―第9話―お供の天使の見つけ方♪②
「――――あのー……」
何やら声が聞こえる。
「すい…せん、……ぶ…ですか?」
「……う、う~ん…」
何者かの声によって、朦朧とした意識を取り戻す。
「あ、あの、大丈夫ですか?」
どうやら幼い女の子が、俺に呼び掛けている様だ。
「…あ、ああ、大丈―――」
―――ん?若い女の子!?……それって――――
「―――夫……だ…!?」
声に応えながら女神の言葉を思い出した俺は、体を起こし、声の主の顔を見て言葉に詰まった。
目の前に居たのは、俺がこの世界に転生して最初に出会った少女。
髪の色も瞳の色も、何故かあの女神と同じだが、全体的なサイズが違う。
髪型は、女神が普通にストレートに流していたのに対し、目の前の子は少し変わった髪型をしていた。
前髪は普通に顔を隠さない程度だが、横は左右のこめかみから下へ流した先に輪を作り、民族的な飾りで閉じている。
その輪には、髪と同じ色のフサフサがぶら下がり、胸の下まで届いていた。
後ろ髪は、正面から見ればまっすぐ下ろしている様だが、実際には左右から纏めた髪をこれまた民族的な飾りで止め、そこから垂れる一房の髪と襟足とを一緒に下ろし、膝裏まで流している。
服装も白を基調とした赤や黄色の線が有り、その線の中には何かの文字が羅列されていた。
紐で縛ったサンダルまで見ると、背中に羽が生えていてもおかしくない様相を呈している。
可憐で美しい、確かに天使と言われればそうかもしれない少女が心配そうな顔で俺を見ていた。
ただ―――
「うちのクーガが、すみません……」
などと鎮痛な面持で頭を下げるが、俺の耳には届かない。
それは決して少女に見とれていただけではない。
確かに可憐で美しいのだが、それよりも。
「―――こんなガキだなんて聞いてねえぞ!?」
ここからでは届くハズもない怒鳴り声を、ここには居ない女神に向けて吠えていた。
それもそのはず。
女神は俺と同い年くらいの少女だと言っていたのに、目の前に居る少女はどう見ても幼すぎたのだ。
「こんなの契約違反だ!詐欺だ詐欺!」
「……!?」
目の前の少女が俺の心の叫びに驚いた顔をする。
しかし俺は謝らない。
だって、どうみても7・8歳くらいじゃないか!
どこが俺と同い年なんだ!?
サバよみすぎも良いところだろ!
「……あ、あの……」
ふて腐れて黙る俺を気遣ってか、少女が声をかけてきた。
「あ、いや、君が悪いワケじゃない。あの、ウソつき女神がいけないんだ!」
俺が、まだ冷めやらぬ怒りを露にしていると、怯えた様子で少女が応えた。
「ごご、ごめんなさい!まだどこか痛みますか?今、治癒術で治して……」
「だから、君が……わ………待って、……今、何て言った?」
少女の謝罪を止めようと割って入ったのだが、口を挟んでから聞き覚えのある、ひどく現実味の無い単語に引っ掛かる。
「……え?えっと、ご…めんな…さい?」
「いや、その後!」
突然問いただされて恐る恐る応える少女。
「…あ、え…っと、まだどこか痛み……」
「いや、重要なのはその後!」
喰い気味に言った俺の真剣な顔が怒っている様に見えるのか、少女はビクッとなって応える。
「いっ!?…え、えと!ち、治癒術で…」
「そこだ!」
「ひっ!?」
さらに喰い気味に指摘すると、とうとう少女も恐怖に両手で両耳の辺りを覆う。
「あ!ご、ごめん!怒ってない、怒ってないよ!」
慌てて取り繕おうとしたのだが。
無理矢理笑顔を作ったりして引き吊っていたせいか、余計に怯えさせてしまった。
それならばとオヤジギャグを言えば、言っている意味がわからなかったらしく、違う意味でも一層怯えながら引かれ。
ニートの暇な時間にちょっと練習した手品で、やっと少し落ち着き始めた。
簡単なコインマジックだ。
まあ、本当にこの子は悪くないんだから、怒ってても仕方がない。
それより、この子はさっき、治癒術とか言っていた。
その辺も含めて、色々と確認したい事もあるし、ゆっくり話をしたいな……。
いや、俺はロリコンではないぞ!?
これは、俺が見知らぬ世界に来てからの、唯一の接点を持てた人が彼女だからであって、俺は決してロリコンではないのだ!
……とにかく、治癒術ってあの治癒術だろうから、その辺から探ってみるか。
「……あ、あのさ、君が俺を……その、治癒術で治してくれたのかな?」
今度は優しく優しく声を出して、顔色を伺う。
「……は、はい。やっぱり、ちゃんと治ってなかったのでしょうか……?」
沈んだ表情で悪怯れる少女。
しかし、間違いなく言質は取った!
治癒術って、やっぱりあの治癒術だったのだ!
いや、でも俺はタイムトラベルを選択した筈なんだが、魔法みたいなものがあるって事は、異世界に来ちゃったのか?
この森と言い、現代日本はおろか、未来なんて微塵も感じられない。
「い、いや、完璧に治ってる。……うん、大丈夫だよ」
悲しそうな彼女に、慌てて一先ず取り繕う。
どうも女の子の悲しい顔は苦手だ。
こればっかりは女子免疫の無い俺の弱味の1つである。
「そう、ですか。それなら良かったです。ですが、これくらいの事しかできなくてすみません」
心配そうな面持で少女は頭を下げる。
なんて良い子なんだ。確かに天使と言うのも頷ける。
「そんなに気にしなくても良いよ。もう全然大丈夫だから」
そう告げると、少女が眉を下げたまま。
「いえ、うちのクーガがご迷惑をおかけしたので、これぐらいはさせていただかないと……」
……ん?いま、”うちの“って言った?
「……本当にすみませんでした!」
声を張り、腰を折る少女に、またも疑問が芽生える。
いや、誠意は充分に伝わってるんだけど。
俺はそんな疑問も抱きながら、未だ明らかになっていない状況整理の為に、少女にもう少し話を聞こうと言葉を繋ぐのだった。




