シュークリームって何よ……。
それはある日突然少女の脳裏に閃いた。
私は前世、シュークリームだった。
「…………」
待て待て待て待て。
落ち着いて私。
少女は必死に自分に言い聞かせ、大きく深呼吸してみた。
先ほど脳裏に閃いた言葉をゆっくりと思い出してみる。
私は
うん、私は私ね。
前世
生まれ変わりなんて事もあるかもしれないわ。
シュークリームだった。
…………。
最後の結びが明らかにお菓子……ではなく、可笑しい。
「シュークリームって何よ……」
「シュークリームと言うのはシューの中にクリームが入った……」
「そんな事は分かっているわ」
その様子に首をかしげながらも蕎麦……側付きの侍女が訝しげに答えようとしたが、その言葉を少女は務めて冷静な声で遮った。
*
少女の脳裏に閃いたのは、侍女の説明通りのシュークリームだった。
そのシュークリームだった記憶が一瞬にして蘇る。
絞り袋から絞り出される柔らかな生地は油を引いた天板に形良く乗り、オーブンの熱により、膨らみ、余熱で焼き固められる。
冷たい空気にさらされた肌に刃物が入り、割られた身体に中身が詰め込まれ、そこで初めて己の生を実感した。
目の前には美しい白い皿にレースペーパーが敷かれ、彼女は感嘆したのだ。
あの美しい皿(舞台)に飾りたてられた己はさぞ美しかろうと。
作り手(親)でさえ、満足げな、満面の笑みでもって己を愛でてくれたのだ。
この姿でもって、多くの目を楽しませ、そして己を食すにふさわしい者の舌を楽しませるのだ。
その様に心躍らせていたその時だった。
ふいに己の身が浮いた。
「あ!こら!」
親の制止の声を最後にシュークリームの一生は第三者のつまみ食いという形で終わりを告げた。
*
つ、と少女の頬を一筋の涙が伝った。
「お嬢様?」
少女はその場でがくり、と膝をついてうな垂れた。
「……は……」
「はい?」
「私の前世は羽化したセミよりも短かったわ……」
どこか、人生を諦め切った主の様子に、また何かの小説に影響されたのだろうな、と内心そっと溜息を吐いた。




