―第15話―旅に天使はつきものです☆
「……と言う訳です」
「そうか。……そんな事があったんだな……」
涙ぐみながら、ずっと語り明かしたルーの話を、相槌を打ちながら聞いていた。
向かい合わせで座っていたテーブルを、話の途中で悲しみに押し潰されそうなルーを慰める為、俺がルーの隣にイス毎移動して頭を撫でていた。
ルーの話を要約すると、こんな感じだろうか。
―――――――
ルーは、産まれたときから母親と共にこのツリーハウスで過ごしていた。
父が居なくとも、幸せな日々を送っていた。
そんなささやかな暮らしをしてきた母娘は、五年前のある日、南の山まで二人で散策する事になった。
母の術によって魔物も寄り付かない様にしながら、森の中を進んで山へ行き、散策してお弁当を食べて帰る。
俺の世界で言えば、所謂ピクニックというヤツだ。
山の中腹の拓けた所から、広大な景色を眺めて母の作った美味しいお弁当を食べる。
そうして楽しい時間を過ごした親子に、事件は突然起こった。
ピクニックの帰り道。
気付いた時には、既に二十人程の集団に周囲を囲まれていた。
その集団は、真っ黒な鎧に身を包み、突然二人に襲いかかってきたのだ。
しかし、母親はルーを突き放し、何一つ抵抗すること無く連れ去られたのだった。
ルーは母親に突き放された後、母親による術で拘束され、一部始終を見届けた後にこの家に飛ばされたらしい。
その為、ルーは一切の手出しが出来なかった。
なぜ、一部始終を拘束されながら傍観していたルーが、母親と一緒に連れ去らなかったのか。
それは、母親は万が一の事を考えて、家を出るときからルーには認識阻害と透明化の術をかけていたのではないかと言う。
あの時、確かに軍隊の連中は、あの場に母親一人しか居ないと思い込んでいた節が見えたそうだ。
そして、連れ去られた後、母親からテレパシーで伝えられたのが、天使は人間に手を出してはいけないという天使の掟と、いつかアイシス様が使者を遣わされるという言伝てだった。
そして、その使者が人間同士のやり取りで母親を救い出すと言っていたそうだ。
―――そして今に戻る。
母親が言う、アイシスの使者と言うのが、俺の事だとルーは考えたらしい。
頭を撫でながら、一生懸命涙をこらえて話しを終えたルーに改めて約束する。
「俺、普通の人間だから、どれだけの事が出来るのかわからないけど、やれるだけの事はやってやるから、心配すんな」
後半はルーの頭を撫でていた手でポンポンと軽く叩く。
「大丈夫です!アイシス様が選んだ方ですから、きっと、……きっと!」
力強く返された俺は、ちょっと怖じ気付いた。
我ながら、無茶な事を口走ってしまったのではないか。
そんな不安が一瞬だけ過ったのだった。
「……ま、まあな!」
若干、苦笑いになりそうだが、何とか悟られないように満面の笑顔を作りながら、ルーに続ける。
「……しかし、そうと決まったなら、ルーは俺の事を”さん”付けで呼ばなくて良いよ?」
そう言った俺を、きょとんとした顔で見つめ、返してきた。
「え?……で、では、セ、セイル…くん?」
「いや、それはそれで友達っぽいけど……」
てか、小学生か!?
心の中でツッコむ。
君付けで呼ぶのは小学生の、しかも低学年の頃までで、高学年にもなれば、大体は呼び捨てか愛称で呼んでいたのではないだろうか。
それ以外は、お偉いさんが下々の人に上から目線で呼ぶときくらいしか、君付けは聞いたことがない。
「……あ!では、セイル様!」
「ええっ!?……そっ、それも悪くないけど……!」
なんか違う!
男としてはこれはこれで嬉しいのだが。
「それでは……」
「……いや、基本、好きに呼んで良いんどけど、さんとか君とかみたいに余所余所しいのとか、様みたいに持ち上げないで、ルーも俺の事を家族みたいに、呼び捨てとか愛称で呼んでくれて良いよって話だよ」
俺がニッコリ笑って返すと、ルーも笑顔で。
「ああ!そう言うことでしたか!では、歳も私が下なので、お兄ちゃんで!」
右手に力を込めて言い切ったルーを見て、俺の笑顔も今度は我慢せずに苦笑になる。
そんな俺に「私、お兄ちゃんが欲しかったんです~」などと言って腕にしがみつくルーを見て、彼女の境遇を思えばそれで良いのかとも思う。
たった一人の肉親である母親が拐われたのだ。
クーガを家族と言っていたが、そういう寂しさからも少なからず家族と思いたい気持ちが出てしまうのだろう。
「おしっ!んじゃお兄ちゃんで!」
断っておくが、おれ自身は妹プレイなど望んではいない!
断じて、望んでは……
「わ~い!お兄ちゃん!お兄ちゃん!」
……良いかもしれん。
見た目は7・8歳の女の子。
白くて肌も綺麗で、まだケガレを知らない可愛らしい女の子。
男として、こんなに純真無垢で可愛らしい、透き通る様な幼い妹を、受け入れられないワケがない!
そんな邪な気持ちも若干抱きつつ、俺は、この美しい天使を妹にすることに決めたのだった。




