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狼になった。  作者: ケモナー@作者
一章『出逢い』
2/22

狼になっちゃった。

暖かい日の光。

ポカポカとした温度に緑の匂いが混ざり、頬を伝って鼻に入り込む。とても気持ち良い。

その気持ちよさに僕は全く抗えずに、そのまま眠気が一層僕を包み込むのに為す術もなく、深い夢へと誘われてしまう。

追い打ちとでも言うべきか、柔らかい草原の草がまるで良いクッションのようになって手足やお腹から感じる。

一部覚醒した脳は、ある得ない事に、僕が草の上で倒れ込んでいると判断した。


だが、そこに嫌悪感(けんおかん)はないし、抵抗する意志も出てこない。

というか、気持ち良すぎてまだ寝っ転がっていたいくらいだ。

15才という年齢ではまだダラダラしていたいのだ。そこらへんは親に納得してもらいたい。

だって朝はダルいんだもん。


僕の名前は大和(おおわ)士郎(しろう)

母は普通の主婦。父は普通のサラリーマン。

貧乏でなければ金持ちでもない。極普通の家庭だ。

最近僕は高校に進学して、僕は新しい生活に毎日がウキウキとしていた。



ん?あれ?

僕はそこに違和感を覚えた

他には?

あれ?あの子誰だっけ?名前は?先生の名前は?というか父さんと母さんの名前も思い出せないんだけど!?

いまいち働かない脳に最近の記憶を探らせようとするが基本的な生活

つまりいつどこにいるのかくらいの情報しか思い浮かばない。


・・・・それ以外の事がわからない?


いやいや、そんな事はないだろ

絶対僕は認めないぞ

きっとあれだ。

寝起きでオカシくなったんだ僕。


まだ入学して3ヶ月だぞ?記憶に残る新体験とか少しくらいあるだろうに。

僕はとりあえずクラスメイトやらテストやら何なかの事を思い出そうと・・・

・・・・あ。


「そうだよっ!今日テストじゃないかっ!!」

僕は閉じていた目蓋(まぶた)をカッ!!と見開き、立ち上がった。


目を開けると樹齢が結構ありそうな木々が茂っているのが見えた。

例えるなら樹海。

どこまでも広がっていそうな木々の葉が天を覆っている、周りは黒茶色の背の高い木が僕の眠っていた草原を壁のように囲んでいた。

僕はここがどこだかわからないし、樹海だという確証もない。

何となく、そんな文字が頭に浮かんだ。


いや、学生が草原で朝目を覚ますこの状況事態おかしいんだけど・・・?


僕は思いっきり立ち上がり、二本足(・・・)で起きあがった。だが

「!?」

僕は声にならない悲鳴を上げながら地面に倒れ込んでしまった。

せめてでも、草がクッションになって怪我をしないのが幸いだと思うべきか。

「いっつ~!なんだよこれ、足でもツったのかな?」

足に直接の痛みは無いが、立った瞬間一気に足を支える力が無くなって倒れてしまったのだ。


これはどういうことなのか。

僕は自分の足を撫でようとして手を伸ばした。

その時、僕の視界に妙なモノが映りこんだ。

それは柔らかそうな毛に覆われた、犬の前足のようなものだった。


「・・・え?」

そのまま動かそうとして脳からその前足に指示を送る。

前足は問題無いように動く。まるで自分の腕のように。


僕は首を持ち上げて自分の胴体を見る。

モフモフの毛皮に覆われている胴体の先には尻尾がくっついていた。

あったのは草の上で寝っ転がる犬の体。


ははは、なんだこれ?なんかの冗談か?

何かの悪い夢かもしれない。

だって・・・特に理由も無しに体が犬に変貌して見知らぬ森の中で眠っていたんだ?


うん。夢だ。

夢に違いない。


僕はその現実を認めたくなくて、再び目を(つむ)るのだった。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「夢じゃないのね・・・」

僕はあの後また一眠りついてしまったみたいだ。

呑気なもんだと自分でも呆れてしまう。

一言言えるのは・・・


トラブルはいつでも起きるもんなんだなぁ


僕が寝ていた間に、暖かい日光を放つ太陽は厚い雲に覆い隠されてしまった。

徐々に空気も冷たくなり霧水くらいの量の雨がポツポツと降ってきたのだ


その後は案の定である。

降ってるか降ってないか微妙な量の雨がいつの間にか大雨へと姿を変えて、台風並の嵐になってしまった。

冷たい雨水に僕は叩き起こされてしまった。

流石に脳天気な僕でも大雨に見舞われた時は焦った。

僕の周りには傘や小屋など強い雨風を(しの)げるものが何もなかったからだ。


急いでどこかに避難しようとしたが、人間の時のように二足歩行で立てないので動きようがなかった。


逃げようがない。

僕は大粒の雨に濡せられて泣きそうになった。

その時に僕はもう、恥も何もかも捨てて、四足歩行で樹海を走り回って、雨から逃げた。

地味に四足歩行の方が二足歩行よりも速いことがしゃくに(さわ)ったが、速く逃げられるならどうでもよかった。


そんな時、樹海を駆け巡っていると、一つの大きな洞穴があった。

今はそこで雨宿りをしている。

しかし、走り回っていた時は、流石に体も火照(ほて)ってはいたが、洞窟の中で冷たい冷気に吹かれながらじっとしていれば、温度はドンドン下がっていく。


冷えた雨水が体の生命力を吸い取っているようにも感じる。

たまらず僕は体をブンブン振って水を振り落とす。


僕はそれによって出来た水溜まりを見てため息をつく。

そこには、犬っていうよりも、狼と言える顔が反射して映っていた。

「・・・狼になっちゃったのかなぁ、ありえねぇよ・・・」

また大きなため息をついてしまう。

そもそも狼は群れる動物だ。

一匹になれば寂しさの余り弱気になってしまうのは必然的だ。

性質まで狼になってしまうのだろうか

元々弱気って訳じゃない。ホントだよ?


兎にも角にも、冷静になった僕はとある昔話を思い出していた。

そのお話は、一人の人間が虎になってしまう物語だ。

お話の最後は身も心も虎になってしまうのだ。


それを思い出すとなんだか何とも言えない気持ちになった。

母さんにはもう会えないのか?父さんにも、学校の皆にも、誰にも会えなくなるのか?

目から滴が流れ落ちてきた。

なんで僕が、こんな目にあわなければいけないんだ。何をしたっていうんだ。

ドス黒い悲しみの感情が体を血液のように流れる。

涙も止まらない。

もう、いやだ。死にたい。

そう思った時だ。


洞窟の奥から何かが動く音がした。

僕の「死にたい」を聞き応えるかのように、その足音はドンドン僕に近づいてくる。


「っなんだよ」

スッカリ怯えてしまった僕は逃げることもできず、それを言うことしか出来なかった。


足音はさらに近づく。

そろそろ漏らしてしまうところで、それは姿を現した。


暗闇から出てきた獣は、僕と同じ狼だった。


ゲヘヘヘ

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