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神光のギルヴァント  作者: 因幡 縁
第一幕
19/40

第19話






「よぉ、オリガ! お前無事だったんだな!」

 『変異』が出現したその翌朝。教室に入ってきたエディは、いつもの席にオリガの姿をその視界に認めるやドタドタと駆け寄ってきた。

「ああ、おかげ様でこうしてピンピンしてるよ」

「おお、さすがだな! やっぱAクラスが集まれば『変異』なんて敵じゃないんだな!」

「まあ、今回は中々骨が折れたんだがね」

 あいまいな笑顔を浮かべながらオリガが答える。次にエディはアレスの方を見て、

「それはそうと、お前何で呼び出されたんだ? 結局帰って来なかったじゃねーか」

「まあ、そのあたりは内緒だ」

「そうなんだよ、さっきから全然教えてくれなくてさぁ! カリンにも朝から聞いてるんだけど、かたくなに拒否されるんだよね~」

「だって、言っちゃダメって先生に言われたから……」

「二人してこれだけ隠すって事は、さては不純異性交遊でも咎められたのかな?」

「そ、そそそ、そんな事!」

 顔を真っ赤に染め、ちぎれんばかりの勢いでカリンが首をぶんぶんと横に振る。

「まあ、マリーの妄想は置いといて、と。でもホント、何でお前呼び出し食らったんだろうな……?」

「さあね」

 取り付くしまもないアレスの態度にこれ以上の追及を断念すると、エディはオリガに昨日の戦いについて尋ね始めた。武勇伝でも聞きだそうとしているのだろう。反対側を見れば、マリーがカリンに逢引の真相を白状するよう迫っている。やれやれと苦笑しながら、アレスは頬杖をついて物思いに耽った。



 昨日は日も落ちて真っ暗だったので面が割れる事はないだろうと高をくくっていたが、自分の能力の特性を少々甘く見ていたようだ。力を振るうたびにあたりは明るく照らされ、その特徴的な赤髪とも相まってアレスの顔は戦場にいたA・Bクラスの学生のほとんどに知れ渡ってしまった。特に同じ戦闘訓練の授業を受けているBクラスの学生たちは大いに驚いていたが、戦闘後その場にいた学生たちにはかん口令が敷かれ、アレスの力については引き続き機密事項として扱われる事になった。

 バレたらバレたで気楽になれていいか、などと思っていたのだが、そんな淡い期待もはかなく散ってしまった。今後も学生たちの前では自分の力を内緒にしなければならない。周りに注意を払いながら過ごす日々は今しばらく続きそうであった。これからはこの件に関してオリガやカリンに追及される事はないだろうというのがせめてもの救いか。



 そう。カリンはなぜ、あの場にいたのだろう。それがアレスの胸にひっかかっていた。てっきり彼女はどこか別の場所で事情を知らされるなりはぐらかされるなりするのかと思っていたが、まさかいっしょに戦場までやってくるとは。あの金髪の教官、彼はなぜあの場にカリンを連れてきたのか。自分の力の秘密を知る学生は少ないに越した事がないのではないか。

 考えてもしかたないか。かぶりを振ると、アレスはひとつため息をついた。『学園』のお偉方が何を考えているかは知らないが、知ったところで何がどうなるというものでもないだろう。当のカリンにも聞いてみたが、どうやら本人もなぜ戦場に連れられたのかよくわかっていないようなのだ。本人ですらわからない事を自分があれこれ詮索するのも妙な話であろう。マリーにからかわれ続けるカリンを横目でぼんやり見つめながら、アレスはそんな事を思った。その様子にマリーが気づく。

「カリン君、もうネタはあがっているんだよ……。おや、王子サマが心配そうにこちらを見ておりますぞ~?」

「もう、だからそういうのじゃないんだよぉ」

 ニヤニヤしながら、マリーがアレスに火種を投下する。

「アレス、呼び出されたのはやっぱ正門前での大胆プレイが原因なのではないのかね?」

「は? 一体何の事……まさか!?」

「くふふっ、カリンのお胸の揉み心地、良かったでしょお~?」

「ち、違っ! あ、あれは不可抗力で……!」

 アレスの一言に、マリーの顔色が変わる。

「え……? あの噂って、ホントだったの……?」

「なっ……!?」

「単にカリンがコケそうなのを抱きかかえたのが見間違えられただけだろうと思ってたんだけど、まさかホントにだなんて……!」

「ち、違う! 違うんだ……!」

「やるじゃない、カリン! そう、そうやって使うんだよ! 女の武器ってのは!」

 慌てふためくアレスには構わず、マリーが両手を自分の胸のあたりでわしゃわしゃさせながらカリンを褒め倒す。そんなマリーの言葉に、耳まで真っ赤にしてうつむくカリン。その隣では、オリガがエディに火の『形態モード』の何たるかを講義している。そこには、いつもと変わらない朝の教室の光景があった。




 新入生が入園して一月あまり。徐々に日は短くなり、冬の足音が少しずつ近づいている。『学園』には神の力を宿す少年をはじめ、様々な力の持ち主が集い始めている。それに呼応するかのごとく、世界もまた動き始めた事に、まだ彼らは気づいてはいなかった。





これにて第一幕は終了となります。今後、新たな登場人物や主要人物たちの成長、謎などが徐々に描かれ明かされていく事になります。まずはここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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