―第22話― 旅は道連れ☆
ヤバい!!
カルがやられる!?
と思った刹那。
セグはカルの横を素通りしてその後ろから飛び出した狼の様な生き物を切り付けたのだった。
「なっ……!?」
何が起きたのか、即座には判断できなかった。
草原に差し掛かった所で、カルの背後にはまとまった草むらがあり、そこからあのモンスターが襲いかかってきたのだ。
それを、このセグと言う老人が気付いて倒してくれたのだった。
「驚いとる場合じゃないぞ!?気配からするとまだ4・5匹に囲まれとる!」
なにっ!?
と思う間もなく、1人離れたルーが悲鳴を上げていた。
「きゃーーっ!!」
ルーの方を見ると、洗い物をしていた水の法術を、飛び退く狼に向けて放っていた!
その腕には血が流れ、可愛い顔が苦悶に染まる。
「お嬢!!」
1足先にルーの元へ駆け寄ったのは、空中を駆けるカルだった。
カルはルーの傍まで近付くと、怒りにまかせて力を放出した!
ギリギリ俺やセグを安全圏に入れ、カルを中心に竜巻が立ち上る!
「ギャウッ!!」「ギャンッ!!」などと悲鳴を挙げた狼たちが、一瞬にして空高く舞い上がり、俺はなす統べなく成り行きを傍観するしかなかった。
細かい石や草葉も巻き上げ、狼を切り刻みながら、上空数十メートルまで到達したところで急に風が止む。
そのまま高く巻き上げられた狼たちが落ちてきて、地面に叩きつけられてグシャッと潰れた。
俺の近くに落ちてきた狼は、砂利敷きの地面でトマトの様に潰れ、血を飛散させて俺の服にも少しかかった。
俺は、またもや何の活躍もできず、戦いは終わったのだった。
血がかかった箇所を、か細い水を出して無言で洗う。
ルーは自分の怪我にヒールしながら、カルを撫でて怒りを鎮めていた。
「ほう。おぬしは精霊じゃったか」
俺達が無言の中、最初に声を発したのはセグだった。
怒りを鎮め、ルーの心配を始めたカルが、ルーの頷きを見て答えた。
「……うん、そうだよ。おじいちゃん、さっきはありがとう」
「いや、良いんじゃ。しかし、わしゃ精霊なんぞ久しぶりに見たわい」
再びアゴヒゲを撫でながら、「風の精霊か。うむ。よいよい」などと自己完結させた独り言を呟くセグを見る。
「俺からも、ありがとう」
そう声をかけると、セグは俺の方へ向き直り、うむうむと頷く。
そして。
「ルー、大丈夫か!?」
そう言ってルーの元へ駆け寄ろうとした時。
俺は恐怖で足がすくんでいたのに気付き、もつれて転んだ。
「あっ!お兄ちゃんこそ大丈夫!?」
自分の腕も完治してないのに、ルーの方から俺の所へ駆けてきた。
俺は何をやってるんだろう。
モンスターに襲われて怪我をしたルーが、転んだだけの俺を逆に心配している。
カルも、さっき出会ったばかりのセグも。
俺は何も出来なかった。
思えば、ルーの家から借りてきた、腰にぶら下がる剣を、これまでの10日間、全く役立てていなかった。
家を離れた後は、森を出るまでクーガも居たし、カルも今みたいに戦えた。
クーガはあの森では食物連鎖の頂点に君臨し、1人でもあの森で殺られることは無いらしい。
そして、山に差し掛かると草木は姿を消し、岩肌が剥き出しの山道にはエサが少ないせいか生き物も少なかったから、難なく乗り越える事ができた。
それでも、何度かモンスターには遭遇してきた。
しかし、今のように俺は何も役立たなかった。
俺はこんなんで何を守ると言うのだろう。
何をやれると言うのだろう。
思い上がりも良いとこだ。
強くなりたい!
強くなって、ルーやカルを俺が守りながら、ルーの母親を助けてあげたい!
俺の人生で、初めて他人のために何かをやろうと思えた。
初めて自分の生きる意味を得られた気がしたんだ。
この思いは忘れちゃいけない。
「俺は大丈夫だ。ただ転んだだけ………それより、ルーは自分の腕を先に治しな」
そう言って聞かせ、セグが周りに警戒してくれている中で、ルーは俺の近くで腕を治す。
皆、大事ではないことを確認すると、カルもセグの元へ行き、辺りを警戒する。
そうして無言のまま、ついでに俺の足のマメや水膨れも治す時間が流れた。
そんな時、ルーと俺を差し置いて、カルとセグが何やら話をしていた。
「……そうなんだ!?じやあ、お爺ちゃんもボクたちと一緒に行こうよ!」
なに?
「おお、構わんぞ?何ならホーリエ村に着いたらわしの家で休むとええ。宿屋で無駄な金を使う事もないぞ」
「おお!そうさせてもらおう!……ねぇ、お嬢!若様!良いよね!?」
カルが万面の笑顔でこちらに話を振ってきた。
「ええ。良いわ。おじいさん、何から何までありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」
ルーが丁重な対応をして、傷が癒えた俺達は、セグという自称旅人のホビットと、一路ホーリエ村に向かうのだった。
俺の無力感に悩む心を抱えたまま。




