尻尾を噛まれた、
もっと書きたい
暗闇の洞窟の中で僕は四つん這いの状態になる。
感じたことのない刺激(激痛)に立っていられなくなったのだ。
この痛みは・・・人間の時には理解できない痛みだ。
「も、もう勘弁してください・・・っ」
「ハァ、ハァ」という吐息を漏らしながら僕はなんとか、首を持ち上げて後ろを向く。
ゴリッゴリッという気味の悪い音を中断させると、狼は僕の尻から顔を上げる。
「へ~、意外だわ。ここがあんたの弱点ねぇ」
口を血で汚れてしまっている狼は、確実に笑っていた。怖いです。
狼の顔に笑うも何もないだろうが、この姿になったおかげで、言語どころか表情すら感じ取れるようになったのだ。
良い発見なのだろうが、今はそんな事を気にしている場合ではない。
僕はなんとか逃げ出そうと、四肢に力を込めて胴体を地面から引き上げる。
出口までの距離は5メートル、全速力で走れば逃げ切れるかもしれない
しかし、それは失敗に終わる。
鋭い牙が肉に食い込む。
「っ!?・・・あぐぅ」
尻にある特殊な器官に痛みが走る。
今まで人間の時には感じる事はなかった痛みなのだ。
痛みに逆らえない
さらに強く噛まれた瞬間、電撃のような感覚が全身を走り、力が抜けて地面に倒れ込んでしまった。
逃げられない。
僕の狼としての本能が、絶望的な言葉を脳に容赦なく並べる。
立ち向かっても、この狼には勝てないだろう。
戦闘での経験の差も大きい。
この狼は沢山の狩りをしてきたハズだ。
昨日までただの一般人だった僕に抵抗する策なんてものは存在しない。
それでも僕は、無意味と分かっていても、生きようともがいた
「だれ、か・・・助け」
口を開き、助けを求める。
刹那、狼の口元が僕の耳元に届いた。
そして、ゆっくり話しかける
「・・・誰も助けに来ないから」
その声は今までの怒鳴り声とは違う・・・甘く、優しい、誘惑するかのような艶やかな声だった。
悪寒が体を走る。絶望で視界が覆い尽くされる。
なぜこうなった・・・
僕は悪くない・・・
わるいのはGSだ!!
しかし、狼は僕の思考を全く察することなく、僕の尻に目を向けた
まだやるのか!?
狼は
意地の悪いニヤケ顔をする
「じゃぁ・・・続きしよっか?」
「いっいやだ・・・いやだぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ガブリッ
僕の叫び声を合図に、狼は僕の「尻尾」に無常にも噛み付いた。
覚えられない嫌な痛みが体を刺激した。
しかも、今の噛み付きは一番力が強かった。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
そろそろ本気で涙を流してしまう・・・てかもう泣いてる!
「何を尻尾ごときで・・・」と思うかもしれないが、考えて見て欲しい。
僕たち人間には、尾骨はあるけど、「尻尾」は存在しない。
そこを負傷されるとどうなるか・・・
文字通り、言葉にできない痛みが体を襲うのだ。
なにせ感じた事がないのだから・・・
例えるなら・・・男の証が限界まで引っ張られてる感覚の数倍。
「ぁぐぅ・・・ひでぇよ・・・二時間も・・・二時間て・・・」
地獄の拷問が終わり、一息つく。
僕は自分の傷だらけの尻尾をなめる。
毛が結構抜けてピンク色の皮膚が丸見えだ。なかなかグロい。
血は全部なめました。
「にじかん?あんたってよくわかんない単語使うわね。でもこれくらいで勘弁するわ。楽しかったし。」
狼はそう言いながら僕の尻尾を前足でテシテシと叩いていた。やめてください。
そして楽しかったってなんだこら。
「狼のクセにおしっこダメなのかよ。ワイルドじゃねぇな。」
ムカついたので口の悪い言い方で反抗する
しかし狼にジト目で見られてしまう。
「わいるど?・・・てか、自分の排出した尿液をクンクン嗅がれて良い気分になるやつはいないでしょ。いたら変態よ。」
・・・・
・・・
・・
・
。
そう言われると言い返せない。
確かにキモいな。
反省もそこそこにして、この狼の縄張りから脱出することにする。
辺りはもう暗いが、雨が止んだのが幸いだった。
今度は寒い思いをすることはないだろう。
尻尾の血が止まった事を確認して、僕は立ち上がる。
最初に噛まれた前足も痛々しい傷は残っているが痛みも出血もない。
走るのに痛みはしないだろう。
野生生物の体って便利で不便だ。
「それじゃ、ありがとね。」
僕はそうお礼を狼に言う。
ひどい仕打ちは受けたが、雨宿りさせてもらった事には感謝している。
しかし狼は明らかに軽蔑している眼差しを送っている。
なんでぇ?
「・・・噛まれた事が?嘘・・・」
「ちがうよ!?」
狼がひどい勘違いをしていたので神速の早さで否定の言葉を送る。
僕はドMじゃない僕はドMじゃない僕はドMじゃない!!
これ以上誤解を生みたくないのもあり、僕は直ぐに洞窟から出て行った。
外へ出て、少し走ってみたが問題はない。
僕の足はまるで大地を走り回りたいようにウズウズしている。
とりあえず、今後の生活で必要なモノを手に入れなければならない。
身体の怪我は自然に治るとして、問題なのは住処だ。
あの狼のように縄張りを作った方が良いだろうか。
仲間がいないため、一匹で暮らせるような、広い縄張りでなくてよいだろう。
餌やマーキングが苦労しそうだが、仕方ない。
これでもオンラインゲームはソロでやってたのだ。
・・・ゲームの知識なんかここじゃ意味ねぇじゃん。
自分にツッコミを入れる。
ソロか・・・
考えてみると、あの狼は不自然だった。
狼とは、群で生活する生き物だ。
一匹狼という言葉があるが、あれはデマだ。
彼女の仲間はどこにいるのだろうか?
まさか一匹だということはないだろう
そう思って僕は後ろを振り返る。
狼は僕の視線に気づいていないようだ。
狼は、一匹で洞窟の中、弱々しく座り込んでいた。
一匹狼はデマですよぉ~
次回はいろいろ進展するといいですなぁ