―第13話―お子様天使の口説きかた❤️
広大に広がる大森林が見渡せる。
窓の外は快晴で、体感の気温から察するには俺が元居た世界と同じ秋真っ只中といった感じだ。
日が上れば日向は暖かいが、風は涼しく、過ごしやすい気候である。
この世界に四季等があるのかという疑問もあるが。
しかし、元居た世界の秋同様に空気も澄んでいて、遠くまで見渡せるおかげで、俺が居た森がどれだけ広大な大森林だったのかを思い知らされた。
しかも、森が途切れた先には青く霞んだ山々が嶺を連ね、町などの人の居そうな場所が見当たらない。
富士山の樹海どころでは無かったようで、そんな所でルーシュに会えたのは、完全に運が良かったとしか言いようがない。
先ほどリゾットを食べている最中に、ルーから色々な事を教えてもらった。
この星が地球によく似た星で、イーシスという名である事。
月が2つ周回する惑星で、まだまだ自然の多い星である事。
その中でも今居る場所は、北東から南西へ伸びる広大な森のど真ん中にあるらしく、一本だけ一際大きく育った大樹の中腹に建てられたツリーハウスなのだとか。
確かに窓の外に顔を出して下を見ると、直径六・七メートルくらいはありそうな太い幹に沿って木の麓が見え、芝生の様な下草が生えているのが分かった。
木は横にも半径15mくらい枝葉を伸ばしていて、太陽が遮られているせいか、その範囲内に他の木は全く無い。
そして、わざわざ人里を避けてここに住んでいたらしく、俺のように迷いこんだ人はここ数年は見てないそうだ。
ちなみに、ルーは間違いなく天使の娘で、正真正銘天使だそうだ。
しかし、歳は俺の1つ下で、アイシスの情報の可能性が低い方に軍配が上がったが、それにしても見た目と実年齢のギャップは大きすぎる。
俺より年下だったのがせめてもの救いで、これで俺より歳上だったら、見た目が幼いのに目上の対応をしなくてはならないという、とてつもない違和感を感じながら対応する羽目になる所だった。
そこまで話をした所で、「お加減が良かったら下に来ませんか?」とルーに食後のティータイムのお誘いをいただいて、現在、洗顔を終え、階段を降りていた。
「……あ、いらっしゃいましたね」
階段を降りる足音でルーが気付いたのか、声をかけてきた。
「ああ、いただきに来たよ」
そう返して、折り返し型の階段を降りきる。
振り替えれば、途中から段が踏板と手摺りだけになっていて、キッチンからでも背中を向けて降りてくる姿が見える様になっていた。
途中で折り返して正面をキッチンに向ける造りになっているので、降りきると、正面に支度をするルーの姿が見える。
「さあ、どうぞこちらへ」
そう言って手を向けたのは、二人掛けのテーブルだった。
「なるほど。ダイニングキッチンだったんだな」
何の気なしに呟くと、ルーは不思議そうな顔をする。
「ダイ、イン…ぐ…?」
そう。この世界では元々の言語が違うせいか、アイシスに翻訳の力をもらったおかげで言葉は通じるのだが、単語が理解されない節が時々ある。
名詞は特に違う文字列を用いる事が多い気がする。
さっきも、太陽が通じなくて、こちらの世界ではソルと言うらしい。
月はルン。山はモンドで川はスール。森がトルトで海は何故か海で通じる。
基本的に、この物語では会話以外では日本語に合わせるつもりだ。
「ああ、ごめんごめん。俺の居た国ではあの料理するところがキッチンって言って、このご飯を食べる所がダイニングって言うんだ」
厳密には日本語でもなく英語なのだが、日本でも一般的に使われる言葉だから問題ないだろう。
「へえ~、そうなんですか」
感心したようにこちらを見ながら、ルーがテーブルにカップを置いて紅茶を注ぐ。
「そうそう。んで、こんな風にダイニングとキッチンが1部屋にまとまってる部屋を、ダイニングキッチンって言うんだ」
身ぶり手振りで場所を指しながら説明する。
「ダイニングとキッチンが1つになってダイニングキッチンかぁ」
「そんな感じ。単純だろ?」
「そうですね」
等と軽口を叩きながらルーが淹れてくれた紅茶を飲んだ。
うん。うまい紅茶だ。
そう思いながらも、さっきは聞けなかった事を切り出してみる。
「そう言えば、ルーは何か困った事ないかい?」
唐突だが、世話にもなってる事だし、アイシスとの約束もあるから、ルーの手助けをしなければならない。
パッパと終わらせて、ルーみたいな合法ロリではなく普通の同い年くらいの可愛い女の子を探しに行かなきゃな。
そんな事を考えてはみるものの、肝心のルーは困った顔をして俯く。
「と、突然そんな事を言われても……」
まあ、当然と言えば当然の反応だ。
「そんなに難しく考えなくて良いんだぜ?新しい料理を知りたいとか、どうしたら背が高くなるのかとか…」
困るルーに、簡単な悩みの例を挙げてみる。
「そ、そうは言っても……」
何やら煮え切らない様子のルーが、口をモゴモゴさせて何かを訴えてきた。
「なんの関係もない人に頼るのも……」
尻窄みになっていく声に、弱々しく肩を落とす少女。
小さな身体が余計に小さく見えて、男の性をくすぐる。
そんな幼く健気な姿に、俺は、男心を湧かせ始めていた。




