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魔女

間に合いました。短くてすいません。

 野草茶がすっかり冷たくなる頃、ジャネットお手製の昼食が出来上がった。

 人数分の皿に野菜スープがよそわれ、食欲をそそる香りを辺りに振りまいている。

「いただきます」

 見た目や香りに味が伴っていれば最高なのに、と軽く溜息をつきながらリツコが手を合わせる。

 灰汁の強い人参と一緒に、食事の前にベイジルたちから受けた説明を自分なりに噛み砕いて整理していく。

 魔女とは、魔物と契約をした人間のことを指すのだという。

 魔物に人の領域で活動することを許す代わりに、魔女は契約相手の得意とする魔法の一部を使えるようになる。

 それが、いつぞやアドラメレクの言っていた『力を貸す』という事らしい。

 檻から脱走する際や森での生活を支えてくれたことは、その言葉の本来の意味ではないとのことだ。

「大事なことを説明してくれないんだから」

 慣れたとはいえ、美味しいとは感じられないジャネットの手料理にリツコは眉を顰める。

「あら、どうされました?」

 考え事をしながら料理を口に詰め込んでいたリツコは、その声に現実へと引き戻される。

「い、いえ。なんでもありません」

 ジャネットの問いに首を横へ振るベイジルの足元には、スプーンが落ちている。

 昨日森へ入ってから碌に寝れもせずに逃げ通した為に疲れが出たのだと、彼は弁解しながらスプーンを拾う。

「そうですか。いっぱい食べて、ゆっくり休んでくださいね」

 ひとしきり心配した後、ジャネットはエヴァンにスープを届ける為にその場を離れていった。

「……」

 綺麗にぬぐったスプーン握り直したベイジルが、途方に暮れたように顔を隣に向ける。

「坊ちゃん。失礼ですよ」

 無表情でスープを啜っていたチェスターが、低い声で嗜める。

 内緒話のつもりらしいが、動物並みの聴力を持つリツコの耳には内容がばっちり聞こえている。

「もしかして、お口に合いませんか?」

 リツコが問うと、ベイジルとチェスターがさっと顔を青くする。

「いえ、そんな、滅相も無い!」

 ホストの機嫌を損ねることが怖いのか、ベイジルが笑顔を作る。

「大事なことなので、正直に答えてください。一般的に見て、この料理は美味しいのでしょうか?」

 真剣な表情で詰め寄るリツコに、男性2人は戸惑いがちに顔を見合わせる。

「ふ、普通より少し……いや、かなり個性的な味かと」

 顔色を窺うように恐る恐る出された回答に、リツコは拳を握り締めた。

「やっぱり普通じゃないんだ。よかった!」

 この国の料理に絶望しかけていたリツコは、思いがけない朗報に喜んだ。

「はぁ」

 話が見えず、唖然とするベイジル。

「お気になさらず。残念ですが、ここにいる間はこの個性的な料理を食べていただくことになります」

 ジャネットの料理が不味いことは分かったが、料理当番が彼女の間は我慢するしかない。

 しょげるリツコの百面相を不思議そうに眺めながら、ベイジルたちが頷く。

「話は変わりますが、人間にとって魔女とはどういう存在なのでしょうか?」

 ジャネットから昼食を受け取るエヴァンを遠くに眺めながら、リツコがふと疑問を口に出す。

「どういう存在、と言いますと?」

 淡々と食事を終えたチェスターが、表情を引き締める。

「先程、先生……ジャネットさんが怖い感じも無いと発言しました。そして、あなた方の態度は」

 行き倒れそうになっていた所を救ったリツコに恩を感じているのだと言われれば、頷けなくは無い。

 しかし、大の大人が年端も行かない子供を相手にするにしては畏まり過ぎているように感じられる。

「まるで、私を恐れているかのようです」

 リツコの視線を受けて、チェスターは眉根を寄せて黙り込んだ。

 何処と無く気まずい沈黙が流れた後、彼は深い溜息を吐きだした。

「魔女は、徒人には使うことの出来ない強力な魔法を持ちます。また、制約から魔物を解き放ち人間に危機をもたらす存在とされます」

 緊張に喉を鳴らし、彼は決意するように息を吸い込んだ。

「それ故に、危険な裏切り者として知られています」

 言い切り、チェスターは魔女の幼い顔を凝視する。

 そこに浮かんだ表情によって、自らの命運が決するのだと彼は信じているからだ。

「うらぎりもの」

 合成音声に似た抑揚の失せた声で、リツコはそれを復唱する。

 再びの沈黙。それは先程の比でなく、それぞれの肩に錘が乗っているような息苦しさを伴っていた。

 目を瞑って、リツコは考える。

 裏切り者という言葉から察するに、魔女は嫌悪の対象なのだろう。

 彼女のもつ異常な身体能力が魔法だとすれば、確かに一般人よりは危険だろう。

 しかし、凶器を持った人間と比較してリツコのほうが危険なのかと問われれば首を傾げざるを得ない。

 魔物に関しても、アドラメレクはもちろん、大蜘蛛や狼を想像してみても彼らが人間にとってそれほど脅威だとは思われない。

 ライオンや虎等の猛獣と比較してどちらが、という話になるだろう。

『つまり、宗教的に迫害を受けている感じ?』

 嫉妬と嫌悪にまみれた中世の魔女狩りに似たものか、と彼女は納得して首を傾げる。

 その意味するところはひとつである。

「私は人類の敵、ということでしょうか?」

 多少なりともショッキングな結論に、リツコは表情にも声にも上手く感情を載せられない。

「そうですね」

「坊ちゃん」

 頷いたベイジルを、チェスターが咎める。

「傷の手当をしていただいたこと、食事を与えて頂いたことに感謝しています。しかし、幼い頃から聞かされていた魔女への恐怖は我々には拭いがたい」

 その態度が不快であれば申し訳ないと、ベイジルは頭を下げる。

「その上で、あつかましいかとは存じますが、魔法薬を譲って頂けないでしょうか。代金は後ほど、必ずお支払いいたします」

 顔を上げた彼は真剣そのもので、射抜くようなその視線にリツコは息を飲む。

 彼女の返事ひとつで、目の前の命が左右される。頷きたい気持ちは大きいが、リツコは躊躇った。

「私の存在を公にすることになりませんか?」

 リツコの知識からするとヨーロッパでは、異端審問にかけられた魔女達の末路は火あぶりだった筈だ。

 その死に様は、列車に轢かれるよりもよほど恐ろしい。

「魔女の薬であることも、入手経路も外部には決して漏らしません」

 ベイジルの誠実そうに見えるその表情を、リツコはじっと見極めるように見つめ返す。

「分かりました。薬を作りましょう」

 迷ったが、助けたからには最後まで手を差し伸べるのが責任というものだろうと彼女は決意を込めて頷いた。

「でも、どうやって帰るおつもりですか?」

 その問いに、喜びかけていたベイジルが動きを止める。

「き、気合で」

 弱弱しくなされたその命知らずな宣言に、リツコは盛大に溜息をついた。


主人公は鉄拳制裁系の魔女になりました。

キラキラしたエフェクトも可愛い呪文も何も無く、魔法で強化された肉体に物を言わせて敵をなぎ倒す。

魔女っ子といえば休日の朝の子供番組だと思いますが、暴力で敵を粉砕するヒロインとか保護者からのクレームが殺到しそうです。

魔法薬?そんな能力もありましたね。

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