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(旧)もれなく天使がついてきます!  作者: 咲 潤
第一章 ~ 運命の輪 ~
32/83

天使も二人に増えました☆

  アイシス様はルーの母親の居場所を知っていたりします?」


 ダメ元で聞いてみる。


  「知っていますよ」


  ……えっ!?


  やっぱり、知ってるのか!?


  俺は、女神の言葉に思わず固唾を飲み込んだ。


  天使が人類に関与できないくらいだから、神は尚更で、天使にさえ関与はできないと俺はふんでいる。


  「知っていても、教えてあげられないのです」


  俺は、わかっていながら期待の籠った眼でアイシスを見てしまったのだろう。


  答えたアイシスの表情は、悲しみに沈んでいた。


  「……やっぱりか。わかってましたよ。だから、そんな悲しい顔しないでください」


  罪悪感から、俺は努めて明るく返した。


  神として、俺達が困っていて、苦労しているのを知っておきながら、決まりによって手助けもできないのは、この神にとっても心苦しい所だろう。


  俺、ちょっと酷いことしちゃったな。


  「……あなたは、賢い子ですね……。さすが、科学の発展した世界の人類です」


  「あ、ありがとうございます」


  急に誉められると、思わず照れてしまう。


  「そんなあなたに、1つだけ良いことを教えましょう」


  さっきの心苦しさに対する贖罪みたいなものかな?


  「私があなたを選んだ理由に、まだ言ってなかった事が1つあります。それは……」


  「……それは…?」


  「……それは、あなたが学んだ科学の知識です」


  それってつまり………


  「あなたは学校や塾と呼ばれる所で、色々な学問を学んで来ました。そして、それらはこの世界にはあまり知れ渡っていません。それを知っているのは、天使達の文明世界のみです。天使達の社会では、学校が存在し、科学の、その中でも特に元素などの学問は重点的に学びます」


  元素か。


  科学なら、半ニートの割には俺の得意分野でもある。


  なんと言っても、科学と生物の理科系科目だけはテストの点も100点を取ることもあるくらい得意なのだ。


  なんだろう先生という、子供達に科学の楽しさや凄さを教えて日本全国を渡り歩いていた人が居て、小さい頃に、なんだろう先生のサイエンスショーとかいうものに親に連れていかれた時から、理科にだけはハマってしまったのだ。


  「そして、法術の根源はエナですが、法術を具現化させるのは元素や物質、素材や量子の原理なのです」


  「……え?……そ、そうなんですか?」


  驚いた。


  しかし、それが本当なら俺は科学が得意なのに、大した法術が出せないのはどうしてだ?


  「そうです。あなたは法術を出すとき、例えば火を出すときに、ただ火を思い浮かべるだけだった」


  確かに、そう教わったから、そのままやっていた。


  「でも、ルーシュが言う”火を思い浮かべる“と言うのは、火の元素式を思い浮かべて、火の姿が成り立つ事を思い浮かべる事なのです」


  「なるほど!そういう事だったのか!」


  本当に良いことを聞いた!


  「やはり、あなたにはこう説明すればわかってもらえると思っていたのです。我が眷属ながら、うまく教えられなくてごめんなさい。あの子は生まれた時から天使の社会から離れたあの地で育ったから、きちんとした学問として学んでおらず、母から学んで自分はわかっていても、人に教えるのは下手な様です」


  「そうだったんですね!いや、ルーはそれでも一生懸命教えようとしてくれて、できない俺を責めたりもしなかったから、結果できなくても悪い気はしなかったんで、気にしないでください」


  カルにバカにされた様な時もあったが、カルに悪気が無いのもわかってたし、できない恥ずかしさはあっても嫌な感情は抱かなかった。


  「そう言っていただけるとありがたいです。……さぁ、そろそろお目覚めの時間です。またお会いしましょうね」


  「もうそんな時間か。わかりました。それではまた……」


  俺は軽く会釈をして、目の前がいつものようにフラッシュアウトしていく中でアイシスの手を振る姿を見つめていた。


  また会える。


  次はどんな話を聞けるのか。


  心なしか次を楽しみにしている自分に気付かず、新しい発見に心を踊らせながら、真っ白に染まる視界をずっと見続けていた。




  俺は、ゆっくりと瞼を開いた。


  既に日は上っているらしく、部屋のなかが自然光で明るくなっている事がわかった。


  「……朝か………」


  ポツリと呟き、身体を動かそうとしてふと気付く。


  「……ッ!?」


  何やら俺の両腕が重くて力が入らない!


  しかも、麻痺していて腕から先の感覚さえ無くなっていた!


  「……なッ!?」


  まずいっ!!


  俺がぐっすり眠ってしまった隙に、何者かに襲撃されたのか!?


  くそっ!!油断した!!


  そうだ!!ルー達は!?


  ミカやカルは無事なのか!?


  アアッ!なんで油断なんかしちまったんだ!!


  「おい!ルーっ!!ミキ!!カル!!」


  俺は焦ってみんなの名前を叫ぶ!


  「……う……ん?」


  「ふぁ……い」


  ………は!?………え???


  今、俺の左右から………?


  「……若様?……呼んだ?」


  目の前に寝ぼけ眼でふよふよと飛ぶカルが居た。


  「……え?……あれ???」


  「お兄ちゃ……おはよ……」


  「おはよ………」


  右からルーの声。


  左からミカの声が朝の挨拶をする。


  「……あ、ああ。……お、おはよ…う……」


  どうやら襲撃は俺の勘違いだった様だ。


  ひとまず、安心して力が抜ける。


  「……ははは、良かった……」


  勘違いで済んだ事に、笑いが沸き起こる。


  「……何だかわからないけど、良かったね」


  「……良かった」


  「ああ、良かった良かっ……たじゃない!」


  落ち着いた所で、冷静に現状を理解する。


  「二人はなんで俺の布団に入ってるのかな!?」


  首だけ起こして左右の腕を枕にしてる妹達を見る。


  コイツら、ちゃっかり布団まで持ってきてる。


  はみ出してもそれなら寒くはないだろうが、それならせめて自分の布団で寝てほしい。


  「だって、寒いんだもん」


  「暗い所で1人、嫌」


  思い思いの理由はわかったが、どっちも俺の布団に入る意味がわかんない。


  「それなら二人で一緒に寝れば良いだろ」


  肩を動かし、二人の頭の下にあった我が腕を上へ外す。


  「ああ!まくら!ルーのまくら!」


  「………」


  二人ともなぜか俺の腕を取り返す様にしがみついた。


  「いや待て待て!俺の腕痺れてるから!……痛っ!!」


  電気が走るような痛みが両腕から身体に流れ込む。


  2倍の電気量に、一瞬呼吸が止まったかと思えた。


  「ええ~。もうちょっとゴロゴロしてたかったのに」


  「……ゴロゴロ」


  まあ、嫌な気持ちはしないが、やっぱり普通に気兼ねなく寝させてほしい。


  「いや、もう起きよう。それか、二人でゴロゴロしてなさい」


  俺は強引に腹筋で上体を起こし、サッサと立ち上がろうとして動きを止めた。


  立ち上がれない。


  立ち上がる動作自体は苦ではない。


  反動をつけて立ち上がるだけだ。


  しかし、昨日寝ていたら、布団の暑さに服を脱いでパンツ1枚になっていたのを思い出した。


  寝ぼけ半分だったから、正直覚えても居なかったが、たった今、上体を起こして、背中がやけにスースーする事に気付いて、思い出したのだった。


  だから、今はまさに上半身裸で、ルー達に背中の素肌を晒している。


  「は~い」


  「………」


  ルー達の返事が救いだった。


  「ゴロゴロするなら向こう行ってな」


  起きるなら普通に向こうの部屋に行くはずだが、ゴロゴロする場合はここに居られても困る。


  俺は言うだけ言って、裸の上半身を隠すべく、再び布団に横になった。


  上体を起こしていた間に腕は感覚が戻り、今は強い痺れを知覚して痛みさえ覚えていたが、少なくとも動かす事は出来るようになっていた。


  俺は痛みを堪えながら掛け布団を頭から被ると、脱いだ服を探す。


  ……ん?……これは?


  ……あたたかい……?


  「きゃはは!くすぐったい!」


  俺の布団の中でまさぐる手が、まだ布団から出ていなかったルーの身体に触れてしまった!


  「お兄ちゃんも一緒にゴロゴロしよ~!お返し~!」


  くすぐったかったのが、ルーの遊び心にスイッチが入ったらしく、くすぐり返してきた。


  「……ゴロゴロ……」


  反対側では落ち着いて寝そべるミキの、ルーに同意したらしい言葉によって、先程言うだけ言った言葉は、発せられるだけ発せられたまま、届かずに消えてしまった。


  「……くっ!……この!……ええい!!この小娘どもが!俺の言うことを聞かないと、くすぐりの刑だぞ!?」


  ええい、ままよ!と、俺は見ため幼女な義妹達に、くすぐりの刑を敢行する。


  「きゃはは!きゃは!きゃははは!!」


  「……きゃあっ!きゃは!きゃはは!!」


  嫌がって逃げていくかと思いきや、思いの外、二人ははしゃいで楽しんでいる。


  カルは呼ばれながらも用がない事を察してフラフラと部屋を出ていった。


  しばらく腕が痛いのも忘れて二人を一方的にくすぐり、二人は大笑いしながら悶えていた。


  ミカの大きく笑った顔を見るのが初めてで、無邪気な可愛い笑顔に、俺も変なスイッチが入ってしまった。


  「くぉら~!!早く出ていかないと、もっともっと色んな所をくすぐるぞ~!!?」


  俺の理性も飛びかける。


  「や、……やあ……だ!!」


  「……や、やめ……て!!」


  二人の怪しい声が漏れ始め、流石の俺もようやく我に返った。


  何やってんだ!?……俺!?


  俺は幼女趣味じゃなかったハズだ!


  合法ロリとか要らねぇって言ってたじゃないか!?


  ヤバイ、これ以上はヤバイ!


  越えてはいけない線を越えてしまいそうだ!


  そう思って手を止めた。


  「……ふえ?」


  「……?」


  急に止めた俺を、二人は物足りなさそうに振り返る。


  「……さあ、もう終わりだ。早く準備して、午前中にミカの服とかを買いに行かないと」


  俺は、高揚する気分を抑えて、二人に言った。


  「あたしの……服……」

  「あっ!そっか!じゃあ早く準備しなきゃ!」


  無邪気な妹達は、“服”や“お買い物”といったワードに興味を示し、アッサリと切り上げて布団を出ていった。


  ……はぁ、危なかった……


  ……いやいや、危なくない危なくない!


  俺には合法ロリは必要ないのだ!


  1人ポツンと残された布団の中で、長いため息が零れた。




  何やら香草の多い独特な料理を朝食に摂り、荷物をまとめて宿を後にすると、ミキの服を買い揃える為に例のマーダの店を訪れる。


  昨日のうちに2度も来た商業区は、昨日と全く変わらない配置で店が出店され、うろ覚えだった配置も「ああ、この店昨日もここにあったな」とか「この先のフレメ屋が美味しそうだった」等と合致していき、マーダの店にもあまり迷わずに辿り着く。


  ちなみにフレメとは、クレープの様なパンケーキだ。


  パンケーキを極めて薄く焼き、クリームやフルーツを入れ、ハチミツやシロップをかけて丸めた食べ物で、情報収集の際に間食していた。


  「いらっしゃい!……おっ?セイルさんじゃないか!昨日はお疲れ!お陰でスカッとしたよ!」


  昨日の対応よりも明らかに元気な声をかけてくるマーダ。


  「マーダさんも、お疲れ」


  「おはようございます!」


  「……どうも」


  俺に続いてルーやミキも挨拶をする。


  カルは軽く頭を下げた。


  「マーダさん、昨日あれだけ飲んでて朝から元気ですねぇ」


  俺がそんなことを続けて言うと、ワッハッハと大きな笑い声をあげて商人が応える。


  「いやあ、あのガモーネってヤツは、言わば商人達の敵でもあったんだよ!それをセイルさんが壊滅させてくれたお陰で、これからは俺達商人も真っ向勝負になるんで、二日酔いなんかに負けてられねぇんだ!」


  マーダの長い話しは尽きない。


  ガモーネは、裏で違法な事をやっていたにも関わらず、巧みに隠しながら莫大な利益を我が物にしてきた。


  そして、商売敵となる他の商人には、金にものを言わせて色々と裏で根回しをして、店を潰してきた。


  政府や警備隊にも金で買収されたヤツが居て、ガモーネ商会は守られ、他の商店は油断したら、普通なら違法では無い事でも違法に仕立て挙げられ、法に裁かれる。


  地元に基盤のある商人や、法のやり取りでもうまくかわせる知識を持った熟練の商人などでなければ、それに耐える事ができなかった。


  新しく店を出し、商人として商いを始めたばかりの連中は、すぐに叩かれ、軒並み潰されていったのだと言う。


  しかし、今回の件で証拠が出揃ったお陰で、買収されてた警備隊や政府の人間も、ガモーネを庇う事ができなくなり、ガモーネもろとも買収された警備隊達も、完全に法にさばかれる立場になったようだ。


  ガモーネ商会が壊滅し、その蓄えられた財産は大半が脱税等の国に納めるべき金として国が回収したらしい。


  だが残りは被害者にも分配される事になり、拐われた奴隷達にも社会復帰の資金として、また、街や街の商人達へも賠償の様な意味で、いくらかの資金が支払われる運びになっているらしい。


  「……それもあって、私も午後は商人会に出席だ。近々、この街で商人会主催で祭りを催す予定なんだってよ。そして、来年からは今日のこの日を記念日の様にして、何か大義を担いで祭りを定例化しようとか言ってるらしいんだよ」


  楽しそうに話すマーダは、本当に心から嬉しさが溢れているのがわかる。


  それだけ、ガモーネの存在がこの街の商人達に迷惑なものであった事が感じ取れた。


  「立役者のセイルさんには、是非とも祭りで一言もらいたいもんだがなぁ!」


  ……なにっ!?


  何を言ってんだ、このオッサンは!


  この街にとって、ガモーネの件がどれだけ大きな事件なのかはわかったが、俺はただ単にミカを救いたかっただけ。


  それがこんな大事になるなんて……


  事の重大さに、一瞬意識が遠くなる様な気がした。

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