第2話 THE BLACK LIFE GAME-PERSONA
「人生ゲームしましょうよ」
日曜日の晩、水無瀬は突然何を言い出すかと思ったら、暇で暇で仕方がない子供の駄々であった。
「さっき、ウォークスルーで見つけちゃったんです。『THE BLACK LIFE GAME-PERSONA』!」
そう言いながらテーブルの下から取り出したのは、そのタイトルが書かれた大きめの人生ゲームだった。外箱の色は黒。タイトルの隣には、『生きて億万長者になれ!』と、この商品のキャッチコピーのような文章がデカデカと書かれている。この“生きて”という意味が非常に考えさせられた。
なんだこのゲーム、途中でプレイヤー死ぬのか?
「フッ、俺に人生ゲームを挑むとはいい度胸だな、上等だ」
急に速水が鼻を高くする。こいつ、相当このゲームをやり込んでいるな。てっきり速水はゲームをしない人だと思っていたが、そうでもないらしい。しかしこの家を見る限り家庭用ゲームは見当たらないし、もしかしたらボードゲームやテーブルゲームを好んで遊んでいる内に強くなった類かもしれない。
「雨宮さんも強制参加ですよ?」
「わ、わかったわ」
どうやら、水無瀬は相当ゲームがしたい気分らしい。
――THE BLACK LIFE GAME-PERSONA。
ボードゲームマニアにはたまらない、知る人ぞ知る超ビターな人生ゲーム。発売されたのは今から約五年前。爆発的な売れ行きで発売直後に完売するも、再版がかからなかったプレミア品といわれている――らしい。
水無瀬はこれを知っていながら、自分は手に入れられなかったので、こうして速水宅で見つけて気分が高揚しているようだ。
「まずこのゲームの簡単な説明をする」
速水は早々に箱から小道具を取り出して、ゲーム用の札束を分類しながら取り仕切った。
「盤やルーレット以外に使うのは、この紙幣、株券、保険証、職業カード、財宝カード、ミッションカード、自動車と人物ピンと……この青い宝石だ」
「青い宝石?」
私は、それがどうゲームに関係するのか疑問に感じ、咄嗟に言葉を反復して訊ねた。
「これはプレイヤーにとって最も重要な“ライフ”だ。尤も、自分の命より金を選ぶプレイヤーもいるかもしれないが。このライフは、初期で一人五個からスタートし、ゲームを進めていくことで増減する」
説明をしながら速水は私と水無瀬の前に、ビー玉サイズの青い宝石――正確には宝石の形をしたガラス細工――を五個ずつ並べていった。実際に一つ持ち上げてみると、中に重石でも入っているのか、やけに重たかった。これがもし”命は重い”という言葉遊びだとしたら、なかなか小洒落ているな。
「人物ピンに黒と白がありますけど……」
私がライフを手のひらの上にころころと転がして遊んでいると、隣で水無瀬が疑問を口にした。言われてみれば確かにそうである。通常の人生ゲームなら、人物ピンは青と桃、男性と女性の区別だけでよかったはずだ。大人であろうが子供であろうが、全て共通の大きさ・形。黒と白が、まさか子供の男女の区別だとも到底思えない。この疑問に対し、速水が含み笑いを浮かべながら応答する。
「それは、殺人鬼と死者のピンだ。殺人鬼が黒、死者が白。ついさっきまで同乗者だと思っていた人物に突然襲われたり、死なれたりする。同乗者に黒い人物ピンが乗れば三ターン以内に追い払わなければならないし、白い人物ピンが乗ればそいつを好きなように扱うことが出来る。ちなみに黒い人物ピンを白い人物ピンに変えることも出来る。そうしたら自分が黒くなるけどな」
最後のはつまり、逆に殺人鬼を殺害することも可能、ということだろう。なかなか手の込んだ人生ゲーム――というか、プレイヤーのライフやら殺人鬼やら死者やら、これは最早“デス・ゲーム”だろう。
「じゃあ、この黒い職業カードは? 殺し屋から人身売買、密輸……とかいろいろありますが」
「それ職業なの? なんだか物騒ね」
「それは、ミッションカードに書かれたミッションをこなすと稀になれる職業だ。既に何かの職業に就いていても、副業として兼ねることが出来て、通常の給料プラスそこに書かれたぶんの収入が得られる」
流石、裏職業。ランクアップする前の黄色の通常職業カードに書かれた額よりも幾分か大きい額だ。ランクアップ後の青色の職業カードに比べたら、安かったり高かったり、ピンキリだが。
ミッションカードについてはなんとなく理解出来る。普通の人生ゲームと同じで、「ミッションマーク」のついたマスに止まると、それに応じたカードが一枚引けるというやつだ。先ほど速水がミッションカードをシャッフルして場に置いていたことから、ある程度の察しがつく。
このゲームは、家族団欒で億万長者を目指すような緩やかなゲームではない。プレイヤー同士が騙し合い駆け引きし、命懸けで金と勝利を得る、“黒い人生ゲーム”なのだ。
私自身、テーブルゲーム類は好んで友人と遊んでいたから、この類のゲームが人間関係を壊す一端になることは十分に熟知していた。
今までプレイした記憶のあるテーブルゲームは、まず普通の人生ゲーム、TRPG、モノポリー、トランプやUNOはもちろん、リバーシ、チェス、かるた、囲碁、将棋、花札、麻雀、そのほかには、あまり知られていないかもしれないが、紙とペンがあればすぐに始められる、推理ゲーム、汝は人狼なりや? など。
あと、これはテレビゲームだが、有名どころで桃太○電鉄。キング○ンビーを他プレイヤーに擦り付けたときの恨まれようは半端じゃない。
TRPGではプレイヤー同士助け合ったり、GMの好きなように進められるのでこれといって不快に思ったことはない。だが、トランプや人狼、麻雀などは、プレイヤーの性格が露になる。白熱すればするほど、恨みや悔しさも倍増する。
……困ったものだけど、負けず嫌いっているのよね。かくいう私もその負けず嫌いの内の一人だけど。
たとえ自分の経験したことのないゲームであろうが、その相手が経験を積みまくってゲームを熟知していようが、目指すものは勝利、それだけだ。
暫くするとゲームの準備が整ったようで、早速、私は白の、速水は緑の、水無瀬は黄色の自動車をスタート地点に配置した。




