本意・胸中・真意・深意
「…………」
あの後、自宅に帰ってきて、その瞬間に悲しみが押し寄せてきて、泣いては立ち直り、泣いては立ち直りを繰り返している。
鼻をかんだティッシュも山のようになっている。
「はー、情けないなぁ」
声に出してみる、女取られて家で何もしないでグズグズ泣く、女々しいことこの上ない。
「思えば、そもそも変だったんだよな、リョウコみたいな女子が俺のこと好きで、両想いだったなんてさ、やっぱり現実は厳しいんだよな、そりゃイケメン好きだよね」
「まあ泡沫の夢ってやつだよな、多分リョウコも気の迷いだったんだろうな、俺がいい男だなんて思いこんで、幡羅のおかげで目が覚めたってところか」
「そう考えればマナミもトモエもミズカだって、そろそろ気づくはずだよな、そうだよ、アイツらの中の俺って凄い美化されているもんな」
ここに至って初めて、自分の状況を客観的に思い知らされる羽目になるとは思わなかったし、いい機会なのかもと思い始めた時だった。
ピンポーンとチャイムが鳴る。
誰だろう、郵便だろうか、悪いけど居留守を使わせてもらう、正直今はもう何もしたくない。
「ベントラ~、ベントラ~、スペース~、ピープル~」
「…………」
声に思いっきり聞き覚えがある。というか、なにしてんだよ、学校はどうしたんだよ。しかもこの言葉のセレクションがまた、俺をUFOに例えているのだろうか。
「ってことは、今俺がここにいて、どういう状況かって知ってんだろうな」
このまわりくどさを思うと納得した。ならば出なければいけないだろう。
俺は玄関扉を開けるとそこには……。
「慰めて、ア・ゲ・ル♪」
と唇に指を当ててベッタベタなセリフを言うミズカと、マナミとトモエもいた。
●
「ほら、コーヒーどうぞ、砂糖とミルクはお好みで入れてね」
俺は3人分のコーヒーを淹れるとミズカだけ口に付けて美味しい美味しと飲む。今更泣いた痕なんて気にしない、扉を開けた瞬間からというか、ミズカの言葉を考えると知っていたようだし。
ミズカは半分ぐらいコーヒーを飲むと話を切り出す。
「ねえユウト、こんな時に悪いのだけど、一つ大事な話があってきたの」
「大事な話? いいよ別に、なに?」
ここでミズカは目を伏せて、少し考えた後にこういった。
「女親友って話、無しにしてほしいんだ」
「…………」
ミズカの言葉に呆けてしまう。女親友だってことを無しにしてほしい、後ろの2人を見ると何も言わない様子で。
「なあ、ひょっとして、2人も?」
俺の話しかけに、2人は顔を上げるとまず最初にマナミがこう告げた。
「ごめんなさい、そのさ、ちょっと勘違いしていたみたいなの」
マナミの言葉を受けてトモエに視線をやると「引っ掻き回してごめんね」とのことだった。
俺は、自分の淹れたコーヒーに視線を落とし、そのまま手に持って飲む。
不思議なぐらいショックがない、そうだ、まさについさっきまで自分が考えていたとおりじゃないか。
(そっか、皆、泡沫の夢から覚めたんだなぁ)
正直、ショックはないけど、寂しさと悔しさはある。
でも振り回されたとかそんな感情はなく、むしろ一時でも複数の美少女にモテるなんて、生涯ありえないような経験もさせてもらった、このことには感謝しないといけないよな。
「ごめんね、ショックでしょ? 女って勝手だよね?」
とはミズカの言葉だ、俺は首を振る。
「いや、むしろやっぱりなって思った、おかしいなとは思っていたんだよ、こんなにも俺に対して一途だなんてさ、でも、良かったよ、皆やっと夢から覚め
突然響いたパンという音が響く。
最初何をされたのかわからず、ジンジンとする俺の頬。
「そんなわけないだろうバカ野郎!!」
怒りの焔を目に宿したミズカが俺のことを睨みつけていた。
混乱している俺に再び座るとにっこりと笑いかける。
「いい機会だし、本心の話をしようじゃない?」
ミズカはズイと俺に迫ってくる。
「ねえユウト、私はね、最初貴方に会った時こう思ったの「パッとしないなぁ」って「冴えないなぁ」って」
「おいぶりっ子女! それ以上言うと!」
ミズカの言葉に反応して怒鳴るトモエを睨みつけるミズカ。
「賭けに勝ったら、勝った方のやりたいようにやらせる、文句は言わないでね」
無視するような形で俺を睨むミズカ。
(賭け、賭けってなんだ?)
目の前で突然回り続ける事実に俺は対応できない。
「もう気づいていると思うけど、ユウトが早退した時点で後を付けさせてもらった、幡羅と寿のシーンも3人でばっちり見たの、それを見た私はさ、小ケ谷と城下に賭けを持ちかけたの」
ミズカは、足を組みかえて賭けの内容を話す。
「賭けの内容はね、私たちがユウトのことを好きだという事実を突然ひっくり返したらどうかなって内容なのさ」
にやりとミズカは意地悪く笑うと俺に語りかけた。
「私はこう賭けた、受け入れちゃうよ、あっさりと、疑いなく、迷いなく、それを安心した顔でいうって」
「「黙れ!!!」」
黙っていろと言われたマナミとトモエは同時に立ち上がる。
「信じてもらえない私が悪いの!! 私は、校内の、疑似彼女って地位だから、ユウト君が信じられない原因は私にあるの!」
「そう! そういえば、この頃私は、ちょっと振り回していたというか、だからよ!」
そのままポロポロ泣く2人を一瞥するだけでミズカは続ける。
「健気よねぇ、自分の気持ちを疑われるのは辛いよね、でもごめんね、私は性格悪いからさ、大したショックも受けていないというか、そうね、アンタの台詞を借りるのなら、やっぱりねってところかな、多分、ユウトが納得した理由はこんな感じかな?」
――ああ、やっぱり、おかしいと思ったんだよ、現実にはあり得ないもの
――思えば一時でも複数の美少女から好かれるなんていい経験したよな
――自分がもしイケメンだったらなぁ、羨ましいなぁ。
「どうかな? ユウト?」
「ち、ちが……う……」
と言いかけたところで掌でミズカは掌で口を塞がれる。
「ねえユウト、私さ、アンタのこと好きだよ、親友としてでもだけど、男としてもね」
ミズカの言葉に、ゆっくりと掌を離されて、もちろん、これだけはっきり好きと言われて疑うなんて意味が分からない、だから答えた。
「う、うそだよ、だ、だ、だって、おまえ、美少年系が、好きなんだろ?」
元々はぶりっこしてて、誰にでも気がある素振り、俺なら簡単に騙せるとか考えても、それはしょうがないよね、俺は女子から好きとか平気で言われる男だし、大体俺のことが好きってミズカが一番怪しいというか、まあ好きという言葉に嘘はないだろうけど、平気でひっくり返すに決まっているんだ。
「ユウト君、私も、貴方のこと、好きだよ」
泣きそうな顔で告白する、健気に俺を思っているマナミに俺は言葉を返す。
「もちろん、信じてるよ、マナミが、オレノコトヲスキダッテコトヲ!」
俺の言葉に、きゅっと震える体を抑える小ケ谷マナミ。
尽くされるのに俺が全然尽くしてない、とか何様のつもりだし、実は内心もう冷めているのだろうし、別にそれでも不思議どころか、当たり前だから、あたりまえあたりまえあたえいまえ、だっておれはさえないし、ともだととしてすきなそんざいだから。
「ユウト……」
辛そうに俺を見つめるトモエに安心させるべく俺は胸を張る。
「だいじょうぶだよおれはおまえたちをふあんにさせないようにがんばるしりょうこのことがすきなのはしょうがないけどおまえたちのこともじゅうぶんにたいせつにおもっているからさ」
そもそもともえだって、すごいもてているじゃないか、こくはくされてもおれはさえないはんのうしかしてないし、そろそろあいそをがつきることだろうとおもっているけど、つまりはおれなんてひつようなくてひつようなくてひつようなくてひつようなくて……。
「…………」
のどがカラカラで言葉が出なくなった。
「アンタの寿への気持ちはね、こうなんだよ」
手計ミズカは、最後に俺にとどめを刺した。
――私は貴方のことが好きです
――だから私のことを嫌いにならないでください。




