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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

朱殷

作者: Iscream(あいすくりーむ)
掲載日:2016/06/25

 森に朱杏しゅあんという7歳の少女が住んでいました。

 元気いっぱいで、その煌く金髪にいつもかわいらしい白いフードを被っています。

 3歳の頃に両親を亡くし、今は隣に住んでいた青年、深川ふかがわ ねずみの元で暮らしています。

 面倒見が良いその青年を、朱杏は兄のように慕っていました。

 その日はお天道様が煌々と輝いていました。2人がにらめっこをして遊んでいると、

 森の近くにある街へ向かう旅人の声が聞こえました。

「お前、この森のうわさ聞いたことがあるか?」

「いや、無いが・・・。なにかあんのか?」

「この森の奥深くには紫紺しこんという、

 その見た目で街から追い出されたやつが住んでいるらしい。」

「そんな噂、十中八九ウソだろ?さすがに騙されねえよ?」

「そうだなあ。ちょうど近くに街があるし、そこで聞いてみるとすっか?」

「おーけー。」

 それを聞いた朱杏は、紫紺のことが気になりました。

 可哀想だと、そう思いました。

 だから、会いに行くことを決意しました。

 別の理由もありますが、それは後々わかる話。





 朱杏は鼠に相談しました。

 森の奥深くに行くのに、危険が伴うのがわかっていたからです。

 しかし、なぜかすんなりと受け入れてくれました。決して鼠は強いわけではありません。

 朱杏は不思議に思いましたが、受け入れてくれたことが嬉しく、あまり気にしませんでした。

 翌朝、森へ向かう準備を整えた二人は、早速出発しました。

 雲の隙間から青い空が覗く道中、くまさんに出会った―――なんて、童謡のようなことはなく、順調に進んでいました―――。

 だいぶ長い道のりなので、朱杏は途中で疲れて歩けなくなってしまいました。

 それを見た鼠が彼女をおんぶし、赤い屋根の家に見えました。

 ドアをコンコン、とノックすると中から体長2メートルもある紫紺が出てきました。

 狼をそのまま二足歩行させたような紫紺の姿に、鼠はびっくりしました。

「こんなところまで人間が・・・。」

 紫紺も驚きを隠せず、街の人々のせいで、人間に対し臆病な彼は、立ちすくみました。

 そこへ朱杏が彼を見上げて、

「こんにちは、紫紺さん。友達になりたくて来たの。」

 と、元気よく言いました。

 鼠も街の人々と自分は関係ないことを説明し、

 それを理解して、安心した紫紺は、長い道のりを来てくれた二人に対して、

「よくここまで来てくれました。紅茶でも出しましょう。さ、こちらです。」

 と言い、歓迎しました。

 3人が一本足のテーブルを囲んで座り、紅茶をすすっていると、いきなり朱杏が、

「実はね、紫紺さんに会いに来たのは、友達になりたかっただけじゃないの・・・。

 紫紺さんは、森にずっと、住んでると思うし、朱杏の父と母について、何か知ってる、かなって思って・・・。」

 緊張して言葉が途切れつつ、紫紺に尋ねました。

 紫紺は驚愕しました。紫紺はこの少女を見たことがあったのです。

「この少女が、あの時の・・・。」





 紫紺は街から追い出されました。

 彼の姿は思春期を迎える頃から、耳が生え、次第に体毛が濃くなり、犬歯が生え始め、手や足の爪は鋭くなっていったのです。

 そして、狼になりかけている紫紺を、街の人々は、


 この化け物が


 と恐れ、その両親でさえも彼を化け物呼ばわりします。

 彼は酷く悲しみました。泣きじゃくりながら、街の外れにある森へ逃げました。

 森へ着いても、まだ彼はすすり上げていました。

 涙で視界がぼやけて、もう街へ戻る道も分かりません。

 途方に暮れた彼の目に、ふいに異様な光景が映り込みます。

 白いフードを着た幼女と、その両親と思われる男女。

 しかし、その白いフードは血の色で染まり、その両親は地面に倒れていたのです。

 紫紺が腰を抜かして見つめていると、幼女は気配を感じたのか、こちらにゆっくり、ゆっくりと顔を向けました。

 そして、


朱殷しゅあんをちょうだい?」


 その顔は、微笑んでいました。

 紫紺は恐怖し、すぐさま逃げ出しました。

「怖い怖い怖い怖い怖い怖い。」

 頭の中でそれしか考えられず、必死で走り続けました―――。

 その少女が今、目の前に座っています。

 しかし、なぜだか怖くはありません。

 幼女の頃とは顔付きや雰囲気が全く違ったからです。

 それは成長によるものとは考えられません。

 目の前で答えを待つ健気な少女に、彼はこう答えました。

「残念ながら、知りません。」

 と。





「残念ながら知りません。」

 答えを聞いた少女は、とても残念そうにしました。

 しかし、紫紺は真実を言えるはずもありません。

 それを見兼ねた鼠が、

「じゃ、皆で何かして遊ぶか?」

 と提案し、それに続き紫紺が、

「家の外に庭がありますので、ご案内します。」

 と言い、庭へ向かいました。

「わあ。芝生だ!」

 庭は、一面青々しい芝生でした。

 朱杏は芝生に大きくダイブしました。

 鼠と紫紺は微笑ましく、そのかわいらしい少女に見とれていました。

 もう日が傾く頃。今日の疲れもあったのか、少女は眠ってしまいました。

 寝顔のかわいらしいことは言うまでもありません。

 鼠と紫紺は少女をベッドまで運び、鼠は紫紺の家に泊まることになりました。

 その夜、2人が寝支度をしていると、鼠が

「ちょっと、話したいことがあるんだけど、いいか?」

 紫紺に聞きました。

「はい。なんでしょう?」

(ここで、鼠は21歳、紫紺は20歳であることを伝えておきます。)

「俺がここに来た理由だ。」

「ほほう。あの子の理由は聞きましたが、あなたはまだでしたね。

 なぜ、こんなところに来たのか。私、気になりますね。」

 しばしの沈黙。そして鼠が口を開きました。

「俺は、あの少女を、殺したい。」





「俺はあの少女を殺したい。」

「はい?」

「簡潔過ぎたな・・・。殺すべきだと思う。の方がが正しいか。」

「あなたは自分が仰っていることを分かっておられますか?」

「ああ、わかってるよ。だがそれは、朱杏を助けることにもなるんだ。」

「はあ。」

「あの事件のこと、お前も覚えているよな。」

「あの事件?まさかあなたもご存じなのですか。」

「知っているも何も、俺は朱杏の家の隣に住んでたんだ。知らないはずがねえよ。」

「では、なぜ私が知っていると?」

「それは簡単なことだ。あの日、俺はお前のことを見たからな。」

「そうでしたか。あなたはあの事件について、知っていることがあるみたいですね・・・。」

「あの日の朱杏の不気味な微笑み、あれはあの子のものじゃない。」

「確かに、今のあの子からは想像できませんね。」

「そこで俺はある結論に至った。」

 鼠は、確信したように言った。

「あの子は―――。」





 紫紺は驚き、なぜそう思うのかと、訪ねました。

「あの子の名前は――――――。」

「んなっ・・・!」

「これでわかっただろう?頼む。協力してくれ。」

「できません。」

 紫紺はきっぱりと断りました。

「私が街から追いやられた理由を知っているでしょう?あの子を・・・ましてやこの世から――――!」

「すまない。行きすぎた発言をした。話に付き合わせて悪かったな。お休み。」

「分かって貰えたのでしたら良いです。お休みなさい。」

 しかし、鼠は紫紺の考えを、これっぽっちも聞いていませんでした。

 紫紺の答えなど、どうでも良かったのです。

 そして鼠は少女を殺す覚悟を決めました。





 空が、紫がかり始めました。

 紫紺は床で、いびきをかいて寝ています。

 少女は隣のベッドで、寝息をたてながら寝ています。

 鼠はナイフを片手に―――。


 ぐさっ。


「っ!?」

 鼠は言葉を失いました。

「ぐあああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」

 そこには紫紺がいたのです。

 赤色が飛び散り、紫紺の絶叫だけが辺りに響いていました。


 パチッ


 少女が起きました。

 少女は、ゆっくり、ゆっくりと顔をこちらに向け、その赤を見ました。


「ち」


 途端、目の色を変えた少女は赤色を欲し、幼い口調で、


朱殷しゅあんをちょうだい?」

 初めまして、叫びたがりなIscreamあいすくりーむと申します。これが初めての小説になります。

 最後までお読みくださりありがとうございます。後書きではこの作品について補足したいと思います。ネタバレになりますので、まだ読んでいない方は、お読みになることをおすすめします。

 では補足に入ります。まず、この作品は「色」を題材にしています。

タイトルの「朱殷しゅあん」とは暗い朱色のことで、「血の色」を表現する際に使用されます。

朱杏という名前は私による造語で、意味は「赤い乙女の微笑み」と設定しております。

また、ほかの登場人物「深川鼠ふかがわねずみ」「紫紺しこん」は「朱殷」と同じく、色の名前です。

深川鼠は江戸時代、「粋な色」として流行したそうで、とても落ち着いた印象を受ける色です。

紫紺は「紫紺の優勝旗」と言われるように(作者は聞いたことがないのですが)、尊ばれている色であるようです。以上が補足になります。

 最後に、執筆する際のことを。

色について調べているだけで、興味深いものがありました。

文を書く際も、普段使っている表現・慣用句について調べてみると、私自身のイメージと少し差異があったりと。

 そんな風に小説を書き、日本語を再確認し、改めて日本語とは美しい言語だな、と思えました。

 そして今、私の頭の中には既に朱殷とは別の構想があります。

 ではまた、次の作品でお会いしましょう。

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