狼の事情。
雌の狼視点です。
最後らへんに主人公の士郎が出ます。
先ほどまで、いじめて遊んでいたバカな狼は否定の言葉を投げつけて逃げるようにここから去った。
なんだったのだろうかあの変態は。
何はともあれ、自身と縄張りの安全は確保できた。
ここの縄張りを渡すわけにはいかない。父さんと母さんと兄弟で過ごしたこの縄張りを・・・
それにしても驚いた。父さんは死ぬ間際にあたしを最後のニホンオオカミと言っていた。
だから、このままずっと孤独で生きていくと思っていた。
でも・・・まさか他にも生き残りがいたとは・・・・。
あの様子から、彼も一匹なのだろう。だが、群れを組むつもりはなかった。
どこの輩かわからない相手を引き込むほど、あたしは焦っていない
最悪の場合噛み殺そうと思っていたが、無抵抗だったので生かしておいた。
普段なら気にもとめない相手だろう。雑魚そうだったし。
最後の同族だったかもしれないが。
足の力を少しづつ抜き、地面に体を沈める。
ズキンズキンという痛みが、太ももと通じて全身に染み渡る。
液体のようなものが後ろ足から流れるのを感じる。
わざわざ確認するまでもない・・・血だ。
久しぶりにはしゃいで遊んだせいだろう。塞ぎ掛かっていた傷が開いたのだ。
大怪我を負ったのにも関わらずに・・・・自分に呆れてため息が溢れる
この傷は、5日前人間という頭以外に毛があまりない猿につけられたものだ。
獲物を探して樹海の森を歩いていると、長い棒を持った、毛皮のようなものを着込んでいる人間に出くわした。
人間は何か奇声を上げると、届くはずもない木の棒の先端をあたしに向けた。
人間には嫌な思い出しかない。
巣にも近づいていないので、早々に立ち去ろうと後ろを振り向いた。
刹那、パンという乾いた音が響いたと同時にあたしの太ももから大量の血飛沫が上がった。
それに遅れて激しい痛みが生じた。
大きな衝撃に体が吹き飛ばされる。
立ち上がろと足を動かすが痺れてもがく事しかできない
これは以前、あるクマのじいさんから聞いた人間の力。
「石を見えない速さで投げる」ものだと思う。
でも、あの時のあたしはそんなことを考える暇もなかった。
ただ、恐怖に怯えていた。
人間が木の棒を構えながら近づく。
ああ・・・今度はあたしが食われる番なのだと思った。
あたしたちがシカや猪を殺すのは、食べて、生きるためだ。
シカや猪が草木を殺すのは食べて、生きるためだ。
草木は自分たちが殺されるとき、なんの抵抗もしない。
それは、新たな命を繋ぐ為だ。
獣たちはそれに習い、食われる時は最小限の抵抗しかしない。
狼のような獣に襲われた時、食われる者は自身の死を悟ると、抵抗をやめ。動かなくなる。
それは自分の死は決して無駄にはならない。と思うからだ。
この人間に近づかれた時、あたしもこ死は無駄にならないと感じていた。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!
あたしに本能が強く命令を下す。
なぜ?これは自然の掟、生まれ変わる死。
決して無駄にはならない・・・
なぜ抵抗する?
あたしは、ある時獣達から聞いたことを思い出した。
それは、なぜか人間の前だと抵抗してしまうらしい。
本能が生きろ、抗えというそうだ。
そう話していたシカの前に、あたしを含めたクマ、猪、犬、山猫、猪、挙げ句の果てには同族のシカたちにさえ、理解されず、みんなわけがわからんと思っていた。
今ならわかる。あのシカの言っていた意味が。
近寄ってくる人間は口元を歪ませて、笑っていた。
わかった。人間は生きるためじゃない、食べるためじゃない!
あたしたちを利用するために殺すんだ!!
足に力を練り込み、立ち上がる。
「ガルルルル・・・っ!!」
牙を剥いて威嚇する。
それだけで人間は戸惑う。
なんとも非力で軟弱な生物だ。
だが、手に抱える棒はあまりにも驚異。
威嚇を続けながら後ろに下がる。
人間は棒を構えて、あたしに向ける。
次、当たったら助からないだろう。
でも、易々(やすやす)とあの人間には殺されはしない!!
その時だ。
確認もせず後ろへ下がっていると、ヌメっとした感触が肉球を通じて後ろ足に届く。
そして次の瞬間、あたしは湿って滑りやすくなった急な坂道をゴロゴロと石のように転んでいった。
あの棒ほどではないが、地面が全身を叩きつける、痛い。
時は10秒ほどだった。あたしはかなり下まで転げ落ちた。
痛みで痙攣する足を押さえて、坂の上を確認する。
人間が上から見下ろしているが、流石に降りてこれないだろう。
諦めたように人間は姿を消した。
そのあとはよく覚えていない。
怪我した足を引きずりながら無我夢中で森の中を歩いた。
気づいたら縄張りであるこの洞窟で寝ていた。
帰巣本能があって助かった。
あれから数日。まだ傷は癒えずに、ただ痛みだけが容赦なくあたしを蝕んでいた。
このあとあたしは、傷の痛みで衰弱して死ぬか、餓死のみだろう。
悲しいわけじゃない、でも、もっと生きたいのも事実だ。
小さくため息を漏らす。
傷から視線を外して洞窟の穴から外を見渡すと、先程の狼がこっちをジーっと眺めていた。
ガルルッと軽く威嚇すると猛ダッシュで逃げ去った。
なんとも不可解な狼だった。
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なんとも不可解な狼だ。
僕が立ち去った後、彼女が弱々しく地面に座るのを僕は見た。
心配になったのでジッと見てたら威嚇されてた。
本気の威嚇だった。メチャクチャ怖かった。
僕?逃げたよ?
だって怖かったもん。
洞窟から出た時にはもう雨な止んでいた。
しかし、もう夜だ。時間的に8時あたりだろう。
僕は宛もなく、樹海を歩きまわっていた。
地面を足で踏みつぶす作業をもう何100回続けただろうか。
流石に気が滅入る。
あの狼の洞窟は隣に川も流れていて洞窟も深かった。
縄張りには最適な場所だろう。それもかなりレアな。
今はとりあえず洞窟でもいいからと、僕は相変わらず歩き続けた。
「あれ?ここって・・・」
あらから30分ほど歩いていると、ある程度広いくらいの草原に出た。
爽やかな草の匂いはどこかで嗅いだような気がする。
そしてハッとする。
思い出した。ここは最初に狼として目覚めた場所だ。
・・・なぜここに?
そういえば、どんなに遠くに捨てたとしても、捨て犬は家に帰ってくると聞いたことがある。
そう、帰巣本能だ!!
ここが僕の家?
そう感じて僕は虚しい虚無感に襲われた。
匂いは優しい。
ここにいるだけでストレスやらから解放されそうだ。
あくまで「見てる限り」ですがね!!
屋根もなにもない!あるのは雑草だけ!
雨降った時にはどうすんだ!!
何度目かわからないため息をつく、ハッキリ言って疲れた。
仮の縄張りということで座り込む。
まずは体力の回復だ。
睡眠をとり、足の疲労を取る。まずはそれからだ。
座り心地のよい場所を探していると、あるものが目に留まる
明らかに人工物なるものが草の中に沈んでいた。
それは、僕の名前が書いてあるリュックだった。
あとから編集しますw
できれば感想などお願いします。
作者の欲求が増幅します。