表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/52

デレク先生の魔法講座

9/9 脱字修正

 皮手袋を嵌めた手に握られた杖の先端、カットの施された水晶が光を反射して美しくきらめく。

 サバイバルと魔術に必要な道具が一式詰まった武骨な革製のポーチ。腰に佩いた使い込まれた短刀。

「ああ、落ち着くなぁ」

 捕虜から家政夫兼家庭教師にランクアップしたデレクが、返却された装備品を身にまとい安堵の息を漏らしている。

「邪魔じゃないですか?」

 そんな彼をリツコが首を傾げながら観察する。

 分厚い革の外套とブーツは動きを制限し、通気性も悪そうだ。腰に付けた荷物や刃物は少量とは言えベルトが歪む程度には重量がある。

 何より、デレク本人の身長より長い杖はどう見ても持ち歩くのに不便そうだ。

「魔の領域を丸腰のまま平然と出歩けるほど俺の肝は据わってないんだよ。人の領域でさえ、森の中をそんな軽装で歩くなんて考えられない」

 涼やかな青のワンピースに身を包み、無造作に足を投げ出して座るリツコにデレクがもの言いたげな眼差しを向ける。

 言われてみればその通りで、生い茂った葉で切り傷を作ったり虫刺されに悩まされたりしない不思議にリツコは遅まきながら気付かされた。

「い、言われてみれば……」

 リツコだけならば魔女だからで通るかもしれないがエヴァンはどうかと隣に目をやれば、彼はしっかり長袖長ズボンを装備していた。

 思い返せば、ジャネット達が買ってくれた子供服はスカートや半袖よりもズボンや長袖が多かった気もする。

「……それはさておき、先日の話の続きを教えてください」

 常識知らずは自分だけだったと複雑な気分になり、リツコはさり気なく話題をそらした。

 昨日デレクのもつ豊富な知識の片鱗を見せびらかされたリツコたちは提示された条件を飲み、彼に教えを乞うこととなった。

 渋るかと思っていたアドラメレクが一度の話し合いであっさり承諾したのはリツコには意外だった。

「ああ、人と魔物の使う魔法の違いだっけ。ちょっと見ててくれ」

 言うなりデレクが右手で杖を掲げ、誰かに囁いているかのような小声で何かを唱えだした。

 杖の先の水晶にぼんやりとした青い光が灯り、数秒後それが消えると同時に彼の頭上に丸く白い光の玉が浮かんでいた。

「これが人の使う魔法の1つで、俺の持つ魔力を精霊に渡し、光に変えてもらっている」

 人は単独で魔法を使うことが出来ない為、精霊などの助けを借りる必要がある。力を借りる相手によって魔法の呼び方が変わるらしい。

「精霊の力を借りた魔法は、<魔術>または<精霊術>と呼ばれる。自分に寄生させた呪蟲を使うのは<呪術>。精霊などの代わりに魔法陣を使った魔法もある。どんな魔法を専門に使うかによって、魔術師とか呪術師とか呼ばれるね」

 魔術師の中でも怪我や病気の治療のための魔法を専門に使う<治療術師>、化学技術と魔術を組み合わせて薬や道具を作る<錬金術師>など様々な種類がいるそうだ。

「対して、魔物は自らの力で魔力を別のものに変えることが出来る。ちょっと実演してもらえないかな」

 少し離れた場所で暇そうにしていたアドラメレクに、デレクが声をかけた。

「え。僕がやるの?」

「お願いします」

 急な指名に戸惑うアドラメレクに、デレクが笑顔で頷いた。

「うーん?」

 何をすれば良いのかと首を傾げたアドラメレクは、その場で跳躍して地上から3m以上はありそうな高さの木の枝へ飛び乗って見せた。

「これが魔物の使う魔法。違いは何でしょう?」

 自分の頭上の光とアドラメレクを交互に指さし、デレクが座って傾聴している子供たちに問いかける。

「あれって魔法なの?」

 アドラメレクを見上げるエヴァンの呟きに、リツコは森で暮らし始めた頃に感じていた疑問の答えを得た気がした。

 肉体の筋肉量と発揮される能力との差を埋めているのが魔法なのだろう。

「成程、私の異常な身体能力は全て契約によってアドから借りている魔法なんですね」

 思わず漏れたリツコの言葉に、デレクが頷いている。

「違いというと、デレクさんは魔法を使う前に何か呟いてましたね。あとは杖が光ってました。アドの魔法には特にそういう準備や前兆みたいなものは無かったように思えますね」

 デレクの言う違いとは魔法の効果では無いのだろうと当たりをつけて、リツコは双方の魔法の使い方を思い出して間違い探しをする。

「正解。さっきも言ったけど人間は単独では魔法を使うことが出来ないから、呪文を唱えて精霊を呼んで魔力を渡し、光などに変換してもらうというプロセスが必要なんだ。うわっ」

 再び解説を始めたデレクの隣に、飛び降りてきたアドラメレクが着地し木の葉が勢いよく舞う。

「魔物にはそれが必要ない。なぜならば魔物の体内には魔力を様々な形に作り替える為の仕組みがあるからだ」

 リツコとエヴァンが同時に首を傾げると、デレクが困った表情で頭を掻いた。

「そうだなぁ。例えば……小麦粉を想像してみてくれ。水を加えて練って、細くすれば麺になる。発酵させればパンが出来るし、バターや砂糖を加えて焼けばケーキになる。魔物や精霊には小麦粉を料理にするための厨房が体の中にあると思ってくれればいいかな」

 小麦粉を料理に、もとい魔力を魔法にするための装置を<型>と呼ぶ。

「厳密にいえば、型をもってない人間だって単独で魔法を使えないわけじゃないんだ。ただし、型を使わない魔法は膨大な時間と魔力を消費する上にそれに見合った効果を得られない。魔力を無駄にするだけだから誰も使わないんだ」

 では、人間よりも魔物の方が魔法使いとして優れているのかといえばそうでもないらしい。

「魔物や精霊がもつ型の数や種類は生まれた時から決まっているそうだ。使いたい魔法に合った精霊を呼ぶ技術をもった人間の方が魔法のレパートリーは多い。領域の関係で人間の方が国を発展させやすく技術や学問も発展しやすいからね。魔法の分野で魔物に大きく負けてるってことはないはずさ」

 自慢するように微笑んだあと、デレクの眉が急に下がる。

「精霊については結構文献も多いんだけど、魔物の魔法についてあまり研究が進んでないんだ。決まった魔法しか使えない筈の魔物が、記録にない魔法を使うことも稀にある。最近の研究者の間では他の型を持った魔物や精霊を食べることで魔力と共に型も増やす個体がいるのではないかという説が出ているんだけど?」

 真偽を問うように向けられたデレクの視線に、アドラメレクが首を傾げる。

「さあ?」

 知らないのかはぐらかそうとしているのか、問われた方は興味なさそうに小石を蹴って遊んでいる。

「……とにかく、人間には魔法を使うための型が無い。これは常識だ」

 当の魔物を前にして疑問の答えを得られなかったデレクは残念そうにしながらも講義を続ける。

「その常識を超え、契約者から型の複製をもらい魔物と同様の魔法が使えるようになった人間が魔女だ。ただし、魔女の持つ型はオリジナルの劣化版であり、種類に関しても契約者より少ないらしい」

 進むにつれて解説が曖昧になっていき、最後にデレクが実に不本意そうに付け足した。

「今のところは"らしい"としか言えないんだ。魔女は存在するだけで危険だと言われていてすぐに討伐されてしまうから研究の機会も、文献も、専門家も少ない」

 なんでもないことのように恐ろしいことを口にするデレク。

「魔女は危険な裏切り者、ってやつですか」

 以前にベイジル達から魔女の話を聞いたときに、彼らはそう表現した。

「そう。強力な魔物が居ても、領域の結界があるから人の世界では力が制限される。だが、魔女と契約を結んだ魔物達は結界の力が効かなくなる。魔物との契約は全ての人間を危険に晒す恐ろしい行為なんだ」

 リツコの呟きにデレクが頷いた。

「魔物ってそんなに危険なんでしょうか?」

 アドラメレクや大蜘蛛、狼と共に暮らしてきたリツコにはその言葉に実感が湧かない。

「……」

 少女の無邪気ともいえる質問に、何故かデレクが責めるような視線をアドラメレクに送っている。

「君が言っている魔物というのはスコルやアルコナの話かな?」

 相変わらず無反応なアドラメレクに追及を諦めたデレクが小さな受講者たちに向き直る。

「その、スコルとかアルコナというのがここに住んでいる狼や大蜘蛛を指しているのならば、そうです」

 恐らくそうだろうとリツコが見当をつけていた通り、スコルが狼を、アルコナが大蜘蛛を指す名称だとデレクが補足した。

「彼らはまあ、個人にとっては脅威だけど訓練された軍隊にとってはそれほどでもないんだ。そもそも特別人間に対して敵意を抱いている訳じゃない筈だから、契約を持ちかけたところで応じてもくれない」

 デレクの講義に夢中になっていたリツコの隣に、いつの間にか子蜘蛛が丸まっていた。

「契約を結びたがるような、人間に敵対的で危険な魔物は100年戦争より前から生きている古い魔物さ。人間に負け、魔の領域に押し込められた彼らは復讐の機会を狙っているんだ。有名な魔女の1人に騎竜の魔女と呼ばれる存在がいる。150年前に討伐されるまでに、彼女は3つの小国と5つの傭兵団を滅ぼしている」

 そして、とデレクが少し言いよどむ様子を見せた。

「君にも、それだけの力がある」

 意を決したように吐き出したデレクに、実感のないリツコは目を瞬かせた。

「大きすぎる力に対して、君には知識がなさ過ぎる。それはきっといつか君達が身を滅ぼす原因になる。アドラメレク!」

 おざなりに聞き流していたアドラメレクが、急に名を呼ばれて思わず姿勢を正している。

「君にも聞いててもらうよ。報酬をもらって仕事をするからにはきっちりやらせてもらうからな」

 面倒くさそうな表情のアドラメレクに負けず、デレクが気合の入った宣言をする。

 案外真面目な人なんだなぁと感心しつつ、リツコは久しぶりに訪れた学びの機会に胸を躍らせた。

説明回もうちょっと続きます。

出来るだけ物語中で語っていきたいので、この後の話用に出来るだけ短く要点をまとめられればいいなぁ(願望)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ