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ヤンデレーション!!  作者: GIYANA
第三部
25/41

ヒズミ、軋み、歪み


 今の俺の状況が共同管理であるのは何回も述べたとおり、んで俺が同管理されるかについては、話し合いで行われるのも述べたとおり。


 春休みも新学期を迎えるにあたって、今後俺がどう管理をされるのか会議が開かれることになった。

 会議の場所は俺の部屋、時間は夕食後の午後8時からだ。


 参加者は、リョウコとマナミとトモエの3人、ミズカは親友枠なので話し合いには参加しない、という口実で逃げた。

 まあミズカが入るとややこしくなるから、それでよかったのだろうし、ちゃんと話さないといけないよな、本当に。


 食事を終えてコーヒーを飲んで一息、いよいよ会議が始まる。それを察知した全員がピリピリしている。


「思えば、こうやって会うのは久しぶりね、元気だった?」


 最初に口火を切ったのはリョウコ、それに反応したのは小ケ谷。


「ええ、おかげさまで、ねえ寿、部外者の筈の貴方がここにいるの?」

「部外者はひどいわ、その件を話し合うためにいるのでしょう? 小ケ谷ったらもう」

「そうだよ小ケ谷、あの件についてはもう終わったことなの、時間の問題だというのは事実なのだから、焦ることは無いよ」


 いきなりこれ、お願いだから仲良くしてほしい、仲良くなれると思うのだけど、駄目なのかなぁ。

 しかも微妙にミズカの件も絡ませているのがまた、リョウコはいつものハッタリだと思って相手にしていないみたいだけど。


 そういえば表面上は仲よく裏で足を引っ張り合い、優しく評判を落とすのが女の世界、と俺のおませな従姉妹は言っていた。

 本当によくやるよなとは思うが、でもこの3人は、どっちかというと裏で足を引っ張り合うより顔面突き合わせてガチンコバトルするよね。


 んで久しぶりとはそのとおり、こうやって3人が顔を突き合わせるのは確かに3学期の始業式以来だ。


 リョウコは、向こうの学校で色々と忙しくしていたみたいだから、なかなか会えなかったからなぁ。


 ちなみに会議に俺は参加しておきながら発言は禁止されている。理由はこじれるからだそうだ。事の成り行きを見守ってほしいとは3人に言われた。


 意味はまったく分からないが、従う以外に選択肢など当然あるわけもなかった。


「筆頭管理者であるというのは、貴方がユウト君の寵愛を受けているからこその立場であって、貴方の権限の強さを表すことではない」


 とは小ケ谷の発言ではあったが、リョウコは首を振る。


「いいえ、権限の強さを表すわ、だって恋人だもの、私の許可があるからこそ共同管理でよ?」

「冗談が過ぎるよ、また最終決戦を起こしたいの?」

「…………」


 この件についてトモエも同調する。


「私も解決策に何度も最終決戦を起こすのは反対、何度も同じことをしていると隙ができる、その隙を突かれて、私たちの人生が終わるようでは本末転倒、それについては共同見解であると解釈しているけど」


 こんな感じでもう二時間ほど、続いている。

 相変わらずの癖に、一度設けた休憩中は、マナミのコーヒーにトモエが買ってきたケーキを一緒に食べている姿は相変わらず親友同士にしか見えなかった。


 そんな感じで進んでいるのなら後退しているのかわからない会議は続き、その結果、以下の定められた。


一つ、筆頭管理者は寿リョウコであることとする

一つ、筆頭管理者は、一度決めた掟を遵守する義務と同時にそれを監視する権限を持つが、変更する権限は持たない。

一つ、掟を破った人間については、共同管理者から除外とする

一つ、掟の変更は3人に合意が必要であることとする。その場合は提唱した本人がその都度招集をかけること。


 これが柱、続いて細かい細則。


一つ、小ケ谷マナミの学校での「疑似彼氏」としての地位は保証されるものとする、代わりに校外デートは認めない。

一つ、城下トモエの「校外デート」を週に二日設ける代わりに、学校内での接触は最小限度とする。

一つ、自室での2人の伊勢原へのアプローチは限度を設けず、受ける受けないは伊勢原の自由であり、寿がそれにより「浮気」と判断するかは一任される。

一つ、上記三つの掟に反しない限り寿の自由は認められる。

一つ、男友達との遊びについて、上記の掟を遵守するに限り伊勢原に一任され、男友達と遊ぶ際には全員は邪魔を一切禁止する。


 以上。


 これが決まった時、日付は既に変わった時間だった。



 会議終了後、夜も遅いという事で、泊まっていくことになった、というか全員最初からそのつもりだったようで、3人は会議が終わった後、パジャマを取り出して風呂の準備を始めたのだ。


「それにしても、ずいぶんこっちが割を食う内容となったわよね」


 俺の隣で布団で寝ながら呟くリョウコ。

 確かにそのとおりで、俺がリョウコと会える時間が結構制限される形になってしまった。とはいえマナミとトモエは「恋人なのでしょう、それぐらい享受しなさい」とあっけらかんとしたものだった。


 でもミズカとの一件で、マナミとトモエは俺のいう事はちゃんと聞いてくれるし、やりすぎない範囲というのも理解しているようだから、俺はあんまり心配はしていないのだけど。


「大丈夫だよ、俺はリョウコが一番だから、それは変わらないからね」

「ありがとう、もう、本当にあの2人は……」


(リョウコも変わったよなぁ)


 男は女の全てである子宮で守るべきである、というのがリョウコの妄念であるけれど、マナミとトモエと同様にそれもかなり和らいでいる感じはする。

 これは良いことなのだろう……と思うだけど、ある意味普通になったら、こう俺の「自分の異常なところをちゃんと見てくれている」というアドバンテージが無くなるわけだから困ったことになるのかも。


「どうしたのユウト?」


 と凄い見ていたのか、リョウコは嬉しそうに話しかけてくれる。


「ううん、なんでもないよ」


 ニコニコとお互いに見つめ合う時間。

 ここで雑談に花が咲く、リョウコは臨時転校先でも一目置かれていたらしく、いろいろ苦労もしたそうだ。

 話しながらも、俺のリョウコへの気持ちはますます強くなる、こんなに美人で性格もいい女子が俺の恋人なんだ、リョウコのことは大事にしていこうと思う。幡羅ではないが、俺がしっかりとしないとな。


 あ、幡羅で思い出した、そういえばリョウコの臨時転校先って。


「リョウコ、幡羅って知ってる?」

「え!?」


 と分かり安いぐらい動揺するリョウコ、まあ知っているのはそうか、あれだけ美形だものな、知っていて当たり前か。

でもここまで動揺するのかな。


「俺さ、幡羅とクラスメイトになったんだよ、あいつ、転校審査で転校してきたんだよな」

「そ、そうなんだ、転校審査を受けるって、噂があったけど本当だったんだ、何も言わなかったからなぁ」

「へえ、んでさ結構気が合ってさ、いい奴だったし、友達になれそうかなって」


「駄目よ!!!!」


 突然叫ぶリョウコにびっくりして俺は固まってしまった。


 リョウコは自分でも大きな声を出したことにびっくりしたようで、口をキュッと結ぶとすがるように俺の手を握りしめる。


「ご、ごめんなさい、大声を出してしまって、べ、別に、何がダメという訳ではないの、えっと、そう、そうね、ほら、男の子って友情を大事にするじゃない、まあそれはいいのよ、男の子のそういうところはいいなって思うし、女同士はないからさ、それである程度、こう、二の次というか、私との関係をないがしろにされても、あ、でもでも、それを許すのが女の甲斐性だと思うし、で、でも、本当にないがしろにされると、もちろんそれは嫌、というか、ね、ユウト?」


 早口でまくし立てるリョウコに俺は」


「いや、ないがしろなんて、しないけど」


 そう返すのが精いっぱいで、


「ええ、もちろんよ、疑うようなことを言ってごめんなさい、ユウト」


 手汗をびっしょりとかきながらも握りしめる必死なリョウコに俺は何も言えなかった。



 次の日、午前中の休み時間中にちょっとした事件が起きた。


 トイレに向かった時に人だかりが起きているのでどうしたのかなと思ったが、野次馬から漏れ聞こえる声を拾うと、当事者は女子2人みたいだったけど、剣呑な雰囲気だ。


「なんか喧嘩みたいだぜ」


 隣にいた友人で中学時代からの友人である、内ケ島サイジに話しかけられた。


「喧嘩? なんで?」

「さあ、あんな感じでずっと黙っているんだよな」


 確かに当事者の女子2人は、お互いに俯いて黙ったまま何も言う様子はない。


「ちょっとどいて!」


 とここで野次馬をかき分けて柏合先生が来て、怪我をしている2人に駆け寄る。



「ケガしているじゃない! どうしたの!?」


 と2人に駆け寄って間を取りなそうとするが、お互いに頑なに口を開こうとしない。

 答えない2人に柏合先生が困っていると、他にも血相を変える先生たちが駆けつけて、中には校長先生まで来た。


 結局柏合先生が、保健室に連れて行き事情を聴いたのちに対処することになり、その結果「理由は言えないが、喧嘩をしたことは申し訳ない」と頑なに両者が主張したことにより、厳重注意という事で終わった。


 先生たちも転校審査の件があるせいか、かなりピリピリした様子が伝わってきて、こうやって決着と言えないような決着で幕を閉じたことになる。


 個人的にあの2人の雰囲気は、あの雰囲気は、こう、どことなく、リョウコたちを連想させるような気がしたのだけど。



「?」


 昼休み、この喧嘩のことを話した時に、キョトンとした顔をしたのはマナミだった。

 一般人に手出しを出して位はいけないと言い聞かせていたから、約束を破るとは考えてなかったもののどうしても引っかかっていたのだ。


「やっぱり、違うのか?」

「ええ、私が知る限り、あの女共2人は、特に制裁対象ではないけど」

「…………」

「悩んでいるユウト君もかっこいいよ、はい、あーんして」


 差し出されたおかずを食べさせてもらいモグモグと食べる。

 とにかく管理会議においてマナミは疑似彼氏に凄い執着心を見せていた。校外デートをあっさりと諦めるほどに。

 んで、昼飯時に屋上で手作り弁当を食べることが、日課となっている。


 これについては、俺も飲むしかなかった、リョウコと付き合うことが公になると、ミズカの件でもあったように二股扱いは非常に目立つのだ。

 別に特にトラブルはなかったけど、どうしても奇異な目で見られてしまうものだ。


 ここで小ケ谷は「私もあの女2人を見たけど」とここで言葉を切り、考え込む。


「……んー、でもあれは多分……」

「え?」

「ま、私達には関係ないことだよ、なにか気になるの?」

「いや特に、いやさ、ミズカの件もあるから」

「あの女は例外だと思うけどね、そう何回もあるわけじゃないから」


 余裕という様子のマナミ、いつもの考えすぎだろう、そう思うことに決めた。



 マナミとの疑似彼氏は、放課後までは含まない、そして今日トモエから連絡を受けて、放課後教室からラクロス部の練習をじっと見ている。


 ラクロスなんて全然ルールは分からないけど、トモエが中心になって活躍しているのは見てわかる、流石運動神経は凄いと思っていたけど流石だ。溌溂としたトモエに素直に尊敬の念を持てる。


 トモエとの校外デートは、意外にもオーソドックス、素直に従うマナミに、リードをさせてくれるリョウコ、そしてトモエは俺をぐいぐい引っ張るタイプだ。


 自分の好きなことに付き合ってそれを共有したいのと事なのがトモエらしい。そんなデートの最中に。


「部活仲間がさ、何か変なんだよね」


 校外デートでそうこぼすトモエ、聞いてみるとレギュラーの1人がこの頃動きのキレが悪く、最初は調子が悪いだけだと思っていたらしいが、どうやら理由は体調だけではないらしい。

 それとなく理由を聞いても黙っているだけで何も答えてくれなかったようで、心配しているとこと。

 そういえば今日も同じようなことがあったと思った。


「なあ、勘でいいんだけど、原因とか分からないの?」


 俺の問いかけにトモエは黙っている。これはあれだ、見当はついている顔だ。だけどそれを言っていいのかどうか迷っている顔でもある。


「さあ、どうなんだろう、ね」


 歯切れの悪い回答、見当は付きつつも話してはくれなかった。こう、今の感じはマナミと一緒、何と言ったらいいのか、関係ないとまではいわないが、どうにもできないだろうといった類のもののように感じた。


 まあ、特に気にすることではないだろうと結論付ける。


 それよりも、明日はいよいよリョウコとのデートの日だ。



「~♪」


 共同管理の掟は一見制限をかけられているようで、相当の自由を認められていると俺は解釈している。だから掟を吟味し、リョウコとの時間がたくさん取れるように組み立てたものだ。


 今日はどこに行こうかとウキウキ気分で待っていると、


「お待たせ、ユウト」


とリョウコが注目を浴びながら現れた。


 今日は白を基調とした清楚系で来てくれた。どんな格好でも似合うけど、俺が言う言葉は一つだけだ。


「似合ってるよ、リョウコ」


 そして俺の言葉にリョウコもこう答えてくれる。


「ありがとう」


 俺とリョウコたちのデートも落ち着いたものだ、お互いに行きたいところや食べたいものを食べる、デートは内容も大事だが一緒にいることが目的、というのはよく言ったものだ。


(ああ、いつも綺麗だなあ)


 付き合って半年たつのに、この気持ちは薄れるどころかより強くなる。俺も頑張らないとなと思った時、噴水広場に辿り着いた。

 丁度散歩している最中で、少し疲れたところだったから俺は自然に言葉が出た。


「リョウコ、美味しいジュースが出る店を知っているんだそこに行こう」


 俺の誘いに「もちろん」とリョウコが応じてくれて訪れた店。


 ジュースを頼んだところで「そういえば」と思い出す、ここはジュースにアベックストローがあることを思い出して一気に恥ずかしくなった。



「どうしたの?」

「い、いやその」


 としどろもどろの俺だったが、店員さんが持ってきてくれた、ジュースを見て理解したリョウコはくすくす笑いながら一緒に飲んでくれた。

 飲みながらあたりを見渡すと、丁度七組目の入ってきて、俺らと同じようにジュースを注文していた。


 あ、そうだと思った時に、女性のアナウンスが店内にこだまする。


『現在当店には七組のカップル様がご来店いただいております。輝くジュースをそれぞれにお配りしたストローで一斉に飲めば虹色が出揃います。さあ、お客様方、ジュースをご賞味ください、これは七組のカップル様が揃った時にだけ行う、虹色のサプライズです』


 次の瞬間に店の照明が落ちて、それぞれのジュースが虹色に輝き、一斉にジュースう飲むと文字どおり虹となった。


「わあ、綺麗……」


 喜んでくれている様子のリョウコにこっちもホッと一息、確かに綺麗だよなぁ。と思った時だった。


「ユウトが、こんなこと知っているなんて意外、ひょっとしてデート本かな?」


 と少しからかうような曇りない笑顔のリョウコを見て。


「ば、ば、ばれたかぁ、でも、一応俺も、色々考えているんだよ?」


 なぜか言葉が切れ切れになってしまって、俺の切れ切れになった言葉を図星と解釈したリョウコの笑顔。


 俺の胸は何故か罪悪感で一杯だった。


――――


 「無題」と題されたラインのグループのなかで、5番の机の中に暗号によるコード表の手書きによるメモ書き。


主要コード一覧。


――100・記載不要

――111・その他大勢他

――112・特筆するべきではない行動等

――201・ターゲット1(昨年の10月15日に追加)

――202・ターゲット2(今年の1月10日に追加、同月28日に解除)

――311・ターゲット3(今年の4月12日に追加)

――301・ターゲット4(今年の4月12日に追加)

――302・ターゲット5(今年の4月12日に追加)


――コードの使用方法


日付・時刻・用件内容の順番

順番は、助詞を意味する「0」を間にして補完する。

仮に201が1月1日に午後3時15分に友人と食事をしたと仮定するのなら。


――1115150201011101


と表記、分解すると。


――「11」1月1日

――「1515」15時15分

――「0」助詞

――「201」ターゲット1

――「0」助詞

――「111」その他大勢

――「0」助詞

――「1」食事


となること。


――細部コード表一覧


――1・食事


 以下適宜加えられた様子で細部コード表の羅列が続いていく。


 メモ書きの最後に特例コードがたった一つだけ記されていた。



――0・緊急事態発生



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