―第16話―旅に天使はつきものです☆②
「わ~い!お兄ちゃん!お兄ちゃん!」
見た目は7・8歳の女の子。
白くて肌も綺麗で、まだケガレを知らない可愛らしい女の子。
そんな、純真無垢で可愛らしい、透き通る様な幼い天使を、妹として受け入れた俺は、邪な気持ちも若干抱きつつ、妄想を膨らませながら切り出した。
「よーし、じゃあお兄ちゃんが遊び相手になってあげよう!」
おままごととか、ビー玉遊びとか、お医者さんゴッコとか……
いや!これは妹と遊んであげる優しい兄としてすることで、断じて妹プレイでは……
「じゃあ、クーガとベアルとペーターとカルも呼んでくるね!」
「ああ!……って、えっ!?」
何やら4つの名前が挙がったが!?
クーガは知っているとして、後の3人……いや、もはや”人“なのか”匹“なのかわからないが、それらは何者なんだ?
「……え、えーと、クーガはわかるけど、後の3人……匹?はどういう……?」
何だかんだと、俺達のティーカップをシンクに持っていくルーに問いかけた。
「あっそうか!お兄ちゃんにまだ会ってない子達ばかりだね!みんな集めるから、下に降りよう?」
そう言いながらティーカップをササッと洗い、水を流して食器干しに干し、タオルで手を拭くルー。
幼い身体で炊事慣れした動きに驚かされる。
俺の手を引きツリーハウスの玄関まで行くと、ルーがドアを開けた。
玄関前にはテラスがあって、その端、木の幹の方に柵が途切れた所がある。
そちらへ連れていかれると、そこには幹に螺旋状に付けられた階段があった。
踏み板だけの、手摺もない階段は、落ちそうで怖いと思っていたが、ルーに引かれて踏み出すと、ちゃんと透明な手すりが階段に沿って張ってあった。
母親の好みで、景観良く見せるためにわざわざ手摺りを透明化させたらしい。
「みんな、集まって……」
階下にたどり着くと、ルーがそっと呟く。
どうやらテレパシーを送った様だ。
目を積むって祈るように呟いたのを見て、俺はそう直感的に感じた。
少しの間を空けると、ルーが再び口を開く。
「……1人、ベアルがすぐに来れないみたいだけど、他はみんな来れるみたい」
「あ、ああ。そうか……」
どんなヤツが来るのか想像が出来ない俺は、複雑な気持ちでルーの言葉に応える。
すると、微笑んで説明をしたルーの向こう。
森の草木を分けて1番に顔を出したのは、俺の顔面に噛みついた、全長3mはある巨大な犬、クーガだった。
キャットウォークで静かに近づく姿は、口元から伸びる長い髭が特徴的な、鼻先の長い狼の顔を持つ赤黒い獣だ。
毛並みはフサフサというよりはシャープな感じで、猫で言えばアメショ。犬で言えばドーベルマンの様な毛並みだった。
「クーガ、おはよう!」
近付いたクーガにルーが挨拶をすると、クーガはルーに軽く頭を擦り付け、すぐに俺の前へ来て改めて頭を下げる。
「…昨日はすまなかった」
野太い声で発せられたのは、やはりクーガの声だった。
「……あ、ああ、もう気にしてないさ。おはよう」
そう返した俺に、クーガは頭を擦り付ける。
「二人ともおはよう」
ひとしきり俺に擦り付けた後、少し森の方へ離れてクーガが挨拶した。
俺もルーも、見つめ返して挨拶をまとめる。
「やあやあ、あなたが昨日、お嬢に連れられてきたと言う殿方ですね?」
突然頭の上から初めて聞く声が降ってきた。
思わず上を見上げると、そこには2つの影がこちらへ向かって降りてきていた。
「お嬢、おはよっ!」
また別の声だが、上から来るもう片方の声に違いない。
間もなくして俺たちの目の前に降りてきた2つの影は、片方が大きな鷹の様な鳥で、もう一方は何やら見たこともない生き物だった。
「お、おはよう……」
俺から二人を順に目配せしながら挨拶する。
「おはようございます、若殿。挨拶が遅れました。小生はこちらで世話係をしております、ペーターと申します。若殿におかれましては……」
「ボクはカル!若様……で良いのかな?ボクはこれでも風の精霊で……」
「こら、カル!我輩の挨拶がまだ終わっておらん!もう少し待てな……!」
「ペーターはいちいち長いんだよ!」
「なんですとっ!?」
「なにさっ!?」
「ハイハイ!そこまでね!?」
鷹と不思議な生き物の掛け合いを、ルーが割り込んで止めに入った。
見たこともない生き物と言い、始めて見る二人(?)に、俺はなんとも言えない印象を抱きながら、この先の”遊び“がどうなるのか想像できずにいた。




