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ヤンデレーション!!  作者: GIYANA
第一部
3/41

元気で明るく快活な美少女・城下トモエ


 さて、女の子に平手打ちを食らうという経験がおありだろうか。 


 突然変なことを聞いて申し訳ないが、漫画とかドラマとかでは割とポピュラーだが、現実でそれにお目にかかるのは余りない。

 案外その経験を持っている人間というのは少ないものだと、俺は勝手に思っている。


 そんな俺の頬は、痛みでジンジンしている、平手打ちを食らってそんなことを考えている自分、目の前には俺に対して平手打ちした女の子は目をうるませて俺を睨んでいた。

 目の前の女子は絞り出すような声で俺に訴える。


「ひどいよ、伊勢原君、私はあなたのことがこんなにも好きなのに、なんで浮気するの?」


 そして堪え切れなくなったのかぽろぽろと涙をこぼす、浮気をした男に女が詰め寄る、そんな今時なんの珍しさもない二束三文の修羅場だ。


「…………」


 頬をはたかれた俺は、その痛みを放つ頬を抑えることもなく、無言で立ち、何も答えられない、それは当然だ。


「あ、あの、城下さんとは初対面だよね?」

「そうよ! だからなによ! それが浮気のいいわけ!?」


 もう1人の城下トモエについても話さなければならないだろう。


 実は彼女については名前と顔だけなら知っていた、県大会で上位に入るラクロス部のキャプテンでエース、身体能力がずば抜けている、運動神経抜群の女子というのはそれだけで注目が集まるものだ。

 だが同時に相当気が強いことも有名で、それが行き過ぎることもあるらしく、トラブルになることもあるとか。

 外見はポニーテールでまとめただけでのシンプルさだが、顔は可愛く、しかしその女っけのない感じがまた男子からの人気を集めている。


 彼女との初めての出会いは、たまたま校舎裏を通りかかった時だった。


 俺はいつものとおりマナミの弁当を食べた後、水飲み場で弁当箱を洗い、気まぐれで教室へと帰るルートを変えてみたのだ。

 自分の高校の周りは高いコンクリート製の壁で囲まれている。城下トモエを見かけた場所は、プールと校舎に挟まれた所、外からは絶対に見られることはない場所だ。

 正直言えば、あんまり雰囲気のいい場所ではない。


 その場所に彼女は男子生徒の3人と一緒にいた、そして彼女は壁を背にして、そしてラクロスの道具をしまうバッグだろうか、それを自分の間後ろにおいており、その彼女を男子3人が取り囲んでいる。

 一緒にいる複数人の男たちの目、それを睨み返す城下トモエの目、お互いに敵意が宿っている、どう見ても友好的な雰囲気ではない。


(まずい、あれってどう考えてもカラまれてるんだよな)


 どうしよう、先生を呼んでこようか、でも変にこじれるかもしれない、そんなことを考えると男子生徒の一人の声が聞こえてきた。


「おい、お前、俺の友達こっぴどくふってくれたみたいじゃねぇか」


 3人のうち真ん中にいた男がそう言いながら詰め寄る、この一言で状況は理解できた。

 確かに仲のいい友達が女の子にこっぴどく振られたら、俺はその女に対しての印象は良くない「何様?」って思うだろうけど、同時にこうも思う。


(完全な逆恨みじゃないか……)


 しかも集団で囲んでこんな形で文句を言うのはどうかと思う。当の城下トモエも同じことを思ったのか、嫌悪の表情を浮かべる。


「まぁそれはそうよ、喧嘩も1人で売れないような男の友達だからね」


 最大限の侮蔑の感情を込めたひと言、男達の空気が一瞬にして変わる。

 最初に詰め寄った男が無言でトモエの胸ぐらをつかむ。気が強いと言えど女の子、男の顔は憤怒の表情で、余程の力を込めているのだろう、トモエの体が浮かび上がる。


 その時、城下トモエの最初見た姿と違うことに違和感を覚えた。


(え? いつの間に? あれってなんだろう?)


 そんな俺の気付きに、胸ぐらをつかんだ男は頭に血が上っているようで気づいないない様子で、そのまま威嚇する。


「てめぇ、女を殴れないとかタカくくってんだろ?」


 口調こそ怒鳴りつけてはいないが内心は相当怒っているのだろう、全員がトモエの違和感に気づかない。


「…………」


 そのままそっぽを向くトモエに男は「おい!」と怒鳴りながら、胸ぐらを掴んだまま、強引に自分の顔の前に引き寄せる。


「くさっ!」


 その瞬間、城下トモエは汚物の匂いでも嗅いだように顔をそむける。


「てめぇぇ!」


 それに堪忍袋の緒が切れたのか、そのまま左腕を振り上げたその時だった。


「ふふゅ!」


 突然、妙な叫び声をあげ胸ぐらをつかんでいた男はそのまま弾き飛ばされたように地面に転がり倒れ込む。


「~~~っ」


 無言で右わき腹を押さえながらうずくまり、そのまま動かなくなった。

 突然のことに何が起きたのか分からず混乱する他の男2人は言葉が出ないようで固まっている。


 城下トモエも、急に突き飛ばされた形となったが、難なく地面に着地する。その軽快な振る舞いだけで運動神経の良さが分る。


 そしてここでやっと男達は違和感に気付き戦慄する、それは地面に降り立った城下トモエの両腕に肘にも到達しようかというグローブの様なものを嵌めていたのだ。


 だが俺は見ていた、おそらくラクロスの用具を入れているバッグなんだろうけど、胸ぐらを掴まれた瞬間に両手を後ろに回し、器用にグローブのようなものを取り出すとこれもまた器用に両手に嵌めこんでいたのだ。おそらく出しやすい位置にあらかじめ置いておいたのだろう、予め想定していた動きのように見えた。


 そして胸ぐらをつかんだ男が左手を振り上げた瞬間、体をひねり、体重を乗せての渾身のリバーブローを放ったのだ、いくら女の力とはいえあれではひとたまりもないだろう。


「女が殴れないとかタカくくってんたんだろうけどね、お生憎様」


 髪をかき上げながら嫌味を込めて言い返す。


「それにしても素人ね、胸ぐらをつかむと言うのはそれだけで一本の腕を攻撃に使えないことになるし、動きも制限される、一方で私は両腕は使いたい放題、喧嘩が弱いのは勝手だけど、それで迷惑をかけられるのは勘弁願いたいわ」

(うわぁ……)


 ひどい、女にあんなこと言われたら男は立ち直れないんじゃないか。

 城下トモエにそう言われた男はまだ起き上がれない、3対1、男対女、力も数も圧倒しているはずなのに、場は完全に城下トモエが支配している。


「どうするの? 私はどちらでも構わないけど」


 つまらそうに再び髪をかきあげて、他の男子生徒2人を見る。男達は、目の前で見せられた光景にひるみ、他の男達は無言で倒れた男の量肩を担ぎあげると、そのまま立ち去った。


「だっさぁ」


 そんな男3人を心底軽蔑する視線を送ると、グローブをバッグに仕舞い込み肩にかけるとこっちのほうに歩いてくる。


(げ! こっちくる! どうしよう!)


 圧倒的な光景に最後まで見届けてしまった俺、そのまま動けない俺、当然すぐに城下トモエは自分に気がつく。


「!」


 流石に驚いたようだ。目を見開いて俺を見つめる、なるほど、確かに化粧気というかそういうのはないけども、確かに可愛い子だ。

 気が強い女が好きな男は多いし、さばさばした性格だと聞いているので、確かにモテるだろうなと、そんな見当違いのことを考えていた。


 とはいえ、次に来るであろう彼女の言葉には覚悟が必要だ。


 結果だけ見れば、「城下トモエのピンチを黙って見過ごした」のだ、あの3人の男に対する態度から考えてみても、おそらくきつい言葉を言われるだろう。

 だが言い訳のきかない状況でもあるので、それは事実として黙って受け入れるしかない。

 その時、その城下トモエは突然目をうるうるさせる。


(へ?)


 そんな疑問に思う間もなく、城下トモエは突然俺の頬をはたいてきたのだった。



 そこから冒頭に繋がるわけだ、んで、俺を叩いた後、城下トモエは、目を潤ませたままこう言った。


「伊勢原君! 私怖かったんだからね!」


 とそのまま俺に抱きついてきた。


「…………」


 うん、これは嘘だ。あんな肝の据わった立ち振る舞いをしていて、いくら俺でも騙されない、しかも前の言葉とまったくテンションが繋がっていないし。

 だけど、それを突っ込むと後々怖そうなので。


「大丈夫? 怪我はない?」


 と一応乗っかっておくことにする。


「うん、伊勢原君がいなかったら私、どうなってたか」


 涙をぬぐいながらそう言うが、別にどうにもならないんじゃないかという言葉をかろうじて飲み込む。

 だけど、平手打ちをされた状況についてはもちろん上手く飲み込めない。

 どういうことだろう、目を潤ませたと思ったら急に平手打ちしてきて、そして急に抱きついてきて、余りの展開にあの男達ではないが混乱している。さっきはかろうじて乗っかれたけども、この城下トモエという女の子の行動が全く分からない。


「!」


 と思った時だった、突然自分の背後に突き刺さるような殺気を感じて、次の瞬間にとらえた映像は、目の前にチャクラムが2つトモエに向かってくるところだった。


「あぶなーい! 城下さん!」

「分かってる!」

「え!?」


 そういうと城下トモエは、俺から離れて後ろの方向を振り向く、そして城下トモエめがけて飛んできたチャクラム2個を正確にジャブで弾き落とす。

 弾かれたチャクラムは力を失い、そのまま地面に突き刺さる。


(す、すごい……)


 城下トモエは完全にチャクラムとは逆方向を向いていた、だから俺は飛んできたチャクラムに気づいたのだけど、間後ろのあのスピードで向かってくるチャクラムを振り向きざまに殴り落とすなんて。

 確かに凄い身体能力、そして動体視力だ、流石に噂になるだけはある。


「小ヶ谷、そこにいるのは分かってんだから、いい加減出てきなよ」


 トモエは自分から見て丁度プール棟の陰に話しかける。そしてそこからマナミが複数のチャクラムを指で廻しながら立っていた。


「アバズレ、男に媚びる女は嫌われるわよ」

「は? 媚びているのもアバズレはお互いさまでしょ?」


 敵意をこめた状態で2人は対峙する、俺は、2人の会話を聞いて驚くことが一つあった。


(……知り合いなの?)


 さっき「わかってる」って言ってたよな、どういうことだ、この2人は知り合いなのか、そんな疑問を持ち城下トモエを見る。

 その時城下トモエは俺のと目合うと頷いてくれる、俺の疑問を感じ取ってくれたようだ。


「これはカエストスと呼ばれる古代拳闘時代につけていたボクシンググローブよ、殺傷能力を高めるために鉄の鋲を打ちこんであるわ、これは便利よ、男が相手でも戦えるから」


 うん、全く感じ取ってくれてなかった。

 小ヶ谷は城下の余裕がある態度にいらついたようで、語気を強めて詰め寄る。


「城下さん、前々から言いたかったんだけど、貴方何なの? 伊勢原君にまとわりついて」

(それをマナミが言うな)

「何って、伊勢原君の彼女だからよ」

「笑えない冗談ね」


「へ!?」


 一笑する小ヶ谷だが、俺にとっては一笑出来ない言葉を言ったぞ。


「城下さん! かか、彼女ってどういうこと!?」


 その時に、ピクンと城下トモエは反応して、照れ臭そうにその髪をいじりながら答える。


「べ、べつに、か、かのじょって、言ったらまずかった?」

「いや、まずいとかじゃなくて!」

「ま、伊勢原君は恥ずかしがり屋だもんね、でもさ、彼女って言ってもいいじゃない?」


 だから違くて、そんな1人で盛り上がっている城下トモエを冷たく一瞥するのは小ヶ谷だ。


「城下、妄想もいい加減にすれば? 彼女でもなんでもないでしょ、伊勢原君が迷惑しているのが分からないの?」

(だからそれをマナミが言うの!?)

「あんたこそ妄想もいい加減にしなさいよ、あんたみたいなやつなんて言うか知ってる? ストーカーって言うのよ」


「ちょっと待ってくれよ!!」


 俺の大声で2人とも黙る。


「あのさ、いきなり彼女とか言われてもわけわかんないから! 分かるように説明してくれよ!」


 俺の言葉に、流石に空気を読んだのか、2人はお互いを指さしこういった。


「「この女が、伊勢原君の彼女とかいって横恋慕してくるのよね」」


「はは、なんだそれ?」


 一つも会話が繋がっていない。もう泣きそうだ。


「へーそうなんだ! じゃあなに? 小ヶ谷さんも城下さんも俺のことが好きで! 2人は俺を巡っての恋のライバルってやつ?」


 やけくそ気味に言い放つが2人はさも当たり前の顔でこれまた2人で


「「そうよ、伊勢原君を渡したくないからね」」


と、またハモって返された。

 そのまま俺は崩れ落ちる、そして何もしてないのに疲労が押し寄せ、顔を上げられないまま2人に問いかける。


「城下さんさ、さっき言ったけど初対面だよね? 俺のこと好きってどういうこと? 何か気を惹くような真似したっけ?」

「いいえ、でも人が人を好きになるのに理由はいらないって私は思う」


 そう、そうなんだ、頼むから質問に答えてよ。


「あのね、伊勢原君の言ったことちゃんと聞いてた? その答えじゃ、伊勢原君が分からないでしょ? 少なくともちゃんと人が理解できるような言い方しなさいよ」


 まさか、君からそんなフォローが入るとは思わなかったよ。


「そうね、伊勢原君」


 そして少し溜めた後こういった。


「一目ぼれって、信じる?」


 城下トモエによれば初めて俺を見た時に電流が走ったらしい。まさかと思い数日間悩んだらしいが、結果俺に一目ぼれしたのだと結論を下したらしい。

 ここまで聞いた俺は一つの結論を出した。この時俺の出した結論は筋が通るし、しかも美少女2人に同時に好意をもたれるという現実では残念ながらあり得ない事実を上手に説明してくれる優れものだ。


 俺はいつの間にか、どこかの金持ちの御曹司になっていて、そしてその財産目当てに2人が近づいてきている。という結論に。


 そうやって俺は思考を放棄することを決めた。



キャラクターファイル NO2

 城下トモエ(シロシタ トモエ)

能力値

 顔A 体C 運動能力A 勉学E 女子力D

解説

 俗に言うツンデレ、というスタンスであるが、ツンとデレが両極端。

 ツン時にはそれこそ人間扱いしない、デレには文字通り身も心もささげる彼女は、嫉妬に対してはステレオタイプで、直接的な攻撃行動に出る。

 しかしそれはあくまでも相手のことを思ってのこと、彼女いわく愛情の裏返しであるため、相手の体に重大な傷害を与えるようなものはなく、あくまで感じるのは痛みのみである。

 恵まれた身体能力を持ち、それが活かせる直接攻撃を好む彼女が選んだ武器は、セスタスという古代拳闘で使用されたグローブ。

 恵まれた身体能力故か直接的な攻撃力は高いものの、戦略や戦術を駆使するのは苦手。

 恋愛は積極的でなければ成就しないという考えを持つ。

 唯一得意なのは編み物、料理や家事は全然できない。

 座右の銘は「恋愛の世界は荒野である」。


※A学校上位 B学年上位 Cクラス上位 Dクラス中位 Eクラス下位


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