もう一つの道の話・3
カインは寿リョウコから見て女として見ているが、周りは完全に男して扱っている。ひょっとしてそう扱わなければならない事情があるのではないかと思ったが、そうではなかった。
どうして皆不自然に思わないのか疑問だったし、なにより学校という閉鎖された空間で女子が男として生活するのはかなり大変だと思ったのだが、だが幡羅の生活ぶりは見事だったというほかない。
一番の問題になるであろう体育は、むしろ堂々と着替えている。肌着を着用する形で胸は大きくないからサラシを巻くだけで胸を隠せるし、不自然さがない。
血筋故か身長は180センチと男と比べても高い方で「細身の男レベル」のガタイもある。
力は流石に非力ではあるが、それは細身の男相応の非力、つまり女からすれば相当に力がある。しかも非力ではあるが運動能力は、男子顔負けの運動能力を持っているから不自然に思われない。
裸を見せるのを嫌がるのは当たり前のことだが、男でも裸を見せるのを嫌がるやつがいるとは、伊勢原の弁ではあるが、そのとおりで意外とみんな不自然に思っていない。
一番の問題が体育ならば一番の難関はトイレであると考えていたが、これもまた堂々と男子トイレに入っている。人ごみに紛れ方も上手で、男は連れ立ってトイレにはいかないから、あまり気にしないのだろう。
と理屈を並べてみたものの、一連の行動で通用する理由はこれにつきる。
(年季が入っているというか、昨日今日始めたわけじゃないのね……)
男としての生活が染みついている、それこそ幼いころからのそうしてきたレベルだ。
ここまで徹底しているのだから、やはりカインという名前と同様信念に近いものがあるのだろう。
と女子会の最中にそんなことを考える。
今日は元の高校の女子達でおしゃべりの真っ最中、仲の良い友人、主に中学時代からの同級生や高校生になって仲良くなった友人に囲まれている。
臨時転校先の話題は面白い、この高校ではこうだとか、ああだとか話題は尽きない。
「聞いた? まだ小ケ谷がやったって」
ある友人の発言に場が凍り付く。
「友達から聞いたんだけどさ、小ケ谷はやばいよって言っていたんだけど信じなくて、伊勢原の目の前で伊勢原の悪口言ったんだって、冴えないよね~って」
全員の顔が強張り、緊張感が支配する。
「それで、どうしたの?」
誰ともつかない、それでも誰もが疑問に思ったであろう質問に答える。
「トイレがヤバいときに襲われたんだって、まあ結果どうなったかなんて、言いたくもないけどね」
ここから始まる小ケ谷の悪口、清楚で落としやかとかぶりっ子すんなとか、いろいろ聞くけど……。
「イカレ女、マジで最悪だよね」
そのとおりだ、友人のと言うとおり、小ケ谷はイカレ女だ、正しいと寿リョウコは思う。
だけど、伊勢原に対しての気持ちだけは本物だ、だからこそ自分も伊勢原を渡さないために本気で相手をしているのだから。
「寿はどうよ? 小ケ谷って最悪だよね?」
と話題を振られて我に返り、
「うーん、極端かなぁとは思うけど、でも彼氏のことが好きなのはいいことなんじゃない?」
「はいはい、アンタは人のこと悪く言わないからね~」
と答えるクラスメイト。
思わずフォローしてしまった自分に驚いた。
このクラスメイト達は知らないのだ、今目の前にいる自分も小ケ谷と同類であることに、自分と小ケ谷の違いは外面の良さでしかないことに。
「そうえいばさ、転校審査の噂きいた?」
「ああ、聞いた聞いた、って本当なの? なんかウチの校長が長いこと姿見せなくて、教育委員会にずっと詰めているらしいよ」
「そういえば私のところもそうなんだよね、なんで転校審査とかするの?」
「爆破されるような学校に戻りたくないだろうとか、生徒たちの心のケアがどうのって」
「でたよ、私らそんなに弱くないっての」
「どうしようかなー、受けようかな~」
「あ? 彼氏の関係?」
「はは、まあね~」
「ったくよ~、友達より彼氏かよ!」
「それにしても学校爆破なんて、犯人ってどんな奴なんだろうね?」
「どうせ、あれでしょ? 自分のことを誰も分かってくれないとかじゃない?」
「あー、ありそう、根暗だよね?」
「まだ捕まってないでしょ? 早く捕まえてほしいよね」
「小ケ谷と同類なんじゃない? 頭おかしいからさ」
「ああ、ありうる! 伊勢原にちょっかいかけたとか、渡さない~とか!」
「男の取り合いで学校爆破、なんか小ケ谷だと笑えないよね」
と目の前で女子トークに花が咲く。
寿リョウコは、笑顔でその話を聞いていた。
●
転校審査の噂が出たことには驚いていた。結構信憑性がありそうだったけど、寿リョウコについては特段関係ないことだった。別に、受けるつもりは無いし関係ない。
狂信者集団と言えど、関わり合いにならなければ意外なほどに穏やかだったが……。
――「疑似彼氏は続けて頂戴、お願いね」
これが岡里から要請されてただ一つのことだ。それが幡羅にも続くこの関係もいよいよ終わりだ。
自分の彼氏が伊勢原であることは向こうは知らない様子だが、もし彼女たちの不興を買って、敵意が伊勢原に向くのが怖い。
絶対に伊勢原は岡里たちに勝てない、女の戦いに男が絡むとこじれるだけ、翻弄されていいように弄ばれるだろう。
だから疑似彼氏は続けるしかないが、幡羅と疑似デートをして、これでは完全に浮気を疑われてもおかしくない。しかも今の自分の事情も話せないのだ。
ため息をつきながらスマホを、カバンに仕舞った瞬間に着信音がこだまする。
ひょっとして伊勢原かもしれないと期待して画面を見るものの。
――小ケ谷
と表示されて、がっかりすると同時に、珍しいこともあるものだと思って電話に出る、自分に電話をかけてくるぐらいだ、よっぽどのことだろう。
『小ケ谷よ、今いい?』
「あら珍しい、いいけど、何の用?」
『突然で悪いんだけど、手計ミズカは分かるよね?』
小ケ谷が最初に言った言葉が美味く呑み込めなかった。
てばかみずか、テバカミズカ、といろいろ巡らせると。
やっと中学時代のクラスメイトである、手計ミズカであることに理解が及ぶ。
『……え? 手計って、わかるけど、というかなんでアンタがって、ああそうか、アンタの転校先って、そういえばあいつはあそこに進学したんだよね』
私の言葉に小ケ谷は「……まあ、そうね」と答える。そうだ、名前と同時に色々思い出してきた。
懐かしい名前だ、といってもあまり思い出したくない相手だ。
彼女はいわゆる男に対して誰にでも気がある素振りをするぶりっ子女だった。
女子の敵も多いがそれをものともしない無敵女、必然的に対抗馬として私が祭り上げられ、女友達から「彼氏に色目を使われたから何とかしてくれ」とか色々なことを頼みごとをされて対応に凄い苦労したものだ。
しかも一見してバカを装っているが、彼女は頭がよく、小ケ谷と城下とは違う戦略と戦術を駆使した手法に疲れさせたものだ。
でも同じ女だからこそ分かる。彼女の好みはいわゆる「美少年系」だ。それこそ幡羅なんかが手計のストライクゾーンだろう。
小ケ谷の口ぶりからするとおそらく、手計がユウトにちょっかいをかけているのだろう、でもそんなのは問題にするレベルではない。
「心配はごもっとも、だけど言っておくけど、私たちのライバルになんてならないからね」
『……うん?』
小ケ谷の反応はあまり実感がない様子だ。まあそうか、実際に中学時代に男子たちを手玉に取っていたからなぁ、不安にもなるものか。
『あの女ってなんか変でさ、中学の時のアンタの友達だって聞いたの、今でもちょくちょく遊んでいるんでしょ? なんでもいいんだけど、気になることがないの?』
「え? 遊んでるってなに?」
突然変な事を聞かれたのでこう聞き返した。
『い、いや、私のことを話したんでしょ!?』
いきなり聞こえてきた別の金切り声にびっくりする。
「城下もいるの? というか、アンタのことを話した? なにそれ、というかクラスメイトだったけど、卒業したあと一回もあってないよ」
私の言葉に2人は絶句しているようだ。なんだろう、何に驚いているのだろう。
「だから、男の趣味なんてむしろ真逆よ、まあだからこそ対立だけで済んだんのだけど」
『今でも交流は本当にないの!?』
「だからないの! あのさ、言っておくけど、あの子、誰にでも気のある素振りとかするから、男を手玉に取って楽しむところかあって、ってユウトならそんなのに絶対引っかからない、あのさ、ちょっとユウトのこと信じてあげられないの?」
『もういい!』
強引に電話を切られた。
なんだろう、向こうはかなりせっぱつまっていた感じだけど、と思うと同時に納得した。
手計ミズカは一見してぶりっ子だけのように思えるが、先度のとおり頭がよく、自分たちのように武力ではなく戦略と戦術を駆使するからそれで少し引っ掻き回されているのだろう。
引っ掻き回されたことがある自分がそう言うのだ、間違いない。
繰り返すが手計ミズカがライバルにならないのは間違いない、むしろこっちに来てもらって、自分と立ち位置を変わってほしいぐらいだ。
彼女なら上手くやるのだろうから。
「…………」
というわけで、一応確認のために伊勢原ユウトに電話をかける。
別にたぶらかされるはずはない、だけど本気の手計は本気で厄介なのは実際に相手をして嫌というほどわかっていたので確認のための電話だ。
そんな寿の不安は、
『もしもし、お疲れ!』
と嬉しそうな声を聞いただけで吹き飛ぶのだから単純だと自分で笑ってしまう。
「ユウト、声が聞けて嬉しい」
弾んだ声が自然と出てしまう。
でもこの頃色々あって本当に会っていないのも事実、だからだろうか、一応、確認だけする、そう確認だ、これは疑っていないのだ。
「あのさ、その、突然なんだけど、手計と、仲いいとか、ある?」
『え?』
電話越しでもわかる伊勢原ユウトのキョトンとした顔。
「まあ、その、城下と小ケ谷から連絡があったのよ、手計について知っているかって」
『2人から? ああ、そういえば友達なんだよね?』
「うーん、知り合いと言えば知り合いだし、友人と言えば友人だよ」
『…………』
あっさり理解するあたり、手計とは知り合いなのだろう。しかも私と友達って言葉があっさり出てきた、そんな感じに話せる仲なんだろうか、それが分かると急に不安になってきた。
「ユウト、手計から、その、何か感じる?」
と不安に表が出てしまったのだろう、伊勢原ユウトは息をのむ雰囲気があったものの。
『何も感じないよ、そして俺自身も手計さんに対して何も感じていない、リョウコが一番だよ』
断言してくれた。
言葉だけなのに、電話越しなのに一気に安心が広がる。
やはり伊勢原ユウトの言葉は凄いと思い「ありがと」と切り出し、伊勢原ユウトは、「期末後のデートが楽しみ」と伝えて通話を終えた。
期末後のデートか、出来ればいいのだけど、とは思うと再び気が重たくなる。
「は、早いね、えっと、待ち合わせの時間にはまだ」
ここで待ち合わせの人物が来たので寿リョウコは立ち上がる。遅刻したかもしれないと戸惑う相手にリョウコはやれやれと肩をすくめる。
「遅刻してないから平気だよ、女より先に来て、なんてカッコつけたがると思ったからその仕返し」
その言葉に相手は苦笑する。
「じゃあ、遅れたお詫びにさ、クラスメイトがこのあたりで美味しいスイーツを出す店を知っていてさ、えっとカップル限定メニューのパフェが本当に美味しんだって、奢るよ」
と言いながらリョウコの自然に手をとり歩き始める、自分の連れて歩く相手の横顔をじっと見つめる寿リョウコ。
「はいはい、カイン、手を引っ張らなくてもちゃんと付いていくから」
寿リョウコは、そう言いながら少しだけ機嫌がよくなり伊勢原ユウトではない人物と共に歩き出したのだった。
●
そんな鬱々とした気持ちを発散するには女友達とのおしゃべりに限る。
悪口が多くなるのは玉に瑕だが、ひたすら喋りまくればストレスも発散されるものだ。
(はあ……)
結局、期末後のデートは無しになった、向こうは向こうで何やら立て込んでいるらしいけど、色々と不安が大きくなっているのも事実だった。
今考えればやっぱりあの時の小ケ谷の電話は変だ、別にライバルにならないぐらい2人だってわかってるだろうに、自分に電話してくる時点でかなり切羽詰まった状況だったのではないだろうか、だけど聞いたところで答えてくれないだろう。
自分も今の状況で一杯一杯だからそこまで気が回らなかった。そして伊勢原ユウトには……手計のことについては怖くて聞けない。
でももうすぐ会えるのだ、やっと、やっとこの時間に終わりを告げるのだ。
今は恒例のストレス発散、女子会に書士トークに花を咲かせている。
「そういえばさ、知ってる、小ケ谷さ、ついに浮気されてんのさ」
「うっそ、凄くない? 相手誰なの?」
「それがなんと手計なんだって!」
「うえ、アイツ!? また、すごいね、でも納得だわ~」
「ああ、私も聞いた! 確かに納得だよ!」
「確かに、手計ぐらいだよね、相手できるのって」
「伊勢原かわいそう~、しかし2人続けてあんなのに引っかかるなんてさ、伊勢原もダメだよね」
「彼女がいるからでしょ、あの女は平気でやるからね、二股とか三股当たり前、そして飽きたら捨てるってね」
「それにしてもさ、清楚とかぶりっ子とかホント男好きだよね」
「なんで騙されるのかなぁ、ちょっと考えればわかるだろうに」
「でも本当伊勢原が手計って本当なの? 男の噂が絶えない奴だったけど、タイプじゃないと思うだけど」
「複数の目撃証言あり、手を繋いでほら、廃工場あるじゃない? そこへもう何回も消えているんだって」
「あー、ホテル代もったいないからね、ヤリまくってるってことじゃん、でもあそこを選ぶとかすごいよね、不気味な場所なのに」
「しかもさ、手計、友人相手に堂々と交際宣言までしたらしいよ」
「はー、でもいつまでもつことやら」
誰が何を話しているのかは分からない。
――『何も感じないよ、そして俺自身も手計さんに対して何も感じていない、リョウコが一番だよ』
寿リョウコの頭の中で伊勢原ユウトのこの言葉が響いていた。
●
(嘘だ、嘘に決まっている……)
この言葉を聞いてからの数日間、放課後すぐに廃工場で張り込みをするのが寿リョウコの日課となっていた。
思えばこの廃工場は、かつて自分たちが戦ったことがある場所、小ケ谷と城下から逃げるために伊勢原ユウトが必死で逃げて連れてきてくれた場所だ。
あの時はまだ自分たちは付き合って間もなく、伊勢原も自分の本性をまだ知っていないころで、それに気付かれないように必死で振舞っていたころだ。
それがもう懐かしく感じる。
もうそろそろ、恋人としてのステップアップをしたくて。
まだまだしたいことはたくさんあって。
自分の気持ちが揺らぐことは無くて。
今の状況は、伊勢原ユウトがいるからこそ耐えられるのだから。
伊勢原の気持ちを信じていて。
――伊勢原ユウトと手計ミズカが仲良く腕を組んで、廃工場の建物の中に消えていったとき、涙が止まらなかった。
陰から見ている自分に全く気付く様子なんてない、手を組んで歩いていて、呼吸もぴったりで、昨日今日じゃない、ずっと2人はこういう関係だったのがわかる。
ああ、駄目だ、と寿リョウコは思う、自然と廃工場へ足が向く自分を戒める、このごに及んで、何かの間違いだと思う自分を愚かだと思う、もっと傷つくに決まっているのに、そんな筈はないという希望に縋ったって、もう現実は見えているのに。
しかも廃工場の中に入って2人を咎めるなんてことも出来ず、フラフラと廃工場の周りを歩く寿リョウコが窓からたまたま目に映った光景は、ボロイ事務室。
――中で手計ミズカが、幸せそうな顔をしながら服を脱いでいた。
いつの間にか震える手でスマホを握りしめていた。
今連絡したら、どうなんだろうとか、浮気とか謝ってくれるんだろうか、自分でも意味不明なことを考えてて。
だからこそ、突然画面にラインで伊勢原からメッセージが来たときは、スマホを落としそうになった。
このタイミングで、どういうつもりなのだろう……。
――リョウコみたいな最高の彼女がいて、本当に幸せだよ、次のデート、本当に楽しみだよ!
「っっっ!!」
見たタイミングと同時に。
「お待たせ、ユウト」
と幸せそうな声で、裸の手計ミズカが扉の向こうに消えるのは同時だった。
もう一度、スマホに視線を落とすが、もう視界が滲んでいてよく読み取れない。
「もう、しょうがないなぁ、嘘が下手なんだから、ユウトは……」
本当に男は嘘が下手だ、これでは騙されてやれないではないか、騙されてやるにも苦労させられるのだからどうしようもない。
「ひどいよ、どうして、浮気するのかなぁ……」
ひどいと思いつつ、自分のユウトへの気持ちが一切揺らいでないのが嫌だ。こんなにも好きだったなんて、浮気されて気付くなんて最悪の一言だ。
●
その後、冬休み中に何回かデートをしたが、伊勢原は手計のことを話してくれることもなく、伊勢原も寂しそうな表情を見せるが寿リョウコも当たり障りのない対応するだけで、そのまま冬休みを終えることになった。
自分でもどうしたらいいか分からない感情を抱えたまま、始業式を迎え、寿リョウコは1人で登校していた。
「ねえねえ! すっごいイケメンがいたよ!」
「ああ、知ってる!」
という声が聞こえてきた。
流石に噂になるのも早いなぁと、他人事のように寿リョウコは考えていて、校門をくぐった先に
――伊勢原と幡羅が2人並んで歩いていた。
あの幡羅が伊勢原ユウトと並んで歩いている。男を寄せ付けず、しかも初対面であるはずなのに……。
しかも2人はクラスメイトで、やっぱり並んで体育館に向かっていく。
自分の視線に気づいたのか、伊勢原ユウトは後ろを振り向いてきょろきょろとあたりを見渡すが、自分ではないと思ったのか、そのまま視線を戻して前に進んでいった。
(ほーらね、私の勘、大当たりだね)
そんな、自分の彼氏である男が絶世の美女とお互いに微笑み合っていた。
あの様子だと、幡羅が女だなんて微塵も気づいていない様子だ、伊勢原は嬉しそうな顔をしている、気づかれていない、良かった。
良かったって、この頃ずっとそうだ、冷静に返せてよかった、本心を悟られないで良かった、こればっかりだ。
あの後、幡羅が転校審査を受けると言い出し、それで岡里たちとひと悶着あったのだが、結局全員が転校審査を受けることで落ち着いた。
結果グループのメンバーは全員転校審査に合格、本当に不合格者なんてものがいたのかという噂も立ったがそれでも、幡羅を含めた岡崎軍団も今度は一緒の高校に通うことになり、幡羅の疑似彼氏も続けることになった。
疑似彼氏については、既にどうでもよく、伊勢原のことがずっと気になって頭から離れない。
だからなのか始業式の後の伊勢原ユウトの共同管理会議も動揺だけは悟られまいとして、必死に外面を繕い、結果かなりこちらが割を食う内容になってしまった。
この辛い日々は、大好きな伊勢原ユウトのためだからこそで、それで……。
(謝ってくれたら、手をついて頭を下げてくれれば、二度と浮気しないって言ってくれれば、私は……)
ふと、我に返る。
(どうするのだろう?)
解決しない悩みを抱えて、疑似彼女としての活動も続けて、虚ろに過ごす日々、既に限界が近い寿リョウコであったが、それが思わぬ形で変化を迎えることになる。
それは幡羅からの一本の電話からだった。
『伊勢原から、君を巡って決闘を申し込まれた、その場に立ち会って欲しい』
いよいよ、寿リョウコの物語に終わりが近づいていた。




