第12話 取引
同時刻 東雲宅
「これじゃない……これも違う」
「ホントに見つかンのかァ? 雪村棗に関する情報ってヤツはよォ」
「この部屋のどこかに必ずあるはずだよ。せっかくのチャンスなんだ、利用しない手はないからね。絶対に見つけるよ」
榊原と片桐は、東雲に借りた家の鍵を使って侵入し、情報がありそうな総一朗の仕事部屋を物色していた。
「東雲先輩のお父さんがまさかこんな大量に依頼を引き受けてるとは思わなかったよ。ファイルが多すぎて全然わかんない……」
「ンー、よく使う資料なら持ち出してンじゃねェの?」
「そうかもしれないけど。こんなに大量にファイルが残ってるんだから、相当几帳面な人だよ。コピーのコピーぐらいあってもおかしくないよ」
「でもよォ、なんかのお天気キャスターと熱愛報道されて家を荒らされると思って違う場所に隠しててもおかしくなくねェか?」
「ニュースキャスターね。でも、それも一理ある……。もしここになかったら、東雲先輩が親父さんから何か情報を聞き出してくれてればいいんだけど……」
親子関係悪そうだもんなぁ……と二人は同時に落胆した。
「もームリ。こっちの引き出し全部調べたけどそれっぽいものはひとっつもなかったぜ」
「だったらこっち手伝ってよー」
「そっちは絶対ねーよー。だってファイルの背表紙に二〇〇七年って書いてあるしよ」
必死に戸棚を漁る榊原をよそに、片桐は休憩をとろうと机の下の床に背をつけた。と、その時。
「ン?」
「何?」
「これ……」
「もしかして、見つかったの!?」
榊原が嬉々とした表情で片桐の方を見やる。片桐は机の引き出しの裏にセロハンテープで貼られた封筒を手に取り中身を確認すると、その正体を告げた。
「ヘソクリだ……」
「あ、そう……」
なんだ、関係ないじゃないか、と一度はショックを受けた榊原だったが、再び戸棚を漁り始め他ごとを考えると、妙な閃きを感じた。
「待てよ……? もし裏に何か隠す習性があるなら……。片桐先輩! その机の引き出し全部引っこ抜いて!」
「え、引き出し?」
「うん、早く!」
榊原の妙案に疑問を抱きながらも、片桐は言われた通りに引き出しを全て引き抜いた。そしてすぐに小柄な榊原が机の下に潜る。
「あった……! きっとこれだ」
よいしょ、と引き出しを抜いてようやく裏が見える位置に、同じくセロハンテープで貼り付けられていたクリアファイルを丁寧に取り外すと、その中身を確認した。外装は何の変哲もない真っ黒なクリアファイルだが、中に入っていた数枚のコピー用紙は、まさに二人が求めているものだった。
「雨宮紅愛と雪村棗に関する調査書……」
「ようやく見つかったね……!」
二人が強い達成感を覚えたのも束の間、突然、玄関の方からガチャガチャと音が聞こえた。
「嘘、こんな早く帰ってきたの!?」
「とりあえずどっか隠れるぞ!」
二人は慌てて仕事部屋の窓を開きベランダに出ると、カーテン越しに部屋の様子を伺った。
お目当てのファイルを持ち出せたことは良いが、いきなりの来訪者により部屋を荒らした状態のまま出てきてしまった。空き巣だと通報されたら近いうちに警察もやって来るだろう。二人の動悸が徐々に激しくなっていく。
しばらくすると、仕事部屋に誰かが入ってきた。細身で長身の女性だ。
「アレ、例のグルメレポーターか?」
「いよいよ誰だよそれ……でも、あの人は葉山さんじゃない。誰だろう……」
榊原は気付かれぬように室内を凝視した。
「ピッキングする手間は省けたけど……やっぱ手遅れだよねぇ」
細身で長身の女性――木下は、荒らされた仕事部屋を見て落胆した。
「まぁでも――パソコンは使えそうか」
木下は机の上にあるパソコンを起動し、持参のUSBメモリを挿すと、素早い動作でパスワードを打ち込んでいった。
「あの人、ハッキングしてるんじゃ……」
「つーことは、アイツもオレたちと同じ、空き巣ってことか?」
「そんなとこだろうね……どんな立場の人かまでは分からないけど、ボクたちの味方でも親父さんの味方でもないことは確かだね。もしかしたら、速水先輩たちの仲間なのかも……」
疑心暗鬼が加速する。
「とりあえず、あの人が出て行くまで待つしかないよね。部屋の片付けは間に合わないだろうけど」
「あァ。それまで気付かれなきゃいーけどナ」
◆◆◆
「答えたら、何でも?」
「ああ。ただし、そっちが正直に答えたら、な」
親父はこれでも探偵だ。こっちが少しでも嘘臭いことを言えば気付くかもしれない。
「写真提供とセットで俺への復讐、ってわけでもないだろう。事件の容疑者である雨宮紅愛はお前の中学の同級生。そして、ファイルを盗んだのは彼女が捕まる前の段階――お前は、事件の関係者なんじゃないか」
「チッ」
なかなかどうして、お察しがいいことで。慎重に言葉を選ぶのもいいが、それだとかえって嘘臭くなるだろう。即決力が必要だ。
「ああ、俺は事件の関係者だぜ。一番最初の全焼事件、あれの目撃者だからな」
「ほう、それで?」
「俺は見たんだ。燃え盛る炎の向こうに、雨宮が立っていたところを。そいつと目があった直後に、俺は気絶した」
「なるほど、あれはお前だったんだな」
「そう、要するに、俺も事件の謎を追ってたってわけだ」
親父は、なかなか筋の通った話だ、と賞賛した。筋が通るも何も、ここまでは事実なのだが。
「で、どうしてそこから雨宮さんたちと一緒に事件を追うことになったんだ?」
「っ……」
先ほどの口述で終われると思った俺が甘かった。この先は自分の事情を隠して上手くまとめなければならない。
「俺が学校の友達と出掛けてたら、偶然友達と一緒にいる最中の雨宮を発見したんだ。なんでも、雨宮の友達が事件の謎を解きたいって言ったらしくて、話してたら四人で謎解きする流れになったんだよ」
「ほう、つまり、その時点では雨宮が黒か白かは分からなかったと」
「ああ。あいつも真面目に謎解き手伝ってた……つーか、自分から率先してやってたし、本当は犯人じゃないんじゃねぇかと思って」
「今度は、彼女の無実を証明するために、事件の謎を追っていた、と」
「ん、以上だ」
俺が話し終えると、なるほどな、と親父は納得した風に溜息をついた。
頼む。これで終わってくれ。
「わかった。じゃあ、お前も何か一つ聞きたいことを聞くといい」
「俺が聞きたいことは……」




