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CREST~7つの紋章編~  作者: 館山理生
第8章 事件終結
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第7話 胎動

 音を立てて奥のT字路へと俺を誘った。


「あ?」


 音に反応した輩が四人、こちらを見て睨みを利かせてくる。


「なぁに人のテリトリーに勝手に入っちゃってんのかなぁ?」

「……」


 T字路の奥に屯している、あからさまな不良四人グループのボスと思しきロン毛の男は、気だるそうに立ち上がり俺の目の前に立ちはだかる。しかし俺は逃げも隠れもせず、指をポキポキ鳴らすそいつの目を睨み返した。


「んだてめぇその態度は!」


 ロン毛の仲間の三人に取り囲まれる。数秒後には殴られる勢いだろう。だがそれは、俺が何もしなかったらの話だ。

 突如、ボンッという音が“下から”聞こえた。

 俺の目の前にいるロン毛が「何だ?」と足元をのぞくと、そこには小さな火傷跡が。ズボンが破け、焼け焦げた皮膚。暗くて完全には見えないが。

 それに気付いたロン毛は、思い出したように痛覚を覚え、軽く悶絶して俺と距離をとった。


「てめぇ今何した!」


 俺を取り囲む仲間連中には適当に蹴りをお見舞いしておく。その後すぐにカウンターが飛んでくるが、それも躱す。バスケで鍛えた瞬発力は伊達じゃない。

 そうして四人全員が一度俺と距離をとる。全て、俺の計算通りだ。


「何したって? わかんなかった? もう一度やるからよく見とけよ」


 頭の中でイメージする。そして、右手で握りしめていたライターを取り出し、ロン毛に向かって投げつけると、今度は先ほどよりも大きな音を立てて“爆発”した。


 簡単な水素爆発だ。一度目は距離が近かったため力を最小限に抑えないと自分まで巻き込まれてしまうが、距離が遠くなれば自分は巻き込まれずに済み、より大きな水素爆発を起こすことが出来る。もちろんある程度の力のコントロールは必要だが。


「喧嘩に道具使ってんじゃねぇよクソガキ……ッ」


 ロン毛は足が使い物にならないのか、なんとか手で地面を這いこちらに近づこうとする。


「生きてたか」


 やはりあの程度の爆発では人は死なないか。残念感と安堵感が混じり合い、仕方なく最終決断を下す。


「ぶぶるぁぁあ!?」


 ロン毛は命乞いすることなくこの世を去っていった。その根性だけは認めてやる。

 同じように他の三人にも水を飲ませ、その場を立ち去った。

 ――不思議と心は痛まなかった。


 知り合いでもなんでもない、通り魔殺人。まさか自分がこんなことをするとは……今日の俺は、どうかしている。そんな自分に、酔い痴れている。

 しかし殺してしまったのは不本意だった。軽く怪我をさせるつもりが、二度目の水素爆発で思ったよりも大きな障害事件と化してしまい、顔を覚えられていては困るのでやむを得ず、といった経緯である。

 最初に如月美術館で警察を殺したときよりも、酷く落ち着いている自分に恐怖している。慣れって怖いな、とはつくづく思う。



  ◆◆◆



同日 午後十一時 朽木宅


 カシャン、とコーヒーカップが小さな音を立てて机上の皿に乗せられた。


「何かわかったことはあるか?」

「そうだね……」


 朽木と木下はテーブルを囲ってお互いに顔を見合わせる。

 資料を読みながらコーヒーを片手に持つ木下の眼鏡が曇る度に、朽木はどこか焦燥感を覚えていた。それが警察としての知的欲求なのか、動物としての性的欲求なのかは本人にも分からずに。


「あの子は、昴ちゃんの言う通り、本当に頭のキレる子なんだろうね」


 言ってからすぐに寝室を横目に見る。現在、雨宮は夕食に含まれた少量の睡眠薬によって寝付かされている。


「でも、あそこまで冷静でいられるのも何か理由があると思う。それに、まだ事件の動機もわかってない。連続全焼事件の犯人は紅愛ちゃん一人の可能性は薄いよ」

「仲間の可能性か……」

「うん。本当に頭の良い犯人なら、毎時間のように無罪を主張し続けて、事件とは無関係な人間を装うもの。でも紅愛ちゃんの場合はそうじゃない。寧ろ噛ませ犬のような発言も度々見られる。私一人を捕まえたところで何も解決しないわよ、ってね」


 それは雨宮本人の理性的な性格にもよるのかもしれないけど、と木下は付け足した。


「もし仲間がいるとしたら、昴ちゃんと接触したっていう雪村って子や、紅愛ちゃんと一緒に行動していた高校生の三人も十分に怪しいね。もし、雪村って子が捜査のかく乱の目的で昴ちゃんに接触したとしたら――ほとんどが嘘の証言なのかも」

「嘘って……。雪村棗が雨宮紅愛と幼馴染だったことに関しては裏が取れているし、魔法に関する証言以外は疑いようがない」

「待ちなって。仮に本当のことを言っていたとしたら、雪村くんは確実に紅愛ちゃんの味方側なんだから。彼は間違いなく紅愛ちゃんのこと、好きなんだよ?」

「好き……!?」


 真剣な議論を交わす中、突拍子もないことを言われ度肝を抜いた朽木。普段からあまり感情論というものに興味がなかった朽木は、木下の発した「好き」という言葉に敏感に反応してしまう。無論、その「好き」は雪村の感情を指しているのだが、先程から言いようのない熱情に襲われていた朽木にとって、それは大きなトリガーとなった。しかし突如としてそれを脅かす魔物が現れる。


 ――ピロリロリロ。ピロリロリロ。

 朽木の仕事用携帯電話の着信音だ。慌てて電話に出ると、膨らみかけていた熱情が一気に萎んでいくのが感じ取れた。

 もしもし、と言った直後に向こうから声を大にして用件を掻い摘んで説明される。


『緊急事態だ! 連続全焼事件の死因によく似た事件が起きた! 今すぐ警視庁に来てくれ!』


 連続全焼事件の死因によく似た事件?

 朽木は頭の中で電話の主が伝えた言葉を反芻し「今すぐ向かいます!」と電話を切った。内容は木下の耳にも届いていたらしく、険しい表情で「行ってらっしゃい」と、脱兎のごとく家を飛び出す朽木を見送った。

 数分後、静寂に包まれた室内で木下は呟く。


「……昴ちゃんは、あたしが守らないと」




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