―第17話― 旅に天使はつきものです☆③
鷹と言っても、近くに降り立った姿を改めて見ると、俺がガキの頃に動物園で見た鷹より、明らかに大きい。
しかも、普通の鷹と違い、羽の途中に指が4本出ていて、その羽を手のように使い、あたかも人間の執事か何かのような仕草で頭を下げる。
そこへ、カルと名乗った不思議な生き物が横槍を入れて、口喧嘩になるところだったが、この生き物も、何度もいうが不思議な形をしていた。
一言で言えば、耳が羽根になったウサギだ。
羽根以外の体躯は両手の上に収まりそうな体躯だが、比率的に羽が大きすぎる。
ドワーフラビットの様に長い毛を垂らしながら、耳から生えている不釣り合いなほどに大きな羽根を羽ばたかせてホバリングしていた。
「「はーい」」
ルーの仲裁に二人の返事が重なった。
「はい、良い子達ね」
大人しくなった二匹に、ルーはそう言って続けた。
「……えっと、ベアル以外はみんな集まったわね。それじゃ、みんなにお知らせがあります」
ルーがそこまで言うと、その間つつきあったり、小声で話していた生き物達は、口を閉じて静かになり、ルーに注目する。
それを見て、ルーが再び口を開いた。
「こちらは、女神アイシス様から使わされた、セイル様です。そして、とうとう、私の念願だったお母さんを助け出す為にこの世界に来ていただきました。……ベアルも聞こえてますね?」
ベアルともテレパシーを繋げているのか、確認を口にする。
「……ええ。ここまでは良いですね?では、これからについてですが、私はセイル様と共にお母さんを助け出す旅に出ようと思います!」
力強く言い放ったルーは、強い視線で皆を見渡す。
それを受けた生き物達は、どよめきを隠せない。
「みんなには、今までお世話になっていて、これからもわがままをお願いする事になるんだけど、強制はするつもりはないから、話として聞いて欲しい事があります。」
再び皆のどよめきも収まり、静まり返った。
「カルは、できれば私たちについてきて、力を貸して欲しい」
カルと名乗った羽根つきウサギは、名指しをされて改めて姿勢をただし、ルーの言葉を聞いた後、軽くジャンプしてニコやかに応える。
「よっしゃ!ボクに任せて!」
バク中してガッツポーズして見せるカル。
他の2人?2匹は姿勢を崩さない。
「クーガやペーター、ベアルは、これからの旅には人の住む街などに行く事もあるから、魔獣であるあなた達を連れていくと混乱を招く事にもなるかもしれないから、連れていく事が出来ないの」
目の前の2匹はシュンとした感じで肩を落とすが、すぐに姿勢を正してルーを見る。
「だから、あなた達を縛るつもりもないから、自由に生きて良いけど、できるだけで良いから、このお母さんとの家を守って欲しいの。もちろん、結界は消えないから、直接家が何者かに襲われる事は無いのだけれど、住んでない家の風化は早いから、家の手入れとか、今までやってくれていた事を続けて欲しい」
そこまで言ったところで、ルーの目に涙が溜まっているのに気付く。
最愛の母を助けるためとは言え、これまで一緒に生活してきた彼女にとっての家族と言う者達と、少なくとも一時の別れになるのだ。
それを寂しい、悲しいと思うことは当たり前の感情だろう。
クーガはそっとルーにすり寄り、ペーターも腕を組む様にして眼を瞑っている。
「……ありがとう、二人とも。ベアルも聞き分けてくれてありがとう」
「姫は、御家の事は小生達に任せて、心置きなくお母上を探して来て下さい」
ペーターがそう言うと、ルーはクーガにしがみついて声をあげて泣き出した。
幼い頃に生き別れた母を想い、5年もの歳月を我慢してきたのだ。
色々な感情が溢れて、それが止めどなく流れる涙となって少しずつ昇華していく。
しばらく声にならない少女の代わりに、今度は俺が話を引き継ぐ。
「今、紹介された清流です。アイシスとの約束がある以上、普通の人間である俺に何が出来るかわからないけど、ルーの助けになれるように頑張るから、宜しく!」
そう言って胸にグーの手を当てて皆を見渡す。
「……あ、ごめん。俺、テレパシーとかまだ出来ないから、誰かベアルさんにもこの事伝えてくれる?」
……何とも締まらない締めに、皆の苦笑が誰からともなく沸き上がったのだった。




