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CREST~7つの紋章編~  作者: 館山理生
第7章 激動事件
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第5話 内部関係者


  ◆◆◆


同日 午前七時 東雲宅


 父親と葉山は、今朝のニュースを見て混乱し、しばらく東雲家に留まっていた。

 ようやく思考回路が安定したのか、父親は俺の自室の扉を強引に開き押しかける。


「……お前、なのか」

「何の話?」


 あくまで“しら”を切り通そうとすると、父親は俺の胸ぐらを掴んで顔を引き寄せた。目の前には酷い剣幕で怒鳴り散らす我が父親の顔が見えたが、俺は依然として無表情のまま動じない。


「ニュースの話だ! お前、俺たちの関係をマスコミに売り飛ばしただろう!」

「だから、何の話?」

「とぼけるな! 玄関も窓も完全に鍵がかかっていた! お前しか考えられない!」

「東雲さん落ち着いて!」


 怒りに任せて激昂する父親を、葉山が止めようと腕を伸ばすも、あっけなく振りほどかれてしまった。


「あれ? なんで葉山さんがうちにいるんですか?」

「……それは……」


 葉山が言葉を渋る。


「どけ!」


 沈黙の後に、父親が俺を壁に突き飛ばして、パソコンの前を陣取った。パソコンは既に起動済みで、パスワードを解かなくても簡単にメールフォルダを覗ける状態。


「勝手に人のメール見んなよ!」


 俺の声は完全に無視されて、父親は手に汗をかきながら、震えた手つきでマウスを弄る。


「送信メール……送信メール……な、ない。どこだ、どこにある」


 父親は必死に、俺がJATにメールを送った履歴を探しているようだが、どうやら見つからない様子。

 当たり前だ。盗撮をして、履歴を削除しないバカがどこにいる。もちろん写真自体も削除済みだ。

 次に父親はフォルダを隅々まで調べたが、結局何も痕跡が見当たらなかったらしい。特殊なプログラムでも使って、もっと奥の方を覗けば、削除履歴の一つや二つ見つかるかもしれないが。今は時間稼ぎが出来ればそれでいい。


「もういいだろ。俺、そろそろ学校行くから」


 俺はそう言って、スポーツバッグを肩に提げるとスタスタと家を出て行った。


「おい待て! まだ話が!」

「東雲さん、やめましょう」


 そのとき葉山が、口裂け女の如く不気味に笑っていたことは、きっとしばらく頭から離れないだろう。

 それでもいい。あのマスコミの報道のおかげで、俺がこの家を去る理由が出来たし、何より、あの二人が騒いでいたおかげで、朽木の捜査ファイルが消えていることに気づかれなかったしな。

 ――俺は、スポーツバッグに詰め込んだ外泊セットと“それ”の存在を確認して、再び歩き出した。


  ◆◆◆


同日 午後五時 速水宅


 ボクたちは、東雲先輩の緊急招集に応じて、速水先輩の自宅を訪れた。


「んで? これは何の呼び出しなんだァ?」


 片桐先輩は大きく欠伸をしながら訊ねる。この人の辞書に“危機感”の三文字はないみたいだ。


「早速だけど、これを見てくれ」


 東雲先輩は、自身のスポーツバッグから一つのクリアファイルを取り出すと、中身を中央のテーブルに広げてみせた。


「連続全焼事件捜査ファイル……?」


 雨宮先輩は顎に手を添えて、怪訝そうに“それ”を覗き込んだ。手書きでメモされた部分に凹みがないことから、恐らく実物のコピーだと思われる。


「多分、この前話した朽木って警察のものだと思う」

「朽木っていえば、連続全焼事件の捜査部長だよね。でもなんでそんなものを東雲っちが持ってるの?」


 月詠先輩がいつもの調子で淡々と口を動かす。東雲っちって……。


「自宅に置いてあったんだよ」


 釈然としない様子の東雲先輩に、月詠先輩は追い打ちをかけるように言う。


「皆気をつけてね? この人、警察と繋がってるかもよ?」


 にしし、と笑う月詠先輩。今更になって仲間同士で騙し合いなんて、考えられない。もう、残すところあと一箇所なのに。


「東雲っ、お前ッ!」

「馬鹿言え。本当に警察と繋がっていたら、わざわざこんなもの見せに来ないだろう」


 その場を立ち上がろうとした片桐先輩を、速水先輩は言葉で制した。


「とりあえず、まずは読んでみましょうよ」

「このファイルが本物かどうか、確かめることが先決よ」


 女性陣の正論に正されて、皆でそこに書かれている文字を黙読する。

 ファイルには、メディアでは報道されていない警察だけが持つ情報――連続全焼事件の詳細がビッシリと書かれている。その情報は、僕たちの持つ情報とさほど変わらないが、謎が解明出来ていない分、ボクたちの情報量が上手だ。

 ページを捲っていくと、恐らくこの中の誰も知らないであろう情報に行き着いた。

 それは、既に朽木が独自に調査を進めて、容疑者を雨宮先輩に絞っていること。そしてもう一つ、この事件を捜査している男子高校生――雪村棗の存在。

 各々が、雪村棗とは一体どんな人物なのか、と議論を交わす中、雨宮先輩は黙り込み、月詠先輩と速水先輩は互いに目配せをする。ボクはそれを見逃さなかった。

 もともと二人は知り合いと聞いていたが、この状況で目配せをする理由なんて、雪村棗の存在を知っている以外にない。互いに目配せしたあと、月詠先輩は腕を組んで、片方の人差し指でトントン、と素早く二回肘を叩いた。 それに対し、速水先輩は両手で膝をトントン、とゆっくり叩いた。間違いない。あれは何かの合図だ。

 それから二人はファイルの方向に向き直り、各々に考えるポーズをとった。


「雪村棗、都立七篠高校二年。本業は学生だが、地元でプチ探偵をしている……。雨宮を容疑者に挙げた際に、幼馴染のことを悪く言うなと怒鳴られる。ふぅん。私情を挟んだ残念な探偵だな。所詮プチか」

「そうだねー残念だねー」


 速水先輩がファイルを読み上げて感想を述べると、月詠先輩は同調して笑った。

 一方、雨宮先輩は相変わらず一言も発しない。月詠先輩はそれに気づいたようで、


「さっきから黙ってるけどー、どうしたの? 幼馴染のこと気になる?」


 と、心の内を聞き出そうとする。


「そうね。今、何してるんだろうって時々考えるけど、まさか事件の謎を追ってるなんてね」

「本当にそれだけ? 雨宮さんを庇ったことに関しては?」

「さあ。どうしてでしょうね」


 雨宮先輩はそれ以上話すつもりはないのか、月詠先輩の質問をことごとくスルーし続ける。雪村棗については、東雲先輩も黙っていなかった。


「こいつと最後に会ったのはいつ?」


 一見、取り調べのような質問だと思ったが、ボクにはそれが雨宮先輩の恋愛事情を聞き出そうとしているようにしか思えなかった。


「小学校の高学年ぐらいだったと思うわ」


 具体的な数字は出さずに、曖昧に返事をする雨宮先輩。何か意図があってのことだろうか。きっと雨宮先輩は、雪村棗の話題に触れてほしくないのだろう。

 ボクはファイルを更に読み進めると、非常に興味深いものを発見した。


「これ見て! 魔法とかって書いてあるよ!」

「警察はもうそんなところまでたどり着いたっていうのか?」

「マジかよ……ヤベェんじゃねぇの、オレら」


 東雲先輩や片桐先輩はもちろん、他のメンバーも驚いた顔をしていた。


「魔力集結式。魔族の子孫が同じ境遇の者を集めてこの世に魔術を復活させる。これ、違いますよね」


 水無瀬さんはハッキリと言い切った。


「私たちがやろうとしていることって、紋章離脱式ですよね?」

「なんだ、じゃあ雪村ってヤツも知らないってことだろ? うへぇ、ビビったぜ」

「さすがにわかるわけないか。第一魔法って行き着く時点でおかしいと思うだろ」

「え?」


 東雲先輩の発言に、雨宮先輩が聞き返す。


「あ、悪い。今のは警察がって意味で」

「そうよ……。どうして探偵ごっこしてるのに、そんな非現実的なことを警察に言ったりするの。捜査をかく乱させるため? それとも、……内部関係者?」


 独り言のようにポツポツと言葉を連ねていく。

 内部関係者、それってつまり、ボクたちの中の誰かが雪村棗に繋がってるってことだけど、思い当たるのはあの二人しかいない。


「内部関係者ってどういうことだ。この中の誰かが俺たちの情報をその雪村って奴に流してるってことか」


 速水先輩は矢継ぎ早に情報を整理する。――若干、焦っているようにも見える。


「…………」


 水無瀬さんは何か言いたげだが、何か理由があるのかそれを口にしようとしない。

 そういえば、彼女は“テレパス”の力を持っているはず。彼女の力を使って今、それがわかれば――

 無理だ。きっと彼女はその“内部関係者”に口封じをされている。そう考えればやっぱり、一番容疑がかかるのは速水先輩と月詠先輩。僕たちが出会う前から知り合いだったこと、水無瀬さんを監禁していたこと、それらと繋げると全て辻褄が合う。ボクがそのことについて言いかけたとき、意外にも片桐先輩が案を出した。


「そいつも紋章を持ってンじゃねェか?」

「まさか、ありえない」


 即座に雨宮先輩が冷や汗をかきながら言葉を重ねた。その後、間髪入れずに月詠先輩が何かを閃く。


「八人目の紋章保持者……ってこと?」


 室内が、しんと静まった。

 雨宮先輩は、全身をぷるぷる震わせながら、いつにもなく怯えた表情で言う。


「……なきゃ。……殺さなきゃ、あいつを!」



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