オジサマに遭った。
いやぁ、清々しい朝ですね!樹海を歩いて早1時間。もうそろそろ目的を忘れそうですね!
え~と、どこ行くんだっけ?
「アサちゃ~ん、僕ら何処に向かってるんだっけ?」
僕は目の前を先導して歩いてるアサちゃんに問いかける
が、返事が来ない。無視ですかショボーン。
まぁいっか!!そりゃそうだよねこの質問20回目だもん。
一回目
『アサちゃんどこ行くの?』
『さっきも言ったでしょ?オジサマのところよ』
二回目
『アサちゃんどこ行くの?』
『このまま真っ直ぐ行ったところの洞穴』
三回目
『アサちゃんどこ行くの?』
『・・・・』
四回目
『アサちゃ(ry』
以下略である。しつこ過ぎたかな?
えー、現在僕達は、オジサマというある獣に会う為に、アサちゃんに案内して貰ってる最中でござる。
正直行きたくないよ。何?一言「オジサマ」って聞いてみてなめてたらこの森の主だって?RPGなら王様に会いに行く場面だよね。
でもね、僕は違うと思うんだ。何で僕がアサちゃんの育て親兼森の主様に会わなきゃならんのじゃ
それを聞いたら
『アンタもどっちみちこの森に住むんだから会っといた方がいいわよ。オジサマ敵に回すのは森の動物丸ごとって考えといて』
それなんてもののけ?
はぁ~、湯鬱だぁ、怖いなぁ。
僕の豆腐メンタルを後で徹底的に教え込む必要があるな。
アサちゃん。今夜は待ての練習をしようか。
「アサちゃ~ん」
「な~に?」
数分経って落ち着いたのか、尻尾を若干振りながら歩いているアサちゃん。たぶんオジサマに会うからじゃないかな?
不機嫌が治まった
っとここで話かけるのがポイント。ここでちゃんと答えてくれる。
「最初にも聞いたけど、足はいいの?」
それは洞窟出発の際に痛いほど聞いた。
アサちゃんはよろめいても「走らずにいけば歩ける」の意見を貫き通した。そして、僕が折れた
いや、あの顔はしかたないよ!ケモナーじゃなくてもあれはキュン死するって!チワワとか子犬みたいな純粋無垢な期待の込められた瞳でじっと見られれば仕方ないと思う!
「大丈夫大丈夫。足もそんな痛くないわ」
そうアサちゃんは答えて意気揚々に歩く。
動けなくなったら運ぶの僕なのにどこから来るんだその自信。
まぁこの件はそれで終わりとして、このまま黙って歩くのもなんかつまらない。
とはいえ、そろそろ「どこいくの~?」の無駄な足掻きのような連呼はやめときますか、どうしても連れてくみたいだし。
「オジサマってどんな獣~?」
どんな人~?って聞けないのが難点だな。
それは置いといて、今から初めて会う方なら一体どんな獣なのか聞いておきたいじゃん?
怖くありませんように~!
「そうね・・・おっきいわ。」
「おっきいの・・・?」
どのくらいなの?
「あと、あたしの受けた人間の武器の傷跡が何カ所付いてるわ」
え?何それ?銃弾に耐えたの?そんな動物日本にいたっけ?
もしかして超巨大狼か?モロか?あれ山犬だけど。
「怖いんですけど・・・」
「ん~、あたしを育てくれた時は優しかったけど?」
それはつまり親バカの可能性があるわけですね。わかります。
「今年で35才の年長だし、シロウの知りたい情報があるかもよ」
こう言われちまったら言い返せないじゃないか。
僕は未だに人間に戻ることを諦めてはいない。人間の時、特別に裕福とか未練があった訳じゃないけど・・・やっぱり故郷は故郷なのだ。
僕はとりあえずここが日本のどこだかが知りたい。
勿論、アサちゃんは僕が元人間であるそんな事実は知らない。
言ったところで信じて貰えないし、信じて貰ったら抹殺されそうだ。
アサちゃん人間何故か敵視してるもんなぁ僕がリュック持ってた時も『人間の道具』を恨めしそうに睨みつけてたし
「そう言えば、あのカラスは今日来てないね?」
ちょいシリアスに考えていたら珍しくアサちゃんから話題を振ってきてくれた。
心なしか、心配そうに僕を振り向きながらこっちを見てくる。暗い顔してたかな?
犬顔では表情乏しいと思うけど、動物の表情は動物にしかわからないのかもしれない。
「あ~、あの喧し鴉?なんか用事あるとか言って今日はオフだって。」
ひと、一匹では心細かったので、カラス達に声をかけた。面白がって付いてくると思ったら断られた。
『今日はちょっと野暮用でな』
『二匹で行ってらっしゃい!良い!?二匹でいくのっ!!』
『GOgogo!!』
あいつらに用事なんてあんのか?奴らほど自由動物はいないと思うけど・・・てか最後の奴。いつの間に英語覚えてたのか。カラスの頭もバカに出来ないな。
アサちゃんは未だに僕の「オフ」を「お、おふ・・・?」とか言って理解しないけどね。
「そう・・・やっと二匹。(ボソッ)」
「なんか言った?」
「うんん!何でもない!!」
アサちゃんは笑顔のまま冷や汗(出てないけど、見える)をかいて焦った様子をする
おいおい。ちゃんと聞こえてるからね?やっと二匹って何?僕を暗殺でもするの?
常に警戒態勢でいこう・・・
と、思ってたけど急にアサちゃんが立ち止まった。どうやら到着したらしい
目の前には洞窟っていうか、洞穴があった。
もの凄くデカい。これからこの巣の・・・いや、森の主に会いにいくのか
あ~、胃がキリキリするぅ
「さっ入りましょ」
そう言ってアサちゃんは躊躇いもなく洞穴に突入する。そこに僕は金魚の糞のように付いていくしかなかった。
壁や地面を見ると自然にできた穴じゃない事が分かる。
何者かによって掘られて出来たものだと思う。
高さ4メートルにはなろうその洞穴に抱いた僕の感想はそれだった。
デカい。兎に角デカい。
こりゃアサちゃんの言った「おっきい」も強ち出鱈目って訳じゃないみたいだ。
デタラメだと願ってた僕!ドンマイ!!
はぁ。
洞穴に入って数歩進むとアサちゃんが、また止まる。僕もそれに釣れてお座りする、何故か。
するとアサちゃんは「オジサマ~!」と奥に向かって吠えた。
結構デカい音量だな。ニホンオオカミの吠え声は障子をも揺らすと聞くがそれは本当らしいな。
しかし、数分待っても、オジサマとやらは現れない。
この音量だ、気づかないハズがない。
「・・・いないのかな?」
「おかしいわね、いつもなら・・・あ!」
いないねぇっと話合ってたら突然アサちゃんは何かに気づいたようにハッと天井を見上げる。
何事か!?と思った僕も天井を見上げる。
だがそこに映ったのは天井ではなく、黒い何かだった・・・
犬のように飛び出た鼻。顔の割に小さい両目、耳もそれなりに小さく最低限機能しているようにも見える。
そして黒い毛。剛毛といわれそうに堅い尖った毛皮を纏っている。
そう・・・目の前に現れたのは巨大な『クマ』だった・・・
「・・・」
どうすればいいんだこの場合。あれか?確か目を合わせながら後ろに下がるんだっけ?いや、急に大声出して暴れればクマは逃げるってのもあったな。
ちょい待て、クマこっちガン見してんだけど?やべぇ超怖ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!
「オジサマっ!!」
僕が真剣に生き残る方法を考えてる隣でいきなり何言ってんの?
クマじゃん!!オジサマって何だよ!!
するとクマはそれに応えるかのように唸った。
「アサか、久しいな」
なんじゃこの声!!すげぇ低いんだけど!なんかダンディー!
それとは別に僕は身震いをする。ゾクゾクする
さっきまで『知識』として怖いと思ってたけど・・・声を聞いて本能が感じ取ってる、この『生物は危険』だと
やべぇ、本物の強者の威厳ってのを声だけでも感じ取れるんだけど・・・!!
チビるぜ
「アサ、隣にいるのは・・・山犬か?外来種でも来たのか?」
その声で僕は正気に戻る。
意識飛んでた、どうやら話が進んで僕の話題になってたみたいだ。
「オジサマ、このモノはシロウと言うあたしと同じニホンオオカミです。最近この森に住み始めた新参者なので挨拶に連れてきました」
えっと?アサさん?そんな真面目でしたっけ?僕初対面で噛まれたんですけど。
すると熊は小さい目を見開き、驚いた様子で僕を見始める。
「驚いた・・・まさかアサ以外にも生き残りが居たとはな・・・」
これは誉められてるんでしょうか?
いや、無いな、明らかに警戒してる目だ。その気になれば僕の顔を砕きに来るかも知れない
「貴様、シロウと言ったか、もし・・・同じ狼とてアサに手を出したら・・・狩るぞ?」
まぢこえぇぇ。狩るって何さ?殺るって事だろ?
そんな事で警戒するとは、大人の対応がなってないな。そんな事するわけないじゃないか。まったく、良い年した獣が脅してくるなんてさ
「そそそそそそそ!そんなことは滅相もない!僕はアサちゃんに手を出す気はは全くごさいませんんんんんん!!」
お陰で僕がこのザマだよ。
「オジサマ、シロウはあたしの怪我を治療してくれた恩人で、そんなに力まなくても」
「何だとー!!?お前怪我したのかいつどこでだ!?」
アサちゃんの援護射撃は火に油を注ぐ結果になりました。
突然押し倒されるほどオジサマに近づかれたアサちゃんは若干戸惑い気味だ。いや、引いてる?
「えぇと・・・一週間くらい前」
「いいいっしゅうかぁん!?」
狼狽え過ぎだろ。
「うん、・・・鉛玉っての足にやられて」
「鉛玉!!銃の事か!?人間に見つかったのかアサ!?」
すげえ、鼻と鼻をくっつけてるわ。オジサマ必死だな。
でも逆に言えばそれくらい心配ってことか?親バカ確定の判子を押しとこう。
「うん、でも逃げたよ?その後5日間飲まず食わずで居て」
「「なんだと!?」」
アサちゃんの5日間の状態は初耳だぞ?
思わずオジサマとハモってしまった。オジサマもビックリして僕を見ている。
そんなことを予想しなかったアサちゃんは僕とオジサマを交互に見て困惑状態に陥っていたがそんなのかんけぇねぇ!!
「アサちゃん!お腹空いてたのは知ってたけど飲まず食わずは知らないよ!?ビーフジャーキーを出さなかったら餓死寸前じゃないか!それなのに遠慮してたのかバカ!!」
「えっ?だ、だって・・・シロウのびーふなんとか食べれたから、脱食してた時期は言わなくて良いかなぁって?」
「よくないわ!食べてないんだったら全然あのビーフジャーキーの量足りてないじゃないか!食べなきゃ治るもんも治らないんだよ!もうちょっと考えて行動しなさい
!」
「あぅ・・・ご、ごめんなさい・・・」
僕がギャーギャー怒鳴ると前足で耳を塞ぎながら涙目でアサちゃんが謝罪してきた。
この娘普段は強いんだけど正論で怒鳴れば大人しくなる子だ。反抗期みたいな性格じゃなくて良かった。
クマのオジサマは僕をポカーンと見ているだけだった。
何やねん?
次回・・・衝撃の真実かもしれない。
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