過去を知った。
(・(ゑ)・)ガオー
「・・・はい?」
僕はクマさんの言葉が理解で着なくて脳がフリーズする
サラサラと風に靡く草の音と自分の鼓動しか聞こえない静寂。
砂時計が流れるように時間が過ぎるごとに脳は活動を再開し始めた。
意識がハッキリしてくるごとにクマさんが何を言ってきてるのかが理解し始める
さっき、クマさんが言った言葉・・・それは
『シロウ・・・お主人間だろう?』
その言葉を聞き取って理解した僕は、緊張したように心臓が小さな鼓動からバックンバックン鳴っているのを感じた。
何故バレた、僕はそう思って冷や汗をかいて心の中で焦る
クマさん流の冗談かな?はははっ
僕は横目でクマさんをチラッと見るが、ありゃこれは本気だ、メッチャこっち見てる
クマさんは僕を逃がさんばかりにこちらから視線をそらさずにジーっと見て僕の答えを待っているのだろう。
「・・・どうしてそう思うんですか?」
僕は焦る感情を隠しながらクマさんと目線を合わせる。
根拠のない台詞を僕は期待したんだと思う。でもそうはいかなかった
クマさんはそれを聞くと僕から目を離さずこう言ってきた。
「一つ目はお主があまりにも無知という事だ、野生動物でありながらまるで誰かに飼われていたかの言い草だ、場所もわからない、狩りの仕方もしらない。儂はアサから聞いたが、アサ本人は気にしていないようだがな。」
「・・・・。」
そこは何も言えません
僕は静かに地面に向いて俯く
「二つ目、人間の道具を持っている事だ。まぁまだそれは許容範囲内だ、人間が森に捨てた荷物を拾っただけかもしれんしなぁ、おかしかったのはそれを間違える事無く使用してるという点だ、普通の獣がどうやって人間の道具を使いこなす?普通なら有り得ない事だ、アサの傷を治療したようにな」
ここで僕はしまったと思った。
アサちゃんの怪我を治そうとしたことに後悔はない、軟膏を塗っただけならバレなかったかもしれないんだから。
だけど包帯を使ったのがマズかった、人工物を野生動物が身につけてたらそりゃ違和感あるわ!
僕が苦い顔をするとクマさんはそれを察し取ったのか、暫く間を開けて、それを自分で破った。
「三つ目だが・・・お主の名は・・・人間のモノだろう?史郎よ」
「━━っ!!」
僕は直ぐにクマさんの顔に振り向くと体を少しだけ浮かせて臨戦態勢に入る、それだけではなく、自分の奥歯を強く噛んで「グルルッ」と小さな威嚇もする。
これでどうにかなるとは思っていない、寧ろ負ける気満々な勢いだ。それでも対抗したのは多分獣の本能だと思う、全く毒されたもんだよ僕も。
ちなみに威嚇方法を教えてくれたのはアサちゃんです。
だが空気が読めない事に、そのアサちゃんが未だに尻尾をハムハムしているせいで尻尾にストッパーがかかっているようで素早く動けそうにない。
だから僕は動けない代わりに精一杯クマさんを睨んだ
《襲うなら只ではやられない》と目で訴える
しかしクマさんはそれに屈することなく、こちらをジッと見つめてくるだけだ。
まるで僕の答えをただ待っているだけのように。
・・・逃げられない。
そう悟った僕は本能を無視して浮き気味だった体の力を抜いて地面に座る
言ったらどうなるんだろう・・・アサちゃんが人間嫌いのようにクマさんも人間が嫌いなのだろうか、言ったら食い殺されてしまうのではないか?
攻略本がある訳ではない、どう答えればいい
生き残るには・・・
僕は改めてクマさんの目を見る。無意識に体が震えた、鉄板に押しつぶされたような圧迫感を感じる彼の瞳には嘘は通じない、そんな風に感じされられる。
流石・・・この樹海の主、僕なんかを雰囲気だけで屈しさせやがった・・・
意を決して僕はそれに答えた
「・・・はい、僕は元人間でしたよ」
僕は目を瞑ってこれからどんな事をされるのか想像した。
何をされるのか、どう殺されるのか
僕はそんな恐怖の感情しか頭に浮かばない。
怖い・・・
「・・・いつ頃からだ?」
「・・・え?」
「いつ頃から狼になった?」
クマさんが出した反応は僕の想像とはまるで違うものだった。
いつから狼になったか?それは確か・・・
「三日位前でした・・・人間として生きていた時には異変は無くて、目が覚めたら急に狼になってたんです・・・」
僕がそう言うと、クマさんは特に何かするわけではなく、「そうか」の一言を言っただけでまた満月を見上げた。
信じてるのか?人間が狼に変化したなんて現実性のない話を、いくら獣でも意志疎通ができるのだからそれがオカシい、異常だとの判断はつくのだろう。
「信じるんですか?僕の話」
「・・・前例を見たことがあるからな。お前のように人間だった奴が狼になったのを」
僕はその言葉を聞いて思いっきり立ち上がった。
尻尾もアサちゃんの口から抜けたがそんなことを気にしてはいられなかった。
クマさんは確かに言った・・・前例があるって
「いたんですか!?僕と同じ元人間が!?」
僕はかすかな希望を声に含める。
クマさんは黙ってそれに頷く
「ど、どんな人だったんですか・・・?」
僕がそう聞くとクマさんは話が長くなると断ってから話始めた
目を遠い満月を向けて
「今から15年前・・・儂は森で山菜や果物を食べていた、その頃はまだ若く、この樹海の主ではなかった・・・
辺りも暗くなり始めたと思った儂はこの洞穴に帰ろうとした、そんな時ふと足下を見ると野良犬のような動物が寝っ転がっていた。
よく見るとなんとそやつは狼・・・外来種ではなく絶滅したはずのニホンオオカミだったのだ、流石の儂も大いに驚いた。ニホンオオカミなど、母から聞いた昔話か他の動物との交流の際に聞くくらいしかなかったからな、興味が沸いた
そして儂が匂いを嗅いでいると狼はいきなり起き出し、奇声を上げていた。
儂が怖かったのか助けてぇ~とか随分と間抜けな悲鳴を出しながら狼狽えておった、そして自分の姿が狼だと気づくと勝手に気絶した
・・・オカシな輩だった。
儂はそいつを洞穴まで移動させて観察した。
その後起きた狼に警戒心を与えぬように少しづつ喋り合うと気が落ち着いたようだった。
話を聞くと・・・奴は人間だと言う、バカなと儂は思ったが、一緒に持っていた人間の道具を使いこなしているのを見ると嘘には思えんかったよ
しかもお主と同じくここがどこだかサッパリした様子だった。色々と教えてたのは楽しかったのぅ
・・・そしてある程度知識を身につけた後「人間に戻る方法を探して旅にでる!」とかいって遙か彼方に旅だってしまった。何が奴をそこまで駆り立てたのかわからんかったが今ならわかる。
帰りたかったんだろうなぁ故郷に。
だが一年ちょっとした後に奴はひょっこり帰ってきよった。その隣には同じニホンオオカミの雌がいて儂も絶句したわ。
奴は人間に戻る事をやめてその雌と一緒に暮らすと言いよった。
この樹海で夫婦になって子共にも恵まれて暮らしてたよ
奴は「狼になった事は許せんが今は感謝してる」とか吹っ切れた様子だった、まぁあ奴が満足してるならそれでよかったんだがな・・・」
クマさんは一端話を切ってアサちゃんを見る。
その目は、何かを懐かしむようにも見えた。
声をかけようとしたが僕は黙る。
そしてクマさんもまた、覚悟を決めたかのように僕へと振り向いた。
「・・・アサは、奴の娘だ」
「うそん」
アサちゃんが元人間の娘だと聞いて、驚きのあまり僕は場違いな声を出す。
アサちゃんのお父さんがまさか僕と同胞だったとは・・・これまた度肝を抜かれた気分。
あれ?でもそしたらなんでアサちゃんは一匹なんだろう?狼って家族で群れを形成するんだろ
僕はクマさんへ躊躇いも無く思ったまま口にした
「なんでアサちゃんは一匹なんですか?両親や兄弟は?」
後から思うと、この時の僕の質問は本当に無神経な言葉だったと思う。
クマさんは僕の問いに少し顔を歪ませて重々しく口を開いた。
「・・・死んだよ、人間に狩られたんだ。」
「・・・」
彼の最後はこうだったという。
銃を持った猟師が突然彼らの巣を襲ったらしい。
違法による乱獲など、ニホンオオカミの生き残りがまだいると話題になっていた当時の状況を知っていた彼は、捕獲ではなく殺されると判断した。
アサちゃんのお父さんは兄姉達と共に人間達に奇襲を仕掛けた。
しかしその際に兄と姉が死亡、更に彼が奇襲をしていた隙に、幼い赤ん坊だったアサちゃんを巣で守ってた彼の妻が射殺され、それを知った彼が暴走した状態で猟師の本拠地へ突撃したそうだ。
遺体が見つかって無い為、捕獲されたのか射殺されたのか?生死はハッキリしていないが、銃火器を持つ集団の中に突撃したとなれば、恐らく 玉砕覚悟だったのだろう
その後、クマさんは生き残った赤ん坊のアサちゃんを育てたという経歴があったみたいだ。
「あの娘はその時から人間を憎むようになった。家族が殺された挙げ句目の前で母親が撃ち殺されたんだからな。流石に登山者を襲ったり町に出たりはしていないらしいが・・・この先が心配でならん、人間に喧嘩売って勝てるわけないからなぁ」
クマさんはその剛毛で覆われた大きな手で、寝ているアサちゃんの頭を撫でた。
匂いか感触とかで判断したのだろうか、アサちゃんは少しだけ嬉しそうに頬を緩ませる。
クマさん自身も優しい瞳でそれを眺める
それを見ると本当の親のようだ。
きっとクマさんはアサちゃんを本当に大事に思ってるんだなぁ。
そう思ってニヤニヤしているとクマさんがこっちを向いてきた。
怒られそうだと思った僕は一瞬で真顔に戻る。
そしてクマさんも真面目な表情をしてこう言う
「お前は奴に似ている、臆病な所が主だがな・・・もしかしたらお前はアサを変えられるかもしれない。ただの狼だったら少し躊躇ったが・・・アサの父親と同じ「人間」のお前が、時がかかっても良い・・アサの中から憎しみを消し去ってくれ・・・頼む」
そう言ってクマさんは頭を深く下げる。
そして同時に漆黒の夜に白い光が写り込んできた
ちなみに主人公のシロウは「とりあえず」が口癖です




