「ご飯三杯はいける」地獄
この作品ではご飯は全て大盛りです。
1杯は200g。ゆえにご飯三杯だと600gです。
朝起きる。
ご飯を大盛り一杯…200gだけ食べる。
学校へと通学する。
電車の中で、席に座る女子高生が股を広げているので覗く。
(うん、ご飯三杯はいけるね)
すると、その女子高生がカバンから炊飯ジャーを取り出す。
しゃもじを使って、これまたカバンから出した三つの茶碗に白米を盛る。
そしてその茶碗を俺に手渡す。
俺はそれらを食べる。朝食と合わせて合計800g。
お腹が膨らんでくる。
後ろを振り返って、女子高生を見ないように努力する。
そうしたら、巨乳のOLが思い切りぶつかってくる。
(あ…これも…いい)
すると、OLも化粧バッグから炊飯ジャーを取り出す。
しゃもじを使って、三つの花柄のお茶碗に赤飯を山盛り。
それを手渡される。OLは終始仏頂面だ。
俺はそれらを食べる。早くしないと目的駅についてしまうので、ガツガツ食べる。
終盤、お腹をさすりつつも、なんとかクリア。これによって合計1400g。
・
学校につく。
肉食系男子が手に包帯を巻いている。
友人の話によると、他校の人に喧嘩を売って返り討ちにされたのだとか。
(あー他人の不幸で飯がうまいってね)
すると、給食のおばちゃんが炊飯ジャーを持ってクラスに入ってくる。
しゃもじを使って、今日の給食で出されるはずの五目ご飯を三つのアルミパックに盛る。
それを手渡される。
お腹が痛いんですよ、と弁解をする。
許されない。
俺はそれらを食べる。早くしないと授業が始まってしまう。よりにもよって体育かよ。
制服のボタンをすべて解除することにより、なんとかクリア。合計2000g。
一時間目、体育。
体操服に着替えて、運動場をランニング。
気持ち悪さを解消するために、女子の方を見て気を紛らわすことに。
滴り落ちる汗。健康的な太もも。そして絶妙に透ける体操服。
(く…そお…)
そんなことを思っていると、後ろから体育顧問がやってくる。
俺の顔色を心配しつつも、手に持っているのは炊飯ジャーと茶碗。
走りながらも、炊飯ジャーの中の熱々の玄米ご飯を手づかみで茶碗へと移す。
それを手渡される。リレーのバトンパスみたいだ。
落としてやろうかと思ったが、眼力がそれを許してくれない。
運動しながら食事は非常に気持ちが悪くなるのだが、手づかみで頬張っていく。
一杯目を食べ終わった頃には、二杯目を盛り終わっていた。顧問の手が赤くなっている。
気合と根性でなんとかクリア。合計2600g。
・・
授業の後、気分が悪くなった俺は保健室へ。
ベッドで横になる。
保健室の先生はとても優しく…そして美人なのであった。
(そうか、俺と先生、二人きりなんだっけ…)
ロマンスを夢見ていると、ドスンという音が聞こえる。
保健室の先生が俺の口を開かせる。
指示通りに開くと、中にご飯を入れられた。
新婚さんがよくやるあれだ。
机を見てみると、炊飯ジャーに茶碗が三杯。山盛りである。
具材として入っているグリンピースがアクセントになっている。
なんだかんだで羨ましいシチュエーションなので、気力でなんとかなりそうだ。
(しかし、先生ホントに美人だよなあ…いい香水使ってるのか、すごいいい匂いだ)
すると、保健室の先生は胸ポケットから茶碗を三つ取り出した。
丁寧にグリンピースご飯を盛っていく。
先生の分ですか、と聞いてみるも、予想通りそのご飯も俺の胃袋に入るのであった。
こうして、無意味にご飯を六杯食べることになった。合計3800g。
全く体調が改善されないまま、クラスに戻る。
給食の時間になっていた。
俺だけは胃の消化に良いものにされていた。大盛りのおかゆである。
ズズズズズとスープ感覚で飲み干していった。合計4000g。
・・・
昼休み。
何もやることがないので、席で読書をする。
掲示係の女の子が俺を呼ぶ。
高いところに掲示をしたいようなので、足場を支えておいて欲しいと言われる。
そんなこと言われたら…上を向くしかあるまい。
(眼福でした)
すると、掲示係の女の子は、危険な足場の上で炊飯ジャーを使ってそぼろご飯を盛る。
足場の上から手渡されるので、どうしても上を向くしかなくなる。
しかし、保健室の前例により、いちいちホンホンしていたらキリがないことは分かっている。
ゆえに、近くにいた別のクラスメートに取ってもらう。
ああ、お前にはご飯渡されないのな。
理不尽にうなだれつつも、そぼろご飯を食べ切る。合計4600g。
降りようとする掲示係。
しかし、足場で滑って、転落。
下にいた俺に思い切りぶつかってしまう。
その時の記憶はないのだが、なぜか俺の鼻から血が出ていた。
待ち時間なしで炊飯器にそぼろご飯を盛る掲示係。
これは鼻におもいきり肘か何かぶつかったからではないか、と弁解する。
すいません、嘘です。
教室の隅にへたり込んで、ゆっくりと食べていく。合計5200g。
・・・・
レクリエーションの時間。
男女入り乱れてのドッジボールが開始。
いつもは空気の扱いである俺も、女子からすれば頼れる壁だ。
怖がるクラスのアイドルをエスコートする。
調子に乗って、彼女と手を取り合う。
(ハッ…)
敵外野の選手が炊飯ジャーを片手にこちらに向かう。
流石にボールを避けながら食事は無理だと抗議。
すると、ビニル手袋を使ってジャー内のサフランライスを丸く握っていく。
そして、サフランおにぎりを思い切りこちらに投げつけてくる。
ボールと同じように避けようとしたのだが、アイドルが涙目で訴えてくるので断念。
両手でがっしり掴んで大盛りおにぎりをムシャムシャと食べていく。
同時に試合も開始。バスケットボールが容赦なく飛んでくる。
それを避けると、今度はサフランボールが飛んでくるのでキャッチ。
見学していた肉食系男子がボールを二つにしようと提案。
熾烈な攻撃からアイドルを守りつつ、三つのおむすびを貪るのであった。合計5800g。
試合終了。試合は2-1で俺のチームの勝ち。
クラスのアイドルに思い切り感謝される。
おまけに頬にキスをいただきました。
そして、サフランもいただきました。合計6400g。
・・・・・
部活動の時間。
音楽室に行く。
すると、思い切りクラッカーが鳴らされる。
どうやら俺の誕生日を祝ってくれるそうである。
(ありがとう、みんな)
そして、誕生日に欠かせないのは…
そう、ライスケーキだね。
焼きたてふんわりな大きいライスケーキ。全然ご飯で作ったとは思えない。
食べ残すのは流石に癪なので、演技上ペロリと完食。
ご飯3杯分…600g分使用したそうなので、これで合計7000g。
部活動が終わったので帰宅。
途中の電車で、再び股開き高校生。
流石に7kgも食べたので厳しい。上を見てなんとかしのごうとする。
隣の号車が騒がしいので気になって見てみる。
あの肉食系男子が、クラス内のいじめられっ子を脅している。
ここで助けるとご飯がやってくるだろう。
冷酷な判断だが、犠牲になってもらおう…
としたら、いじめられっ子と目が合い、しかも叫ばれてしまった。
肉食系男子が突っかかってくる。これではご飯か、怪我か。どちらかしか道はないだろう。
どちらにせよ最悪な戦いが始まった。
・・・・・・
肉食系男子は腹パンを狙っているようだ。
腹のつまりがひどいので、正直あれこれ考えたくない。
腹を殴られれば嘔吐確定。7kgが思い切り吐き出されることになる。
それだけは避けなくてはならない。
いじめられっ子の様子はといえば、既に炊飯ジャーの準備をしている。
盛る気マンマンではないか。
包帯が巻かれていない右拳が飛んでくる。
俺は拳をドッジボールの要領でキャッチする。バランスが崩れて前のめりになる肉食系。
その力を利用して、彼の拳を思い切り炊飯ジャーの中に押し付けた。
ホカホカのご飯で火傷をする肉食系。ここに勝負は決した。
(…………ふ)
そう、勝利に少し酔ってしまったのが運の尽き。
俺は茶漬けご飯を三杯すすることになるのであった。合計7600g。
・・・・・・・
最寄りの駅からは自転車で帰宅する。
膨満感などという感覚は麻痺しきっている。
最短ルートで自宅へと帰ろうとする。
すると、町内会でくじ引きをやっていることを思い出した。
期限は本日まで。くじ引きクーポンを何枚か持っている。もったいないので行くことにした。
抽選会場には多くの人が集まっており、列も相当長いものであった。
その中に子供と母親が混じっている。
目を輝かせながら無邪気にはしゃぐ子供。手にはクシャクシャのくじ引きクーポン。
一等に当たったらどうしようと、夢のあることを言っている。
(微笑ましい光景だな)
すると、子供は肩掛けポーチから、それとは不釣り合いな炊飯ジャーを取り出す。
おしゃもじを取り出し、小さなバケツに内容物をよそっていく。
そして、それを俺に手渡すのであった。
このご飯は一体なんなのだろう。全体が黒と白の小さい粒子で占められている。
そしてトッピングとして木の棒で出来た箸が付随。
ご飯の触感はジャリジャリとしていて、まるで砂利のようである。
うん、まあ…牛だって消化を助けるために石とか食べてるし、大丈夫だろう。
こうして俺は非・食べ物を600g食べることになった。
ご馳走のお礼として、子供にチケットを全部くれてやった。
…合計8200g。
・・・・・・・・
帰宅。
典型的な鍵っ子である俺は、親が帰ってくるまでは自由だ。
今日は色々と良いモノを見せてもらったからな…
経験をオカズに、ナニをしようとする。
下着を下げた瞬間、ガチャリというドアの開閉音。
ただいま、という予想外のタイミングでの母親の声。
仕事が早く終わったらしい。
ズボンを慌てて穿く俺。
平常を装ってお出迎えをすると、母親の片手には炊飯ジャーが。
…まさか、見えていたということはあるまいな。
聞くに聞けない状態のまま、ご飯盛りを眺める。
愛情が隠し味と自称する母親のご飯は、他のご飯とは一線を画する。
用意された大盛り三杯をペロリと完食。母親のご飯だけはきっと別腹なのだろう。
カッコをつけて、「おかずなんてなくても三杯なんて楽勝だね」と宣言。
母親はセリフに照れたのか、夕飯でも俺の席にだけ三杯用意。
ごめんなさい、前言撤回で…合計9400g。
・・・・・・・・・
これで一日が終わる。
腹は妊婦さんみたいに膨れ上がっている。
こんなに食べたのだから(異物まで食べたのに)普通はトイレに行きたくなるはずなのだが、どうも今日は「そういう日」らしく、全く便意はない。
とても変だったが、充実した日だったなあ…うえっぷ。
布団を敷いて、眠りにつく。
「まだまだ終わらせないぞ」
謎の声に驚いて目を開けると、そこには父親の姿。
「お前に誕生日プレゼントを渡してやろう」
予想は出来ている。もうアレしかないだろう。
「ジャッジャッジャーン」
炊飯ジャー。
その中には最高級コシヒカリで出来た白飯が用意されている。
最後は自分の手で、ご飯を茶碗に盛っていく。
きっちり大盛り三杯…600gである。
無駄に覚悟を決めてがっつく。これを食べれば、ジャスト10kgだ。
もう…軽はずみで「三杯いける」なんて言わない。
だから…今日を、今日という日を終わらせてくれ。
・・・・・・・・・・
23時58分。
最後の三杯を食べ終わる。
自然と目から涙がこぼれ出す。
無駄な達成感に、無駄な満足感。そして、無駄な喪失感を得た。
もう一杯も、一粒も食べられない。
父親は、そんな俺の事情を知ってか知らずか、ニヤニヤしながら出て行った。
これで、もう…おやすみ。
こうして、彼の奇妙な一日は幕を閉じた。
しかし、翌日になった瞬間、今度は猛烈な腹痛に襲われるのであった。
10kg分の便が一斉に押し寄せてくる地獄。
幾多ものトイレを詰まらせ、果てにはトイレキラーと呼ばれてしまうのだが…その話をするのはまた別の機会で。