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ヤンデレーション!!  作者: GIYANA
第三部
27/41

凶兆・前編


 新学期が始まって一か月、新しいクラスにも慣れてきたころ、それなりに人間関係も固まってくる時期であり、俺の周りは穏やかなものだった。


 マナミは変わらずに清楚やお淑やか系で売っているものの、男関係では俺が疑似彼氏をしているわけだからそこまで人間関係に変化があるわけではなく、女子達相手は、俺に話しかけなければ何とかなると理解して、ここもまた変化なし。


 トモエは、変わらず勝気な快活系で売っているものの、相変わらず告白してくる男を強烈に振っている。というのが分かるのが、告白されると必ず俺に「ちゃんと断ったよ」と報告してくる。ヤキモチ焼いてほしいのは分かるので、対応に困ったりもする。


 意外なところはミズカだった。ぶりっ子を辞めたミズカは、彼氏もいないという事も手伝い、人気急上昇中、元より機転が利くミズカだからいわゆる「派手にモテてる」という具合、前の高校の時はモテてはいたけど、警戒する男もかなり多かったからなぁ。

 まあでもそのことをミズカに話したら「へぇ、ぶりっ子辞めたように見えるんだ、やり方変えただけなのに、男はちょろいなぁ」と怖いこと言っていたのだが考えないことに決めた。


 と3人のことを何処か客観的に思うのは、もう何度も繰り返し思ったことで、その3人に好意を寄せられているなんて信じられないのだけれども。


 だからこそ俺はリョウコへの気持ちに自信を深めていた。


 恋愛は意外と自分の本性を知ることができる機会であると思う。高校になってちらほらと彼女が出来た友人のことを見ていると特に思う。


 例えば、面食いと公言する友達がいたが、実際に付き合ってみると彼女の性格のことしか話していなく、その次に付き合った彼女も、外見は全く違うタイプで、結局そいつは彼女を作る時に、見ているのは外見じゃなくて中身を好きになるタイプだったのだ。


 俺はこう年頃の男として、もっと気持ちがふらふらするかと思っていたが、そんなことは無く、リョウコへの気持ちは変わっていない。


 付き合い始めからあんまりカッコ良くない俺だけど、その気持ちだけは誇りを持っていた。


 今後も揺らぐことは無いだろうし、もし何かあっても自信をもって「俺はリョウコの彼氏だ」と断言できる。


 未だにライバルが多いし、仮にライバルがいたとしても、今の俺は勇気を持つことができるのだ。こうあれだ「俺の彼女だ」と、言えるかもしれない、これはキャラじゃないかなぁ。


 だからリョウコとの関係は順調そのもの……。


「じゃないんだよなぁ~」


 デートは続けているし、会う回数も増えているし、気持ちだって好きだってことにまったく変わらないのだけど、ステップアップするための壁が高いというか、どう進んでいいか全くわからない。


 ため息をつく俺の横で、俺をやれやれとばかりに見るのは内ケ島サイジだ。


「伊勢原、女を口説くときのコツは積極的にアタックすることだぜ」

「んー、分かっちゃいるんだけどさぁ」


「特に小ケ谷さんみたいなお淑やかタイプには、恥ずかしくて積極的に出れないだろうし、男のお前がリードしてやらないと」


 まあ、内ケ島の場合は俺の相手はマナミと誤解はしているし、中身まで相当な誤解をしているが、話を聞いてみるもの悪くないと思う。


 というのも幡羅は、全然あてにならなかったのだ。アレは完全にモテるやつの、しかも黙っていても女が放っておかないタイプなので、聞いたところでなるほどと思うだけで参考にならなかったのだ。


 という時点で、モテる秘訣や女の扱い方をしっかり聞こうとしていることがバレているのはまさに語るに落ちるというところだが。


 ここは同志たる身近な内ケ島の方が意外なヒントがあるかもしれない。


「俺のことはともかく、お前の例の彼女の件はどうなっているんだ?」


 とさり気なく聞き出そうとしたものの。


「でへへぇ、連絡とったら必ず返事してくれるんだよ、可愛くてさぁ、もうさぁ~」


 うん、聞いただけで参考にならないのは分かった、それが一発で分かる自分も悲しい。とここで内ケ島は相手のメッセージが表示されているのを見ながらぼそりとつぶやく。


「でもこの子が幡羅と同じ学校じゃなくてよかったかな」

「え?」


 思わず出てしまった言葉なのか、内ケ島は気まずそうに黙る内ケ島だったが。


「あ、そっか、お前仲いいもんな……んー、悪口になっちゃうようで悪いんだけど」


 ここで歯切れ悪く言葉を切って再び続ける。


「前にT高校に友達がいるって言ったよな、そいつは幡羅とクラスメイトだったらしいんだけど、あいつは男子たちの間じゃこう呼ばれていたんだって」


 不穏な雰囲気の内ケ島から出てくる言葉の次に出てくる言葉がよくないものであることは分かる。


「寝取りの幡羅だってよ」


 寝取りって……。


「なんか知らないが、彼氏がいる女子専門、そして彼氏がいなくても好かれている女子専門に狙うんだってさ、ぶっちゃけ男の敵だな」


「……誇張も入っているんじゃないか?」


「お前も分かるだろ、幡羅は顔も超イケメンだけど、オーラって言えばいいのか、雰囲気もやばい、同じ男の俺達でもちょっと見惚れるだろ、しかも自信に溢れて熱烈に求愛するらしくてな、彼氏がいたところで女子達は簡単にコロッといくそうだ」


「…………」


「だから太刀打ちできる相手じゃないんだ、んでそれを話してくれた俺の友達は、片思いの女子が幡羅にとられたってさ」


「取られたって、片思いだろ? それはちょっと……」


「アプローチしたのは幡羅の方だったのに、彼女がもう夢中になったみたいでさ、んで「他にたくさん彼女がいるけど、それでもいい」ってさ、健気な笑顔で言われて失恋したんだってさ、1年間の片思いがね」


「っ、それは、きついなぁ……」


 俺だったら何も言えなくなるだろうな、今更気持ちなんて告げられないし。でも正直嫉妬もかなり入っている気もするけど。


「なあ、一つ聞きたいのは本当に幡羅が故意なのかって話なんだけど」


「一回だけなら偶然だと思うが、露骨にアプローチかけるのは本当らしいぞ」


「そっか……」


「まあ、だからまあ、小ケ谷さんのことも気を付けた方がいいかもな、可愛いから余計に狙われるかもだぜ」


 と思ったら今度は別の意味でやたら深刻な顔をして聞いてくて、先ほどまでの重たい雰囲気は消えて内ケ島はモジモジする、なんだよ、男のモジモジは可愛くないぞ。


「だからな、だからというか、幡羅のこういうところを分かっているからというか、こう、変な噂も立っているんだけどな、うん、いや、俺は違うと、信じているんだけど、あの、ね?」

「なんだよ急に、はっきり言えよ」


「いや、お前と幡羅が仲が良すぎるから、デキてるんじゃないかって」


「…………」

「…………」


「まじ?」

「まじ」


「…………」

「…………」


「つまり俺も幡羅に落とされたってこと?」

「だなぁ」


「…………」

「…………」


「いくら美形つっても俺は普通に女が好きなんだけど」

「だよなぁ」


「…………」

「…………」


「誰だよそんなこと言ったの?」

「さぁ? 噂だからなぁ」


 締まらないなぁ。

 この会話のおかげでさっきの話に信憑性が疑われるが……。


(でも変というか妙だな……)


 それが本当なら派手にトラブルになるし、実際にトラブルの場面も目撃した。であるにもかかわらず、サイジの言葉は何処か他人事だ。


「なあ、幡羅が喧嘩が強いとか知ってるか?」

「え? そうなの?」

「え、いや、まあ、その、噂で、聞いたんだよ」

「なんだそりゃ、初めて聞いたぞ、誰から聞いたんだ、その友達もそんなこと言ってなかったぞ」

「…………」


 あんなに慣れた感じで立ち回りをしていたのにか、あの時俺が止めなかったらどうなっていたのか、特に喧嘩が強いなんて、男の世界じゃ一気に広まる話題でもあるはずなのに……。


 あの時の幡羅は悪いがあの時の幡羅の振る舞いは「悪い意味で考えなし」だったはずだ、ならば……。


「なあ、たくさん彼女がいるって話なんだけど、なんでそれで「うまくいっているんだ」んだ? そっちの方のトラブルが発生してもいいんじゃないか?」

「そんなこと知るかよ、女って色々面倒じゃん、だからじゃないのか?」

「……あ、ああ、そっか、な」


 なんだろう、今俺は何に引っかかったんだろう。


――――


 同時刻、学生たちでにぎわう学生で支えられている街、そのファーストフートに、幡羅が入った瞬間に自然と注目を浴びることになる。


 女子達は騒ぎ始め、男子たちは複雑な表情を浮かべるいつもの光景であったが、珍しく声をかけられることは無かった。

 ジュースとポテトを持った幡羅、その理由は明白、幡羅が待ち合わせ顔だったから。


「やーやー、久しぶりだね、幡羅」


 幡羅を見つけると、待ち合わせの相手は笑顔で手を振り、幡羅もまた笑顔で返す。


「久しぶりだね、ミズカ」


 幡羅はミズカと向かい合わせの形で座り、幡羅は再会を懐かしむ。


「父さんから聞いたよ、戻ってきてたんだね、幡羅」


 切り出しのはミズカ、幡羅も頷く。


「ああ、高校進学と同時にドイツからこっちに来たんだよ、随分迷ったのだけど、やはり祖母の祖国でもう一度暮らしてみたかったんだ」

「そういえばおばあちゃん子だったよね、どう、久しぶりの日本は?」

「あの時はまだ小学生だったからね、改めてという感じかな、だからミズカと再会できてうれしい、昔は髪は短かったのに、今は伸ばしているんだね」


 さり気なく自分をちゃんと見ているアピールに顔を引きつかせるミズカ。


「そりゃどうも、って昔のことなんてよく覚えていたね、普通に忘れてたよ」

「もちろん、小学生の時とはいえ、婚約してただろ?」

「それは子供の遊び、やだぁ、気持ち悪い~、普通に考えたら無効なのに~」

「あはは、きついところも変わってない……」


 とここで言葉を切り、幡羅は不思議そうな顔をする。


「いや、変わった……? なんだろう、雰囲気が変わった気がする」


 ここで考え込む幡羅だったが、もしかしてと思って伺うように話しかける。


「彼氏でも、できた?」

「即座に勘が働くね~、まあ半分正解と言っておこうか」


 あっさりと答えるミズカに幡羅は驚いた表情を見せる。


「聞いておいてだけど、意外といったら失礼かな」

「ふふん、無敵だからね、私は」

「違うよ、「ミズカちゃん」は無敵なんじゃなくて弱いところを隠すのが上手なだけだよ」

「ああ、そう……」

「だから誰かに変えられるような人だとは思っていなかった」

「まあ、その部分については私も自分で驚いているよ」

「そっか、良かったね、ぐっと大人っぽくなったのはその彼のおかげだね」


 ここでミズカは少し不愉快な様子で「はあ」と強く息を吐く。


「あのさ、さっきから褒めて口説く口調で話すの辞めてくれない? ミズカちゃんも気持ち悪い、ああそうか、言葉が足らないか、ごめんなさい、タイプじゃありません、照れ隠しでもありません、好きな人がいるので諦めてください、あ、そっか、アンタにこれは逆効果か」


 じろりと睨む。


「寝取りの幡羅、アンタ、相変わらずみたいだね」


 ミズカの口調を静かに受け止める幡羅。


「そう言われるのは否定しないよ、でも友人であるミズカに言われると少し傷つくけど」


 幡羅の言葉に答えずミズカは目を閉じて、そのまま黙っているミズカではあったが。


「……これも相変わらずみたいだね」


 先ほどとは違う含まれた意味を理解したのか、初めて幡羅の顔をしかめる。


「これ以上悪くは言わないでくれ、君は友人だが、それ以上言われるのは不愉快だ」

「おおう、常に女を見て女を立てて女を尊重する、男の鑑だね、さてと」


 隣に置いたカバンを持って立ち上がると「じゃあね」と帰ろうとするミズカに幡羅はキョトンとしているが、そうだったねとばかりに頷く。


「分かった、何も聞かないよ、本当に懐かしいなぁ、君は含みを持たせて周りを振り回すところも変わってない」

「…………」

「ごめん、今のは、わざだよ」


 イタズラっぽく微笑む幡羅に「はあ」とため息をつき、不機嫌気味に「じゃあね」と告げて別れる。

 女のわがままや気まぐれに何も聞かない理解し受け止める、不快感一つも見せず、そういうものだと割り切り優しくできる。


 いつでも幡羅は、女の味方だ、だからこそ男の敵なのだろうけど。


「…………」


 胸のざわつきを、手計ミズカは抑えきれないでいた。



 手計ミズカは、幡羅と別れて、店を正面から堂々と出て、そのまま堂々と向かいの喫茶店に入る。

 案内に来た店員に「友達と待ち合わせしています」と断り、待ち合わせをしていた友達2人が座っている席にミズカが座る。


「どう? 2人とも」


 ミズカに話しかけられた、イヤホンを付けた2人はイヤホンを外すと、先ほどまで幡羅と手計がいた店を一瞥する。


「なんなの、あれは」


 小ケ谷マナミと城下トモエは、呆然としていた。




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