―第14話―お子様天使の口説きかた❤️②
ルーに何やら無関係な人には頼めない様な、深い事情があるのを察した俺は、この子を守ってやりたい衝動にも駆られ、思わず強く言い放つ。
「俺に任せろって!何でも言ってみな!?」
言ってから自分でも驚きつつ。
「でも………」
それでも尚俯く少女に、女神の話を打ち明ける事にした。
「……あのさ、ルーは女神アイシスって知ってる?」
そう口にすると、目の前の少女は眼を見開いて俺を見た。
「……え?……ええ。もちろん知っています。私も私のお母さんも、アイシス様の眷属の天使ですので」
一瞬驚いた様子から、話すうちに落ち着きを取り戻す。
確かアイシスもそんな事を言っていた気がする。
「そうか。それなら話は早い」
そう前置きをして、1つ大きな息を吐くと、俺は続けた。
「実は、俺は女神アイシスの力でこの世界に転移してきた異世界人なんだ」
俺の言葉に再び驚きの表情を見せる少女は、先程よりも大きく眼を見開いていた。
「そんで、そのアイシスと約束があって、それを守る事が、俺がこの世界で生きる条件にもなっているんだ」
一呼吸入れる間も、少女は黙って聞いている。
「その約束ってのが、君を助ける事。……だから、俺は君の手助けをしなければならない。その為に、君を助ける為に、俺はこの世界に来たんだ!」
そこまで言うと、少女は涙を浮かべ始めた。
止めどなく溢れる涙が頬を伝い、流れ落ちるのもお構いなしに、悲しみを含んだ微笑みを向けてきた。
おっと、幼いのに顔立ちが整っているからか、ちょっとドキッとする。
しかし、同時にヤバイ空気を感じて緊張もしてきた。
何かとんでもない事が待っている様な、大変なことを口走ってしまったかの様な、後悔を味わうであろうすぐ先の未来を察知したような感覚だ。
それらを一瞬で感じて、身体に染み渡る前に少女の口が開く。
「……長く、長い時を待っていました……」
そう言って目尻を拭き取る少女が顔を上げて俺を見る。
「アイシス様のお告げの通り、ようやく来て頂けたのですね……?」
「……え?」
思わず疑問符が口をつく。
アイシスの御告げ?
引っ掛かる所を頭の中で復唱するも、ルーの話が続くので話に耳を傾ける。
「……5年です…。お母さんが拐われて5年の年月が過ぎました」
ヤバイ!
これは、本当にめんどくさい事になりだしたぞ!?
この流れは、きっとそうに違いない!
「ありがとうごさいます。……本当にありがとうございます!」
なんか、いきなり感謝され始めた!?
もう絶対そうじゃん!
スゲーめんどくさいヤツじゃん!
そう思うと、勢い余って大きな事を言ってしまったのを後悔しつつ、尻込みしてしまう。
「…え?……い、いや……」
「セイルさんが、アイシス様の御告げの、お母さんを助けてくれる勇者だったなんて……」
しかしながら、逃げ出したい心情とは裏腹に、涙ながらに微笑むルーの表情が可愛い過ぎて。
そして、一人前に頼りにされることが嬉しくて、つい口元が弛む。
「い、いやぁ、まあ……」
段々と心が動かされる俺。
「……なんて言うか、その……」
左手を前に出して左右に振るも、少女の眼は期待に満ちた輝きを帯びていた。
「セイルさんが、お母さんを助けて下さるんですね!?」
さっきまで泣いていた面影を残してはいるが、明るく無邪気な笑顔を向けてくる。
くっ!アイシスの言っていた「天使を助けて」の”助けて”ってのは、こう言うことだったのか!
言ってしまった手前、こんな幼い、可愛らしい子の無邪気な笑顔を、持たせてしまった期待を、今更裏切れるワケがないだろ!
「アイシス様のお告げの方なら、私も心置きなく全面的に助けていただきたいです!」
両手に力を込めた少女が、瞳を輝かせてこちらに迫る。
近い!近いですって!
「い、いや、少しくらい遠慮してもらっても……」
顔を赤くしながらも、尻込みして言う俺の言葉に被せて。
「『私を助けるためにこの世界に来た!』なんて、そんな風に口説かれたら、私も……その気になってしまいます……」
ルーも頬を紅くさせながら両手で顔を隠して離れた。
てか、可愛すぎるやろ!
こういう時に、その顔は卑怯だ!
そんな顔されたら、女子免疫の無い俺なんかが断れるワケがない!
至近距離で心臓が爆発しそうだった緊張がまだ残ったまま、俺は諦めて覚悟を決める。
……くぅ!仕方ない。
俺も軽口を叩きすぎたが、それがルーの心を動かしてしまったのだ。
天使を弄ぶなんて外道にはなりきれない俺は、一呼吸入れて改めて良い放った。
「ああ!俺がルーを助けてやる!ルーのお母さんを見つけてやるよ!!」
もうどうにでもなれ!
そんな気持ちとは裏腹に、俺は心の片隅にアイシスにハメられた感の拭えない、釈然としない感覚を抱いていた。




