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ヤンデレーション!!  作者: GIYANA
第一部
6/41

完璧な美少女寿リョウコの完璧な思考によるデート


 約束どおり、プールの園内の更衣室入口近くで俺はリョウコを待っていた。


 女の人が出入口から出てくるたびに、リョウコかと思ってドキドキしてしまう。

 チケットを渡して更衣室で着替えてこうやって待っているけど、既に結構な時間待っていると思うが、女の子の着替えは時間がかかるものだ、我慢して待っていよう。


 リョウコの水着姿はもちろん楽しみだが、俺にとってのメインイベントは他にある。


 今日は、リョウコにサプライズプレゼントを渡すのだ。


 昨日は色々とリョウコを不安にさせてしまったのだと思う。結局疲れたリョウコを気使い、イベントはキャンセルし、夕食だけで終わってしまった。

 俺がリョウコのことを好きなのは間違いない、間違いないけどそれでもあの2人が自分のことを好きだということは不安だろう。

 それはそうだ、俺だってリョウコは信用はしている。でももし逆の立場だったら、イケメン2人が熱烈に言い寄っている姿を見たらもちろん不安になる、俺ではなくその男達のもとへ行ってしまうのではないかと。

 そして現実リョウコはモテる。あれだけモテる女の子を彼女にしてしまうと不安が一切ないとは言えない。


 ここで俺は再度デートの攻略本を読んだ。


 女心の特集が組まれていて、その中で俺の今日の、デートの前の行動を決定づけたある文句があった。

 俺は水着のポケット中に忍ばせたプレゼント、もう朝起きてから何回したか分からないが再度確認する。

 俺が見た文章はこれだ。


――百万回愛していると言われるよりも、プレゼントを渡してもらって心をこめた1回だけの愛しているの方が女は安心する。


 執筆者は女性だ。そしてこの文章から「よく聞く女が男からプレゼントしてもらったものを無くして悲しむのを男がいまいち理解できないのはこのためである」と締めてあったのだ。

 これはすごい参考になった。

 確かに、男からすればプレゼントを喜んでくれた時点で満足してしまっているものだ。そしてそのプレゼントを無くして悲しんでくれる彼女を見て更に満足してしまうものだ。


 だが女の側からするとその男の優しさが「自分のことを好きではないのではないか」と思ってしまうものらしい。

 なるほどなぁと思いつつ、俺はこれだと思った。俺はリョウコに待ち合わせ時間を昼に頼み、今日朝早く起きて一足先にプレゼントを探していたのだ。


 そして決めたのがネックレスだ、指輪とか考えたけど、まだ付き合ったばかり、まだ重たいかなと考えていたのがその理由。

 金と銀のハートが二つ絡み合うように意匠されている。シンプルで可愛い感じで、一応本物の18金らしい。

 そして値段は三千円だ。まぁ高校生ではこれが限界だ。俺は宝石店でプレゼント用のラッピングをしてもらう。

 肝心のどうやって渡すかについては、もちろんそれについても考え済みだ。


(時間はちょうど昼、だからリョウコをまず食事に誘う、席を確保した俺は、リョウコに先に注文するよう促す。そして戻ってきたリョウコの机の上にプレゼントを置く、そして戻ってきたリョウコは驚くわけだ。そして「好きだよ」って言う)


 パーフェクト、これ以上ないプラン、俺は拳を握りしめる。

 そんな感じで自分に酔っていたので、目の前の女の子がクスクス笑うまで気付かなかった。

 そこには、笑いをこらえた様子で、リョウコが立っていた。


「お待たせ」


 リョウコの水着は、ピンク色を基調としたセパレーツの水着を着ている。


「ニヤニヤしてたと思ったら突然ガッツポーズするんだもん」

「み、見てたなら声をかけてよ」

「ごめんね、だって面白かったから」


 とそこでいつもの綺麗な笑顔で笑ってくれる。

 そしてじっと俺を見つめる。、

 もちろん俺の言う言葉は一つだ。


「綺麗だ! とっても綺麗だ!」


 リョウコは嬉しそうだ。そして俺はもっと嬉しい。

 こんな綺麗な女の子が自分の彼女なんだと誇らしげに思ったのだから。


――――


 伊勢原と寿を見つめる2人の目線。

 その先には意気揚々と歩き始める伊勢原、それに笑顔でついて行く寿の姿、当然それを見つめるのは小ヶ谷マナミと城下トモエだ。


「水着を選んだのは、私たちへの当てこすりが一つ、それと、武器を大っぴらに携帯できないようにするためね」


 小ヶ谷マナミはそう分析し、「どういうこと?」と一方でいまいち的を射てない様子の城下トモエ。


「チャクラムは一見してそれとわかる武器だから水着を着ると携帯できない、城下のセスタスなんて嵌めた瞬間にそれとわかるものでしょ?」


 なるほどと頷くが寿が持っているバッグを指摘する。


「でも見てよ。あのバッグ、一緒に歩いているみたいだけど、常に蓋を開けてある、私たちの攻撃に備えるためね、そして歩き方も常に気を配っているわ」

「でもそれは寿もそうでしょう? チャクラムの方が目立たないんじゃない?」


 そこで小ヶ谷は自分の持っているバッグを持ち上げる、この中にはチャクラムが入っているけど。


「確かにね、でもあの腹黒女が拳銃を取り出して打つ時間と、私たちが武器を構えて攻撃するまでの時間、どちらが早いかしら?」

「…………」


 確かに。寿が持つ拳銃はモデルガンとはいえ威力を法に触れるぐらいまで高くしてある。武器を使った時の戦いを考えれば結果は見えている、城下トモエは忌々しくつぶやく。


「むかつくわ、そのアバズレの気づかいに、そしてそれをユウトに気付かせないことに……」

「…………」


 マナミは何も答えない。


 そんなとき、2人の肩が叩かれる。


 2人が後ろを振りむいた先、そこには見知らぬ男3人が立っていた。


「…………」


 呆然と見つめる2人に、男達3人は口々に「かわいい!」「あたりだ!」「すげぇ!」と色めきたつ。

 男達のうちの1人が笑顔で話しかけてくる。


「君達さ、2人だけ? 凄い可愛いね!」

「…………」


 何も答えず呆然と見つめる2人。


「ひょっとして暇? だったら俺たちと遊ぼうよ」


 説明するまでもなくナンパ、小ヶ谷マナミと城下トモエをナンパするために男達は声をかけてきた。

 可愛い女をナンパするなんてのはごく普通、特にこうやって水着になるような場所では良く見る光景だ。

 だからその男達を責めるのは酷というものだろう、そしてその男達は気付かないのもまた責められないのだ。


 声をかけた女2人の目の光が失われていること、そしてその目に宿る青い炎に。


「触った……」


 全てを失ったその顔で小ヶ谷マナミは呆然とする。


「え?」

「肩に……触った」


 その瞬間、小ヶ谷は狂ったようにその部分をかきむしる。


「ああああああああああああああああ!!! この肌のケアのためにどれだけ手間暇かけていると思っているのよ! 毎日シミがないかどうかチェックして! いつかユウトくんに触れてもらうときのためにシミなんてあったら一生の不覚だから! それにアンタが絡んできて万が一ユウトくんにそれを見られて浮気を疑われたらどうするんだ! 私は浮気はしないって言ったばっかりで! ああユウトくん! ごめんねごめんね! 肩を触られただけなの! これは浮気じゃない! でもこれも言い訳よ! 貴方のことを思うなら他の男が触れられることなんてないって当たり前のことだもの! どうしてくれるんだ! お前責任持てるのか!」

「……い………あ…」


 豹変、そうとしか言いようがない小ヶ谷マナミ、余りの恐怖でひきつる男達。

 その声をかけてきた男達はもう一人、城下トモエに目を向ける、黙っていたから、話が通じるかもと……。

 愚かにもそう思ってしまった。


 その瞬間、男の目線が捕らえた城下トモエ、いつの間にか両腕に嵌められていたセスタスの異様さにぞっとする。


「例えばさ……満員電車ってあるじゃない?」


 ゆっくりと、責めるような諭すような口調で城下トモエは話し始める。


「その時にさ、ぎゅうぎゅう詰めになるわけだから、当然体は触れてしまうことになるけども、それはしょうがないと思うのよ、どうしたって不可抗力というものは存在する、でも不可抗力ではない部分について、責任は発生すると私は思う」


 セスタスをつけてファイティングポーズをとる。


「いいわよ別に触れられても、私はあの女と違って細かいこと言わないから、貴方を殺せば、まぁ釣り合いは取れるかな?」


 本気の殺意は人をひるませる、それがたとえ女の子だろうと、やっと事の重大さを理解した3人は、この期に及んでも助けを呼ぶという選択肢を思い浮かべるも、みっともないという理由で押し込めてしまう。

 そして2人から攻撃の意思が発せられ、それを肌に感じ、やっと悲鳴をあげそうになったが、2人の圧力で声が出ない。


 男達が身の危険を感じるのと2人の動きは同時であった。


――――


(今のは!?)


 俺が小ヶ谷マナミの叫び声を聞いたのはちょうど2人で食事をするために席を決めたところだった。

 全部は聞こえなかったが、どうやら触られたことで激昂しているようだ。じゃあ誰が触ったのか、一番自然なのはナンパした男だろう。

 あの2人は可愛い、ならナンパされるのは全く不自然ではない。


 そしてあいつらは嘘はつかない。マナミは素直であり嘘もつかない、トモエは素直ではないが嘘はつかない。

 小ヶ谷マナミは浮気はしないと言ったなら浮気はしない、そしてそれは「どんな些細な異性とのふれあい」も含まれることに。

 そして城下トモエは、「自分だけを見てほしい」というのはそのまま次の言葉に繋がる「私もあなたしか見たくない」ということに。

 ここまでくれば結論は一つだけだ。


(ナンパした男が危ない!)

「リョウコ! ごめん! ちょっと待ってて!」


 俺は、驚くリョウコの返事も聞かないまま、急いで声がした方に駆け出す。

 俺はこの時にあった感情。


 それは怒りだった。



 俺が小ヶ谷マナミ、城下トモエを発見したとき、一刻の猶予もならない状態だった。


 見知らぬ男達3人に襲いかかろうとする2人、おそらくあの男達がナンパした男達だろう。


 その男達の表情、まだ自分の身に降りかかる危険、それの一端だけをやっと理解し始めた表情、混乱と恐怖で困惑に満ちた顔。


(それはそうだ、どうしてナンパが死につながるなんて思える!)


 俺は無我夢中で俺は2人に後ろから抱きついた。

 女の子相手といえど力の加減なんてできない、俺は一つの腕でそれぞれ抱きしめ、ありったけの力で自分のもとへ引き寄せ渾身の力で引きつけて抑えつける。

 当然、攻撃に意識に集中していた2人、自分の身に何をされたのか一瞬分からなかったようだが、自分を引き寄せた俺を確認した時に一斉に


「ユウト!」

「ユウトくん!」


 と初めて年相応の女の子の声を出した。

 だが、2人は俺の必死の引き留めを引き離そうとする。


「離してユウトくん! あいつが! ユウトくんのための私の体が汚されたのよ!」

「早く始末させてよ! 責任取らせないと!」


 それでも攻撃の意思は衰えず腕の中で暴れまわる。

 一方で俺はまだ呆然としているナンパ男3人に向かって叫ぶ。


「何してんだ! 早く逃げろ!」


 俺の言葉に、お互いに顔を見合わせると、何も言わずひきつった顔のまま、こちらを何度も振り返りながら駆け足で逃げていった。


 ナンパ男達の姿完全に見えなくなる。その時になってようやく2人の体から力が抜けて大人しくなった。


 俺はそれを確認し2人を解放する。

 周りを見てみると、既に不穏な空気を感じ取った野次馬たちが集まってきている、このままでは面倒なことになる。


「ちょっと来い!」


 俺は2人の腰に手をまわしたまま、その場を強引に引っ張る。



「お前ら何してんだよ!」


 あの後、トイレの裏側が壁との間がほんの数メートルほど空いているスペースを見つけた、人目につかない場所だったので2人を連れてきた。

 そして誰もついてきていないこと、騒ぎが大きくなっていないことを確認した俺は、2人を並ばせて怒鳴りつける。


「…………」

「…………」


 黙ってうなだれている。俺が怒るのもわかるのだろう、何も言い返さない。

 危なかった、もう少し、もう少しだけ遅かったらどうなっていたか。


「いいか、今後俺以外の男に攻撃を仕掛けることを禁止する。もしそれを破ったのなら俺はお前らの嫌いになるぞ、別に嘘だと思うなら思ってもいいぜ、たぶん破った後に後悔すると思うけどね」

「…………」

「…………」


 2人は何も答えない。俺の怒りはまだおさまらない。


「それになにより! あのままやってたらお前らが不幸になる! それも分からないで攻撃しようとした、俺はそれが許せない!」


 精一杯怖い声を出して2人を怒鳴りつける。

 心が痛むがここはちゃんとしなければだめだ。


 俺の怒鳴り声に2人はずっと俯いたまま


 涙ぐみ、しゃくりあげる声が聞こえた。


「…………」


 くそ、ちょっと泣かれただけで思わず甘くなってしまう自分の心を叱咤するが、結果的に怪我人は誰も出なかった、それは本当に良かった。

 俺はうなだれている2人の頭をポンポンと触ってやると、マナミが抱きついてきた。


「ごめんね、ごめんね、ごめんね、ごめんね、ごめんね、浮気じゃないの、浮気じゃないの、浮気じゃないの、浮気じゃないの」

「はいはい、分かったから落ちつけよ」


 そしてひとしきり頭をなでてやって大人しくなったと思ったら、急に息遣いが荒くなり


「はぁ、はぁ、ユウトくん、たくましい……」


 両足を絡ませて、密着してくる


「図太いなお前!」


 そしてそのままトモエも抱きついてくる。


「ユウト怖かった!」

「はいはい、そうか、怖かったか……」


 今度はトモエの頭を撫でる。まぁいいか、大事に至らなかっただけ良かった、それにこれだけきつく言えばこんなことはもう起きないだろう、そう思った矢先、まるで申し合わせたようにそれぞれの手を取って自分の胸に近けようとしたので慌てて


「ばか! それは駄目だ!」


 と振りほどこうとするが、2人は俺の手を放さない。


「ユウトくん、まずは私は愛人でいいから、ねぇ、しようよ」

「は?」

「ユウトお願い、好きって言って、今日だけはそれだけで後はユウトの好きにしていいから」

「何いきなり発情してんだよ! だからそんなこと出来るわけないだろう! いいか、何回も言うとおり、むぐ!」


 その瞬間、唇に何か柔らかないものが当たる。


 一瞬何をされたのか分からなかった。


 なんでトモエの顔がこんなにも近くにあるんだろうとか、そんなことを考えた。


 そして、すぐにトモエの顔は遠くなり、ウットリとした顔をしたトモエがいた。


 次の瞬間自分がキスをされたことに気がつく。


(うわぁ……唇……柔らかい……)


 その時に右手にふわりと柔らかな感触が当たる、俺の右手でがマナミの胸を触っていた。


「んっ、んっ、ユウトの手、暖かい」


 間違いない、俺の手がマナミの胸に触れている。


(う、うそ、女の胸ってこんなに柔らかいものなの!)

「城下さん、交代」

「ん、わかった」


 そして今度はマナミがキスを、トモエが自分の胸に手を持っていく。


 されるがままの俺、すごいすごい、その、もう、暴力的ともいえる女の子の香りに俺は我を忘れてしまう。


「だからやめろおぉぉぉぉ!」


 かろうじて理性を手繰り寄せて俺は2人を引き離す。流石に俺の本気が伝わったのか2人は離れる。


「はぁ、はぁ」


 そして息が切れている自分に気づく。


 危なかった、本当に危なかった、理性が吹き飛びそうとはよく言ったものだ、文字通り本当に「吹き飛びそう」になるんだ。


「2人とも! 何度でも言うぞ! いいか、俺が好きなのはな!」


「ユウト……」


 その声を聞いた時に、自分の血の気が引くのを感じる。声がした方向を振り向くと、そこにはリョウコが立っていた。



 目の前が真っ暗になる。終わった、全てが終わった。

 そうだ、俺の今日の目的はなんだっけ、リョウコを安心させるために、「マナミとトモエに俺がなびくなんてありえないよ」そんなことを言ってやるつもりだったのに。

 俺は泣きそうになる、なのにこんな姿を見られてしまった。良く見るとリョウコ手がかすかに震えている。


 そうか、突然スキンシップを図っていたのはこのためだったんだ、おそらくいきなりキスをしたのは、リョウコがいる方向に気を向けさせないためだったのだ。


「んっ、ユウトくん」


 わざと色っぽい声を出して、マナミに凍りついた隙を狙ってまたキスをされる。


「ユウト、好きなだけ触っていいよ」


 そしてトモエは俺の胸を触らせる。

 なぜだろう、俺はこの2人に抵抗することが出来ない。


「……ちがうんだ……リョウコ……俺を信じて……」


 情けなさで頭がいっぱいだ、さっきまでの柔らかさとかそんなのは全部吹き飛んで、ほんの少しでもそれに身をゆだねた自分を大馬鹿だと後悔して。

 彼女を放っておいて、俺は何をやってんだ。心配で追いかけて来てくれて、それでその光景は。


「ユウト……傷!」

「え?」


 震える手で指をさす、そこには先ほどまで二の腕の傷を指さしてきた。

 切り傷だ、おそらく2人を止めた時についたんだろう、チャクラムのせいか、それ以外にも肩の近くにも傷がついて血が少し流れている。

 傷がついていたんだ、無我夢中で気がつかなかった。


「そんなことはどうでもいい! リョウコあの!」

「ああ! なんてこと! ユウトが!」


 リョウコは、急いで荷物からポーチから消毒スプレーと、可愛らしいキャラがプリントされた絆創膏を取り出し、まるで2人がいないように俺に近づき、傷口に消毒スプレーを吹きかけ、丁寧に絆創膏を貼る。


「あ、あの、りょ、りょうこ?」


 この状況を理解していないわけではないだろうに、どうしてこんな冷静な対応が出来るんだろう。そんな俺の気持ちを気付いたのか、絆創膏を貼った後、にっこりとほほ笑む。


「大丈夫よ、私は全然気にしてないもの」

「……そうなんだ」


 リョウコの言葉に俺は何故か傷ついてしまった。

 かろうじてそういうのが精いっぱい、なんだろう、凄いショックだ、ヤキモチ、やいてくれないんだ。

 呆然とする俺をよそにリョウコは言葉を続ける。


「大丈夫だよ、ユウトは誠実な男の子だってことは分かっている。これぐらいで伊勢原君を嫌いになるなんてことはあり得ないもの」

「あ、ありがとう」


 と口では言うものの、がっかりしている。

 そんな時可愛いキャラがプリントされている絆創膏を見て、女の子は小物に凝るよなぁとか見当違いなことを考えた。

 そしてすぐそばにいたリョウコのつぶやきが聞こえる。


「仕方がないのよ、男の子は子宮で育てるものだもの……」


「え?」


 今何てと聞こうとして、リョウコに視線を動かしたその瞬間、ちょうど絆創膏と消毒スプレーをしまうところで、そして次に自分が捕らえた光景をみて、俺は思わず叫んでしまった。


「2人とも危なぁーい!」


 そう俺が叫んだ、しかしそれはもう遅くて、乾いたパシュという音と、抱きついた2人が脇腹を押えながら2人は俺から崩れ落ちた。


「~~~っ!」


 本当に痛いときはそれすら言えなくなる。そのまま2人は脇腹を押えながらうずくまっている。

 そして抑えた手からは血が滲みでてきて、そしてそれが止まらない!


「ぐ……ぐぐ……」


 声も出さずそのまま痛みをこらえている。


「大丈夫か!」


 俺はしゃがみこみ2人を抱き起して傷を確認しようとするが、2人は痛みのあまりに話すこともできない。


「でも、ユウトに惑わせたのは許さない」


 いつもの口調とはまるで違う。

 その時リョウコの顔を見る。リョウコは表情と目の光が失った状態、これは、これはまさか、まさか。


「これぐらいでユウトを嫌いになるなんて考えられない、でも伊勢原君に手を出してほんの少しでも伊勢原君を惑わせたの許せない……」

「男の子はね、一途で馬鹿なの、でもそこが私にとって一番愛せることなの、でもついふらふらとどこかにいってしまうから、自分の中で一番大事な、女としての全てがある子宮にその男の子を入れるつもりじゃなきゃ、駄目なの」


「リョ、リョウコ?」


 俺の声に気がつくとリョウコは無表情のまま俺のそばに立つ、当然2人を抱き起している俺はリョウコを見上げる形となる。


「ユウト、大丈夫よ、私は貴方のことが好き、それは間違いないもの」


 そのまま、笑顔でほほ笑んでくれる。

 場違いにも綺麗だと思ってしまう。しかしリョウコは、今下で蹲っている2人をその存在を忘れてしまったのかのようだ。


「大丈夫よ、私が今この2人を始末するから」


 そのままリョウコはうずくまっているいる2人の横にしゃがみこむ。存在は認識している、でもそれは道端で落ちている石ころを程度にしか考えていないようだ。


「自分の彼氏がモテるというのは気持ちいいものよね? それは貴方達も分かっていると思うの、だから今までのことは許してあげたの、だけどやりすぎよ。ユウトがキスを求めた時のために、いつも唇の手入れを怠っていなかったし、触れてもらうときのためにお肌のケアを怠ったことはなかったわ」


 そしてリョウコは笑う、本当にうれしそうに、心の底から嬉しそうに。


「あはははははははは! 貴方達とおんなじね!」


 そして立ち上がるとそのまま2人の傷口をけり上げる、2人は「ああ!」と叫びながらのたうちまわる。


「痛いでしょ? 私もおんなじなの、やられたことをやりかえすだけだもの」


 そして銃を構えるリョウコ。


「じゃあね、バイバイ」


 そんなリョウコを見て、俺は、リョウコを止めるとか、辞めてほしいとか、そんなことを全く考えなくて、直前のリョウコの言葉を思い出していた。


(私も……おんなじ?)


 その時にようやく理解した。


(わかった! やっとわかった! リョウコは怒ってんだ! ヤキモチ妬いてんだ!)


 俺は急いで水着のポケットの中から、今日渡そうと思ったプレゼントを取り出し


「これ!」


 勢いよく目の前にネックレスが入ったプレゼントを突き出す。


「…………」


 一瞬に何を差し出されたかわからなかったようで、銃を構えたまま呆けてしまうが、可愛くラッピングされているプレゼントを見て、俺が何をしたいのか徐々に理解してくれているんが分かる。

 そして徐々に殺気がなくなってくる。


「俺が好きなのはお前だけだ、愛しているリョウコ」

「…………」


 そして徐々に目に光が戻り、表情が現われてくる。リョウコはそのまま銃を下ろすと、手でいつの間にか頬に流れた涙をぬぐう。


「う……ん……ありがとう……大事する……」


 そうだ、泣きながら受け取ってくれた。


「開けてみてよ」

「うん……」


 銃をバッグに仕舞い込み、丁寧にラッピングを剥がして開けると、そこにみたハート形をあしらったネックレスが現れる。


「女の子のセンスって良くわからないからさ、ハート形が小さくて可愛いなって思って」

「……ありがとう……本当にありがとう……今日着替えた時に……早速つける……」


 本当にうれしそうな顔をしてくれる。良かった、凄い喜んでくれる。

 そしてもう一つ安心する、これで一応今のところマナミとトモエの2人への殺気はなくなったからだ。さて、2人の傷をどうしようか、そんなことを考えていた時。


「見せつけて……くれるわね、まったく、嫁入り前の体を……」


 マナミの声がしたので振り向くと、やっと痛みが少し治まったのかマナミ、そしてトモエが息も切れ切れにそしてよろよろと立ち上がる。


「まったく……ほんとうに「アンタも一緒」よね」


 忌々しい言葉はトモエだ。怪我を負いながらの挑発的な文言、そこで再びリョウコに殺気が宿る。


「ストップ、これ以上はやめてくれ」


 俺はお互いの真ん中に立つ。

 そして俺はリョウコを抱きしめて、2人に言う。


「マナミ、トモエ、さっき言ったとおりだ、俺はリョウコのことが好きなんだ、だから諦めてくれ」


 俺は2人を見て、はっきりと、何回言ったかもわからないが、分かるまで何度でも言おう、やはり俺の気持ちは微塵も変わらない。だから納得してもらうまで言い続けるしかない。

 その時に、2人は静かに首をふる、やはりどうしても諦めてくれないらしい。

 なんで、なんでだろう。どうしてそんなにも俺のことを……。


「ユウトくん、私の母親はね、近所でも評判の美人だったの」


 突然マナミは俺の言葉に応える代わりに、別のことを話し始める。


「だけどね、あるときね、パパが浮気してたの」


 一瞬にして空気が固まる。

 自分の言葉に応えてはいないが、マナミはマナミなりに大事なことを話そうとしているのだろう、それが理解して、何も答えずそのまま黙って続きを促す。


「そしたらあの女はどうしたと思う? ボロボロに傷ついて泣き崩れて、日常生活すら送れないありさまになった」


 それを話すマナミのその目には言葉どおり軽蔑と憎悪が滲んでいる。


「私はこの時思ったの、なんて醜いのだろうと、評判の美人? それが一皮はいだら見苦しい女がそこにいただけ、だから私は浮気ぐらいで揺るがないわ、でもそれは自分が一番じゃなくていいというのと一緒じゃない、私は自分が一番でなければだめよ、だけど二番目と三番目がいてもいいと、言っているだけなのよ」


 そしてマナミの言葉を受けて覚悟を決めたのか、トモエも喋り始める。


「ユウト、私にはね、従妹がいるの。凄く仲良くて小さいころからいつも一緒に遊んでた。そんなときにね、従妹に好きな人が出来て、めでたく付き合うことになったの」

「そして彼氏を紹介されたんだけど、私は第一印象は悪かったの。顔はいいわよ、でもなぜか好きになれなくて、そしたら従妹がいなくなったと思ったら私を口説いてきたの、ふざけんなって思った、それで予想どおり、彼氏は浮気してて、それが発覚したとき、従妹はわんわん泣いてた」

「でもころっと甘い言葉に騙されちゃって、そしてまた浮気されての繰り返し。聞けば彼氏の奔放なところに普段は何も言わなかったみたい、信じているからって言っていたけど、それは臆病の裏返しよね」

「それでもうボロボロになってね、最終的には手首を切って自殺未遂まで起こしたの、そしてそれを聞いた男はあっさりと従妹を捨てたわ、その姿を見た時に、男という生き物を知ったの」

「男は縄で縛りつけてでもしないとだめなのよ、好きな人のこと思うならね……」


 ここで2人の告白が終わる。


(そうだったんだ。あの2人が普通じゃないのは、普通ではない体験をしたからか)


 自分に置き換えて考えてみれば、確かに俺でも女性不信になる。


(でも……でも……)


 だから2番目がいてもいいとか、縛り付けるとか、それは……違うと思う。


「あら? 不幸自慢はそれでおしまい?」


 突然、その場に似合わない、明るく透きとおった声が響く。もちろんそれを言ったのはリョウコだ。

 何故か俺はその言葉に対して何も感じなかった、そして、その言葉を受けたマナミとトモエの顔は印象的だった。


 笑っている、笑っていた、そしてリョウコも同じように笑っている。


「なら私も身の上話をしてあげるわ」

「私の父はね、ごく普通の会社員、そんなに出世なんてしてないけど、仕事も家庭も大事にしてくれる大好きな父親よ、まぁちょっとだけ口うるさいけどね」

「そして母親も普通の専業主婦、私たちに料理をふるまってくれて、とっても美味しいの、お父さんは「ママみたいに料理がうまくないと男は捕まえられないぞ」って、娘相手にのろけているのよね、そうそうユウトくんにふるまったお弁当は母から教わったのよ」

「妹がいるけど、妹もごく普通の子よ、姉妹仲だって良好よ、趣味が一緒でね、一緒に服選んだりとか一緒に食事したりとかしている仲なのよ」

「口には出さないけど、お互いを尊重しているごく普通の家庭、それが私の家庭よ」


「ねぇユウトくん、分かるでしょ?」


 そして両手を広げて、いつもの、俺の好きな笑顔で。


「こんな狂った女達とは違うの、私は普通よ」


――――


キャラクターファイル‐3

 寿リョウコ(ことぶき りょうこ)

能力値

 顔A 体A 運動能力A 勉学A 女子力A

解説

 クラスで注目を集める美少女だが、「男は自らの子宮で育てるものである」という妄念と執念を持つが、当然そこらの男にそれを求めることはできないも知っている。

 そして社交性も高いことから自分の妄念を隠し、普段は無難に過ごしている。

 伊勢原ユウトの知らないところで小ヶ谷マナミ、城下トモエから命を狙われるのは日常茶飯事。女友達が怯えて全員主人公から離れていく中、それに対抗できた唯一の人間。

 小ヶ谷マナミ曰く「善悪の彼岸を超えた存在」城下トモエ曰く「恋愛悪魔」。使用武器は改造モデルガン、使用拳銃はコルトパイソン、現在は他にワルサーP38を装備している。

 その一方でコルトパイソンといった拳銃は無骨なデザインであるため、伊勢原の前で披露するのは恥ずかしいと思っている。

 3人の中では唯一相手を保護することによる妄念をみせる。好きな男を傷つけられることはその一番大事な子宮を傷つけられつと一緒として扱う。

 自分の自分での評価は「ちょっと変わった普通の女」と思っている。


※A学校上位 B学年上位 Cクラス上位 Dクラス中位 Eクラス下位


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