―第10話―お供の天使の見つけ方♪③
「そんなに気にしなくても良いよ。もう完全に大丈夫だから」
そう告げた俺は、悪怯れる少女を許して励ます。
「いえ、うちのクーガがご迷惑をおかけしたので、これぐらいはさせていただかないと……」
……ん?いま、”うちの“って言った?
「……本当に、すみませんでした!」
そういえば、俺は今更聞き逃したのを思い出すが、最初のほうでもそんな事を言っていたな……?
”うちの“って言うことは……?
「……え…っと、つまり……?」
俺が考えながら返事を間延びさせていると、少女も鎮痛な面持のまま俺の顔を見る。
やめて!
そんな純粋な眼を向けないで!
彼女は確かに幼いが、幼いなりに可愛くもある。
純真無垢と言う言葉がこれ程までに似合う子が、この子以外に居るのかとさえ思える程だ。
そんな子の悲しい顔は、それはそれで可愛いのだが、あまり好んで見たくはない。
話は大分読めたから、ここは年上らしくおおらかな気持ちで受け止めてやろう。
「そっか、俺に噛みついてきたのが君の家のペットだったんだね」
許すにしても、段階をふまえなくては。
まずは確認からだ。
そう思って聞くと、少女が顔を上げて。
「……え?……そ、その”ペット“と言う言葉の意味がわかりませんが、クーガはうちの子です」
上目遣いで伺う表情や良し!
我が妹として認定してやろう!
「そっか。ペットを家族として大切にしてるんだね」
ニコリと笑って爽やかに返した。
「はい!クーガは私の家族です!」
少女は一瞬だけ首をかしげる仕草をしたが、すぐに笑顔を見せる。
ああ、やっぱり笑顔が可愛い!
もうマジで、もし女神の手違いで『最初に会った少女』であるこの子が女神との約束の天使じゃなかったとしても、俺の妹にならんかな……。
まあ、見た目七・八歳だから、”少女“ではなくて、ちょっと大人びた”幼女“の扱いで、この後にちゃんと俺と同い年くらいの少女が現れるに違いない。
まさか、そもそもこの子が女の子じゃないと言う選択肢は無いだろうからな。
そんなバカな事を考えていると、少女は後ろの木々を振り替えって、木陰に向かって手招きする。
どうやら、何かがそこに隠れていて、こちらへ来るよう促している様だ。
「ほら、クーガ!あなたもこっちに来てちゃんと謝って!?」
そう大きめな声で呼び掛けると、少女の向こうの草むらがガサガサし始めた。
クーガって言えば、さっきから話に出ていた俺に噛みついてきたヤツだな。
ソイツがその草むらに隠れてたのか。
それなら、一体どんなヤツなのか、この眼で一応見ておこう。
そう思って黙って見ていた。
しかし、その判断がまもなく後悔へと変わる。
俺は、段々とクーガの姿が木陰の暗がりから露になるにつれて、思わず後ずさる。
「……え?いや、あの……」
正直、かなりビビってしまう俺が居た。
「……はい?」
少女がきょとんとした顔で首から上だけこちらに振り返る。
そして、木陰から出てきた影の全貌が明らかになると、俺はその場に尻餅を突いていた。
それもそのはず。
鼻息荒く木陰から出てきたのは、四足で立った状態でも、地面から背中までで2m近くありそうな巨体の、大型の犬か狼の様な生き物だったのだ。
目測だが、頭の先から尻尾の先を計るとすれば、ザッと全長3mくらいある。
これは、犬が好きな人でも流石にデカ過ぎて怖くなりそうだ。
眼光鋭い双眸が、こちらを見ながら近づいてくる。
恐怖に声を失っていると、巨大な犬は少女の横に並んで頭を低くした。
「……すまなかった」
低く野太い声で、確かにそう聞こえた。
「……は!?……えっ!?」
今のは、クーガの声か!?
この犬、しゃべるのか!?
そんな俺の心の中の疑問は意に介さず、少女が低くした犬の頭を撫でながら、こちらを見て一緒に頭を下げる。
「……え?……あ、ああ、い、良いよ。ホントに、もう」
ビクビクしながらやっとの思いでそう応えると、少女も笑顔になって犬を見る。
「良かったね、クーガ!許してもらえて!」
そう言って犬の首に抱きつくと、犬が再び口を開く。
「ああ、お嬢にも悪かった。人型の生き物を見ると、ヤツらかと思って奇襲してしまった」
今度こそ間違いなく、あの犬がしゃべってた!
流暢に長々としゃべってた!
その巨体も驚きだが、犬がしゃべるのもまた驚きを隠せない。
そんな俺に少女が気付き、犬から離れて俺へ向き直る。
「この子がクーガです。クアールとガルムの混血なんですよ」
ニコニコと言ってきた少女が、またもや驚きの種を明かす。
俺の中で、もうこの世界は異世界に確定した。
完全に空想上の魔獣の名前が2つも並んで出てきやがった。
「…は、はは……。犬とか狼かと思ったら、魔獣の、それも混血かよ……。」
今日はなんて日なんだ!?
驚きばかりでさすがに疲れてきた。
ヘタりこんだ俺は、そのまま後ろへ倒れて、疲れからか意識が遠退いて行った。




