午前零時の二人
何かすごく昔のが出てきたので。2008年作。うわぁ。
長い針と短い針が揃って空を見上げる時間。
ネオンの宝石遠すぎる寂れた公園の片隅で、彼と彼女は初めて会った。
闇に溶けない純白のワンピースのすそをひるがえして、彼女は少年に微笑みかける。
「若いのに……ここに来るには少し早すぎるんじゃないかしら」
制服姿の少年はそっと彼女に歩み寄り、隣に勝手に座り込む」
「お姉さんだってこんな場所来るには若すぎないですか」
それきり二人はしばらく黙り込む。
だけど人通りのない公園はあまりに静かすぎるから、結局気まずくなってしまってどちらともなく話し出した。
「そういえばお姉さんは何でここに? 待ち合わせとかなんですか?」
彼女は少し微笑んで、そして少し寂しそうに外灯の光を見つめる。
「そうなのよ。もう三年も待ってるの。私がずっといるのが、見えないのかしらねぇ」
忘れ去られた彼女は一人うつむいたまま。涙を見せていなくても、泣いていることは少年にもわかった。
何だか更に気まずくなって再び黙り込んだ少年に、今度は彼女が問いかける。
「そういう君はどうしたの? 家に帰りたくないの?」
「そういうわけではないんですけど」
少年は少し目を伏せて、公園前の道を指さしながら深いため息をひとつつく。
「そこの道でなんですよ。ここから動けないんです」
帰り道のない少年は途方にくれながら、近場のこの公園に迷い込んだのだ。
彼女は困ったように微笑んで、少年の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「実をいうとね、もう待つのは終わりにしようと思ったの」
「お姉さんがいなくなると、俺は少しだけ困ります。どうしていいかわからないから」
「ふふふっ、仕方ないなぁ、もう少しだけいてあげるわ」
長い針と短い針が揃って空を見上げる時間。
外灯の下には枯れた花束が。公園前のガードレールには、まだ新しい菊の花束が置かれている。
「知ってます? この公園は幽霊が出るって噂だったんですよ」
「私のせいかしら? もしかしたら今度から噂がひとつ増えるのかもしれないわね」
「そうなる前にどっかに飛んでいきたいですねぇ」
数年前、この公園の外灯下で、交際相手と待ち合わせ中だった一人の女性が通り魔に襲われて殺された。
ほんの数日前、公園前のガードレール脇で、居眠り運転の車にはねられた高校生の少年が死亡した。
長い針と短い針が揃って空を見上げる時間。
午前零時のこの公園は、朝が来るまで霊の時間なのだ。
元作品は歌詞だったので、ほんのり小説っぽく直してあります。むしろ何でこれを歌詞にしようと思ったのかはよくわからない。