第11話 親友
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次回の更新は9月25日になります。
「待ってよ先輩! 炎の中は危険だよ。せめてどこに行くか教えて。そうしたら道を開けるから」
特別教室棟一階南階段前で、炎に空洞を作り、いったん雨宮を引き止める榊原と東雲。二人とも息を切らしながら雨宮を注意した。雨宮は、落ち着いてはいられない状況だったが、榊原の言う通りだと思い、苛立ちながらも説明する。
「人に気づかれにくくて、見落としがちなところ――三階の倉庫前よ」
「わかった」
場所を把握した榊原は、そこまでの道に炎のアーチを作り出した。三人はそれをくぐりながら三階の倉庫前に走って向かう。
――雨宮の嫌な予感は、当たった。
三階の倉庫前で、制服を着た女の子が倒れていた。それを見た三人は絶句する。
「さゆ……り?」
恐る恐る、彼女に近づいていく。
「紅愛ちゃん……?」
美樹は絞り出すような声で雨宮の名を呼ぶ。
「! 生きててよかった!」
美樹の無事を確認した雨宮は、先ほどまでの絶望的な表情に光が差した。しかし、美樹の全身は大火傷を負っており、すぐにでも病院に運ばなければ、その内に息を引き取ってしまうと思われる。倒れていたともなると、大量に灰を吸っている可能性が高い。
「ねぇ、なんでこんなところにいるの? 来ちゃダメだって言ったじゃない……」
涙ぐむ雨宮に、美樹は優しく語りかける。
「ここに来れば、紅愛ちゃんに会える気がしたの」
「え?」
それは、私が学校を休んでいたから? それとも、私が全焼事件の謎を追ってここに駆けつけると思ったから?
雨宮は頭の中で、いろいろな可能性を模索した。だが、どれもこれも、美樹が危険を冒してまでここに来る理由に結びつかなかった。
美樹はゆっくりと口を開く。
「紅愛ちゃんが、全焼事件の犯人なんだよね」
「!」
予想の斜め上をいく回答に、三人は言葉を失った。
「知ってたの?」
雨宮は否定もせずに、美樹がそう思うに至った経緯を聞き出そうとする。
「二月ぐらいに、紅愛ちゃんの様子がおかしくなって……最初はご両親が急にいなくなったせいだと思ってたけど、たまに一人で笑ってることがあってね、何か別の理由があるんじゃないかって思ったの。それで、全焼事件の話を持ちかけて、一緒に捜査している内に、確信に変わったよ……」
まさか、あの事件の捜査ごっこが、さゆりの作戦だったとは。
雨宮は、やっぱり親友に嘘はつくものじゃない、と頭の中で結論を出した。結果、あの捜査で朽木と関わり、余計な情報を与えてしまった。しかし美樹は、雨宮を陥れようとしていたわけじゃない。 それがわかっていただけに、雨宮はやるせない気持ちでいっぱいだった。
「だめだよ、紅愛ちゃん……けほっ、けほっ」
「あぁっ……無理しちゃダメよ」
咳き込む美樹を介抱し、「すぐ助けるから」とおんぶした。
「ちょっと待って。どうするつもり!?」
その様子を見て、榊原が動揺する。
「どうするって、助けるに決まってるじゃない」
「表に出るのか?」
東雲は、雨宮がどういう人間か、一番理解しているつもりでいた。当然この状況下なら、自分の正体がバレようとも、親友の命を助けるだろうと考えた。
「えぇ。こんなすぐ近くに救急車があるんだもの。利用しないわけないわ」
「でも、そんなことしたら……」
「大丈夫よ、私を信じなさい。二人はこのまま作戦を続けて」
「でもっ……!」
「わかった、行こう」
東雲は、不安を隠しきれない榊原の手を引いて背中を向けた。
「……」
榊原は納得のいかない表情をしながら、雨宮のトランシーバーを受け取ると、炎のアーチをくぐって外に出た。
◆◆◆
「見てください! 生存者です!」
事件リポーター、葉山瑞紀がマイクに大きな声を通す。
葉山は浮気疑惑を報道され続けた結果、夫とは離婚するに至ったが、有名になり仕事の量は格段に増えた。今では事件リポーター以外にも、バラエティ番組への出演も決定している。
カメラは生存者である二人の女子生徒の姿を捉え、一気にズームした。
「彼女たちは、この三日月高校の制服を着ています! 一人は全身に火傷を負っている模様、もう一人はその子を背中に抱えながらこちらに向かってきます!」
雨宮は、カメラなどは一切気にせずに、救急車へと直進した。
「助けてください! さゆりを助けてください!」
必死に懇願する姿は、普通の女子高生としての雨宮だった。
カメラはなおも、二人の女子高生を映し続ける。
一方で朽木は、報道陣に二人を映さないよう命令した。救急隊員は、雨宮にも救急車に乗り込むよう誘導するが、すぐに朽木が駆けつけて、それはやめてくれと頼む。こんなことをする理由は一つだ。
「雨宮紅愛、署まで同行してもらう」
朽木は即座に、雨宮の手首に手錠をかけた。それに対し雨宮は、全く抵抗をしない。それどころか、安堵の笑みを浮かべていた。
美樹を乗せた救急車と、雨宮を乗せたパトカーが発進する。
「ふむ……どうやら犯人は雨宮紅愛だったようだな」
「そう、みたいですね」
東雲総一朗と雪村は、三日月高校の外からグラウンドの様子を眺めていた。
「読みが外れた、かな」
「東雲さんはやっぱり、俺を疑ってたんですね」
「まあな」
――その数分後に、炎は突然消滅した。
第7章 激動事件 完




