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(旧)もれなく天使がついてきます!  作者: 咲 潤
第一章 ~ 運命の輪 ~
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―第21話― 油断は禁物!?

「うっし!出来たよ!」


 俺が盛り付けた1杯目をルーに渡すと、ルーが不思議そうな顔をするのだった。


「これは…?」


 横からルーの分の丼を見たカルが聞いてきた。


「焼き肉丼だ!シンプルだが素朴に美味しいはずだよ」


 そう応えると、カルの分も目の前に置いてやる。


「ふ~ん…」


 などと、出来上がりを見て沸き上がったらしい不安が拭いきれない様子で生返事が返ってきた。


「ま、まあ食ってみろよ!」


 最後に自分の分を取り分けて、「いただきます!」と言いながら、ルー達より先に1口目に手を付ける。


「やべ!我ながらうまい!」


 そう言って2口目、3口目に進めると、ようやくルー達もスプーンの様なもので口を付けた。


「ホントだ…。シンプル?に美味しい」


「美味しい。若様の言うシンプルの意味がわからなかったけど、何となくわかった気がする」


 どうやら2人には好評をいただけた様だ。


「ああ、シンプルってのは俺の世界の言葉で、別の言い方をすると、飾り気が無いとか、そんな言い方になるのかな?」


 ルーの家でリゾットをいただいた時は、普通のスプーンだった気がするが、ルーが旅用にバッグに入れてくれたのは、スプーンにも箸にもフォークにもなる、トリプルウェイの代物だった。


 アルミの様な軽い金属製の、四角い棒が2本に別れる”それ“は、片方が先が細って箸になり、反対側には2本揃うとスプーンになる部分が露になっていて、フォークとして使うときの爪が2本、棒の中にチキンナイフの様に収納されている。


 フォークとして使うには、収納された爪を出して箸側にカチッと止まる所まで持っていくと、箸の先と収納されていた爪で4つの爪になり、フォークとして使える様になる。


 随分賢い道具を使っているにも関わらず、バイクや車の様な交通手段もない原始的な生活をしているこの世界の人類に、釈然としない何かを抱かずには居られなかった。


 しかし、この時にはその理由に気付かず、モヤッとしたものを残してすぐに掻き消す。


「「「ごちそうさまでした!」」」


 3人揃って食べ終わると、ルーが後片付けを買って出た。


 法術で水を出して洗い物をしているルーの姿に、本当の妹が居たら、俺の家でもあのキッチンで後片付けする姿が見れたのだろうか。


 そんな事を考えてゆったりと座っていると、カルもお腹が満たされてウトウトしていて、俺達は揃いも揃って何者かが近づいていることに気付くのが遅れた。


 それは、俺とカルの背後から、突然声を挙げたのだった。


「おおぉ~!」


 俺とカルはハッとなって後ろを振り向く!


 すると、視界が何者かを捉える前に、肩にドシンと重みが加わった!


 特に痛みは感じなかったが、反射的に驚いて飛び退いた!


 すると。


「がっはは、驚かせてすまんすまん!」


 そこには、背丈は俺の胸程もない、髭を蓄えた老人が立っていたのだった。


 同じように驚いて飛び退いたらしいカルが、ビビりまくった様子で老人に訪ねる。


「だだだ、誰だいアンタ!?」


 俺はその間、立ち上がって腰に付けた短剣の柄に手をかける。


「おーおー、若いの。わしゃ闘うつもりは無いから、そう怖い顔せんでええ」


 そう言って眼を瞑り、左手の平を空へ向けて、右手は蓄えたアゴヒゲを撫で始める。


「それなら、まずは名乗ってから、何の目的で近づいて来たのかを教えて貰おうか?」


 まだ警戒は解かずに、姿勢だけは構えを解く。


「ほっほ。わしがお前さんたちを殺るつもりなら、もうとっくに殺っとるわい」


 確かに、俺達が飛び退いた直後の老人の姿勢から、さっきの肩への重みはただ肩をポンと叩く要領で手をのせただけだった事は想像できる。


 そして、実際に肩を叩かれるまで存在に気づけなかったのだから、肩を叩かずに剣でも突き刺されてたら、あの時に終わっていた話だ。


 しかし、俺は尚も相手を見据える。


「…まあ良いわい。わしゃホビットのセグと言うもんじゃ。旅人をやっとる。」


 無言の俺達に老人は両眼を開いてセグと名乗った。


「旅人?」


 俺が思わず訊ねると、セグは鋭い眼光を俺に向けた。


「……ふむ。おぬしらも旅人じゃと思うて、煙が見えたから近づいてみたんじゃがな。違うたか」


 言い終えて、腕を組んで再び眼を瞑る老人の無防備さに、俺の警戒もいつの間にか弛む。


「いや、確かに俺達も旅をしてるけど……」


 そう言うと、セグは片目を開けてニカッと笑う。


「やっぱりのう!しかし、見たところまだまだ駆け出しの様じゃの」


 後半は俺達の周辺の荷物などを見渡して言った。


「ああ。確かにまだ旅に出て10日程度だ。だから何だ?」


 ちょっと、突き放す様な口ぶりになる。


 目上の人に対する態度ではないのは自覚しているが、まだ全ての警戒を解いたわけではないのだ。


「ムダな荷物が多すぎる。それに、おぬしは戦いに慣れておらん。そして、致命的なのは……みんな警戒心が無さすぎるのじゃ」


 そう言い切ったセグは、俺を見据えて隙の無い姿勢で仁王立ちする。


 次の瞬間!


 セグは腰に付けた短剣に手をかけ、カルの居る方へ瞬時に飛び出した!


 俺もカルも、警戒を緩めすぎたのか、セグの動きに反応が一瞬遅れる!


 マズイ!カルが……!?


 やられる!?


 そう焦る俺にとって、この一瞬が何分もの長さに感じられたのだった。

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