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ヤンデレーション!!  作者: GIYANA
第三部
23/41

因果律


 俺とマナミとトモエがミズカ相手に戦いを繰り広げる少し前、学期末テストがそろそろという時期に「ある噂」が流れていた。

 本当なら噂なんてすぐに消えるものだが、肝心かなめの内容がかなり無視できないレベルであったことと、同時期に校長先生が長期間姿を消し、教頭先生が校長先生の仕事を代行することになったことでより一層信ぴょう性が増すことになる。


 どうやら校長先生は教育委員会に詰めており、臨時転校先すべての校長先生がそこに集結しているというものだった。

 結果、試験前にもかかわらずかなり浮ついた雰囲気になってしまい、業を煮やした先生がこう言った。


『お前たちが気にしている件についてはいずれちゃんとした形で発表することになるから、今は試験に集中しろ』


 これで暗に噂が真実であることが肯定されることになり、一応の終息は見せたものの、結局終業式にも発表されず、この噂の件については正式に郵送される形になるということが臨時に出勤してきた校長先生の口から告げられた。

 終業式に出席していた先生方の顔を見るに、二転三転する対策に色々と振り増されているのは先生たち同じだったようだ。


 まあ俺はこの時、ミズカのことでそれどころじゃなかったし、噂が真実でもそうじゃなくても関係ないから特に気にすることもなかった。


 だからこの郵便物が届いた時も、中身には興味はあったけど、「参加するつもり」は全然なかったけど。


 封を切って郵便物を取り出した先に入っていた便せんはこのようにタイトルがつけられていた。


――転校審査の実施結果について



 ことの発端は、臨時転校をした生徒達からこのような声があがったのが始まりだった。


――爆破されるような学校に戻りたくない。


 いわゆる再び犯人が学校を狙うのではないか、今度は人がいる時に爆破されるのではないか、という点を不安に思うからもとに通っていた学校に戻りたくないというものだった。

 この声は複数あがることになり、内容が内容なだけに県教育委員会は無視をすることが出来ず、かなり頭を悩ませる事態となった。


 結果、県教育委員会教育長は、臨時転校先の校長全てを招集し、対処方法について議論することになった。


 かなりの論争があったそうだ。


 高校は教育機関である以上、主体は生徒達であるべきだという声と、義務教育ではない以上必要以上の対策は取る必要はないという声。

 しかも高校入試は公立高校は、受験者全員に同じ問題を解かせ、平等な入試を課して、規定された学力をクリアした生徒たちだけが入学を許可される現状を鑑みれば、迂闊にその声を受理することは不公平の誹りは免れないことも事実だった。


 結果、県教育委員会委員長は会見を開き「これは本年限りの特例である」というのを繰り返し述べた上で結論を述べた。


――それが転校審査の実施である


 つまり、臨時転校先でそのまま学生生活を送りたい場合は、教育委員会による転校審査を受ける。


 これは二つの項目により調査をされ、素行調査と元の高校の成績と転校先の成績の比較をされる。


 つまり先に述べた「1ランク上の臨時転校先の高校で十分な成績が取れるか」という点である。


 学力審査が高校入試である方法に則る方法と内申点を考慮する両方の方法を局所的に採用した審査を実施したのだ。

 そして更に公平を期すため、臨時転校先からも元の高校に審査を受けられる内容も実施することになる、これは臨時転校先に偏差値が1ランク下の高校も含まれていたからだ。


 審査と言えど入試と同等に扱うとして、事前申し込みを行い、冬休みの一日を使って実施されることになり、不合格も十分にありうると繰り返し説明された。


 というのが、大まかな経緯、元凶の当事者の1人である俺はこれに大いに罪悪感で胸がチクチクしたものだ。


 とはいえ、実はこれは声を上げた生徒たちにとっては不安というのはちゃっかり建前だった部分もあるのだ。

 この不安であるという声は言い方を変えればこんなふうにも取れる。


――臨時転校先の生徒になりたい。


 クラスメイト達で色々と連絡を取り合って、転校審査を受ける受けないの話で盛り上がっていた時の話だ。


 転校審査の受験をすると言った友人たちの一番多い理由は臨時転校先が第一志望校だったということだった。


 臨時転校先にはリストからの選択から本人の希望を元に選考、とはいってもほとんどが希望は通らない形になったのだけど、リストの中から1ランク上の高校も含まれていたのだ。

 他には臨時転校先で入部した部活が気に入ったとか、仲には彼氏や彼女が出来たという理由もあった。

 とまあ生徒達は、先生方が思うほどか弱くもないのだが、なんてことないことを大げさにとらえて過保護になるのはどうしてなのかと思う。


 こうやって特例の転校審査実施の結果だったものの、倍率は1.1倍程度で落ちた生徒もいたらしい。らしいというのは落ちた生徒の直接の話もなく、合格者は番号でのみ発表になったためであるものの、実は落ちた番号は存在しないとか色々噂が立つことになったが真実は不明ってことだ。


 とまあ友達の会話の中でこうやって色々と出てくる、クラスメイト達の何人かは臨時転校先にそのまま転校することになり、友達でお別れパーティーを開くことになった。


 とはいえ長々と説明したこの転校審査の話は、興味がない人物からすれば特に関係ないことなのだ。


 そして俺は転校審査を受けることなく、臨時転校先から元の高校に学籍が写り、高校2年生として進級する。



 学生の特権である長期休み、だが時間は有限であり、長期という言葉もまた有限である。

 偉大なる春休み様の効力は昨日をもって尽きてしまっている。


(今日から学校かー、早く夏休みが来ないかなぁ)


 そんなことを考えてベッドで寝ながらまどろんでいる、さて、そろそろ起きないといけない、でもまだ寒いのだ。

 と悩んでいた時だった。


「ふゆ!!」


 自分でも意味不明な言葉で飛び起きと、頬を手で押さえる。


 なぜか、それは頬にキスをされたからだ。


 こんなことをする人物は、というか犯人は目の前にいた。俺は犯人をじろりと睨む。


 そこにはエプロン姿のミズカがニコニコしながら立っていた。


「おはようユウト、朝ごはん出来てるから顔洗ってきなよ」

「いつもありがとう、というか俺たちは親友同士でしょ、キスはしないものでしょ」

「え、男同士は親友同士でキスとかしないの?」

「するか! 女同士はするのかよ!」

「んー、別に、レズとかじゃなくてキスするってことあるよ、私もあるし、友達もあるなぁ」

「そうなのか? まあ女の子同士って距離が近いよなって思ったりするなぁ」

「そうだよ、だからなんてことないの、さあさあ早く準備をしたまえよ」


 とそのままキッチンに姿を消すミズカであったが。


(……男と女の親友でキスする理由にはならなくないか?)


 と思ったが、これ以上突っ込むと蛇が出てきそうな気がするのでやめておく。

 怒ると怖いんだよなコイツは、と考えながら制服に着替えてリビングに出るために襖をあいた先にふわりといい香りが鼻孔をくすぐる。襖をあいた先に、色とりどりの朝食が並べられていた。


 マナミは俺の好物を主体だが、ミズカの場合は栄養のバランスを考えたものだ。

 女子力高いとか思うけど、昨日は「両刀使いをかっこよく言うとどんな感じになるんだろう」とか意味不明なこと言っていたし、自宅の格闘ゲームに夢中になってた。。

 ぶりっ子の癖に行動と思考が男っぽくなるときあるんだよな。


 お互いに座る形でいただきますをして朝食を食べ始める。


「美味しい! いや、こうやって色々なメニューを考えて作れるなんて本当に凄いよな」

「食べてくれる人がいるからだよ、家で1人の場合は相当に手抜きだよ」


 そんな感じで会話が弾む。


(もうすっかり、ミズカがここにいることも慣れたなぁ)


 さて、恒例の状況説明からしなればならないだろう。


 ミズカとの戦いの後、女親友となったことで一応の決着をつけたのはご存じのとおり。

 んで、ミズカと一戦交えているときに、期末テストがあったのも述べたとおりで、出来は散々だったとも述べたとおりだ。


 具体的に言えば、苦手な暗記系、日本史と世界史両方で赤点を取ってしまったのだ。


 赤点の答案を前にして何とか小細工を試みたものの、結局どうにもならず、ファックスで両親の元へ答案を送信。

 結果、以下の回答をもらった。


――2か月の仕送り0円の刑に処す


 これだけ、シンプルにこれだけ、特に感情のない一文のみ、だからこそ伝わってくる両親の怒り、本来なら日雇い即払いバイトをして糊口をしのぐところをミズカの件も重なりバイトも出来ず、貯金を切り崩す日々を送っていたのだ。


 あの命を懸けのギャンブルに身を投じていた裏側で同時進行していた切実な生活困窮に泣くしかない。


 んでミズカの件が解決したものの体を痛めていたから、医療費までかかり、復活した時は貯金がいよいよヤバいときであった。


 家賃光熱費は、親の口座から引き落とされる形になっているものの、生活費が全く足らない、そして俺は毎月をギリギリの生活を送っている。


 だから当然今月、まずは食費を稼がないとどうにもならない、となると前のように日雇労働で給料即払いのバイトを探そうと思った時だった。


「いいよ、私が世話する」


 これはミズカの台詞だ。

 この状況を気にするかと思って言わなかったのだが、カマをかけられてまんまと白状する羽目になってしまったのだ。

 無論水に流したからと断ったが「けじめを取る」と引く様子はない、結局世話するしないで口論になり、最終的に「バイトしたら絞め技で失神させて童貞奪うぞ!」という凄い怖い顔でもの凄い脅され方をして渋々了承することになった。


「はいこれ、今月の生活費」


 という訳で、差し出してきた茶封筒を受け取る、少しだけ重みを感じる封筒。

 ま、せめてものと、以前仕送りの額を聞かれた時に半額を答えておいた、気遣いという気遣いではないが、まあこう、男のプライド、かなぁ。

 と思って中身を改めたところ……。


「…………」


 しっかりと伝えた額の倍入っていた。


「あ、あの……」

「仕送りの額が少なすぎるぐらいすぐに分かるっつーの、兄貴と姉貴も大学時代は1人暮らししてて親から仕送り受けていたの、だから一発で嘘だってわかった」

「……このお金はどこから」

「普通にバイトして貯金していたお金だよ」


 バイト、学歴主義の家庭にしてはそんなものを認めるのかと思い聞いてみると、ミズカは、例の指定校推薦を採れる評定はキープしているため「学生としての義務を果たしているから権利を認める」という理屈でバイトを認められているらしい。

 もちろん成績が下がれば「学生としての義務を果たしていないから権利は認めない」とバイトを辞めなければならないらしい。


「じゃ、行こっか」


 というミズカの声のもと、続いて向かったのは日用品雑貨の購入。

 1人暮らしをしている人にはわかるだろうが、トイレットペーパーとかシャンプーとかの買い出しは重要だ。

 これもミズカと一緒に買いに行き、日用品のこだわりを聞かれて、会計は全部ミズカの財布から出た。

 その後スーパーで買った食材もすべて出してもらって、いくらなんでもと視線で抗議をするもやっぱり怖い顔で睨まれて何も言えなくなった。


 共同管理の合間を縫って炊事洗濯をするようになり、時折食事を外で食べた時とか、とにかく2人でお金を使う時は全てミズカの財布から出る仕組みになっている。

 リョウコとのデート代も出すと言われた時は「それだけは勘弁してくれ」と泣きそうな顔で抗議したらそこだけは引いてくれた。


(なんか、ヒモみたいだなぁ)


 と考えるのは何度目だろうか、いや、これは結構堪えるぞ、ヒモ生活に憧れなんて持つ輩もいると聞くが、これは精神的にしんどい。


 これが現在の状況、でも取り戻した平穏の日々であることには間違いない、と思ったのだが。


(結局恋人としてのステップアップが出来なかった……)


 リョウコとは相変わらずのデートを重ねてはいるけど進展なし、なかなか次の一歩を踏み出せないでいた。

 向こうもなにを考えているか分からないし、きっかけがあればとは思うけど、思い切っていけばいいのか分からない。

 そんな悩んでいる俺にミズカは優しく俺に諭してくれた。


「ユウト、ステップアップを考えているのなら、思い切って押し倒すのも手だよ、仮に嫌だって言っても、男の子のちょっと強引なところを本心は待ってたって思っているものなのだから」


(なんだろう、嘘くさい……)


 この言葉の全部に嘘はないのだろうけど、主語をぼやけさせて、失敗を誘っているように聞こえるのだが、しかも押し倒すのは「ちょっと強引」のレベルではないと思う。


 そんなこんなで、ミズカが用意してくれた朝食を2人で食べていたものの。


「なあ、もうそろそろ行かなくて大丈夫なのか? 食器の片づけぐらいはしておくぜ」

「まあまあ大丈夫だよ、心配無用さ」


 とのこと、でもここからだと一時間はかかるからなぁ、確か始業式は一緒の日だったからと思うが、随分とミズカは余裕だ。

 朝食を食べ終わり、片づけを済ませた後にミズカは出発の準備をする。


「着替えるから後ろ向いててよ」

「いや、普通に俺も自室で着替えるから」


 自室に戻って制服を引っ張り出す。臨時転校先の制服をもう着れないのはちょっぴり寂しいが、自分の母校の制服を着れるのは素直に嬉しい。

 久しぶりに着た制服、うんうん、まあまあかな。後はミズカの着替えを待つだけなのだけど。


「いいよ~」


 というミズカの声だったがすぐに襖は空けない。こう、裸で待ち構えるぐらいはしそうな気がする。


「ちっ、少しづつ鋭くなってるね」


 と再びごそごそするような音が聞こえる、ラッキースケベは故意ではないと成立しないのはそれこそミズカがしっかり実演してくれたからな。


「いいよ~」


 声の感じから今度は大丈夫だろう、そろそろ時間もやばいし、と襖を開けた先、制服姿のミズカがいた。


「…………」


 繰り返す、今俺の前には制服姿のミズカがいた。

 見慣れた、といっても終業式以来だから久しぶりと言えば久しぶりだけど、それなのに、制服姿の筈なのに、一瞬ミズカの格好がなんであるか分からなかった。


 理由はミズカの着ている制服が……。


「え? え? え? マジで?」


 間違いない、うちの学校の制服だ。


「マジです、これからよろしくね♪」

「…………」

「いや~内緒にしていた甲斐はあったわ~、サプライズは仕掛ける方が絶対に楽しいよね」


 ケラケラ笑うミズカ、そうだ、思えば転校審査の日だけ連絡が滞ったっけ。友達と遊ぶからという理由で来なかったなそういえば。


「それにしても、サプライズって、友達とかさ、その、どうして?」

「前に言ったじゃん、友達関係がいい加減嫌になっていたからね、正直ぶりっ子キャラやりすぎたのは失敗したと思っている、まあ中学の時もそうだったから噂は広まるだろうけど、修正はできるからね、改めて高校デビューという奴さ~」

「キャラづくりを失敗したって冷静だな! で、でも、指定校推薦は?」

「自分の高校の何処から指定校推薦が来ているか調べてないの?」


 ああ、確かに有名私立大学から2つぐらい枠が来ているけど、自分に全然関係ないから気にしてなかった、まあミズカだったら大丈夫かなと思う。


「そっかー、よろしくな、素直に嬉しいよ、同じクラスになればいいな……って」

「なにきょろきょろしているの?」

「いや、マナミとトモエの姿が見えないなぁって」


 普段ならそこかしこに忍び込んでいるはずなのに、ミズカの隙を伺って2人だけにしないようになのか、忍び込んでいることもさらに見越してミズカは4人分食事を用意し皆で飯を食うというシュールな場面もあった。

 俺の問いかけにミズカは手をポンと叩く。


「ああそうだ、忘れてた」

「へ?」


 ミズカは軽い足取りで風呂場をガラッと開けると、中では2人は手と足を縛られて動けないようにされており、むーむーと呻いていた。


「ごめんね、折角のサプライズだったから、邪魔されたくなくて」


 ガムテープを容赦なくびりっと剥がし、ロープをほどいていくミズカ。


(本当に凄いよな、こいつらは)


 ほどいて自由になった後も、殺気に満ちた目で見るが攻撃を仕掛ける様子を見せない。


 というのは冬休み中に一度本気でミズカから「返り討ち」と称して「モノにされそう」になったことがあった。

 やばいと思った俺が本気で介入することで、事なきを得たが、相当に恐怖心を植え付けられたらしく、しっかりと抑えられている形になっている。


 とまあこんな感じで一応順調にミズカとのヒモ生活、もとい日常生活を通じて色々と仲良くなって、今では女親友もいいものだと思った。


 さて、そろそろ登校しないといけない、俺とマナミとトモエが、この場合でも別々に登校することに共同管理で決められているが。


「私と一緒だと寿に何言われるか分かんないからね~、時期を見てからでさ」


 そう、ミズカのことをいずれリョウコにも話さなければならない。

 とはいえ中学時代の時の話を聞く限り、ある意味何もないからこそ色々あったみたいだから簡単にはいかないものらしい、お互いに外面がいいというのも考えものだ。


 そんなわけで1人で登校する、といっても歩いて5分ぐらいだからすぐに学校につくわけだけど。


(リョウコにこれから毎日会えるんだ)


 3学期の時は週末だけだった、春休みの時は時々しか会えなかった、それで目の前の道が輝いて見えるのだから俺も単純だ。


 そんなウキウキしながら歩いていれば当然周囲の注意は疎かになるので、


「いだっ!!」


 交差点で出合い頭に思いっきりぶつかってしまった。一瞬目の前に星がパッと飛んでしまい顔を抑えてしまう。

 しまった、完全に今のは俺が悪かったよな、はしゃいで人にぶつかってしまうなんて恥ずかしい。


「すみません、余所見をしてしまって」


 頭を下げてあげた先、当然その前にはぶつかった相手がいたのだけど。


(うお~)


 ぶつかったのは男子生徒、その恰好を見て俺にその気はないが見惚れてしまった、


 身長は180センチ弱ぐらい、体型はスラっとしたモデル体型にそこから伸びた長い手足に小さい顔、髪はブルネットとだけど、少し茶色がかった色をしている。

 少し外国の血が混じっているのだろうか、美形という表現すらチープに聞こえる、見惚れる整った顔立ち、正直嫉妬すらわかなかった。

 雰囲気は爽やかで清潔感にあふれ、先ほどから衆目を浴びている。凄いのは女だけじゃなくて男からも視線をは集めていて、それを知っていてなお堂々を視線を受け止め振舞っている。


 ぶつかった男子生徒の着ている服に注目するとそこでようやく自分と同じ学校の制服を制服を着ていることに気付く、今更気づくとは、というか本当に同じ服なのか、同じデザインの筈なのに全く違う服に見える。


(って、同じ服!?)


 一緒の制服で、学ランの襟についている学年章が「Ⅱ」ということは同学年、というかこれほど美形が同学年なら知らないわけがない。


 ってことは、この人は今年からウチの学校に通うことになるってことだ。


「…………あ」


 お互いにぼんやりと見つめ合っていることにようやく気付いた。


「あ、あの、初めまして、学年が一緒、伊勢原ユウト、よろしく、あ、えっと、ぶつかってごめんね」

「…………」


 うん、思いっきり不自然な挨拶、だけど相手はそんな挨拶を聞いているのかいないのか、 呆けた様子で俺を見ている美形男子……だったが、向こうも同じように呆けていることに気付いたのか、にっこりと笑うと手を差し出してくる。


「こちらこそ不注意で失礼した、僕はT高校から転校審査で来た、カイン・アマデウス・リッター・幡羅はたら・フォン゠シェーネパウク、よろしく、伊勢原君」


 握手をしながら自己紹介する……。


「……えっと、えーっと、カイン、あ、あまでうす、えっと」


 俺のつまりつまりの言葉には彼は「ふふっ」と笑う。


「僕はドイツ人とのクォーターでね、祖母が日本人、今のはドイツ国籍での正式な名前だ、日本名はカイン・幡羅で登録している」

「へえ、ドイツ人って名前がいっぱいあるんだねぇ」


 俺の言葉に幡羅は再びクスクス笑う。


「うーん、なんて言ったらいいか、ドイツでは、そうだな、例えば、太郎‐鈴木=田中とか、太郎・次郎=鈴木と名乗ることができると言えばいいのかな、そのようなものだととらえてくれ」

「はは、そういうとなんかすごく変だな、外国語だとカッコいいのにね、えーっと、じゃあ」

「僕のことは幡羅って呼んでくれ、外国呼びだと変に目立ってしまうからね」

「分かった、なら俺のことは伊勢原って呼んでくれ、えっと、どうだ、一緒にといっても、すぐだけどさ、一緒に学校に行かないか?」

「ありがとう、伊勢原、喜んで」


 とまあ意外な形で一緒に登校することになった。

 学校につくまでの短い間だったけど、初対面とは思えないぐらい話が盛り上がる。

 幡羅はドイツの騎士の家系だそうで、一応当主筋に当たり、だからフォンというのを名乗っているとか、と色々聞いても半分も理解できないけど。

 幼少のころからドイツと日本を交互に住み両方の国籍を持っているとのこと、祖母のことが幼いころから大好きで、可愛がってもらっていたらしく、この春休みも半分はドイツにいたんだそうだ。


「祖母は品があり優しく包容力もあり、それでいて強さと厳しさも兼ね備えている完璧な女性だ、大和撫子とは祖母のようなことを言うのだろうな」


 家族を堂々と大好きと言えるところは日本とは違う、まあそりゃ俺も家族は好きだけど、公言するのはちょっと恥ずかしいというか、まあカッコ悪いかなぁというか。

 それにしても……。


(絶世の美男子って奴か、本当にいるんだな~)


 こんな美男子と知り合いになれるなんて得した気分、まさに別世界の住民、これだけ美形だと彼女なんて不自由しないんだろうなぁ。


 とあっという間に幡羅と俺は学校に到着した、懐かしの我が母校だ。


「学校爆破だなんて、ひどいことをするね」

(ギクッ!!)


 校舎を見た幡羅の言葉に飛び上がりそうなほど驚いてしまった。


「あ、ああ! そうだな! それで転校審査なんて事態になったわけだからな!」

「未だに犯人は捕まっていないのだろう、全く早く捕まえてほしいものだよ」

「だ、だよな! まあ警察も頑張っているだろうからいずれ捕まるよ!」


 俺の過剰な反応に少し首をかしげるが、特に気にしなかったようですぐに普通の会話に戻る。


 リョウコ達がいる時点で犯人は捕まっていない。前にも触れたが、警察も男の取り合いで学校を爆破するなんてことは考えていないだろうなぁ。でも爆破事件から三か月、ニュースはすっかり事件のことは忘れていて、この前久しぶりにニュースで取り上げたところ、幸いにも進展は見られないそうだ。


「まあでも、本当なこんなことは言ってはいけないのだろうけど」


 幡羅は校舎から視線をそらし、愁いを帯びた表情を見せる。


「転校審査は僕にとって僥倖だったけどね」

「え?」


 幡羅の表情は優しい、何か大事なことを言っているのは分かる、ひょっとして。


「あ、クラス分けが提示されている、一緒に見に行こう」


 という幡羅から手を引かれる形で、俺の思考は打ち切られた。


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