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ヤンデレーション!!  作者: GIYANA
第一部
7/41

LOVE AFFAIR ・前半


 俺は自室のベッドに寝て、ぼんやりと天井を眺めていた。


 あの後、マナミとトモエは、そのまま病院に行くことになった。「事を大きくしたくない」という理由で、救急車も呼ばなかった。

 発生した場所が片隅であったこともあり、誰ひとりとして気付かれることはなかった。

 まぁ気付いたとしても、関わり合いになんてなりたくないだろうから、そのままスルーするだろうけど。


 正直、傷の状況をどうやって誤魔化すのだろうと思ったが、何とか誤魔化しきれたらしく、傷口を縫っただけで終わったらしい。そんなメールが入ってきた。


 今回のこと、やっぱりショックだったことは事実だった。


 そうか、リョウコもそうだったんだ。マナミとトモエと一緒だったんだ。


 だけど、俺はあの時、そのショックを受けながらもプレゼントを渡した。

 もちろん2人を死なせたくないって気持ちはあったけど、でもそれでもあの時の気持ちは本物で、家に帰った後こうやって改めて考えても、やっぱりリョウコのことを好きな気持ちに変わりはなかった。


 俺はベッドから上半身だけを起こす。

 あの時は気持ちが高ぶっていたのか平気に振舞っていたけど、帰りの電車の中では落ち込んだ顔を見せていて、最後の別れ際に不安そうな顔をしていた。


 でもリョウコは不安に思っているんじゃないか。俺に嫌われたとか、自分を拒絶されたらどうしようとか、そんなことを思っていたんじゃないか、それは駄目だ、俺は決めたじゃないか、彼女を不安にさせてはだめだと。

 俺は携帯電話を取り出すと、そのままリョウコにかけ、数コール後に繋がる。


「もしもし」


 出来るだけ優しい口調でリョウコに呼び掛ける。


「…………」


 リョウコは何も言わない。


「こんばんは、今日のデート、楽しかったよ、ありがとう」


 俺は安心させるために抑揚をつけないようにする。


「……うん、こっちもありがとう、プレゼント、ありがとう……」


 不安そうな声だ。それを聞いてやっぱり俺はリョウコが好きだ間違いない。確かに驚いた、だけどやっぱり俺の中で彼女の笑顔しか思い浮かばなかったのだ。


 しかしその次に突きつけられたリョウコの言葉は俺にとって最後通告に等しかった。


「一週間だけ、会わないってことできる?」

「………………へ?」


 俺は何も答えられない。ひょっとして今日のことを気にしているのだろうか。もしかして距離を置いて、そのまま別れるつもりとか。


「違う! そうじゃないの!」


 俺が息を飲むのが分かったのかリョウコは急いでまくしたてる。


「どうしてもしなければならないことがあるの! でもその内容は言えない! でも私を信じてほしい!」

「…………」


 やらなければならないことがあり、それは俺には言えない。

 そこで内心苦笑してしまう、信じてると言えば聞こえがいいがそれは臆病である、そんなトモエの言葉が浮かんできたからだ。


 なるほど、臆病じゃないのなら、信じることは覚悟決めることなんだ。


「わかった、一週間ぐらい待つよ、さびしいけどね」

「ごめんね、でも一週間後にはちゃんと、デートしようね、あ、そうだ」

「男の子だから何がいいかなって思ったんだけど、アクセサリーは男の子ってイメージじゃないし、結構悩んだんだ」


 突然の話題の転換に少し面喰うが、リョウコの言いたいことが分かった。


「うん、それで?」

「それでね、ユウトは腕時計してないなって思って、だから次に会うときのプレゼントは腕時計にしようって思ったの」


 嬉しい、俺にしてくれたことをそのまま返してくれたんだ。そしてそれをわざわざ伝えるってことは、リョウコなりの信じてほしいという自分への気持ちなんだ。


「楽しみにしてるよ、不安になってごめんね」

「ううん、愛しているユウト、おやすみ」

「うん、おやすみ」


 そこで電話を切る、そうだ、我慢するしかないな。

 大丈夫だ、一週間後には俺たちはいつものとおりに仲の良い恋人同士として振舞える。

 信じると覚悟を決めた瞬間、不安がウソみたいに吹き飛んだ。


――――


 プールでの出来事から5日後の土曜日の深夜、学校の正門前。


 辺りは静まり返っている、学校の周りは住宅街で、深夜になれば通行人はいない、時折車が通るぐらいで人の気配は一気になくなる。

 今日は今季一番の寒波が押し寄せているらしく、歩くのすら億劫になるほどに寒く、こんな寒い夜は自宅にこもり温かくするに限る、そんな夜。


 そしてその正門前に2人の人影が立つ。


「…………」


 その影のうちの1人、小ヶ谷マナミは自分がしている腕時計を見る、時刻は午前0時の少し前、そろそろ日付が変わるころだ。

 その小ヶ谷マナミの横、城下トモエは屈伸運動をして体をほぐしている。


「ん?」


 その時に、小ヶ谷マナミの携帯電話にメールの受信を知らせる音楽が鳴り、小ヶ谷マナミは携帯電話を取り出し、発信者とメールの内容を確認する。


「誰?」


 屈伸運動をしていた城下トモエが、小ヶ谷マナミの携帯電話を覗き込む。


「寿からよ、ちゃんと来ているのかって確認のメールよ」


 トモエに携帯画面を見せながら喋るが、それを聞いて城下トモエは鼻で笑う。


「はっ、なめられたものね、あれしきのことで逃げるとでも思っているのかしらね」


 そんな2人の顔はいつもと変わらない、落ち着いている。


「というよりも、城下、携帯は?」


 そうだ、このメールが自分にだけ来るのはおかしい、そう思って聞くが。


「持ってないわよ、これから最後の戦いが始まると言うのに。携帯電話なんて邪魔になるだけだからね」


 そんなこだわりに小ヶ谷マナミは苦笑する、でも城下トモエの言うこともよくわかる。


「まぁ仕方ないか、最後の戦いだからね」


 柔軟体操をしているトモエに対して動かない小ヶ谷マナミ、彼女は逆に変に動いてスタミナを消費しないようにしている。

 ちなみに城下トモエはセスタスは装着済みで、城下トモエは顔を紅潮させている。


「そのためにあの女も一週間準備をしていたのだからね」


 小ヶ谷マナミも腰回りに巻きつけたチャクラムを再度確認する。普段冷静な小ヶ谷マナミも興奮を隠しきれないようだ。


「やっとこの時が来たわけね、それが分かるからこそもう殺したくて殺したくてしょうがないのだけど」


 そして2人はお互い見つめ合う。


「あの女を始末した後、今度は私たちが戦う番ね」


 城下トモエは笑顔で話しかける。


「ええ、でも貴方頭悪いから降参した方がいいんじゃない? 2号でもいいというのならば私は構わないけど」

「冗談、私は一番じゃなきゃ気が済まないし、まぁユウトがメロメロにトロトロになるぐらい愛してあげるから、自分が本命気取ってれば?」

「ふふ、本当にうざわいよね、この戦いが終わったら殺してあげる」

「ええそうね、気が合いすぎて気持ち悪いからね」


 その時、再び小ヶ谷マナミの携帯電話にメールの着信音がする。

 当然誰から送られたメールかなんて携帯を開かなくてもわかる。

 小ヶ谷マナミは、再び携帯電話の画面を見て、そしてそれを城下トモエに見せて、再び棟ポケットの中にしまう。


「生意気ね、殺しましょう」


 小ヶ谷マナミは正門から校舎を、正確には一点の場所を見つめる。


「ええ、生意気、殺しましょう」


 城下トモエも正門から校舎を、小ヶ谷マナミと同じ場所を見つめる。


 そこにいた人物に満足すると、再び2人で笑顔を向きあい、そして正門をくぐる。


 寿リョウコから送られたメールにははこう記されていた。


――私はユウトの教室にいるわ、だから早く来て、待ちきれないの。



 自分の教室から2人を見下ろす寿リョウコ。

 メールはちゃんと届いたようで、3人は目が合いお互いに意思を確かめあう。

 リョウコは2人が正門の方から入ってくることを確認すると2人から視線を外し、窓を開けて空を見る。


 ひんやりとした冷気が顔をくすぐる。真冬の深夜、本来凍えてもいい寒さなのに不思議と気持ちよく感じる。どうやら戦いの前に体が火照っているようだ。

 その冷気がその火照った体を冷やしてくれる。目を開けるとそこには住宅街が広がっている。普段授業中からいつも見ている景色のはずなのに、深夜見ると全く違って見えて、視線の先に伊勢原が住んでいるアパートが見えた。


(この戦いが終わったら、一度部屋を掃除してあげよう、そして手料理をふるまってあげよう、ユウト喜んでくれるだろうな)


 そんなことを考え頬が緩んでしまうが、いけないと引き締める。


 寿は、ユウトに会うのを我慢して、一週間かけて戦いの準備をしていた。そして決戦場所が私達の母校であると、あのプールでの出来事の後、2人に伝えたのだ。


 付き合ってからの自分は失敗ばかりだと後悔の念が押し寄せてくる、自分はもう少し器用にできると思っていたのに、伊勢原のこととなるとつい冷静ではいられなくなる。


(私の不手際でユウトが傷を負ってしまった。これは全部私の責任だ)


 小ヶ谷マナミの叫び声が聞こえた時、ユウトはためらうことなく私を放って行ってしまった。


 その時の私はあろうことか、ユウトの姿を見て嫉妬してしまったのだ。「私をほっぽり出して他の女のところに行くなんて」と思ってしまった「何があったって自業自得なんだから」と思ってしまった、だから私はそのままユウトの後姿を見送るだけで終わらせてしまった。


 そしてそれが致命的な事態に発展してしまうのだ、それは私の信念と、そして楽しみにしていた私とユウトの恋人同士のステップを踏むという妄念を穢してしまう結果になったのだ。


 2人に抱きつかれているのを発見したとき、ちょうどユウトは私に対して背を向ける格好となっていて、私に気がつかず、その代わり抱きついた2人と目があったのだ。

 その瞬間2人はユウトのキスを奪い、そして胸を触らせたりしていて、恋人のステップを、あの2人に、細心に細心の注意を払っていたはずの2人に奪われた。


 そしてユウトは傷を負うという事態に発展する。ユウトを傷つけないという私の妄念も奪われた。

 あの時、私が一緒についていったら両方を奪われることはなかったと断言できる。


 その光景を思い出し、殺意がわきあがってくるがそれを必死で抑える。感情で動いてはだめだ、冷静に戦わなければならないのだ。


(ユウトくん……大好きよ……貴方を知れば知るほど好きになるの、こんなに人を好きになったことなんて始めてよ)


 寿はゆっくりと両手を広げてユウトのいる方向に向けて叫ぶ。


「ユウト! 愛している!」


 そして、握りしめていた手元のスイッチを押した瞬間。


 1階の全てのクラスが爆発した。


――――


「うわ!」


 夜午前0時過ぎに突然起きた爆発音。自宅でいつものとおり漫画を読んでいた俺は何事かと思い、急いで外に飛び出す。

 近所からは次々と俺と同じように次々に外に出てくる、その中で窓から様子をうかがっている人もたくさんいて、何事かと叫んでいたが、ある人物が「あそこだ!」一点の方向を指さす。

 そしてその人たちの視線が一方向に向かっているのを見る。


(なんだ……あれ?)


 俺の視線の先には、煙が上がっているのが見えた。

 やはり爆発した音だったんだ、でも何が爆発したんだろう、しかもあの煙の規模、相当広いものだ。


(あの方には……確か……)


 その方向は自分の学校で、その方向から煙が上がっているのを見て、ある人物の、俺の愛している女性の「やりたいことがある」という思い浮かんで……。


「リョウコ!!」


 俺はそのままわき目も振らず走りだした。


――――


 校舎内にもうもうと立ち込める煙、そしてそれを肩で切って歩く2人。


「うるさいわ、近所迷惑というもの全く考えていないのね」


 煩わしそうに、煙を手で払いながら呟く小ヶ谷マナミ。


「ま、これが寿なりの挨拶ってことでしょ? いやね、暴力的な女って」


 この爆発で自分たちを仕留める気はないというのは分かる、だからこそ2人は堂々と歩を進める。


 爆発に巻き込まれて生死不明なんて、仕留めたか仕留めていないか分からないからだ、寿リョウコはそんなことは考えない。その万が一の失敗を恐れるからだ。


 だから確実に自分たちを直接仕留めると考えているはず。それが一番確実で絶対な方法だからだ。

 その時に2階の教室が爆破する音が聞こえ、その爆風が2人を心地よく刺激する。


 ご丁寧に階段脇の教室は全て無事なままだ、つまりそのまま登れという事だろう。


 2人はそのまま悠然と歩く、そして3階に上がった先、左を見てみるとご丁寧にもユウトの教室のドアが外されていて立てかけられていた。

 なんだろうこれは、挑発のつもりだろうか、まぁイカれた女の考えていることなんて考えるだけ無駄だとばかりに2人は教室に入り、教室に入ったところで2人は立ち止った。


「…………」

「…………」


 教室内の机は全てかたずけられており、椅子を机に乗せる形で後ろに追いやっている。教室の掃除をするときに良く見る光景だ。


 そんな中、窓際に一つだけ設けられた椅子、そこに足を組んで悠然と出迎える寿リョウコは、2人を認めると立ち上がり優雅にほほ笑む。


「お久しぶり、小ヶ谷さん、城下さん」


 そしてスカートを両手で摘む仕草を見せ優雅にお辞儀をする。それはあくまでも仕草だけで実際にはズボンをはいていたのだけど、妙に様になるのが2人の気に障る。


「忘れられたらどうしようかと思ったわ」


 そんなリョウコの言葉、鼻で笑うのが城下トモエだ。


「忘れるわけないじゃない、嫁入り前の体に傷をつけられて、しかもユウトの愛情を一身に受け止めて、うざいのよアナタ、消えてほしいの」


 城下トモエに続いて小ヶ谷マナミも話す。


「でもこれが最後だと思うと感慨深いわ、貴方から一週間前にメールが来た時に、ああ、最後なんだ、本気でけりをつける気なんだって思ったら、最後ぐらいはせめて正々堂々とか考えたわ、本当にそれを実行する私にも驚いたものだけど」


 小ヶ谷マナミの言葉に寿リョウコは手を口に当てて上品に笑う。


「うん、だから一週間は攻撃が来ないと思ったし、私の気持ちをくんでくれると思ったから、本当に私達気が合うよね?」


 寿リョウコの言葉に小ヶ谷マナミも城下トモエも微笑を浮かべるだけで何も答えない。


 そしてお互いにじっと見つめ合う。


 その3人の間に流れたのは感傷とも言える雰囲気だった。


 小ヶ谷マナミはチャクラムを取り出し、回転させる。


 城下トモエは、セスタスを取り出し、両腕に嵌めこむ。


 寿リョウコは、拳銃を取り出し、そのまま構えることなくそのまま佇む。


「…………」

「…………」

「…………」


「はっ!」


 最初に中腰になり、走り出したのは城下トモエだった、リョウコとの距離を詰めると右ストレートを脇を固めコンパクトで出してくる。そしてその右ストレートを左手のけん銃の柄ではじくと、バックステップで距離を取る。

 その瞬間、チャクラムが5個、寿リョウコに向かって全方向から空を切る音と共に降り注いできた。


(避けられない! ならば!)


 そう考えた寿リョウコははあえて避けることをせず、その時間を使いチャクラムに標準を合わせ射撃する! 寿リョウコの放った銃弾はチャクラムに命中する……が。


(変化した!)


 おそらく刃に微妙な変化をつけているのだろう。1発だけチャクラムは銃弾をよけ、カーブからスライダーに変化する軌道で寿リョウコの胸元に来る。

 おそらくチャクラムには毒が塗ってある。かすり傷が致命傷となりかねない。

 寿リョウコはそのまま体を思いいきり捻って、地面に体をたたきつける勢いで何とかかわす。


 そこに先回りしてたっていたのがトモエだった。


「はぁ!」


 そのまま地面にあおむけ状態の寿リョウコの顔面に向かって渾身の右を打ちおろしてくる。


「ぐっ!」


 その瞬間リョウコはその右にクロスカウンターで合わせそのまま拳銃を合わせ……。


 城下トモエのパンチの打撃音と、寿リョウコの拳銃発射は同時だった。


「…………」

「…………」


 寿リョウコの首の真横に城下トモエのパンチが突き刺さっており、床をえぐっている。

 そしてトモエの頬に寿リョウコのけん銃があった。

 お互いにお互いの攻撃を避け合うため、城下トモエはパンチと一緒に上体をそらし、同じように寿リョウコも首を動かし避けると同時に拳銃の狙いもそれたのだ。


 少しの間、ほんの少しの間だけお互いの攻撃が不発に終わったことを悟り、城下トモエは、そのままバックステップで元の位置に戻る。

 城下トモエがバックステップで離れると同時にそのまま寿リョウコは立ち上がる。


 3人は一番最初の位置に戻った。


「まさか、あの体勢からまさか私の射撃を交わせるなんて、やっぱり身体能力は相当なものよね」


 改めて感心したように、寿リョウコはスカートのほこりを払う。


「それはイヤミ? 運動部の私と帰宅部の貴方で身体能力に差がないという方がこちらとしてはショックなのだけど」


 ショックと言いつつ、その顔に余裕がなくならない城下トモエ。


(今日のこの2人は怖いくらい冷静ね)


 寿リョウコは冷静に分析する、2人の連携がおそろしくあっている。近距離のトモエの攻撃が終わった隙にこれ以上ないタイミングでチャクラムを仕掛けてくる。

 オーソドックスではあるからこそ有効。そしてトモエの運動能力をマナミの運動能力をカバーし、その代わり後方の攻撃によりフォロー。

 お互いの欠点を補ったの攻撃。おそらくそのために相当な訓練をしていたはず、と見てわかる。本当に息のあったいいコンビだと、改めて思う。


 とはいえこの2人は寿リョウコが伊勢原ユウトと付き合っているからこそ2対1の構図が出来上がる。本当ならば小ヶ谷マナミと城下トモエもお互いに殺したいほど憎み合っているはず。

 お互いに大嫌いなはずなのに利害が一致するとこうやっていいパフォーマンスを発揮する。


(女は本当に複雑バカよね……)


 考えることは3人とも一緒。

 だから私たちはお互いを憎み合っているのだけど。


(2人を相手にして、私の武器はもの改造モデルガン2丁か……)


 その時、自分の右腕の甲に切り傷が一か所ついているのが分かる。正直セスタスでついたのかチャクラムでついたのかどちらでついたのか分からない。


(もしこれがチャクラムだとするのならば、手裏剣と同様、毒が塗っているものだと考えないとね)


 自分の二の腕をスカーフできつく巻きつける。気休めかもしれないが無いよりマシだ。


「そんなことしないで口で吸いだせばいいのに」


 小ヶ谷マナミは心底不思議そうな顔で言うがもちろん寿リョウコには通じない。


「あら、傷があるとそこから毒に侵されてしまうし、それと口で吸いだせる毒の量って知ってる? たった2%なのよ、正直全く意味がない行為だと思った方がいいわ、それに毒の種類によっては、逆に経口摂取となる場合もあるしね」

「あらそうなの、知らなかったわ」


 当然嘘だ、マナミが好むのは神経毒、相手を動かなくさせる毒だ、口で吸いだしては駄目なタイプの毒、おそらくまだ動けるということチャクラムではないと分かっているけど、念のためだ。

 そしてトモエがつけているセスタスは、最初暗闇の中でよく見えなかったが、床に打ちつけられたその瞬間分かった。

 ガラスの破片がちりばめられている。その上での顔面への渾身の一撃。仮に私が生き残ったとしても女のとしての人生は終わらせるつもりなのだ。


 何回も攻撃を受けるとまずい、不利なのは変わらないから元々短期決戦しかない。私もそれが分かっているからこそ校舎を爆破させた。そして当然相手もそれを分かっているからこそ一気に仕留めに来ない。


「もう一か所傷がついているよ」


 そう指摘したのは城下トモエ、頬の辺りを指されたので拭ってみると手の甲に血がつく。これはセスタスでつけられた傷だろう。避けきれてなかったか。

 それに満足して笑顔なのは城下トモエ。


「安心して、私は毒なんて使わないわ、だって痛めつけた時のリアクションがないとつまらないもの」

「そう、お気づかい痛みいるわ」


 私は、そのまま手の甲の血を一舐めする。口の中に広がる鉄分の味が寿リョウコを覚醒させる。


 そうだ、私達は恋のライバルなのだ、ライバルはそうでなければだめだ。


 寿リョウコのうちから出る言い知れぬ興奮は、そのまま凄惨な笑みへとつながり、次への攻撃行動をに移そうとしたまさにその時。


「何してんだよ3人とも!!!」


 その瞬間、教室内に響き渡るその声、3人はその声の下方向である教室の出入口に視線をやる。


 そこには息を切らせた伊勢原ユウトが立っていた。


――――


「何してんだよ3人とも!!!」


 俺は思わずそう怒鳴って、その次に押し寄せてくる心臓の鼓動音と酸素を求める肺の鼓動に耐えきれず、そのまま手を膝について息切れが我慢できない。


 無我夢中で走ってきた、野次馬たちをかき分けて、正門前から入るのは危ないから、人が見ていない隙を狙って生徒だけが知っているフェンスの切れ目から忍び込み、無我夢中で走って駆けあがって。


 そして自分の教室にいるんじゃないかって勘が働いて、そして来たらその通りだったというわけだ。


「校舎を爆破するなんてやりすぎだろ! 怪我したらどうすんだ!」


 俺はもう一度3人を怒鳴りつける。怪我の心配なんて、こんな状況で人から見たら見当違いな心配かもしれない、でもそう叫ばずにはいられない。


(ちくしょう! 教室を爆破したことなんかより、俺は3人が怪我する方が俺の中ではよっぽど大事なことだ!)


 俺の怒鳴り声に3人は俺を見つめている、だけど暗くて見えないから3人がどんな表情をしているのかもわからない。

 そんな中、最初に視線を外し、マナミとトモエを見つめるリョウコ。


「私たちの最終決戦、立会人はユウト、文句はないよね2人とも」


 リョウコはまるで俺の言葉を聞いていないように話を続ける。


「あたりまえよ、仕切らないでくれる?」


 それに特に何のリアクションも示さずに、トモエが答える。

 そんな中、視線を屋外に移したのはマナミだ。


「警察も到着済みね、おそらく爆弾があるということですぐには入ってこないだろうけど、、時間はないよね」


 そしてお互いを見つめ合う3人、その時の3の顔は、寂しそうで、悲しそうで、そして嬉しそうだった。


「ユウト、最後だから言うけど、「私たち」が貴方を好きな理由は一緒よ」


 リョウコが俺を見て突然話しかける。


「え?」


 そうだ、疑問に思っていた。どうしてこんなにも可愛い女の子3人が俺のことを好きなんだろうと、ずっと思っていた。

 リョウコの言葉を受けて、マナミが申し訳なさそうに頭を下げる。


「はぐらかしてばかりでごめんね、私の気持ちを話してしまうと、その2人と一緒だということに自分で認めることになるし、同時に2人の思いに気づかれてしまうからそれが嫌だったのよ」


 その横に立っているトモエが頷く。


「そうそう、お互いに考えていることってびっくりするぐらい一緒なのよね、だから殺したいぐらい嫌いなんだけど」

「…………」


 なんだろう、大事なことを話しているのは分かるけど、まだ論点が見えてこない。

 俺のそんな顔を察したのか3人顔を見合わせて笑いあう、その光景はどう考えても仲のいい友達同士にしか見えなかった。


「ユウトくん、どうして私が作ったお弁当を食べてくれたの?」


 マナミが突然、また訳の分からないことを聞いてくる。

 これが好きの理由に繋がるんだろうか、訳が分らないのは変わらないが、それでも真面目に聞いているのだろうから真面目に答えるしかない。


「なんでって、愛情こもっているとか思ったし、その証拠に俺の反応見て味付け変えたり上手くなるように努力してくれているでしょ? そんなお弁当をないがしろに出来るわけないだろ」


 俺の答えに小ヶ谷マナミは、笑う……のではなく真剣な顔になる。


「いきなりベッドにもぐりこんで貴方が好きとかいう私みたいな女が作るお弁当なんて、怖がらずに良く食べられるね」

「……え?」


 突然の言葉、二の句が継げない。続いてトモエが話しかける。


「ユウト、どうして私が編んでくれたマフラーをしてくれたの?」


 トモエは同じような口調で聞いてくる。ああもう、なんだよ。


「だから! トモエが編んでくれたマフラーは、ちくちくしないように編み込んであるし、色の使い方も男の俺でも大丈夫なようにしてあるし、気持ちがあふれていたから!」


 俺の言葉にトモエもまた真剣な顔をして返す。


「ふーん、初対面で顔面に平手打ちされて、嫉妬すると自分を抑えられないような女が編んでくれたマフラーを何の躊躇もなく巻きつけられるんだ」

「…………」


 なんだろう、何が言いたいんだろう、最後にリョウコが話しかける。


「男は子宮に入れて育てるものなのって聞いた時の貴方は、驚いた顔はしていたけど、全く態度が変わらなかった。躊躇なく小ヶ谷さんと城下さんを撃ち抜いた時に、怯えるどころかプレゼントまでしてくれてた、それはどうして?」


 なに、急になんでそんなこと聞くの、分かり切った話じゃないか。


「どうしてって、えっとあの時のリョウコってヤキモチ妬いてくれたんだよね? だから安心させてあげようと思って、ちゃんと俺が好きなのはリョウコだよって」


 その時の俺の顔はよっぽど混乱していた顔をしていたのだろう。

 リョウコはいつもの、優しい口調で話しかけてくれる。


「ユウト、本来私たちの行動はね、普通は男は怯えるか、私たちのことを狂っていると罵倒するかどちらかなのよ、私達の本性を知ったら男の子がどんな反応するか分かっているから」

「?」


 まだ合点が言っていない俺を見てやれやれとため息をつくのがトモエだ。


「自殺未遂した従妹の話はしたでしょ? 良く考えれば、従妹が捨てられたのだって、彼氏が薄情ってのもあるけど、良く考えればおかしなものではないのよ」

「…………」


 もちろん、大事なことを話しているのだとは分かる、それは分かるんだけど。


(それ……だけ?)


 なんてことない理由、ハッキリ言えば拍子抜けする理由だった。


 つまりこの3人、私たちはおかしい、だから男は受けいれてくれない、それをずっと悩んでいた、そんなときにそれを受け入れてくれる男が俺だった、だから好きになった。

 でも、でも……。


「別に、それがそんなに意外なの?」


 別にそれぐらいのことなんて俺以外にも普通にしていることだと思うけど。

 俺の言葉を受けて、リョウコは自分の手に胸を当てて、告白するように言葉を紡ぐ。


「貴方は私たちをそうやってちょっと変わってるってぐらい、私たちを普通の女の子として見てくれる男の人よ、それが私たちの好みのタイプ、やっと出会った運命の人なのよ。でも誤解しないで、ちゃんと私達はユウト自身のことが好きだよ、きっかけはそうかもしれないけど、でもユウトと触れ合って、どんどん好きになってくるの」

「…………」


 ここまで女に言わせてしまえば、それはそうなんだろう、彼女たちは彼女たちに色々悩みを抱えていて、俺の意識しないその態度が彼女たちとっては救いだったのだ。

 そうか、ならば俺の取る行動は一つだけだ。


「分かった、俺はもう何も言わない、この勝負は最後まで見届けるよ」


 そう俺に出来ることと言えばそれぐらいだ。


「ありがとう、私たちの戦いに巻き込まれないように出入口傍で待っていて」

「ああ」


 リョウコの指示のとおり俺は教室の出入口傍にに立つ。


 それを見届けたリョウコは二丁拳銃を構えた。


「さぁ、もう時間がない、決着をつけましょう」


 リョウコの言葉に呼応するように、2人は構える。


 そして3人が向かい合ったその瞬間だった。


 俺達の教室が爆発した。



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