本心、真意、本音、真心
今日はリョウコとのデートの日だ。
恒例となった待ち合わせ場所である噴水公園。
女の子を待たせてはいけないと、待ち合わせの時間に15分ぐらい早く到着すると、既にリョウコは来ていた。
結果的に待たせてしまったのかと申し訳ないという気持ちと共に、自分とのデートを楽しみにしていてくれたのかなと思うと自然と頬が緩む。
リョウコは近づいてくる俺に気が付いたのか、笑顔で手を振りながら近づいてきた。
俺も笑顔で手を振り返して、リョウコに近づく。
そしてリョウコは俺の横を通り過ぎて、後ろにいたカインと手を組んだ。
「…………」
その姿を呆然と見つめる俺、2人は俺のことなんて存在しないかのように歩き始める。
「リョウコ!」
気が付いたら呼び止めていて、リョウコは振り返る。
「あの、どういうこと? その、どうしてカインと?」
俺の言葉にリョウコは、困ったような表情を浮かべて、こう言った。
「え? 言わないと分からない?」
●
「っっ!!」
体が思いっきり痙攣するかのように動き、目がばちっと開く。
「…………」
ぼんやりと写る模様、それは見慣れた天井、今いる場所がベッド、つまり自分が寝ていたと、そして今見ていたのは夢であることを段々と思い出すように認識していく。
少し身じろぎすると汗をびっしょりかいていることにも気づいた。
――『寿さんも、ついに彼氏ができたわけだからな』
「…………はあ」
出てくるため息に頭をかいてしまう、これだけ心乱されるなんて……。
「どうすんだよ。俺……」
自分の彼女が他の男、と思ったところで、いくら考えても俺はどうすればいいのか分からない。
前回会った時だってそんな素振りは無かった、好きだって言った時も、嬉しそうに返事をしてくれた、どんな時でも信じていたのに……。
(それが、全部嘘だってのか)
雑念を振り払う、昨日から考えることは悪いことばかりだ、だが、それでもここでうじうじしていてもしょうがないのも分かっているけど……。
「もう、学校に行かないとな」
暗鬱とした気持ちで制服に着替えて登校する、正直、今日幡羅に会ったらどうしようと思ったけど……。
●
「え? 休み?」
俺の言葉にクラスメイトは頷く、風邪を引いたとかで欠席したのそうで、クラスの女子達はお見舞いに行くかどうかの話をしている。
これは助けられたけど、問題が先送りになっただけでますます心が苦しくなる。
(どうすればいいんだよ)
もう何回も思ったこの言葉で、何回考えても結論なんて出ず、陰鬱な気持ちのままカバンから教科書を出して机に仕舞おうとしたときだった。
「あれ?」
何か障害物があって教科書が入らず、何に引っかかっているのだろうと覗いてみると。
「なんだこれ?」
中には段ボール紙で作った封筒、と言えばいいのだろうか、そんなものが机の中にあった。
当然こんなもの中に入れた記憶なんてものは無い。なんなんだと思いながらそれを取り出してみる。
――伊勢原ユウト様へ
と簡単に書かれていて、背筋が凍る。
(な、なんだよこれ……)
無機質な段ボールの封筒もどきに添えられた丁寧な字が不気味だ。
机の中に入っていることを気が付かないかもしれない、という事を阻止するためにこんな不気味なものを作ったのだろう。
中を開けろという事なんだろうけど、こんなことをする奴が作った封筒の中身なんて見たくはないが……。
ここまでして何がしたいんだという好奇心もある、俺は封筒もどきの中を覗き込むと一枚の紙、いや写真だろうか、そんなものが入っていた。
不気味さを抑えつつその写真を見てみると……。
「っっっっっっ!!!!」
叫び声をあげそうになったが、なんとか堪える。
写真、その写真には……。
幡羅とリョウコが腕を組んでいる写真だった。
(くそっっ!!)
差出人に怒りが沸いてきて、握りつぶしそうになるのを堪える。
落ち着け、よく考えろ、ここで頭に血が上ってしまっては駄目だ、何の目的かは知らないが、悪意によるものならここで血が上れば思うつぼ、冷静になることが第一だ。
今俺がやることは、分からないこととわかることを考えることだ。
まず俺の机の中に気付くようにこういうものを仕掛けるってことは、写真の内容からして、俺とリョウコのことを知る者だ。
だが表面上は俺の彼女はマナミになっている、内ケ島達だってそれを疑っている様子はない。俺とリョウコを付き合っていると知っているのは、マナミとトモエとミズカの3人だけだ。
だけど、この3人がこんなことをするなんて考えられない。
あの3人なら堂々と事実を突きつけて、正面切って向かってくる。やり方を変えたとしても、あまりこう、陰湿というか、そんなイメージはあの3人にはない。
となると差出人は分からないが、少なくとも俺がここでこの封筒を発見することを見ることができる人間なのだろうな。
とあたりを見渡すが、犯人がいたとしてももう俺が封筒を受け取ったと確認した後だろう。
よし、だいぶ落ち着いてきたぞと、写真を改めてみてみるとタイムスタンプが表示してあって。
(…………え?)
この日付、確か期末テスト前だ。確か一緒に勉強しようと誘ったけど、友達と遊ぶからって一緒に勉強するのを断られた日だったよな。
(…………)
いかんいかん、冷静になれ、ここでやっと写真の裏面を見ていないことを思い出して、震える手で裏を見る。
――今日の正午に待ち合わせ予定
メモ程度の一文、今日がいつなのかどこで待ち合わせするかも書いていない。
やっぱり、今日俺が発見するのを想定して仕掛けてある。
なんてことはない、俺が発見するのを見届けたのなら、この文章の日付は今日で、待ち合わせ場所はこの噴水広場だ。
しかも今日の正午って……今日は平日の筈で……平日は普通の学生は学校に出ているはずで……。
幡羅は今日は風で休んでいて……。
俺はリョウコのクラスメイトでもある内ケ島にさり気なく今日のリョウコを所在を確かめると、すぐに返事が返ってきた。
――マジか! 今日は風邪引いたとかでいないぜ! どうせサボってデートでもしているんだぜ! 不良だ!
「…………」
悪気のない内ケ島の言葉、もう一度俺は写真を見る。
不幸は不幸は重なることなのか、これは悪魔の誘いなのか、俺はどうすればいいのか分からなくなる。
「先生、頭が痛くて熱っぽくて、早退していいですか?」
と自分でも気が付かないまま、いつの間にか職員室に足を運んで先生に早退を告げていた。
●
早退を告げた俺に対して、余程切羽詰まった表情をしていたのだろうか、かなり心配してくれた様子で、あっさりと許してくれた記憶はある。
そして俺は、自宅に戻り私服に着替えた、補導されないように年上に見えるように服を選んだ、それが本当に効果的か分からないけど。
変装ってのは、一般に想像されるものではなく、服装を変えるだけでも十分に変装になるのだという、だからリョウコと会う時に着たことがない服を着て外に出た。
噴水広場に辿り着くと、近くにある喫茶店に入り、コーヒーを片手に広場を見ながらじっと待っている。
待ち合わせ時間は正午だという、今の時間は11時半過ぎ、そろそろかなと思った時だった。
(…………)
来た、最初に来るのは幡羅かと思ったらリョウコが来た。
「~♪」
リョウコは遠目で見ても分かるぐらいに上機嫌で、手鏡を見ながら自分の姿を気にしている。
(…………)
そのすぐ5分後に幡羅が来た、当然相手はリョウコで、リョウコは幡羅を見つけると嬉しそうに近づいて行って2人で仲良く話している。
(…………)
行く場所でも決まったのだろうか、嬉しそうなリョウコは幡羅に抱き着くように腕を組むと、俺がいる喫茶店と正反対の方向に向けて消えていった。
信じたくはなかった……。
――俺は自分の気持ちに自信を持っていた。
まあ、幡羅だったらしょうがないじゃないか。
――他の可愛い女子に迫られてもなびかないのだ、俺はもっとふらふらとしているものだと思ったけどそうではなかったのだ。
幡羅は顔は超イケメン、顔だけじゃない、女のために一途に尽くせる奴、まあ女好きなのは玉に瑕だけど。
――「俺の女に手を出すな」なんていやいや、俺らしくないかな、でもできるかもしれない。
「…………」
やっぱり、俺の女に手を出すなんて言ってのける、かっこいい自分はどこにもいなかった。




