―第20話― 旅の始まり!
「やっぱ、もとの世界に戻りてぇ……」
高山地帯の岩がゴロゴロしている荒い砂利道を歩く俺は、早くも音を上げていた。
「お兄ちゃん!しっかりして!旅はまだまだ始まったばかりだよ!?」
「そうだよ若様。ボクが荷物を持ってるんだから、もうちょっとガンバッてよね」
すぐさま1人と1匹に怒られ、渋々歩いていると、ようやく山を越えて平地の草原に差し掛かった。
いわゆる岩山から、まばらに草が生え初めて草原に移り行く様は、建物や木さえも遮蔽物の無い、見渡す限り広がる広大な大自然の成せる業だろう。
少なくとも転移前の日本にはこんな風景を見ることは無かった。
岩山を越えている時の頂上からの雄大な景色。
丸5日以上かかった森の横断。
リアルに歩いて世界を冒険すると言うのは、ゲームをやっている感覚では想像もつかない程に何もかもが桁違いだ。
「いや、だって、俺もう筋肉痛ハンパねぇって。ただ疲れてるだけじゃねぇから!」
既に10日以上を野宿で過ごし、森の中や山道をずっと歩き続けてきたおかげで、サッカー部でそれなりに鍛えた身体も悲鳴を上げていた。
友達も出来ずに、ただ練習に参加していただけで、最後の思い出に出させてもらった試合以外、全く試合にも出れなかった万年補欠だったが、練習に参加しているだけでも、文化部の連中よりは体力に自信があった。
始業前の朝練も、放課後の午後練でも、まず最初に柔軟体操から始まって、校庭のトラック10周約2キロを走り、スクワット、腕立て、腹筋等の筋トレを欠かさずやるのだ。
その後、ボールタッチ練習などに移行するが、これらも動きっぱなし、走りっぱなしの練習だった。
午後練はここからミニゲームをやったり、5人1組でのボールの取り合いの様な実践練習的なものが始まる。
それだけ体を動かしていた俺が、こんなにも早く音をあげるのも、リアルの冒険の過酷さがそうさせるのだった。
「だから、言ったのにぃ。せっかく森の出口まで見送りに来てくれたクーガが乗って良いって言ってたのを断るからだよー!」
「そうだそうだ。『自分の足で歩かなきゃ、冒険してる気がしないだろ』とか、ワケわかんない事言って頑なに断ったくせに」
いや、カルちゃん、それは言わないで!
本当は2日目の昼にツラくてクーガの誘いに乗ろうと思ったけど、自分でそう言った手前、すぐに弱音を吐くのもカッコ悪いと思って意地になっていたんだ!
足もマメとか水脹れが破けてたりするんだけどやせ我慢して乗り切ってきたんだ!
そろそろ『ホントは初めての旅でツラいのをここまで頑張ったんだから、無理しないで良いよ』とか言って、俺の軽はずみな言葉とか、意地とか水に流してくれないかと思ってたのに。
「しょうがないね。じゃあ今日はちょっと早いけどお昼にしようか?」
お?
ナイスフォローだ、ルー!
「そうしよう、そうしよう!その代わり、料理は俺が作るから!」
俺も伊達に学校や塾をサボって、外に出ることなく我が家を守っていたワケではない。
時にはメシくらい自分で簡単に作ったりもした事はあるのだ。
「え?お兄ちゃん作れるの?」
ルーが素で軽く驚いた顔をする。
「ボク、若様の世界の料理を食べてみたいなぁ」
カルはまだ成体じゃない、いわゆる子供らしく、好奇心が強いみたいだ。
「簡単なものになっちゃうけどな!たまに家で作った事はある」
「へぇー、そうなんだ!じゃあ、お願いしようかな?」
作ったことがあると言う俺の言葉が、ルーの不安を払拭したらしい。
と言うことは、ルーも初めて自分が作った料理があまり美味しくなかった経験があって、俺が作ったことがなかったら多分了解しなかったパターンだ。
俺も初めて作った時に失敗してから、初めて作るヤツの料理は食べるのに勇気が要るが、作ったことがあるなら、『でも下手で』みたいな補足が無い限り結構安心できる。
「よーし!じゃあ任せろ!」
そんなこんなで、小学校の時に親とキャンプに行って、バーベキューしたときの知識を駆使して、ゴロゴロしている石で釜を作り、バッグに入れてた鍋でご飯を炊く間に、平たい石で肉を焼く。
もちろん、法術で水を出してよく洗った石を使うのたが、石焼だと赤外線で加熱するらしく、肉を柔らかく焼く事ができるとか。
そんな知識を昼の情報番組から仕入れたから、ちょっと試してみたかったのだ。
食材袋には肉と魚と野菜をそれぞれ小袋で分けていて、ルーが氷を入れて冷やしながら保存していたが、さすがに出発前にもらった肉はそろそろ消費しないと危ないだろう。
魚も同様だが、出発当初の魚は既に消費して、今、食材袋に入っているのは途中の川で調達したものだった。
日本で言う鱒みたいな魚を数匹、仕留めた直後に氷漬けにしてあるから、鮮度も抜群な状態で保存されている。
食肉も、森で仕留めたウリボンと言う、豚と猪の混血種の様なモンスターを新しく1匹分まるごと手に入れていた。
森からこれまでも多少食材として使ったが、まだまだ保存用に干し肉にして沢山残っている。
石の上で焼かれる肉は、両面が良い具合に焼けてきて、シンプルに塩と何やらわからないが胡椒の様なスパイスで味付けする。
肉汁や脂はそのままタレの様に絡めて、炊き上がったご飯に乗せて焼き肉丼みたいなものに仕上げた。
「うっし!出来たよ!」
俺が盛り付けた1杯目をルーに渡すと、ルーが不思議そうな顔をするのだった。




