を?」


  なんか、嫌な予感が頭を過る。


  「実は、セイルに剣術の型を教えてやってほしいとの申し出があった」


  なに!?


  それは願ってもない事だ!


  「本当か!?それで、エメリアは良いのか?」


  これで、俺の剣にも一層の研きがかけられる。


  「ああ。もちろんだ。何よりセグ殿の頼みだからな」


  ありがたい!


  セグ爺、ありがとう!


  嫌な予感など、当たりはしなかった!


  ホントに良かった!


  「そうか!ありがとう!じゃあ、稽古も含めて、よろしく頼む!!」


  「良かったね!お兄ちゃん!」


  「セイル。まだ強くなる」


  「やったね、若様!」


  ルー達も喜んで賛同した。


  「わかった。だが、聖騎士団の型は教えてやれない」


  「ああ。何となく想像がつかないでもない」


  エメリアが小さく頭を下げるが、俺からすれば何も詫びる事などない。


  エメリアは、聖騎士の高みの剣術を教えてもらえると俺達が期待したと思って、その期待に応えられない事を悪いと思ったのだろう。


  「すまないな。我が聖騎士団の教えは我が国家の誇りであり、国民全員の期待と、国王をお護りする為の重みを背負うもの達に伝えられるものである事も理由の一つだ」


  やはり、聖騎士ともなると、色々と縛られる事があるのだ。


  「……だがその剣術は、何より聖騎士団という団体での戦に用いる為の規範となる団体剣術だ。セイルの様に団体に属さない身を護るためなら、団体剣術よりももっと個人的な技術を磨くのが良いと思ってな」


  確かに、エメリアの言う通りなのだろう。


  「だから、セイルには我が家に伝わる剣の型を教えてやろうと思うが、それで良いか?」


  俺は何にしても、型を教わるのは大事な事だと思うし、それを教えてくれるのだから、文句など言える立場ではない。


  「それで充分だ!」


  「では、決まりだな。食事休憩や睡眠前等の空いた時間に、私がセイルに教えてやろう。」


  そう言って、エメリアは右手を俺の目の高さに差し出す。


  「ああ!よろしく頼む!!」


  俺はその手をとってガッチリ組むと、じっとエメリアの目を見返した。


  「……あ、ああ、ま、任せろ」


  エメリアは再び頬を赤らめて応えた。


  ……ん?


  もしかして、さっきの件でエメリアってば俺を意識してる?


  やばい!そんな顔されたら、俺まで意識しちゃうだろ!


  俺のゲスな本心を掻き乱さないでくれ!


  そんな葛藤をしていると、エメリアが話を続けた。


  「では、たった今からセイルは私の弟子だ!これからは私の指導にしっかりついてきてもらう。カ帝国までの道程もドリュー車ならばそれほど無い。短い期間にどれだけ身に付けられるかが問題なのだ!イヤとは言わせんぞ!?」


  さっきまでの緩い空気が一転して緊張する。


  「あ、ああ!任せろ!」


  言って良かったのか!?


  先程の嫌な予感が再び膨らみ始めた。


  「言ったな?」


  エメリアの含み笑いが何やら恐い。


  「…えっ?…あ、ああ……」


  嫌な予感は最高潮まで上がり、俺の心臓が爆音を掻き鳴らす。


  「私の教育方針はスパルタだ!まずはその言葉遣いから徹底的に叩き直してやる!!」


  なにーーッ!?


  やっぱそうなるのかよーッ!!


  「………」


  俺は返答に詰まって無言になる。


  「わかったら返事をしろ!!」


  「はは、はい!?」


  思わず上擦った声で答えた。


  「声が小さい!!返事は、はい!!だ!」


  「はい!」


  「まだ小さい!!それに歯切れよく!!」


  「はいっ!!」


  「よしっ!!それでは―――………」


  それから、挨拶の仕方なども教わり、基礎の基礎から改めてエメリアの指導が始まった。


  そんなこんなで、エメリアは俺の新しい剣の師となり、スパルタ加減に先の思いやられる状況で、これからの旅路を剣の稽古も兼ねることになり、ドリュー車に揺られて、一路、カ帝国へ向けて走るのだった。

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